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第二十五話「結び直し」

『はっはっは!! この程度の薄い黒なんて。俺達の白で簡単に塗りつぶしてやるっての!!』

「ああ、そうだな」

『うお!? いきなり魔方陣に投げ捨てるのは止めろって言ったじゃねぇか相棒!』


 本当に役に立つ相棒だが、長いはさせられない。

 役目を終えたら、元の場所へと戻って貰う。

 が、アイオラスは相変わらず魔方陣へと素直に入ってはいかず抵抗している。


「また今度な。いつになるかわからないけど」

『へっ。まあいいか。俺は、相棒の剣だ。いつでも抜いてくれるのを待ってるぜ! じゃあな!!』


 こんな扱いをされても俺のことを相棒と表し、信頼してくれている。どこまでも、馬鹿な奴だ。まあだからこそ、こういう関係が続いていくんだけどな。

 さて、相棒を帰したところで。


「馬鹿な……邪気が……! いやだが、まだ俺は」


 まだ諦めようとしないムロクに、無常なる光の柱が突き刺さる。その数、ざっと数えても八本はある。誰が発動させたのか。


「終わりだ、くそ悪鬼」


 チラッと視線を送ると、響が手をかざしていた。いや、響だけじゃない。


「たくっ。やっと辿り着いたと思ったらもう終わり時かよ」


 今まで姿が見えなかった隆造さんも同じく手をかざしていた。呼吸が荒く、服も体もボロボロである。


「今までどこに行ってたんだよ、馬鹿親父」

「すまんな。どこぞの悪人の偽情報に踊らされていたんだ。更に、悪鬼の軍勢がこことは別の方向から攻めてきてなぁ。老体には、辛すぎたぜ……」


 その姿から、どれほどの戦いだったのか容易に予想がつく。そうか。三人の中で、もっとも厄介なのは隆造さんだった。

 だから、予めここから遠ざけて更に足止めをしていた、ということか。

 けど、誤算があったとしたら俺達の存在。

 今思えば、秋明のあの驚きよう。俺達の力を感じての驚きだったんだろうな。


「ぐっ……! まさか、あれだけの軍勢を一人で倒してくるとは!」

「あんなの二十年以来で、死ぬかと思ったぞ」


 複数の光の柱に貫かれながら、ムロクは地面に膝をつく。そこへ、クロが華燐と一緒に近づいていった。


「これで終わりだね」

「ふっ。これで復讐が無事に完遂ってところか? 出来損ない」

「違うよ。私は、復讐がしたかったんじゃない。もうこれ以上、あんな悲劇が起こらないように止めたかっただけ」

「くははは……結局、言い方が違うだけで俺を倒したかった、だけではないか……」


 徐々に、徐々にムロクの体が薄くなっていく。それは、太陽の日差しに照らされよりわかりやすくなっている。

 消える寸前のムロクの言葉にクロは、そうだね、と小さく頷く。


「恨みがなかったわけじゃない。でも、怒りなんて感情はもう、私にはない。式神として死んだ時からもう……」

「まあいいだろう。結局、貴様はもう助からん。せいぜい、残り少ない時間を過ごすがいい……」


 そう言い残し、ムロクは消滅した。静寂に包まれた、その場でクロはただただ天を仰いでいる。が、すぐにふらっと体が揺らいだ。


「クロ!」


 隣に居た華燐が倒れるクロをいち早く受け止める。


「もうちょっとだけ……堪えられると思っていたんだけど、な」


 その表情は、とてもつらそうで、声にも力がない。


「よく堪えた、というところなのです。本来ならば、もうすでに式神としての力が完全に失われていてもおかしくなかったのです」

「ねえ、クロどうなっちゃうの? すごく苦しそうだよ!」

「限界がきたのだ。クロは、式神としての力を失い邪気だけの存在になろうとしている」

「そ、そんな!」


 邪気だけの存在。つまり、悪鬼と同じ存在になってしまうということだ。もう、どうすることもできないのか? 

