第一話「縮んだ原因は?」
「えっと、それでどうして?」
「まったくわからないんだ。トイレに行ったら突然体が光ってさ」
昼食を食べ、片付けも終えたところで状況整理を始めた。
俺に視線が集まる中、俺は真剣に腕組みをしながらこの短い時間であったことを説明。本当に何もなかった。ただ、トイレに行っただけなんだ。
あの後、トイレに何か原因があるんじゃないかと調べに行ったがそんなものはなかった。
まさか、ニィが入れたココアに? とも思ったがニィがわざわざ俺にそんなことをするはずもない。……しないはずだうん。
たぶん、おそらく。
確かめようにも今はヴィスターラに帰ってしまい、いつ戻ってくるかわからない。まあでも、こっちでの一時間はあっちではそれほど経っていないだろうし。
もしかしたら、すぐ戻ってきてくれるかもしれない。
「ねえねえ。お姉ちゃん達に囲まれてどう? 嬉しいですか? 刃太郎くん」
「はいはい。嬉しいですよ」
相変わらずリフィルは俺のことをからかってくるが俺は軽く流す。こいつに構っていたら、進むものも進まない。
「それにしても、本当に縮んじゃってますね。あたしよりも小さい、かな?」
「それでは、測ってみましょう! 刃太郎くん、はい起立!」
「……」
ちなみに、今の俺は中学校低学年ぐらいに着ていた服を着ている。舞香さんは捨てられない人だから、記念にといくつか昔の服を取って置いたのだ。
実家の方にも、舞香さんの小さい頃の服がいくつか置いてあるという。
「わわっ。あたしよりも小さい」
「百五十いくかいかないかぐらいかな?」
俺は、どっちかっていうと小学校の頃から背が高いほうだった。しかし、中学二年生からあまり伸びなくなり、百七十三センチメートルぐらいでストップしたっけな。
「ふむふむ。どうやら百四十九センチメートルのようですね」
どこから取り出してきたのか。メジャーで、俺の身長の正確な数値を測ったサシャーナさん。確かに、今着ている服は若干でかいけど、やっぱりそれぐらいか。
ズボンも捲くらないとだめな感じだし。
俺の記憶が正しければ、これぐらいの身長の時は小学校五年生辺りだったと思う。
「この頃の刃太郎さんは何をしていたんですか?」
「そうだなぁ。有奈と遊んでいたな。あの頃は、お兄ちゃんお兄ちゃんって甘えた声で俺の後ろをついてきていたなぁ……」
そんな有奈が途方もなく可愛くて俺も自然と笑顔になっていた。今の有奈も悪くはない。むしろ、大人になったことは兄としては嬉しいことだ。
今の有奈は、大人の魅力と歳相応な可愛さが合わさり子供の頃とはまた違ったものを感じている。
「そ、そういう話はしなくていいよ! は、恥ずかしいから!」」
「やっぱり昔からお兄ちゃんっ子だったんだねぇ、有奈ってば」
「そうだな。昔は、寝る時も風呂に入る時も、俺が一緒じゃないと嫌だって言って」
「だめー!! それ以上は駄目だってば!?」
おっと、昔のことを思い出したら口が止まらなくなっていた。これ以上昔のことを話せば有奈が俺から離れていってしまう。
ここはぐっと堪えるとするか。
だが、この姿で居ると昔をどうにも思い出してしまう。
「まあまあ、有奈様をからかうのは後にして」
「後!?」
そうだ、後にしよう。
今は、俺の体を元に戻すのが先決。元に戻ってからゆっくりとすればいいだけのこと。
「どうやって戻しましょうか?」
「お湯でもかければ戻るんじゃない?」
「カップ麺かよ、俺は」
「そこは若布と例えるべきでしたね」
どっちでもいいでしょ、そんなの。そもそも、光って小さくなったのがお湯で戻れば苦労はしない。これは、何かしらの異質な現象が起こっている。
一筋縄ではいかないだろう。
