表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/214

第二十三話「ムロク」

 敵を蹴散らしながらどんどん奥へと進んでいく。

 まるで、散弾のように数で突撃してくる悪鬼達。

 その表情と勢いは、死を恐れていない。我先にと、俺達の命を奪おうと武器を手に黒きゲートを通って真っ向から。

 そして、奥に進めば進むほど邪気は濃くなってくる。

 ここからは普通の人間だったら、少し触れただけでその邪気にやられてしまうだろう。


「刃太郎様! この先にはいったいどんな敵が待ち受けているのでしょうか?」

「十中八九、この邪気を増大させている張本人。俺の経験から考えるに、話が通用するような族ではないだろうな」


 ヴィスターラでも大体そういう奴は、口を開けば世界を滅ぼすだのこの世を黒く染めるだの。俺が支配するのだ! だの。

 まあ色々あったが、こっちの言葉など全然通用しない。

 とはいえ、それはヴィスターラでの一部の奴らだ。

 全ての世界でそうだとは限らない。限らないと思うが……。


「ひゃっはー!!」

「邪魔です!」

「ぎゃっ!?」

「それにしても、どこからこんなに湧いて出てくるんでしょうね。悪鬼というのは、底知れずなのでしょうか?」


 これまで、軽く五十は越える悪鬼を倒した。

 悪鬼達にも、世界というものがある。

 そこで生まれ、そこで育ち。そんな普通の人間染みた生活を送っているわけでもなく。確か、邪気の塊だと言っていたな。


 人々の負の感情。

 例えば、絶望や怒り、嫉妬などのマイナス方向の感情が悪鬼達を生み出しているとか。だからこそ、それらの感情がある限り、悪鬼達は止め処なく増えていく。

 完全消滅は不可能に近い。

 この世界には、何十億という人間と数え切れない動物達がいる。それら全てから負の感情を消し去ることは物理的に不可能。

 ……感情を封じるか破壊すれば可能だが。


「二人とも! そろそろ到着するよ!」

「うひゃぁ……まるでブラックホールみたいですねあれ」


 俺達が向かっている場所には、これまでの黒い渦とは比べ物にならないほど大きなものがある。そして、その前立っていたのは悪鬼。

 俺が倒した悪鬼と同じく二本角を生やしており、体を鎧で覆っている。背中には、これまた異質なオーラを放つ太刀を背負っていた。

 当然、他の悪鬼達もぞろぞろといる。


「お前が邪気を増大させている張本人か?」

「そう。俺はムロク。貴様が倒した悪鬼ゴグロと同じく二本角の悪鬼よ」


 あいつはゴグロって言うのか。

 そういえば名前なんて知らなかったな。


「今すぐ邪気の増大を止めろ」

「それは無理な話だな」


 だろうな。当然、止める気など毛頭ないようだ。


「ふん。それにしても、貴様らも物好きな人間どもだ。まさか、あの出来損ないを拾っているとはな」

「出来損ない?」


 ムロクの言葉が刺す者に俺はすぐ察しがついた。


「クロ、のことか」

「そういえば、今はクロと名乗っているようだな。そう! 奴は、邪気により生まれし我とは違い式神の力を宿している出来損ない。無駄な抵抗などせず、そのまま邪気を受け入れれば完全な存在になれるものを……」


 やれやれと首を横に振るムロク。

 俺は、睨みつけたまま問いを投げつけた。コヨミとサシャーナさんは今にも飛び出しそうな表情だが、まだ我慢している。


「元のクロの体は、どうしたんだ?」

「俺が破壊した。奴は元々術者に相当な虐待を受けていたらしくてな。封印術により本来の力を出せず、俺と戦い……体を失った。そして、核だけとなった奴は邪気に取り込まれそのまま悪鬼へと変わるはずだったのだが」


