第十八話「熱血な父親」
あれから、俺、有奈、リリー、華燐、舞香さん、ニィ、クロの七人は観光をしつつ隆造さん達を探していた。
ロッサ、コトミちゃん、コヨミは相変わらず好き勝手に動き回っており、それを心配して光太や駿さん、サシャーナさんがついて行った。
こうして二手に別れた俺達は、それぞれ楽しんでいる。
ついでに言うと、リフィルは途中で脱落。先に旅館に戻っていき、おそらくまったりとしているだろう。
「ねえ、華燐ちゃん。華燐ちゃんのお父さんってどんな人なの?」
会う前に、というやつだろう。
俺も気になっていたことを、舞香さんが先に問いかけてくれた。華燐は、しばらく考える素振りを見せた後、ゆっくりと語ってくれた。
「極めて真面目な人です。まあでも、特撮ものが好きで部屋にはグッズなどがたくさんありますね」
「ヒーロー好きってことか?」
「そうですね。昔から、俺達はヒーローだ! って私達に言いながら修行をしていましたから」
確かに、悪しき者を祓い戦う霊能力者はヒーローなのかもしれない。自分が憧れ、好きなものだからこそその人は真面目なのだろう。
真面目に取り組み、真面目に人々を護っている。
「いいか? 響。さっきの戦いだが。もう少し技の叫びをだな」
「あっ」
そんな時だった。華燐が突如足を止める。
視線の向こうには、足湯に浸かりながら響に何かを教えている男の姿があった。その隣にには、御夜さんもいた。
つまり、革ジャンに穴空きグローブ、赤いスカーフというヒーローな組み合わせをしているあの男が華燐達の父親か。
「ん? おお! 華燐じゃないか。それに、リリーちゃんも久しぶりだね」
「お久しぶりです、隆造さん。相変わらずスカーフしているんですね」
「おうとも! これが俺のヒーローとしての証だからな! それで、そちらの方々は?」
リリーは華燐の幼馴染ということで知られているだろうが、俺達は違う。なので、これからの会話に必要な自己紹介をした。
「ほうほう。君が、噂の刃太郎くんか」
噂って、悪鬼のことだろうな。
鳳堂で俺の噂と言ったらその辺りだろう。
隆造さんは、そうだ! と腕組みをしながら強く頷き足湯から出る。足をしっかりとタオルで拭き近くにあったブーツを履く。
「君のことは、妻からも母さんからも聞いている。それに、華燐や響が気にいっている男だということもな。こうして直接会えて、俺は感激している! 聞くところによると君は勇者だそうじゃないか! どうだろう? 俺に、その時の話を聞かせてくれないか!!」
「あ、あの。そういうのはあまり大きな声では……」
幸い足湯のところには俺達しかいなかったが、通行人はなんだろう? とこっちに視線を送っている。
「おっと、これはすまない。では、移動をしてからゆっくりと話すとしよう! さあ、俺に続けぇ!!」
「お、おい! 親父!?」
「ま、待ってぇ……!」
うん、とても熱血な人だな。さわやかな笑顔と元気な声で、我先にと飛び出していく。御夜さんと響は、置いていかれまいと慌てて隆造さんを追っていく。
「勢いあるなぁ」
「そ、そうだね」
「すみません。父が……」
本当に申し訳なさそうに、頭を下げる華燐。
「いいのよ。とても素敵なお父さんだと私は思うわ」
「わたしも、熱い人は嫌いじゃないのですよ」
「兎に角、ついて行こう。このままじゃ、見失ってしまうぞ!」
そんなこんなで、俺達も隆造さんの後を追って走り出した。
・・・★・・・
「風が心地いいぜ……」
「かっこつけている場合か」
辿り着いたのは浜辺だ。
今の時期だと、あまり泳いでいる人はいない。もう九月だ。夏も終わり、涼しくなっている時期。それでも、泳いでいる人はチラホラと見える。
そんな浜辺で、隆造さんはかっこよく海を眺め一言呟いていた。
「そうだったな。休憩時間も、無限じゃない。話したいことはさっさと話すとしよう」
「休憩時間はどれくらいあるんですか?」
「そうだなぁ。少なくとも、後十五分ぐらいか」
「やっぱり、邪気がそれだけ増えているってことだよね?」
華燐の言葉に、隆造さんはああっと静かに頷く。
「俺達はこれまで人に見つかる前に、邪気を祓ってきたが。湯水のように増え続けていく。……華燐。すまんな。結局、お前の力を頼るかもしれない」
「……ううん、大丈夫。最近は、力を持っているのに、逃げるなんてできないって考えを改めているんだ。周りの影響、かな?」
え? なんか俺のことを見ているんだが。俺の、影響ってことか? 俺は、勇者をやっていたし、元々性格的に放っておけないっていうのもあるからなんだが。