 苦しむクロを見詰め、俺達は考える。だが、なにもいい方法を思いつかない。

 ニィがどうにかできないのか? とサシャーナが問いかけるが。


「無理なのです。式神とはいえ、命を与える行為は最大の禁忌。それに、私にはそんな力は……ないのです」


 そう、ニィが神様とはいえ命を与えるというのは無理がある。それに、別世界の神がこちらそんなことをすれば、世界に影響を及ぼすか。

 俺がアイオラスを抜いた時の比ではないだろう。


「もう、いいんだよ。私は、十分幸せだったから。こうして消える前にたくさんの友達ができた。優しくしてもらった。楽しい時間を過ごせた」

「そんな……そんなこと言わないで!」


 華燐の腕の中で、今にもクロの命が消えようとしている。その事実を、受け入れたくない華燐は涙を流し叫ぶ。


「泣かないで、華燐。あ、そうだ。消える前にひとつだけ」

「え?」


 そっと華燐の頬に触れ、クロは。


「私の本当の名前は、さくらって言うの。最後に、本当の名前で呼んで欲しいな……」

「さくら……」

「うん。ありがとう、華燐。これで、もう思い残すことはないかな……。あ、式神としての私が消えて華燐達を襲うようなら、遠慮なく倒してね」

「駄目だよ」

「え?」


 それは、先ほどまで気を失い、意識が覚醒しきっていなかった御夜さんの声だった。まだ足元がふらついているようだが、ゆっくりと近づいてくる。


「クロちゃん。ううん、さくらちゃん。本当にこれでいいの? 本当はもっと華燐ちゃんと一緒にいたいんじゃないの?」


 おどおどしていた御夜さんは一変し、何か決意をした姿でことはに問いかけている。本当に、それでいいのかと。

 華燐も、それに響も姉の変わりように驚いているが、さくらは静かにこう答えた。


「私だって、本当はもっと一緒にいたい。でも、私はこのまま消えちゃう。皆が知っている私じゃなくなっちゃうんだよ」

「私が……私がなんとかしてみせる!」

「御夜。お前、まさか結び直しをするつもりか?」

「うん、その通りだよお父さん」


 結び直し。

 この状況から察するに、契約を結び直すってことか? しかし、隆造さんや華燐達の驚きようからそう簡単なことではないみたいだな。

 それでも、可能性があるんだとしたら。


「そ、それって私が誰かと式神契約をまた結ぶってこと?」

「結ぶ相手は、もちろん華燐ちゃん……て言いたいところだけど、私には他人と式神を契約させる力はない。だから、さくらちゃんが契約を結ぶのは私」

「た、確かに御夜姉ちゃんは、俺達の中で式神術に長けているけど。結び直しなんてやったことなんてないだろ!」

「それでも。このままお別れなんて悲しすぎる。それに、今回私は何も出来なかった。簡単に騙されて、捕まって、響ちゃんを危険に晒して……」


 ぎゅっと胸の辺りで拳を作り、膝を突く。

 そして、そのままさくらの手を両手で握り締めた。


「それは、俺の不注意もあったことだし。御夜姉ちゃんが気に病むことじゃ……!」

「響」

「お、親父?」


 必死に御夜さんをフォローしようとする響だったが、隆造さんがそれを制した。


「御夜。やれるんだな?」

「正直、私一人ではできないかも。だ、だからその」

「もちろん。私も協力するよお姉ちゃん」

「華燐ちゃん……」


 さくらを抱きかかえたまま、華燐は協力することを告げる。それを見た響は、頭を掻きつつも御夜さんの隣に座り込む。


「俺もやる。結び直しはより細かい霊力操作を有するからな。そういうのは俺が得意だ」

「響ちゃんも……ありがとう。後は」


 鳳堂家の三人が一斉に、さくらを見詰めた。


「……えへへ。お願い、します」

「うん。それじゃ、始めるよ」


 さくらの承諾も得たところで、御夜さんは空中に陣を描く。それと同時に、響が陣に指を伸ばし線のようなものを作り、そこに同じく陣を描いて繋いだ。


「それじゃ、いくよさくら」

「うん」


 華燐はというと、さくらの体に触れ目を瞑った。あれはいったい何をしているんだ?


