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第二十六話「土下座」

 明日には、この旅館ともさようならだ。

 俺達は、最後の温泉を味わうために脱衣所に訪れていた。


「くぅ! 今日は疲れたぜ! 早く温泉に浸かって、キンキンに冷えたビールを一杯やりてぇ!!」

「たく。やっぱり、ただのおっさんじゃねぇか」

「はっはっは! 俺も今回ので思い知らされたぜ! これを気に自分の歳を意識して活動することにするぞ俺は!!」


 前回とは違い、隆造さんや響も一緒に入ることになっている。

 元々知り合いのところに泊まっていた二人だったが、今回だけこっちで泊まることにしていたようだ。もちろん御夜さんも一緒に。


「てか、どうして女子が?」


 パンツ一丁になってから、隆造さんはニィのことを見て呟く。あぁ、そういえば自己紹介の時、こいつが実は男だってことを言っていなかったな。

 言ったのは、名前だけだったし。


「それに、この頭の輪はなんだ? 最初あった時も気になってたんだよな」


 顎に手をやり、じろじろと観察し始める。

 やっぱり、頭の輪は見えていたか。


「はっ? そんなものあんのか? 親父」

「お前には見えないのか? つか、なんでそんなに離れているんだ?」


 おそらく、響はニィが男だとわかっていても見た目からやっぱり女子だと思ってしまっているんだろう。仮には、一目惚れした相手だ。

 そう簡単には、距離を縮められないだろう。

 まあ、他にも距離を取っている人物がいるが。彼に限っては、別の意味で距離を取っている。別の意味でな。


「う、うっせぇよ! つか、親父! その人は女子じゃねぇよ! それにあんま気安く近づくな!」

「ふふ。気にすることないのです。確かに、私は女子ではないし神様ではありますが。仲良くしてほしいのです」

「か、神様? ……まったくそんな気を感じられないぞ。それにこの見た目と声で女子じゃないって」

「証拠を見ますか?」


 と、スカートをたくし上げ縞パンを見せ付けるニィ。

 響は視線を逸らし、隆造さんは目を細めた。

 そして、俺は頭を軽く叩く。


「馬鹿やってないで、早く脱げ」

「いやん。刃くん、脱げだなんて……大胆なのです」

「じゃあ、お前は服のまま入るつもりか?」

「それもありかもです。肌にぴったり張り付いた感じがなんとも言えないエロさを出すのです。あ、でも白衣はちゃんと置いていくのです」


 丁寧に白衣を畳み籠へと入れる。白衣を脱げば、ニィはノースリーブでミニスカートな姿になる。こいつは男子であるが、女性ホルモンが半端じゃねぇ。

 なので、胸も膨らんでいるように見えなくもないし、括れもある。


「さあ、行くのです!」

「いや、脱げって」

「お、俺は先に行くぞ!」

「お、俺も!!」


 ニィを避けている二人は、我先にと温泉へ向かっていった。そんな二人を見て隆造さんは、どうしたんだあの二人? と俺に問いかけてくる。

 なので、軽く彼らに何があったのかを説明しつつニィが服を脱ぐのを待っていた。

 そして、いつも通りタオルで体を隠したニィを連れていざ出陣。


「いやぁ、にしてもわざわざ貸切にしてくれるなんてな」


 そう、今回も貸切である。前回とは違い、サシャーナさんや駿さんが旅館に伝えわざわざ貸切状態にしてくれたんだ。

 とはいえあまり長く貸切にはできない。

 制限時間は最長でも十五分だ。まあ、俺達もそこまで入っているつもりはない。


「二人ともお待たせなのですー」


 丁度体を洗っていた光太、響へと超絶眩しい笑顔で近づいていくニィ。


「く、来るなぁ!!」


 最初に逃げたのは光太だ。桶に入ったお湯で一気に泡を流し、露天風呂へと駆け抜けていく。


「逃げちゃったのです。せっかく一緒に洗いっこをしようと思ったのですが。あっ、響くんは残っていてくれたのですね」

「ま、まだ髪を洗ってねぇですから」

「じゃあ、わたしが洗ってあげるのです」

