第一話「威田有奈」
先に、書いていくキャラクター達を言っておきます。
まずは有奈。
次に、バルトロッサの二人です。
今回はとりあえず二人。またいつか、他のキャラクターも書きたいとは思っていますので。お待ち頂ければと……。
では、本編へどうぞ!
威田刃太郎は突如として、行方不明になった。何の前触れもなく、まるでこの世界から消えるように。
妹の有奈は、掃除が長引いてしまい兄を待たせてしまった。そんな一心で、刃太郎が待っている校門前へと向かったのだが……どこにもいない。
おかしい。
いつもなら、待っていてくれるのに。今まで、刃太郎が無断で帰ることなどなかった。会ったとしても、悪戯で少し離れた場所にいて、自分が来たのに気づけば足を遅め飛びついてくるのを待っていたり。
どこかに隠れて探す自分の様子を窺っているか。
今日もそのうちのどっちかだろうと学校から離れて探してみるが……やはりどこにもいなかった。連絡しようにも、有奈は携帯を持っていない。
だから、足で探すしかなかった。
下校途中の同じ学校の生徒に聞いたり、商店街の通行人に聞いたり。聞いて探して。聞いて探して。ついに自分達を引き取って育ててくれている瀬川舞香が帰って来る時刻になり、さすがにこれ以上遅くなるのはまずい。
それに、これぐらいの時間帯ならば刃太郎も帰っているだろう。そう思い込み、マンションへと帰った有奈だったが。
「お兄ちゃん?」
玄関には、刃太郎の靴はない。
真っ直ぐ刃太郎との相部屋へと向かうが、いない。リビングにも、トイレにも、風呂場にも。有奈は制服のまま、ソファーに座り込み考えた。
もしかしたら、友達の家に遊びに行っている? でも、いつもなら行く場所をちゃんと伝えてから出かけていた。
不安が募る。刃太郎はいったいどこに行ってしまったのか?
舞香が帰って来てからも、刃太郎は何も連絡がない。
刃太郎が行きそうな場所へと舞香が連絡をとるもどこにも行っていないと言う。もうこれは、行方不明に違いない。
誰かに誘拐された? だけど、刃太郎を誘拐したとしてもこちらには莫大な財産があるわけではない。刃太郎と有奈の親が残してくれた金は多少あるにしろ、そのほとんどを学費に使っている。
しかも、あれからもう数年の時が経っている。
残りも僅かと言ってもいいだろう。
「ねえ、舞香さん。お兄ちゃん、帰って来るよね?」
「ええ。きっと帰って来るわ。警察にも連絡をしたし、私の知り合いも協力してくれるって言ってくれたわ。大丈夫……きっと大丈夫よ」
舞香に抱かれながらも、有奈の不安は募るばかり。
それから、一週間経ったが一向に刃太郎が見つかったという報告がない。舞香や有奈も、必死で刃太郎の捜索をした。
休みの日は、電車で若干遠い場所にも行った。
刃太郎との思い出がある場所にも行った。
それでも……刃太郎は見つからなかった。
「お兄ちゃん」
有奈は、一人刃太郎との思い出が詰まっているアルバムを見ながら考えた。どうしたら、刃太郎が見つかるのか。自分の下へ戻ってきてくれるのか。
最近では、学校に行っても上の空で授業もまともに受けられない状態になっている。友達も、先生達も心配しているのはわかっている。
だけど、有奈にとっての一番心配なのは、兄である刃太郎の安否だ。
本当にどうしたらいいんだ。
このまま見つからないで、捜索が打ち切られ、誰もが刃太郎のことを忘れていってしまったら……。
「あ、これ」
そんな時だった。刃太郎の愛読しているライトノベルに目がいく。そのライトノベルは、主人公が学校の下校途中に、声が聞こえ、それに導かれるかのように異世界へと召喚されるというものだった。
「異世界……」
有奈は思い出した。
今より小さい頃。
刃太郎が、異世界に行ってみたいなぁっと言っていたことを。それに対して、自分がもし異世界に行ってしまったら悪い子になってやると。
更に、それに対して刃太郎はこう言った。
「ははは。だったら、俺はそんな悪い有奈を正しい道に戻すため、死に物狂いで戻ってきてやるぞ!」
もし、もし刃太郎が本当に異世界に行ったのなら。
その可能井は極めてゼロに近いだろうけど。
それでも。
「舞香さん」
「有奈? どうしたの?」
先ほどまで、知り合いと電話をしていた舞香に有奈は決意の瞳で宣言した。
「私、悪い子に……不良になる! そうしたら、お兄ちゃんも戻ってくるから!!」
「え?」
こうして、有奈は不良について勉強をし始めた。手始めにやったことは、買い食い。今までは、寄り道をせずに真っ直ぐ帰宅していた有奈。
人生初の買い食いをした時、なんて悪いことをしているんだろうと思ったが。この程度ではだめだと更に勉強をして、とことん悪いことを実行していった。
時々、周りの人から笑われていたこともあったが、どうしてだろう? と有奈は首を傾げるばかり。それもそのはずだ。
自分で悪いことをしていると思っていても、有奈は根っからの良い子。周りからは、何かの遊びをしている。それか、不良の真似事をしていて微笑ましいと思われているのだ。
が、それに有奈本人は気づいていない。
そんな悪い子への道を究めようと日々勉強をして、数年。
母親譲りで、刃太郎からも絶賛だった黒髪をついに染めてしまい体つきも大人になってきた有奈は、高校一年生になった。