リフィル以外真剣に考えている中、携帯の着信音が鳴り響く。とてもポップな音楽だがこれは……あぁ、サシャーナさんのか。
「すみません。ちょっと外しますね」
スマホを手に、サシャーナさんは俺達から離れていく。そして、しばらくの会話の後、なにやら考える素振りをして、ウサギ耳をぴこんっと立てて俺のことを見た。
「あ、はい。では、すぐにお連れ致しますので。少々お待ちを!!」
なにやら俺のことを見てにやにやしているみたいだけど……。
・・・★・・・
「お待たせ致しました! ご要望の人物を即座に連れてまいりましたよ!!」
「ありがとう! サシャーナ!! それで、刃太郎お兄ちゃんはどこ?」
「……ここだよ」
「ええ!? な、なんか縮んだ? ハンマーで叩かれちゃったの?」
そんなわけないでしょうが。
サシャーナさんに言われて連れてこられたのは、テニスコートだった。どうやら、コトミちゃんは暦、ロッサと一緒にテニスをしにきていたようだ。
そこで、俺のことを噂していたらしく、サシャーナさんに電話したらしく。
「ほう。貴様、我と同じぐらいまで縮んだな。ふっはっはっは!! 滑稽なり!!」
「お前よりは高いっての。てか、お前……かなりはまっているだろ」
「はまってなどいない。やるのなら、中途半端は許されん!」
これが魔帝だと言っても誰も信じないだろう。そのロリロリな体によく似合う可愛らしいデザインのテニスウェアを着ている。
テニスシューズも新品で、ラケットも。
コトミちゃんもコヨミもとても可愛らしい。おそらく、天宮家がどうにかしてくれたんだろう。
「それで、どうして小さくなっちゃったの?」
「それがわからないんだ。今のところは原因を探し中ってところなんだ」
「元に戻るの?」
「それもわからない。ただ、元に戻ってくれないと俺は困る」
「我はそのままで良いと思っているがな。今の貴様なら、余裕で勝てるであろうからな!!」
などと慢心している魔帝の挑発に、俺は暇だったのでそれに乗ってやった。
「ほう……言ってくれるじゃねぇか。じゃあ、やってみるか?」
「良いであろう。我は、先ほどまで初心者だったが。もうテニスは覚えた。貴様には負けん!」
ラケットを俺に突きつけ自信たっぷりにドヤるロッサ。数時間程度でこの自信……さすがと言っておこうじゃないか。
「ちなみに、刃太郎様のテニス経験は?」
「中学の時に、友達とやっていた程度ですけど。ルールはわかっていますから大丈夫です」
相当の期間は開いているけど、体はなまっていないし、むしろ中学の時よりも格段に身体能力は上がっている。ルールも覚えているから、問題はない。
後は、感覚を取り戻せば万事オッケーだ。
それに、いつ戻るからわからないから、この体にも慣れておかなくちゃいけないしな。
いい準備運動になりそうだ。
そんなこんなで、俺と魔帝のテニス対決が始まった。
あ、ちなみに有奈達は隣のテニスコートで普通に楽しんでいる。メンバーを聞いた時に、こうなるだろうなとは思っていたんだ。
ダブルスの可能性もあったんだけど。
今は、シングルスで魔帝を倒す。
「ルールは簡単! 一ゲーム先取したほうの勝利です!! サーブはロッサ様から!」
「では、ゆくぞ。勇者よ!!」
「かかって来い、魔帝!!」
ロッサは天高くボールをトス。
そして、強烈なサーブを俺側のコートへと叩き込んだ。線ぎりぎりか……意図的に狙ったのなら、大したものだ。
だが、俺には見えている。
いくら体が縮んでいたとしても、お前には負けん!
「おら!!」
気合いの咆哮共に、俺はロッサのコートへとボールを叩き込んだ。
今ここに、勇者対魔帝の壮絶なるテニスの試合が始まる!! ……かもしれない。