「え? いや、それは」

「いいのです。いいのです。ほら、大人しく座っているのですよ」


 ニィにとっては軽いスキンシップのつもりなんだろう。しかし、響にとっては体が固まってしまうほどの緊張を与えているようだ。

 初恋相手で、失恋相手。

 更に神様ときたもんだから、どうしたらいいのかわからないでいるに違いない。俺は、ニィが何をしても良いように響の隣に座り一度、桶にお湯を入れて体へとかける。


「痒いところはないですか?」

「ね、ねぇです」

「変なことするなよ」

「しないのですよ。あ、やきもちなのです?」

「するかよ」


 その後、何事もなく俺達は体と髪の毛を洗い温泉に浸かった。俺の右隣にニィ。左隣に隆造さん。そしてその隣に響となっている。

 ちなみに、駿さんは光太を追って露天風呂のほうへと向かった。

 ないだろうが。

 前回のようになった時のサポートのために一応な。


「くあぁ……! 疲れた体に効くなぁ!!」

「そういえば、一人で何十もの悪鬼と戦っていたんですよね?」

「ああ。まさか、偽情報に踊らされるとは。結構疲労が溜まっていたからなぁ。判断力が鈍っていたのかもしれねぇ」


 あれから、秋明は隆造さんが連れてきた人達に連れて行かれた。どうやら昔からある組織らしく。こういう特殊な力専門の警察的な人達らしい。

 普段は、普通に警察官をやっていたり、どこかのコンビニなどでアルバイトをしているらしいが。マジで、どうなっているんだろうな地球。

 どんどん、二次元のような世界になっているような……。まあでも、そういう組織があるから世の中への影響があまりないんだろうな。


「俺も、あの時は危なかった……。華燐姉ちゃん達が来なかったらあのまま嬲り殺されていたかもしれねぇ」

「だが、よく耐え抜いた! さすが、俺の息子だ!!」


 はっはっは!! と背中をバンバン叩く隆造さん。


「いてっ! いてぇよ! 馬鹿親父! 俺も怪我してんだからな!?」

「馬鹿野郎! この程度の傷は、かすり傷だ! 男の勲章だと思え!!」

「元気がいいのですねぇ」


 二人の親子会話を聞きながら、ニィは湯船に俺の似顔絵を書いていた。無駄にうまく、完成度が高いため砕くのが躊躇われる。


「ぎゃああッ!?」


 刹那。

 露天風呂のほうから光太の悲鳴が響き渡る。まさか、またロッサ達が何かをしでかしたのか!? と俺は我先にと露天風呂へと飛び込む。

 そこで目にしたのは。


「あーあ、やっぱり威力あり過ぎたね」

「しかし、ただの水鉄砲ではお遊び程度の威力。これぐらいなければ我は楽しめん」


 壁に大きな穴が空いており、温泉にはうつぶせになったまま気絶し浮かんでいる光太の姿が。駿さんは、光太をすぐに引き上げ仰向けに脈を調べた。

 ぐっと親指を立てて大丈夫なことを伝えてくれる。

 ほっと安心したところで、この状況を作り上げた張本人達に攻め入る。


「おいこら。なにしてんだ」

「魔力を込めた水鉄砲で戦っていたのだが。思った以上に威力が出てしまってな。コトミが避けた瞬間壁に当たりそのまま撃ち抜いてしまったのだ」


 裸を隠そうとしないロッサは、めちゃくちゃかっこいいデザインの水鉄砲を手にどやっと説明する。

 その隣には、コトミちゃんやコヨミもいて、同じく水鉄砲を所持していた。

 竹とはいえ、壁に穴を空けるって。

 しかも、この大きさ。

 丁度人一人が通れるぐらいはあるか? どうやったらこんな穴が空くんだよ。確かに、水は圧縮すれば鉄をも切れる威力になるけど。

 相変わらず、物騒な遊びをするものだ。


「そこの正座をしろ」

「なぜ我が?」

「いいから正座しろ」


 まったく反省の色がない魔帝に俺は強烈な威圧をかける。


「ぐっ!? 凄まじい威圧だ……!」

「コトミちゃんやコヨミもな。ちょっとお説教をするから」

「はーい」

「幼女三人を裸のまま正座させるなんて結構やるね刃太郎」

「うるさい。そういうなら、そこにあるタオルで隠してくれ」


