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第八話「昨日の敵は」

 あれから、俺は有奈達の動向を探っていた。

 そこでわかったのは、有奈達が咥えていたあのタバコ。あれ、タバコみたいな見た目をしたお菓子だったらしい。

 マジか、そんなものがあったのかと驚いたが、一安心した。

 それ以外は、有奈が悪さをしている様子はなく、ただ友達と遊んでいるだけという印象だった。


 しかし、今日だけではわからない。

 もしかすると、平日。

 そう学校に通う日になったらなにか変わるかもしれない。学校か……舞香さんの話ではちゃんと遅刻せずに登校はしているそうだが。


 さて、有奈が登校中はどうするか。

 俺はもう学生じゃないし、十七歳のままの俺がもしまだ残っている先生達に発見されたら……。まあ、簡単に発見されるようなヘマはしないけど。

 だが、それだといよいよただのストーカーっていうか、変態だよな。


 日が沈み、十九時頃のこと。

 舞香さんは帰ってきているが、有奈はまだ帰ってきていない。俺は、情報の整理のためリビングでテレビを点けずに、メモ帳と睨めっこをしていた。 

 その後ろでは、舞香さんが料理を作っている。

 ちなみに、今日のメニューはスパゲティーとのこと。


「そうだ……あいつの能力なら……うん、いいかもしれないな」

「なにがいいの?」


 スパゲティーを作り終え、テーブルに並べた舞香さんが俺の隣に座る。


「あ、えっと……なんでもない。それよりもさ、舞香さん。魔法のことなんだけど、どうする?」


 さすがに、魔帝が生きていて、俺のことをまだ狙っているなんて言えない。舞香さんなら、なんとなく大丈夫だとは思うけど。

 これは俺の失態。

 俺がなんとかしなくちゃならないことだ。それに、今のあいつなら俺一人で十分に勝てるし。


「そうね……あれから考えたんだけど。やっぱ、今のところはいいかなって」

「どうして?」

「確かに、魔法は昔からの憧れだったけど。なんだか、覚えたら覚えたで自分が変わってしまいそうな気がして」

「舞香さんなら、大丈夫だと思うけど」

「ふふ、ありがとう。あ、でも。時々でいいから、あなたの魔法見せてもらえる? 経験豊富なあなたなら魔法でも、自由に操ってしまうでしょ?」


 経験豊富って……まあ、そうだけど。

 あっちの世界では、色々あったからなぁ。まさか、十六歳で、魔物とはいえ命を奪うことになるとはって、最初は動悸が止まらなかった。

 誰だって、命を自分の手で奪うのは動揺する。

 ましては、戦争とか、そんなものを経験したことのない十代の少年が、だ。いきなり、世界を侵略しようとしている大ボスを倒せなんて無茶振りにもほどがあるだろ! って言ってやったっけな。


「了解。経験者として、ご期待に応えれるように頑張ります」

「はい、頑張ってください。さて、冷めないうちに食べちゃいましょう」

「あれ? 有奈が来てからじゃ」

「有奈なら、友達と食べてくるって」

「……そっか」


 連絡を入れる辺り、有奈らしいな。

 普通なら、連絡をいれずにっていうのが不良っぽいっていうか。昨日は、俺が帰っているのを知らずに帰ってきたみたいだしな。

 今日からは、かなり悪い子に成りきるつもりだろう。


「明日から平日だから、私も有奈も夕方まで家にはいないけど。大丈夫?」

「大丈夫だって。一人で留守番できないほど子供じゃないから」

「十七歳はまだ子供です」

「あははは。さすがは大人。まあ、あんまり家にいることはないと思うから」


 まだ全てを探索したわけじゃない。

 だから、明日からは探索の続きをしようと思っている。ま、その前にあいつに頼むことを頼んでからにしないとな。


「喧嘩とかはだめよ?」

「しないって」

「相手のほうが大怪我しちゃうかもだから。あなたは、戦場を潜り抜けてきた勇者なんだからね」

「重々承知です」


 それに、俺はそこまで喧嘩っ早くないですから。

 もし絡まれでもしたらとりあえず逃げることにしよう。




・・・★・・・




 翌日。

 有奈と舞香さんがいなくなった後、俺は誰もいないマンションのベランダから外を見ていた。本来なら、有奈と一緒に登校していてもおかしくはなかったんだけど。


「有奈は学校に登校するとして……他の子達はどうだろうか?」


 例えば、有奈と一緒にいた二人。

 有奈の動向も気になるが、あの二人も気になる。舞香さんの話では、有奈とよく行動を共にしている二人らしいからな。

 しかも、違う学校なのにも関わらずだ。


 あの二人が、どうしているのか。

 ちょっと調べてみるか。


 ピンポーン。


 などと考えていると、インターホンが鳴り響く。こんな朝早くから一体誰だろう? 何か頼んでいたのかな? それとも隣のおばさん?

 しかし、それはすぐにわかった。


「おい!! 刃太郎!! 我だ! 約束通り徒歩で来てやったぞ」

「……」


 正直出たくない。

 朝っぱらからなんて奴がくるんだ。できればこのまま、帰ってほしいものだ。


「おい!! なぜ出ない!!」


 無理だった。

 痺れを切らした魔帝さんは、鍵がかかったままのドアを次元ホールで突破し、入ってきてしまった。そして、丁寧に靴を脱ぎどかどかと俺のところへ近づいてくる。

 昨日と変わらずの服だ。

 一着しかないのか? それとも同じものをいくつも持っている? 