見た目的にも思考的にも、大人になっている有奈だが、兄である刃太郎への思いは変わっていない。
今でも、不良っぽいことをやり続けている。
「スプレー缶だ」
学校の帰りだった。もう買い食いは慣れたもの。コンビニでフランクフルトを買ってそれを齧りながら帰っていると、スプレー缶が落ちているのに気づく。
壁を見ると色んな色のスプレーで絵が描かれていた。そういえば、こういうことはまだやったことがなかった気がする。
周りに人もいないし、スプレーもまだ残っている。
フランクフルトを咥えたまま、有奈は赤色のスプレー缶を握り締め壁に向ける。
「……」
しかし、すぐ地面に再度向け発射。
地面に描いたのは、小さなハートだった。
「ふう。こ、こんなものかな?」
思っていたより良い形だ。左右のバランスが均等になっているのにご満悦な有奈だったが。
「ぷはっ!? あははははははッ!!」
「こ、こら。笑っちゃだめだって」
「え?」
誰もいないと思っていたのに、女子の笑い声が響いた。咄嗟に、声が聞こえた方へと振り向くとそこには、自分とは違う学校の制服を着た二人組みが立っていたのだ。
その内の、メガネをかけた金髪少女が腹を抱えて笑っている。隣にいる黒髪の少女は、こちらの様子を窺いつつ金髪少女を落ち着かせようとしていた。
「あわわわっ!?」
途端に恥ずかしくなってしまった。いや、自分は悪いことを自らしているのだから恥ずかしがる事はない。だが、ここまで大笑いされたのは初めてだったので、堪らず恥ずかしくなり体温が上昇。
この場から今にも逃げ出したい気持ちなのに、体が動かない。
「はははは……はあぁ……ねえねえ」
「え? え? わ、私、ですか?」
いったい何を言われるのだろう? 笑いに笑ってスッキリした表情の金髪少女は涙を指で払いながら空いた左手で足元を指差す。
「フランクフルト、落としてるよ?」
「あっ」
まったく気づかなかった。
半分も食べていないフランクフルトを地面に落としてしまっていた。しかも、ころころと転がったのか結構満遍なく汚れがついていた。
「リリーが驚かすからでしょ?」
「あ、あたしのせい!?」
「いや、あの気にしないで、ください。えっと、それよりもさっきの……」
見なかったことにして、と言おうとした刹那。
リリーと呼ばれていた金髪少女が勢いよく近づいてきてスプレー缶を手に取り、有奈が描いたハートの隣に同じくハートを描いた。
「うわぁ、バランス悪いね」
「う、うるさいな! そういう華燐も描いてみればいいじゃん! 結構難しいよ、スプレーで描くのって!」
有奈を挟むように、しゃがみ込みスプレーでハートを描いていく二人。有奈は、いったい何が起こっているのか理解できずにいた。
「あ、本当だ」
「でしょ! ねえ、君!」
「は、はい!?」
「名前、なんていうの?」
「あ、有奈です」
「有奈ね。あたしは、凪森リリー。それで、そっちが鳳堂華燐だよ」
「よろしくね」
なんだろう。いったいなにをしたいのだろう。
名前を聞かれ、咄嗟に答えてしまった有奈であったが、未だに理解が追いつかない。
「それでさ、有奈。このバランスのいいハートどうやって描くの? なにかコツとかあったりするの?」
「えっと、その」
「リリー。いきなり過ぎるよ。彼女、困ってるよ。ごめんね、リリーが」
「だ、大丈夫です」
この短い時間で、二人の関係がわかった。若干暴走するリリーを華燐が抑える。随分と仲がいいが、幼馴染のような関係だろうか?
「えへへ。ごめんね。でもさ、君って。なんだか面白い子だから。仲良くしたいなぁって」
「面白い?」
言っている意味がわからなかった。だけど、最後の言葉は理解できた。そうか、自分と仲良くしたいからこうやって積極的に近づいてくれているのか。
「だって、壁にどーん! と描けばいいのに、地面にちょこっと描くとかさ。有奈って、根はかなり良い子でしょ? それで、不良ごっこをしている! とか」
「ご、ごっこじゃないよ!」
思わずタメ口をしてしまったが、彼女達は同い年、なのだろうか? でも、なんだか。
「違うの?」
「ち、違うよ!」
「えー? でも、どう見たってごっこ程度だったよ」
そこまで言うなら、こっちだってやってやる。有奈は、二人に軽く煽られながらスプレー缶を手に取り立ち上がる。
そして、しばらく壁と見詰めあいながらついに……壁に描いた。
ただし、また小さく。
「ぷっ! あはははは! やっぱり、有奈ってば可愛いなぁ……! もう!!」
刹那。有奈を自分の胸に抱き寄せるリリー。
とても柔らかい感触がなんとも心地よい……ではない。
「ひゃあっ!? な、なに!? どうして抱きつくの!?」
「ねえ、見て。こうすれば、可愛いと思わない?」
「天使のハートかぁ。うん、いいかも。ねえ? 有奈」
「く、苦しい……」
その後、有奈はリリー、華燐の二人となんだかんだあり仲良くなり一緒に不良っぽいことを一緒にやるようになった。
それから一年ちょっとが経ち、物語は動き出す。兄である刃太郎がやっと帰ってきたことで。
長くないとか言っておきながら、なんだか普通に四千文字も書いてしまった。
小休憩とはなんだったのか……。
まあでも、有奈の場合今まで出てきたものをくっ付けた感じになっているので、楽だったと言えば楽だったのかな?