まさか、華燐を変えるほどの影響力があったとは……。
「そう、か。うん! そうか! それは嬉しいことだ!! だが、あまり無茶はするなよ?」
「お父さんこそ、そこまで若くないんだから無茶しちゃだめだよ?」
「なにを言う! 俺はまだまだ若い!」
「四十を越えているおっさんは若くねぇよ」
「言うじゃないか! 息子よ!! あっはっはっはっは!!!」
それにしても、華燐が必要になるほどに邪気は増え続けているってことか。普通の人達は気づいていないようだがこのまま何もわからない状態だと、対処しきれなくなっていくかもしれないな。
「隆造さん。その時は、俺も頼ってください。お手伝いできると思いますよ」
「いいのか?」
「もちろんです。これでも、世界を救った勇者ですからね。そういうのには慣れてます」
「それは頼もしい! 異界を救った勇者と共闘できるなんて燃える展開じゃないか!! その時は、よろしく頼めるか? 刃太郎くん!!」
あはは、本当に熱い人だな。
さわやかな笑顔で、俺と握手をしていると隆造さんは華燐の後ろに隠れているクロへと視線を向けた。びくっと体を振るわせるクロを怖がらせないように視線を合わせた。
「よう、クロ。元気にしていたか?」
「……うん」
「うーん、まだ固いかぁ」
どうやら、まだクロは隆造さんには慣れていないようだ。
「お父さんが、あまり大きな声を出すからだよ。最初会った時も、すごく驚かせていたよね?」
「あはは、すまんすまん。……それにしても、改めて見ると小さい頃の華燐に似ているな」
「私に?」
隆造さんの言葉に、華燐はクロを見詰めた。そう言われると似ているかもしれない。黒髪ということもあるだろうが。
華燐も髪の毛を下ろせば、髪型を合わせれば更に似るかもしれないな。
「お? なんだ、妹誕生か?」
「妹かぁ。いいかも。私ずっと妹が欲しかったんだぁ。あっ、でもお姉ちゃんはある意味妹みたいなものかな」
それは言えているかもしれない。御夜さんは、年上に見えないんだ正直。失礼かもしれないけど。それを実の妹に言われた御夜さんは、慌てて訂正するように言う。
「ど、どういうこと!? わ、私お姉ちゃんだよ!? 華燐ちゃん!」
「あー、それは言えてる。姉だけど、なんだか放っておけない妹みてぇな?」
「き、響ちゃんまで!?」
「おいおい。お前達、あんまりお姉ちゃんをいじめてやるなよ。御夜は打たれ弱いんだから」
「うぅ……わ、私お姉ちゃんなのに……」
案の定、落ち込んでしまっている。
と、俯く御夜さんを見てクロは、小さな鞄から何かを取り出しそれを差し出した。
「これ」
「飴?」
「元気出して。御夜」
「う、うん。ありがとう、クロちゃん。えへへ……おいしいね」
その瞬間、俺達は思った。
飴玉を貰って元気になりおいしそうに飴玉を頬張る姿。やはり、姉というよりも妹のほうがあっているんじゃないかと。
だが、それを言ってしまってはまた本人が落ち込んでしまうので二人のやり取りを微笑ましそうに見詰めるだけで俺達は留めた。
「さて、俺達はこれで失礼する。華燐は刃太郎くん達と観光を楽しめ。あ、だが呼ばれたら頼むから、早めに来てくれよ?」
「大丈夫だって! 親父!! 華燐ねえちゃん、なんだかんだ言っていつもすぐ来てくれてるだろ?」
「そうだね。華燐ちゃん、優しいから……さっきは意地悪だったけど」
「あ、あはは。ごめんね、お姉ちゃん」
むうっと頬を膨らませ、華燐を睨む御夜さん。人見知りではあるが、やっぱり家族ではそれなりのやり取りはできるようだ。
華燐も華燐で、意地悪したことを自覚しているようで素直に謝罪をする。
「その時が来たら、俺も助っ人として駆けつけますよ。安心してください」
「うん。勇者殿が一緒なら、安心だな。では! ゆくぞ、子供達!! 悪しき者達を祓うために!!」
「おっしゃあ!! やってやるぜ!!」
「が、頑張る……!」
青春もののように、駆け足で去って行く隆造さん達を見送った後、俺達はその時が来るまで、全力で楽しもうと決め、浜辺から離れて行った。
「……」
「クロ? どうしたの?」
何かを感じ取ったのか。クロは、一人浜辺に立ったままだった。華燐は、どうしたのだろうと問いかけるも。
「う、ううん。なんでもない」
とだけ言って小走りで皆のところへ行く。……さっきの、コトミちゃんの時に似ているような気がした。何かが出てきそうな、そんな感覚。
クロ的には、記憶、だろうか。
何か記憶を刺激するようなものがあったのだろうか。周りを渡すがそれらしきものはなかった。