「お前こそ、勝手に入ってくるな。不法侵入で訴えるぞ」

「ふん。この世界の人間どもに止められる我ではない」


 うん、まあ確かにそうだな。

 いくら力が弱まっていたとしても、魔帝だからな。現代兵器ですら、次元ホールに吸い込まれ、跳ね返されてしまうだろう。

 それに、こいつは幻術系も使える。俺は、まだ耐性があるから大丈夫だけど。


「ま、手間が省けたからいっか」

「ほう? 貴様も、我とそんなに戦いたかったのか。嬉しいではないか! さあ、今日はどんな勝負をするのだ!!」


 目を輝かせて……そんなに勝負がしたいのか。


「待て待て。勝負する前に、ひとつ約束してくれ。俺が勝った場合、ひとつ依頼を頼みたい」

「魔帝たる我に、勇者が依頼だと? ふっ。なかなか面白いことを言うではないか! が!! 貴様はいまや勝者!! 敗者たる我は反論できない。いいだろう! もしも! もしもであるが、貴様が勝ったらその依頼とやらを我が引き受けてやろう!! 感謝するのだな!!」


 ……こいつ、意外と単純かもしれない。元からこうなのか。一度死んでこうなってしまったのか。そこはわからないが、これで勝負にも力が入るというものだ。


「おう。感謝するぜ。さあ……やろうか、魔帝バルトロッサ」

「かかってくるがいい! 勇者刃太郎よ!!」


 今、地球で二回目の勇者対魔帝の戦いが始まった。 

 そして、今回の勝負の内容とは。


「……ふう」

「やるな。まさか、そんなバランスの悪いところを抜くとは。その勇気ある挑戦。さすがは勇者よ!」


 ジェンガである。

 これは、いくつものブロックが重なっている塔からそのブロックを順番にひとつずる抜いていき、抜いたブロックは上に重ねていく。

 そして、倒した人の負けとなる。

 これも先日のエアホッケー同様に集中力と更に忍耐力が必要となるゲームだ。


「さあ、どうする? もう抜くところがないんじゃないか?」


 開始から七分。

 もう塔は、穴だらけだ。明らかに、抜く場所がなくなってきている。


「甘く見ないで貰おう。これ以上、貴様に負けるなどありえぬ! ……ゆくぞ!」


 それにしても、こいつはこんな感じでいいのだろうか。俺と命の奪い合いをしにきたのに、自分の言葉は曲げないとばかりに、勝者である俺の言うことを聞く。

 それに、今の姿からもうただジェンガを楽しんでいる子供にしか見えない。

 真剣な表情で人差し指と親指で、唯一抜けそうな場所を狙い……掴んだ。

 瞬間、塔が揺れる。


「……」


 バルトロッサの動きが止まる。

 俺は、にやっと笑った。


「ふ、ふふふふ……こ、この程度、どうということはない。我が集中力があれば……!」


 徐々に、少しずつ、丁寧に抜いていく。

 俺も自然と無言になり、ただただリビングには時計の針が動く音が鳴っている。


「もう少し……もう少し……!」


 抜ける。もう少しで抜ける。後、三センチ、二センチ……。


「くっくっく……やってやったぞ、刃太郎! このブロックは抜く!!」


 などと言うバルトロッサだったが、気合いを入れすぎたせいで、一瞬だけ震えが大きくなってしまった。そのせいで、塔は……崩れてしまった。


「あっ」

「ありゃりゃ……気合いを入れ過ぎだって」


 テーブルの上に崩れ落ちたブロックの数々。

 ただただ静寂がリビングを包み込む。


「ぬかったぁ……! 魔帝ともあろう者が、油断するとは!」

「まあまあ。そう落ち込むなって。命ある限り、何度も挑むんだろ?」

「……ふん、そうだ。我は、諦めが悪いからな」

「うんうん。だけど、今回は俺の勝ちだ。依頼、聞いてもらうぞ?」


 ジェンガを片付けながら、俺はバルトロッサに依頼の内容を話し出す。こいつにしかできないことだ。


「なんだ? 我にできることなのか?」

「ああ。お前、次元ホールは自由自在なんだよな?」

「うむ。その通りだ。大きさも、送るものも、生物から無機物まで」

「それで、個人を監視することは可能か?」

「監視だと? ……その者のオーラを知っていれば可能だろうな。まさかとは思うが、我に依頼したいことと言うのは」


 察しがいいようで助かる。

 ジェンガを箱に戻し、俺は立ち上がった。


「監視だ。俺の妹の、な」

「監視、だと? しかも妹の? ……貴様、変態か?」


 あぁ……魔帝に変態と呼ばれる勇者って……だがここはぐっと堪えるんだ。


「いいか? まず、聞いてくれ。監視と言っても、ずっとじゃない。ちょっとだけ、ちょっとだけなんだ」

「お? それは知っているぞ。ちょっとだけと言っておきながら、ちょっとではないパターンであろう?」

「違う、そういうふりじゃない。本当にちょっとなんだ。そうだなぁ……登校時とちょっとの授業時間と下校時だけなんだ」


 俺だって、こんなことはしたくない。

 だが、学校に通っていない以上。こうするしか、有奈の動向を探れないんだ。変態でもいい。ストーカーだって思われてもいい。

 俺は、四年間もう放って置いた可愛い妹を更生させるため、やらなくちゃならない。責任を……取りたいんだ。


「……いいだろう。だが、我からひとつ提案していいか?」

「なんだ?」

「次元ホールで監視もいいが。我の幻術で、その妹の学校に、我が堂々と入り込んだほうが良いのではないか?」

「……」

「……」


 俺……馬鹿だなって。感謝の気持ちを込めて、俺はバルトロッサに喫茶店でおいしいと有名なパフェを奢ってやった。

次回から、色々と動きがあります。

展開がのろくて申し訳ありません。

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