 虐待、か。

 華燐から聞いた話だと、クロは頭を撫でられただけで大粒の涙を流したと聞いている。更に、鳳堂家で暮らすようになってからも、いつも人を警戒していたと。

 もしやと思っていたが、納得した。


「そういえば、彼等は姫様がどうとかと言っていましたが。悪鬼には、姫がいるのですか?」

「ん? ああ。そのことか。残念ながら、悪鬼には姫などいない。あれはこいつらをより狂気に満ちさせるため俺が記憶を操作したのだ。負の感情こそ、俺達の力となるからな」

「それでは、あの時の悪鬼は?」


 あの時のとは天宮家に攻めてきた悪鬼のことだ。あぁ、あいつかとムロクは太刀を鞘から抜き、飛び出す。

 俺は、素手でそれを止める。さすがの力だ。

 衝撃波で周りの木々が崩れてしまった。


「俺が粛清してやった。勝手に暴走した罰としてな」

「お前が、狂気するように記憶操作をしたくせによく言う」


 そのままムロクを吹き飛ばし、俺は剣を振りかざす。

 魔力を刃に纏わせ一閃。


「ぐっ!?」


 ムロクは断ち切れなかったが、他の悪鬼達はほとんどがやらせてしまっている。

 そんな光景を眺めた後、ムロクは太刀を構え語る。


「言っておくが、戦いから逃げようとしたからやったまでだ。ここに居る奴らは、全員戦いに飢えている。記憶操作したのはほんの一部だけだ」

「だからって、戦いたくない相手を無理やり戦わせるなんて!」

「さすが、悪人ですね。やることが鬼畜です!」


 ムロクはやれやれとため息を漏らす。


「我ら悪鬼は、負の感情より生まれし化け物。我らを勝手に生み出したのは、貴様達だ! 殺したい、戦いたい、踏み躙りたい、そんな感情が多くを占めている! 我らはその感情に従っているだけ! 悲しみ、嫉妬などという感情などほんの僅かでしかない」


 そう、俺達が争い、醜い心を持ったからこそ、こいつらは生まれた。こいつらを生んだのは俺達だという事実は変わらない。

 それを否定するつもりはない。


「……だからこそ」

「がっ!?」


 他の悪鬼達を通り抜け、俺はムロクの顔を鷲掴みにした。一瞬にして、距離を詰められたことに悪鬼達は遅れて気づき、背後から襲いかかろうとするも。


「君達の相手は僕達!」

「やらせません!!」


 二人に邪魔をされる。


「だからこそ、俺達がどうにかしなくちゃならないんだ。これ以上、お前達の好き勝手にはさせない。俺達の友達を……苦しめさせない」

「と、友達? まさかあの出来損ないのことを言っているのか? はっはっは! 笑止!!」


 ぐん! 

 突如として、太刀は短くなり普通の刀ぐらいへなる。それをムロクは俺へと振り下ろすが。そんなものでは俺は切れない。


「らっ!」


 刀が届く前に鎧を打ち砕くほどの打撃を腹部へと与える。くの字となって吹く飛ばされるムロクを、逃がさないと俺は背後へと回り込み魔力を帯びた剣を大きく振りかざし。


「終わりだ」


 邪気の渦ごと俺はムロクを一刀両断した。


「ぐあああ!?」


 ムロクは光の粒子となり四散する。邪気の渦も消滅した。他の悪鬼達もコヨミ達が倒してくれた。これで終わり……ではない。

 俺は、剣をじっと見詰めたまま眉を顰める。


「やりましたね! 刃太郎様!」


 と、喜んでくれているサシャーナさん。しかし、コヨミは違和感に気づいたらしくこう呟いた。


「なんだか簡単過ぎない?」

「それだけ刃太郎様が強いってことでは?」

「まあ、確かにそうなんだろうけど。なんだかさっきのムロクって敵。本物じゃない、ような気がするんだ」

「俺もそう思っていた。さっき切り裂いた時、まるで自分から消えるかのように消滅していった」


 刹那。

 華燐達が向かった方向から強い邪気を感じ取った。しかも、これは先ほどのムロクと同じ。やっぱり、さっき倒したのは本物ではなかったか。


「こっちは囮だったってことですか!」


 更に言えば、さっきの邪気よりもかなり増大している。あっちには、ロッサとコトミちゃんがいるからそう簡単にはやられないだろうけど。


「急ごう。華燐達のところに」

「うん。一直線に、最速でね」

「そういうことなら、わたしの出番なのです」

「ニィ? それに」


 華燐達のところへ向かおうとしたところで、現れたのは旅館で待っているはずのニィと……クロだった。もう頭痛はないのか、平然とした表情だ。


「もう大丈夫なのですか?」

「うん。心配かけてごめん」

「でもどうしてここに?」

「クロが自分から行きたいと言ってきたのです。……記憶を取り戻したので、と」


 ニィの言葉に、視線をクロに集中する。先ほどの、ムロクの話から少しは昔のクロを知っている。だが、全てを知っているわけではない。


「話は後で。今は、華燐達のところへ行くのが優先すべきことだから」


 おどおどしていたあの時のクロから一変し、キリッとした雰囲気になったクロは華燐達が居る場所を見詰める。

 ニィは、では行くのですと次元ホールを発現させ俺達は、一斉に中へと飛び込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