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第二十一話「助けるために」

ここから若干シリアスな展開が続きます。

「……ふむ」

「どうなんだ? ニィ」


 公園のベンチに苦しみクロを寝かせて、ニィが体の状態を調べたところ。


「やっぱり、彼女は……邪気でほとんどの体を構成しているのです」

「どういうことですか?」


 緊張感の走る中、ニィはゆっくりと語る。


「彼女の体は、邪気で構成されていて、彼女自身の。式神としての核だけが残っている状態なのです」

「つ、つまりクロの体は」

「相当前に朽ちている。でも、核だけがまだ光を失っていないなんて相当力のあった式神だと考えられるのです」


 待てよ、体が邪気で構成されているってことは。


「あぐっ!?」

「クロ!?」

「……どうやら、クロがこんなにも苦しんでいるのはあれが原因のようだな」


 俺も感じている。

 ここから離れた場所にある山。そこから、凄まじい量の邪気が感じる。しかも、ひとつだけじゃない。二つあるな。

 その二つの邪気は、まるで互いに求め合うかのように動いている。


「ねえ、クロちゃんを助ける方法はないの?」

「あるのです。それも二つ」

「その方法とは?」


 駿さんの問いに、ニィは山から溢れ出ている邪気を指差す。


「まずひとつに。あそこから溢れ出ている邪気を完全に消し去ること。彼女は、同じ邪気に反応し暴走しないように堪えているのです」

「も、もうひとつは?」

「はっきり言ってこの方法がもっとも彼女を楽にしてあげられる方法なのです。……彼女の邪気を祓うことなのです」

「そ、それって!」


 そう。クロの邪気を祓うということはクロの体がなくなるということだ。

 そうすることで邪気に反応して苦しむことはない。

 この世から邪気を完全に祓う方法がない限り、いずれ出てくる邪気でまた苦しむかもしれない。ならば、彼女の邪気を祓うことでそれを阻止することができる。

 だがしかし。


「で、でも核は残るんだよね? だったら」

「ううん、それは違うのですコトミ」

「え?」


 コトミちゃんの言うことをニィが止める。

 その表情はとても悲しそうなものだった。


「彼女の式神としての核は相当小さく、邪気に当てられ過ぎる。それに、彼女の邪気は彼女を苦しめると同時に彼女の核を守る役目も担っているのです」

「それじゃ、クロちゃんを助けるにはあの山から出ている邪気を祓って」

「一時的に苦しみを無くす方法しかないってことなの?」


 沈む皆の言葉に、そうなのですと静かにニィは頷いた。

 昨日の出来事と、あっちでの体験から予想は出来ていたが、やっぱりこういうのは場の空気がかなり重くなるものだな。


「……行こう」

「華燐?」


 華燐は立ち上がる。決意した瞳を邪気が溢れ出ている山へと向け。


「クロを助ける。そのために、あそこから溢れ出ている邪気を!」

「それでも、一時的に、なのですよ?」

「私はクロを護るって。一緒にいるって決めたんです。だから……!」


 華燐の決意は変わらないようだ。例え、一時的にでもクロが助かるのであるならと。

 それを聞き届けた俺は、華燐の隣に立ち肩にそっと手を置く。


「だったら、早く邪気を祓ってやらないとな。俺もいくぜ」

「刃太郎さん……」

「我も行くとしよう。我の部下ではなかったが、共に飯を食い、同じ屋根の下で過ごした友だ」

「じゃあ、わたしも行く! 友達を苦しめる悪い奴をやっつけてるんだから!」

「コトミが行くなら僕も。まだまだ、クロとは楽しいことを一杯したいからね」


 これで、戦いに行くメンバーは決まった。

 後は。


「ニィ。お前は少しでもクロの苦しみを防ぐために結界を張ってくれ。それと、リフィルに頼んで人払いの結界を頼む。もしもの用心だ」

「了解なのです」

「有奈達は、ニィ達と一緒に宿で待っていてくれ」


 この先は、戦える俺達の出番だ。

 戦える力がない有奈達には、旅館でクロと一緒に安全なところにいて欲しい。


「うん。クロちゃんのことは任せて!」

「頑張ってきてください! 刃太郎さん! 華燐も、負けちゃだめだよ!!」

「任せて。ここからは、本職の実力を見せるところだよ!」


 さあ、友達を苦しめている邪気を祓うために行くとするか。






・・・★・・・