 丁度近くに三人のタオルがあったのでそれで隠してくれと頼んだ。しかし、俺は気づいた。俺が見詰めているところは女子風呂だということに。

 そして、これだけの騒ぎ。

 気づかないわけがない。


「な、なにがあったの! すごい悲鳴だったけど!?」

「また光太さんになにかが……あっ」

「ど、どうしたの? 華燐……あっ!?」

「おい。大丈夫か? ってうお!? すげぇ穴が空いてるじゃねぇか。てか、刃太郎。そっちは女子風呂だぞ。女子に見つからないうちに早く下がるんだ」

「そうっすよ、刃太郎さん! 早くここから……あっ」


 すみません隆造さんに響。もう遅いです。

 俺を穴から遠ざけようと近づいてくるが、隆造さんと響もあっと気づいてしまった。


「前回よりもひどいハプニングなのです」

「は、ははは。そうだな。えっと……ま、待ってくれ。誤解しちゃだめだぞ。俺は別に覗こうと思ったわけじゃないぞ?」


 硬直している有奈達が誤解しないように説明しようと思った俺だったが。

 時すでに遅し。

 というか、あっちから見たら俺が裸の幼女三人を正座させて、じっくりと見ているという風に見えなくもない。いや、冷静に考えれば俺が三人に説教をしようとしていると思うところ。だが、今の彼女達は、冷静ではなかった。


「おお……ここが桃源郷だったか……」


 そして、この隆造さんの言葉である。

 なに言ってんすか、隆造さん。


「きゃああ!? ま、舞香さん! おおお、お兄ちゃんが覗きを!! しかもとんでもなく豪快な覗きを!!」


 まるで、隆造さんの言葉がトリガーだったかのように女子組みが騒ぎ出した。

 うんそうだね。すごく豪快だね。でも、覗きって言うよりは堂々と見ているから覗きとは違うんじゃないかな? ってそうじゃねぇ!


「ま、まさか前回の仕返しに?!」


 違うんだ華燐。俺は前回のことを根に持っているわけじゃないんだ。


「ど、どうしよう。見られると思ってなかったから、今日一杯食べちゃったよ!? じ、刃太郎さん! 違いますからね! 普段はもっと引っ込んでますから!!」


 何を言っているんだリリー? 大丈夫だ。お前は、別に太っていないから。


「ひゃああ!? お、お父さん!? それに響ちゃんも!?」

「御夜様。下がっていてください。式神として、覗き魔をやっつけます!!」


 大パニックである。いかん。このままでは収集がつかなくなる。くっ! 俺が悪いわけではないが。ここはあの技を出すしかないようだ!

 チラッと二人に視線を送る。

 俺の意思が伝わったのか、二人は頷き共に正座をしてくれた。

 見るがいい、これが日本男児の必殺技。


《すんませんでしたあああッ!!!》


 土下座である。地面に頭を擦りつけ深々と。精一杯の謝罪方法。それが土下座だ。この必殺技たるや効果の程は抜群である。


「よかろう。我が許してしんぜよう」

「てめぇ。後で覚えてろよ……」

「刃太郎様。カメラ、要りますか?」

「いりません」


 その後、コトミちゃんやコヨミの説明もあり俺達は事なきを得た。だが、壁が壊れてしまったせいで安心して露天風呂には入れない。

 そんなこんなで、俺はロッサに補修作業をさせることにした。ここが天宮が経営していることもあり、代わりの竹はすぐに準備が出来、素人なロッサだけでは心配なので、駿さんも一緒にやってくれた。

 まさか、最後の最後でこんなハプニングが起こるとは。

 とんでもない温泉旅行になったものだ……。

はい! 第四章完結です!!

次回から新章! ……と言いたいところですが。ちょっとした小休憩を挟みます。

簡単に言えば、各キャラクターのエピソード。

この物語が始まる前のプロローグを書いていこうと思います。それほど長くはないと思いますが、お楽しみに!!


それが終わり次第、第五章が開幕します。では、また次回!!

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