第七話「魔帝と遊ぼう」
異世界で倒したはずの魔帝バルトロッサが少女に転生して登場した。
俺との戦いが忘れられなかったらしく、地球まで追いかけてきたらしい。
なんてはた迷惑な奴だと思いながら、現在……ゲームセンターにやってきていた。
「なんだこの店は! うるさくて耳が痛くなるぞ勇者よ!! それになんだ! このぬいぐるみがたくさん入っているケースは!? おお!? 画が勝手に動いているぞ!? なあ、勇者よ!!」
「わかった、わかったからその勇者っていうのを止めろ。俺は刃太郎だ。ちょっと、落ち着こうな? な?」
バルトロッサは、始めてみるゲームセンターに興奮の様子。
子供か、お前は。
あ、今は子供の姿だった。見ろ、隣でプレイしている青年がびっくりしているじゃないか。いや、あれは顔が赤い? まさか惚れた? 惚れたりしてないよな?
相手は元男で、魔帝だぞ? 惚れたらだめ、絶対。
「ならば、刃太郎よ。問おう、我等はこれから、このゲームセンターなる場所で勝負をするのだな?」
「ああ、そうだ。とりあえず、こっちに来てくれ」
こいつは目立ってしょうがない。
見た目的にも、言動的にも。
ちなみに、転生前は紫色の長い髪の毛にがっちりとした肉体。漆黒の鎧を身に纏っていたイケメンだった。
「ほら、とりあえずこれ飲んで俺の説明を聞くんだ」
「おお!? ボタンを押しただけで!? それにこれは……なんだ?」
自動販売機のある場所に到着。
ベンチがあり、ちょっとした休憩場となっている。適当にりんごの缶ジュースを購入してバルトロッサに渡す。
あっちの世界では、保存食はあるが缶類はなかったからな。
俺はこう空けるんだよ、と自分ので実践。バルトロッサはおおーっと驚きながら自分の缶ジュースを空ける。
「これはりんごか? 中々うまいではないか」
「それはよかった。でだ……これからやるのは、あれだ」
俺が指差したのはエアホッケー。
集中力と反射神経がものを言うゲームだ。ゲームすら初心者なバルトロッサに対して格闘ゲームは無理だろうと俺が選んだもの。
ま、どうせなら圧倒的な勝利をして負かしてもいいのだが、弱いものいじめはよくない。
「なんだあれは?」
当然、バルトロッサは知らない。
これから説明しようと思った刹那。丁度、対戦をしようと二人の男達がやってきた。
「良いタイミングだな。よーく見てろ。ルールは簡単だ。今出てきた円盤を、相手側の穴に入れたらポイントが入る」
「ふむ」
男達は、激しく、そして楽しくホッケーをしている。カン! カン! と壁などに当たりながら円盤をマレットなるもので打ち合っている。
「時間内に、ポイントが高かったほうの勝ちっていうゲームだ」
「簡単だな。単純過ぎる」
「だから選んだんだよ。単純なゲームのほうが本気になりやすいだろ?」
それからは、やりあっていた二人が勝負を終えたところで俺達の出番。
小銭を入れて勝負開始。
まずは、俺からのプレイだ。
「いくぞ」
「どこからでもかかってくるがいい!」
俺は、円盤を壁に反射させて相手側のゴールを狙う。ジグザグに動く円盤を、バルトロッサは目で追い、捉えた! と光らせる。
そして、魔力をマレットに込め始めたので。
「あ、ちなみにこの勝負に魔力とか魔法はなしな」
「なにぃ!?」
不意をつかれ、バルトロッサはからぶってしまう。
「はい、まずは一ポイント」
「き、貴様ぁ! そういうことは最初に言え!! 卑怯だぞ!?」
「すまんすまん。忘れてたって言うか、普通使わないだろって自己完結してたから」
あのまま魔力を込め、打っていればこちらも何かしらの対応をしなければならなかった。
俺に超人ホッケーをさせるつもりか。
それはそれで楽しそうだけど、今は普通のエアホッケーをやりたいんだ。まあ、俺の身体能力は異世界での経験で常人以上になっているけど。
「まったく……さあ、時間がない。ゆくぞ!! 勇者!!」
「だから! 勇者は止めろ!!」
ここからは、激しい打ち合いが続いた。最初こそ、不慣れな感じだったが少女になっても魔帝は魔帝だった。
見事な適応力で、ポイントを次々に取っていく。
しかし、負けるわけにはいかない。一度倒した相手であり、力が弱まっているんだ。
「はっはっは!! これは中々楽しいものだ!!」
「それはよかった! だけど、もう時間がないぞ! そしてポイントは俺が十一でお前が八だ!!」
「ぬかせ! まだ三ポイント差ではないか!!」
カン! カン! カン!
こうしてしばらくのラリーが続き、なかなかどっちもポイントが入らないでいた。
「くっくっく!! 貴様、そろそろ疲れてきたのではないか!!」
「そんなわけあるか!」
このままいけば、俺の勝利となる。
そうすれば、こいつももう俺に付き纏うことはないだろう。悪いが、弱まった相手だとしても俺は容赦しない。
俺の日常を守る為に!