「それじゃ、ここからは二手に分かれるぞ」

「我は、貴様との共闘はやらん。我は華燐のほうへ行くぞ」

「はいはい。わかってるってそんなこと」


 邪気が溢れ出ているのは、二つの場所。

 分かれ道に辿り着いたところで、俺のチームと華燐のチームで分かれることになった。当然のように、ロッサは華燐のほうへと行くのはわかっていた。


「それじゃ、僕が刃太郎のほうへ行こうかな」


 これで、後はコトミちゃんだけだが。


「三人目は私が行きましょう!」

「サシャーナさん!? 皆と旅館に向かったはずじゃ」


 突如、後ろから俺と一緒に行くと宣言してきたサシャーナさん。だが、戦力的にこれで三人ずつで、力のバランス的にもいい具合だろう。


「天宮の。卓哉様の秘書として。娘であるコトミ様とコヨミ様を護らねばなりませんので」

「さっすがサシャーナ!」

「はい! さすが私です!!」


 正直、コトミちゃん達のほうが強いから護って貰わなくてもいいような気がするけど。戦える者は、何人居てもいい。

 それだけ早く片付くからな。

 何はともあれ、これでチームは決まった。


「それじゃ、お互いに頑張ろう! クロを助けるために!!」

「はい! 刃太郎さん! お気をつけて!!」

「華燐もな! ロッサ! コトミちゃん! 暴れすぎないようにな!!」

「わかってるよー!」

「誰にものを言っている!!」


 だって、君達にはこうでも言わないとかなり心配なんだもん。仮にも、世界を滅ぼしかねない力を持った子に、元世界を侵略せんとしていた魔帝だぜ? 

 普通に考えただけで、敵が可哀想に思える組み合わせだ。


「コヨミ。はっきり言って、俺達側と華燐達側。どっちがきついと思う?」


 コヨミは、邪気に敏感だ。

 どうやら、邪気の大きさで強さなども判断できるらしい。そんなコヨミが、二箇所を見詰め。


「どっちもどっち」


 だったら、早く終わらせてあっちへ手伝いに行かないとな。


「ひゃははは!! 来たぜ!」

「来た! 人間が来た!!」

「しかも、兄貴を殺した人間がいるぜ!!」


 もう少しで、邪気の中心点へと到着しようとしていたところで複数の声が虚空から聞こえてくる。すると、すぐに黒き渦がどこからともなく、次々に出現。

 現れたのは、当然悪鬼達だった。

 小さい奴から、大きい奴まで様々な悪鬼が血走った目で。


「うわわ……めちゃくちゃ出てきましたよ!」

「どうやら、全員刃太郎が標的みたいだね」


 この前の悪鬼から察していたが、悪人だとしてもそいつを慕っている奴らがいる。とはいえ、こいつらは何かがおかしい。

 あの時の悪鬼とは違い、そこまで悲しんでいる素振りはない。

 ただただ、殺戮がしたい。そんな意思が感じられる。


「お前達に関わっている暇はない」

「こっちにはあるんだよ!」

「準備が出来るまで誰も近づけるなとの命令だ!」

「兄貴のこともある! てめぇは徹底的にリンチにしてやんぜぇ!!」


 やっぱり、あの悪鬼の敵討ちというのは二の次のように聞こえる。いったいなにが起こっているんだ?


「だったら、こっちもやってやるまでだ。言っておくが、手加減なんてできないからな」

「上等だぁ! おらあ!!」

「かかれぇ!!」


 ざっと確認しても、数は二十を越えている。そして、あの穴がある限りまだまだ出続けてくるだろう。


「久しぶりに、暴れちゃおうかな」

「私もです! 刃太郎様! ここは私達にお任せください!!」

「いや」


 やるなら、あの穴を最優先に潰す。長く戦うことはない。俺達の目的は、この先にある本元なのだから。

 向かってくる悪鬼達に対して、俺は剣を取り出し魔力解放。


「ぐぎゃああ!?」

「ほぎゃあ!?」


 悪鬼を倒しつつ最優先でが黒き穴を潰していった。残った悪鬼はたった一体。先ほどの大騒ぎだった空間が、一瞬にして静寂に包まれ残った悪鬼も、いったいなにが起こったのかと周りを見渡している。


「残念でしたね」

「うわあ!?」


 そして、残った悪鬼はサシャーナさんが残った黒き渦に蹴りで押し込み俺がそれを消滅させ、先に進んでいく。


「僕の出番なかった……」

「もう刃太郎さん一人でいいような気がしてきましたね」


 華燐達のほうは今頃どうなっているんだろうか?

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