第二十二話「増大する邪気」
刃太郎達と分かれ、邪気が溢れる場所へと華燐達は向かっていた。
そんな時、共に行動していたバルトロッサが刃太郎達が向かった方向をチラッと見て呟く。
「どうやらあっちは戦闘が始まったようだな。一瞬だが、刃太郎の魔力を感じた」
こちらも、もうちょっとで邪気が溢れるところへと辿り着く。
できれば、こちらを早く終わらせてあっちへと手伝いに行きたいところだが。あちらには、刃太郎がいるためその必要はないだろうか?
「あれ?」
「どうしたの? コトミちゃん」
今度はコトミが何かを感じ取ったようだ。キツネ耳がぴこぴこと動いている。
「なんだか、戦闘音が聞こえるよ。何かを殴っている音とか、去られる叫び声とか」
「ほう、伊達に大きな耳を持っていないな。我にはさっぱり聞こえん」
「この先で、私達以外の人が戦っているってこと?」
その時だ。
華燐は、すぐに戦っている者に見当をつけた。意識を集中させ、先で戦っている者の気を感じ取ると……やはりと表情を引き締める。
「どうやらこの先で戦っているのは、貴様の親族のようだな。だが、随分と弱っているようだ」
そう。この先で戦っているのは、華燐の姉と弟。
御夜と響だ。だが、父である隆造はいない。もしかすると、刃太郎が向かったところにいるのかもしれない。
三人も、この邪気に気づきいち早く祓いに向かった。戦力的に、隆造が一人で向かい残りの二人で、ということだろう。
「……急ごう!」
この先に居る二人が弱っているのは、華燐も感じている。
だからこそ、走る速度を速めた。
霊力を足に込めることで一時的に、走る速度を高める。バルトロッサとコトミは、そんなことをせずとも余裕で華燐の後をついてきている。
やはり、この二人は特別だ。
そう思いながら走ること二十秒後。
「おらぁ!!」
響の声を聞こえた。
「お姉ちゃん! 響!!」
「ほう。これは、中々のピンチではないか」
「うわぁ。たくさんいるね、敵」
そこに広がっていたのは、大量の悪鬼に囲まれながらも一人で戦い抜いている響の姿だった。そして、御夜はというと。
「……秋明さん。お姉ちゃんに何をしているんですか?」
「ついに来たか華燐。なに、見た通りだ。人質にしているんだ」
秋明に拘束されていた。
彼は、にやっと不適に笑みを作り、祭壇のような場所で高みの見物をしていた。その祭壇に置いてある箱からは邪気が溢れ出ている。
「華燐姉ちゃん! あいつ! 俺達をずっと騙してたんだ! あいつは……あいつは悪鬼とグルだったんだよッ!!」
悪鬼の一体を殴り飛ばし、響は驚愕の事実を告げる。その事実に、秋明は顔色ひとつ変えずにいた。
「本当、なんですか?」
「ああ、本当だとも。その証拠に、この『邪気箱』を使って今からより多くの化け物を呼び出すつもりだ」
「邪気箱?」
バルトロッサ、コトミは聞き覚えがないが、華燐は知っている。
「五百年以上も前の話。当時の霊能力者達の一部が、邪気を祓わずに箱に封じることで作り上げた。一度開ければ周囲の邪気を増大させる。増幅装置のような役目を果たすようになったの」
「ということは、その邪気箱とやらを破壊すれば良いだけのことか」
「簡単だね!」
確かに、言葉にすれば簡単だ。
だがしかし、それを邪魔するように秋明は気絶したままの御夜を前に突き出し、短剣を喉元に近づけた。
「そうはさせない。お前達は、ずっとそこで見物でもしているんだ。少しでも妙な動きがあれば、御夜の喉元を掻っ切る」
「秋明さん! どうして、こんなことを!? あなたは、そんなことをする人じゃなかった!!」
華燐の必死に叫びにも、秋明は決して揺らいでいる素振りを見せない。御夜に刃を突きつけたまま、語りだす。
「確かに、霊能力者として鳳堂で修行していた頃の俺は純粋だった。だが、人というのは変わるものだ。いつまでも、同じとは限らない。俺は、変わった。悪鬼の……別世界の力に触れることで。こいつらとならどんなことでもできるとな!!」
昔の秋明は、本当にただひたすらに霊能力者として必死に修行し、技を磨いていた。それは、一緒に修行をしていた華燐も知っている。
あの時の、秋明は門下生達の目標となっており、憧れとなっていた。
「華燐姉ちゃん! そいつに何を言っても無駄だ! 御夜姉ちゃんを騙して人質にするような卑怯な奴だぞ!!」
「うむ、その通りだ。奴は、絶対的な力に触れ豹変しているようだ。ああいう奴は、何を言っても無駄だ。昔、我の力に魅了され、あのように豹変した者達を数え切れないほど見てきた。だから、我にはわかる」
確かに、二人の言う通りだ。
秋明の体は、邪気が纏わりついている。まるで、秋明が邪気を受け入れているかのように。霊力も邪気と混じり合い、変色している。