「あれは、小さくなったさくらの核へと霊力を導くための道を繋げているんだ。ことはの体は邪気で出来ているからな。普通の式神とは違う」


 何をしているのかわかっていなかった俺達に隆造さんが説明をしてくれた。そうか。今のさくらは邪気で体が構築されているから。


「体を構成している邪気はかなり圧縮されているようなのです。その邪気に道を作るのは至難の業、ということですよね?」

「その通りだ」

「ねえ、私達も協力、できないのかな?」

「そう、だね。ただ見ているっていうのも」


 心配するようにコトミちゃんとコヨミが言うがロッサが無理だなと言う。


「我らの力の源は魔力だ。霊力とは異なる力。そして、さくらの核を構成しているのは霊力。つまり、我らの力では邪魔になるだけだ。ここは大人しく見守るのだ」


 俺達が持つ魔力は、霊力とはまた違った力の源。異なる力が混ざり合えば何が起こるかわからない。もしかしたら、うまく混ざり合ってすごいことになるかもしれないが。

 今の状況で、そんなもしかしたら、なんていう予想に頼っている場合ではない。

 それに、俺達は式神術に詳しくない。

 ここは、専門家に全てを任せる他ないのだ。


「御夜姉ちゃん。いつでもいいぜ」

「私もだよ。核への道は出来たから」

「……うん。それじゃ、結ぶ直しを始めるね!」


 刹那。

 御夜さんの霊力は高まり、三人を囲むように術式が浮かびあがる。


「我、汝と契約を結ぶ者。我が霊力は、汝の糧。汝の力は、我が力」


 御夜さんが詠唱を始めると、術式は徐々に増えていき、霊力もさくらの体に入り込んでいく。それを響は瞬時に確認し、指を細かく動かしていく。


「あ、ぐっ……!」

「頑張って……頑張って、さくら!」


 やはり苦しそうだ。霊力による道を作ったとはいえ邪気に蝕まれている。俺達が想像しているより、さくらの痛みは激しいものだろう。

 なにせ、生物でいう心臓に力を流し込んでいるのだから。 

 華燐は、そんなさくらを優しく抱きしめ言葉をかけ続けている。


「い、いくよさくらちゃん。ここから大きいのが入るからね!」

「う、うん。どんとこい、だよ」

「御夜姉ちゃん。ここまで来たんだ。しくじったりするなよ?」

「任せて! 私は……二人のお姉ちゃんだから!! 契約者鳳堂御夜が命ずる! 式神さくらよ……千切れし契約を再び我と結べ!!」


 最大限の霊力がさくらへと注ぎ込まれた。それは、視界を奪うほどの光。思わず目を瞑ってしまった俺達が次に目を開けた時には……。


「せ、成功かな?」

「あ、ああ。だけどこれは」

「さくら、だよね?」

「うん。さくらだよ。えへへ、なんだかちっちゃくなっちゃったね」


 さくらが掌サイズまで縮んでしまっていた。しかし、さくらは先ほどまでの苦しんでいた表情はなくなりとても眩しい笑顔を向けていた。


「ご、ごめんなさい。私の力不足で……」

「そんなことはない。元々さくらの核は消滅寸前だったんだ。そこから契約を結び直し、式神として復活させたのはすごいことだ」

「そうだぜ、御夜姉ちゃん。さっすが俺達の姉ちゃんだ!! な? 華燐姉ちゃん」

「うん。ありがとうねお姉ちゃん」


 落ち込む御夜さんを隆造さんはよくやったと素直に褒め、華燐と響は笑顔で元気づけていく。俺達も傍らで、結び直しが成功したことに大喜びだ。

 これで、さくらが消滅することがなくなったのだから。


「そうだよ、御夜。ううん、御夜様。確かに、体は小さくなっちゃったけど、また式神として復活できた。そして、また皆と思い出作りができる。こんなにも嬉しいことはないですよ! ありがとうございます、御夜様! そして、これからよろしくお願いしますね!! 式神さくら。頑張っちゃいますよ!!」


 ふよふよと浮かび御夜さんの肩に乗って更に励ます新たなさくらは、最高級の笑顔を俺達に見せてくれた。

 ここに、新たな式神さくらが誕生。

 まだおどおどした印象が残っている御夜さんにしっかり者の雰囲気がある式神さくら。

 このコンビがどう活躍するのかこれから楽しみだな。

そんなこんなで次回四章完結!!

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