「ぐぬぬ! これでどうだぁ!!」
なに!? ゴール近くの壁で反射させただと? 予想外の攻撃に驚いた俺だったが、すでに円盤の動きには慣れた。
逃がさない。このまま圧勝させてもらうぞ。
「らあっ!!」
「くっ!?」
ギリギリのところで防ぐバルトロッサだったが、円盤の動きが……遅くなっていく。
「お、おい! 動け! なぜ動かぬ!?」
「時間切れだ」
エアホッケーは盤上から出ている空気で円盤を浮かせている。時間切れになるとその空気も止まって、円盤は徐々に動きを止めていくんだ。
ちなみに、盤上で止まった場合はどっちでもいいのでちゃんとゴールに入れておくのがマナーだ。
そのままにしておくのはだめ。
「負けた……のか、また」
「真剣にやった結果だ。これで、俺の二勝だな」
マレットを元の場所に戻し、悔しがるバルトロッサの元へ近づく。こうしてみると、マジであの魔帝だて思わなくなってしまう。
見た目が変わるとこうも違うのか……。
「さあ、これで俺にもう付き纏うのはやめてもらおうか?」
「なにを言っているのだ、貴様は。この程度で、やめるはずがなかろう!」
……あー、こういうパターンか。
先ほどまで悔しがって俯いていたバルトロッサだったが、にやりと不敵な笑みを浮かべて俺から距離を取る。
「いいか! 今日のところは我の負けだ! しかし、命ある限り我は貴様と戦い続ける! これ以上戦いをやめてほしくば、我の命を奪うことだな!! さらばだ、刃太郎よ。また、挑みにくるぞ!! ふはははははっ!!!」
「おい。次元ホールを使うなら人目のつかないところで使え」
次元を潜り抜け帰ろうとしたので、俺はそれを注意する。
なに!? と驚いた表情で固まる魔帝さんに、俺は教えた。この世界には、魔法がない。ましてや魔物だっていない。
全てが空想のものだということを。
だから、無闇に人がいるところでは使うな、と。まだ、魔力の高まりだけだったから常人にはわからなかったのでセーフだった。
それに、ここがゲームセンターでよかった。
ゲーム音により、あんまり俺達の声が聞こえていない……はず。こいつの声はやたらと大きいから、最悪聞こえているかもだけど。
まあ、子供がアニメとか漫画に影響をされていると思われるかもだけどな。
「とまあ、俺と今後勝負するなら、時と場所を考えてくれ。じゃないと、お前を一生無視する」
「くっ! めんどくさいものだな、貴様の世界は。いいだろう! 今後、貴様に挑む時は、人気のないところから現れ、徒歩で赴いてやるわ!! では、今度こそさらばだ!!!」
と、男子トイレへと走り去っていく現在少女の魔帝さん。
はあ……疲れた。
周りに気を使って、あいつの相手をするのは色々と疲れる。あ、そういえば次の勝負で勝ったら、俺に関わるなって言っておけばよかった。
とは言っても、聞いてはくれないだろうな。さっきの言動から察するに。いくら相手が魔帝とはいえ、少女の命を奪うのも……気が引ける。
元、勇者としては。
「……さて、これからどうしようか」
現在の時刻は昼ちょっと過ぎ。
十二時を過ぎたところだ。書店に行ったのが大体九時頃。更にそこから携帯の新規契約で時間をとったからなぁ。さすがは日曜。朝っぱらから人が多いのなんのって……。
確か、有奈達は映画を観るって言っていたよな。
おそらく、まだ鑑賞中だから少し映画館で待ってみるか? っと、行ってみたはいいものの。
俺は衝撃を受けている。
そろそろ映画が終わる頃だろうと、映画館に向かっていくと……有奈を見つけた。周りには、リリーや華燐の姿はない。
一人だろうか? と、声をかけようと思ったのだが。
「う、嘘だ……嘘に決まってる……あ、有奈が、有奈が……!」
映画館前で一人立ち尽くす有奈の右手。
あれは明らかに……タバコ。
タバコが入っている箱だ! 嘘だ。いくら不良になったとはいえ、そこまで? さすがの有奈もそこまでいくとは思ってもいなかった。
全てを知ったうえで行動に移ろうとは思っていた。
だって、何も知らずに行動するのは一番やばい。
もし、俺の勘違いで有奈のことを傷つけでもしたらどうする? 更生させるつもりが、さらにぐれてしまったらどうする? まずは、慎重に相手の情報を集めるのが常だ。
と、思っていたのだが。
有奈の新しい部分を知れば知るほど、俺は衝撃を受けてしまっている。
「なっ!?」
しかも、それを一本咥えた!? あ、有奈あぁ……。
「遅くなってごめん! さ、いこいこ」
「お? いいもの持ってるね。私にも頂戴」
「うん、いいよ。リリーもどう?」
「もらっとくー」
三人ともタバコを……ただちょっと不良っぽいけど、基本はいい子達だと思っていたのに。
くっ! だが、俺は挫けない。
時間が許す限り、有奈の動向を探るんだ。有奈を更生させるために!