「もうわかっただろう? まあ、わかったところでお前達にはなにもできんだろうがな。巨大ゲートを開く準備ができるまで、大人しくいろ。そうすれば、御夜は解放してやる。まあだが、その後は結局巨大ゲートから出てくる軍勢に蹂躙されるだろうがな!! あっはっはっはっは!!」
勝ち誇っている高笑いだ。
こっちには人質がいる。そして、止め処なく出てくる悪鬼達。これを崩せる者などいない。秋明は、そう思い込んでいる。
だが、華燐は。バルトロッサは。コトミは決して絶望していなかった。
「ねえ、ロン毛のおじさん」
「なんだ? キツネ耳の小娘」
もはや、おじさんと言われても普通に聞き入れている。ちなみに、秋明の年齢は今年で二十四になる。
「その箱って、壊せばどうなるの?」
「ふっ。冥土の土産というやつだ。話してやろう。当然破壊すればここに集められた邪気が一気に溢れ出る。だがまあ、邪気の増大は抑えられるだろうな」
「そうか。ご丁寧な説明感謝しておくぞ、人間よ」
「なに?」
ふっとバルトロッサが笑う。
秋明には何を言っているのかと首を傾げるが、次の瞬間その答えがわかった。
「おりゃあ!!」
「ぐあっ!?」
「お姉ちゃん確保! ついでに箱も確保したよ!!」
秋明は背後からの攻撃により吹き飛ばされる。それをやり遂げたのは、コトミの分身達だった。一人は、秋明を吹き飛ばし。
もう一人は、箱の蓋を閉じ確保。最後の一人は、御夜をその小さな体で抱きかかえていた。
「な、なにが起こったんだ?」
「ハアッ!!」
秋明が吹き飛ばされたことで、悪鬼達の動きが一瞬止まった。それをチャンスとばかりに、華燐は霊力を衝撃波のように中心から発現させ、一掃。
膝を突いた秋明は、唇を噛み締めながら睨みつけていた。
「まさか、分身ができる奴がいるとはな」
「えへへ。こんなこともあろうかと、ロッサの提案で何人か分身を待機させていたんだよ!」
「用心にこしたことはないからな。戦いとは、常に先を考えより良い作戦を実行したものが勝つ。とはいえ、絶大的な力も必要だがな」
一気に形勢は逆転。
未だに悪鬼達は出て着ているものの、もう人質はいない。戦力的にもこちらが有利だろう。
「……そうだな」
「秋明さん。もうあなたに勝ち目はありません。大人しく」
「捕まれというのか? 冗談を言うな。俺とてただここで人質を拘束していたわけではない」
「ほう? まだ何かあるというのか?」
「もちろんだ。お前達の相手をしている間にも、悪鬼どもを街へと向かわせていた! 今頃は、この山を降りて人間を襲っている頃だろう!!」
再び高笑いをあげる秋明だが、バルトロッサはなんだそんなことか、と次元ホールを出現させ魔力を集束させる。
「な、なにをするつもりだ?!」
「こうするのだ」
そして、次元ホール目掛け魔力を放つ。そして、何かを捉えたかのようにバルトロッサの体が震える。
「ふん!」
「なにぃ!?」
力一杯魔力を引いたと思いきや、次元ホールを通って多くの悪鬼達が魔力により縛られたまま現れたではないか。
そのまま秋明と華燐達の間に落とされ、場は静寂に包まれる。
「な、何が起こったんだ?」
「俺達は、さっきまで人間どもを襲うため街に」
「というわけで、さらばだ」
「え?」
理解する前に、バルトロッサの攻撃により悪鬼達は一掃される。魔方陣が足元から出現。光の柱が、悪鬼達を包み込んだ。
「さあ、次はどんな作戦を考えているのだ? 我が真っ向から打ち砕いてやろう」
姿は可愛らしい少女だが、中身は違う。
力が弱まっているとはいえ、地球に訪れ遊び周り、食べまくっていたとは言え、魔帝。多くの魔族を従え、その上に立っていた存在。
今のバルトロッサを見て、秋明は身震いしている。
「ま、まだだ! まだ俺にはあいつが……あいつがいる!!」
「あいつ?」
と華燐が首を傾げた瞬間。
「そうだ。まだ終わってなどいない」
天に黒き渦が出現し、そこから何者かが落ちてきた。そいつは、鳳堂家に封印されていた悪鬼と同じく二本の角を生やしており、他の悪鬼とは明らかに容姿も邪気の大きさも違う。
まるで、鎧武者。
全身を甲冑で固めており、背中には大降りの太刀を背負っている。
「おお! 着てくれたか! ムロクよ!!」
「ああ。こっちでも、少し面倒なことが起こった。作戦を予定より早めるぞ、秋明」
ムロクと言う名の悪鬼は、秋明の同意を聞く前に手にあった邪気の塊を……。
「ぐあああ!?」
秋明の体内に入れた。
やはり、強キャラが多いとシリアス路線は難しいですね。
まあ、いつかの作品でシリアス路線は向いていないと理解していますし……。
あ、ちなみに第五章についてちょっとだけ。
次章は、コメディーとかを多めにいこうと思っています。明るく、楽しく読めるように頑張りたいと思います。




