第十六話「元気な女子達」
「はぁ……いい湯ねぇ」
「そうですねぇ……」
服や下着を脱ぎ、体も髪の毛もしっかり洗った有奈達は、温泉にゆっくり浸かっていた。有奈、リリー、舞香、華燐、リフィルはまったりと。
こうして並ぶと圧巻である。
華燐は、ジッと並ぶその胸を見詰める。
特に胸にコンプレックスがあるわけではないのだが、これだけ大きな胸が並ぶとやはり自分は小さいのだなと一瞬でも感じてしまう。
「どうしたの? 華燐」
「なんでもない」
だが、決して表には出さない華燐だった。
「では者ども!! 露天風呂へと向かうぞ!!」
「おおー!!」
「いこー」
「わ、私もいくの?」
女子高生達や大人達が待ったりしている中、バルトロッサ、コトミ、コヨミ、クロの子供チームは露天風呂へと向かっていく。
「あれ? そういえばサシャーナさんはどこに行ったんだろ?」
ふと、有奈はサシャーナの姿がないことに気づく。
「さっき、忘れ物があるから取りにいくーって言ってたよー」
ゆるゆるな表情でリリーは答える。
そういえば、着替えている途中で忘れ物があるからと部屋に戻っていった。でも、ここから部屋までそれほど距離はない。
着替えて、体や髪の毛を洗い湯に浸かってすでに七分は立っている。もうそろそろこっちに来てもいい頃のはずだが。
「さて、あたしもちょっと露天風呂に行ってこようかな。有奈と華燐はどうする?」
湯から上がり、タオルで前を隠しながらリリーは問いかけた。
「うん、いいよ」
「それじゃ、私も一緒に行こうかな。あの子達がなんだか心配だし」
「あー、確かに」
苦笑いして湯から上がる有奈の言葉に、リリーは先に出て行ったバルトロッサ達のほうを見る。
「さすがに、元気のいいあの子達でも問題はそう簡単には起こさないわよ」
「まあ、なにかあった時はあたしがなんとかしてあげるわよ。なんてたって、あたし神様だからねぇ……ふぃ」
などと言ってくれるが、今にもゆるゆるな表情なのでどうも言葉に力を感じない。付き合いはまだ短いが、リフィルのことはある程度知っているつもりの有奈。
確かに、神様という雰囲気はあるが、家で過ごす彼女ははっきり言ってジャージを毎日来てぐーたらしている残念美人、という印象だ。
ちなみに、ジャージは同じものを着ているのではなく何日か経ってから違うジャージに変えている。
いったい何着持っているんだろう? と首をかしげたことも何度かあった。
「というわけで、行こう有奈」
「うん。それじゃ、行って来ます」
「いってらっしゃーい」
「てらー」
大人達を置いて、三人は露天風呂へと向かっていく。ドアを開けて外に出て空を見上げると一面に広がる星空が視界に飛び込んできた。
「わー! すっごく綺麗だね」
「うん、雰囲気出てる」
「さて、あの子達はどこに……お、あそこか」
星空への感動を記憶に収め、バルトロッサ達を探す。広いとはいえ、すぐに見つかった。どうやら、男風呂方面の壁でなにやら隊列している様子。
なんだか嫌な予感がしてならない三人。
「では、今から我は襲撃をかける。先ほどの光太の叫び。どうやら何かあったようだ」
「すごい叫びだったね!」
「寄るなって言ってたよね。てことは、敵かな?」
「でも、あっちにはすっごく強いお兄さんと神様がいるんだよね? 大丈夫、じゃない?」
どうやら、男風呂のほうから光太の叫び声が聞こえたらしい。そういえば、人の声のようなものが聞こえたような気がしたが、と有奈はリリー達と顔を合わせる。
「て、敵の気配とかする?」
と、リリーが華燐に問いかけるが、華燐はまったくと首を横に振る。
「と、というか! だめだよ! そっちは男湯なんだから!」
「そうだよ、ロッサ! そっちに行っちゃだめだって!!」
このままでは、バルトロッサに続きコトミ達も行ってしまうんじゃないかと思った有奈達は必死に止めに入る。
「止めるな! 我は、部下を助けに行かねばならん!」
「い、いやだから。あっちには刃太郎さんもニィちゃん? くん? もいるんだから。大丈夫だってば」
リリーの言葉に続き、有奈と華燐もうんうんっと首を縦に振る。
だが、その言葉をぶち壊すように。
「だから、寄るなあああッ!?」
光太の叫び声が響いた。
決して、邪悪な気配はしない。ならば、この奥で起こっていることはいったい?
「光太!」
「ま、待ってってば! まずは様子を、様子を見てから!」
「様子をだと? そんな悠長な……いやだが、この先から感じられるのは刃太郎の気配とあの神の気配が強い。邪気は感じられない……うむ」
少し考える素振りを見せてから、バルトロッサは壁に耳を当てた。それを真似するようにコトミやコヨミまでも男子風呂との間を隔てている壁に耳を当てる。
クロは、さすがに迷いがあるようでチラチラと有奈達のほうを見ている。
「……おお。これは」
「二人でなにしてるんだろ?」
「これは、禁断のってやつじゃないかな?」
「き、禁断の?」
コヨミの言葉に、リリーはカーッと何を妄想したのか顔を茹蛸のように赤くする。いったい何が向こうで起こっているんだろう? と有奈と華燐は目を合わせる。
「ちょ、ちょっとだけ」
「リリー!?」
まるで、誘われるようにリリーはバルトロッサ達と共に壁に耳を当てた。
その様子を見て、二人は思った。
(これって、普通は男子側がやるようなことじゃ)
漫画やアニメなどでは、よく男子達が女子達側の様子が声が気になり、思春期真っ盛りな行動を取るというのが定番。
今目の前で起こっていることはそれの逆。
「ねえ、さすがにそういうのはよくないんじゃ」
「そ、そうなんだけど。なんかこう、向こうでとんでもないことが……!」
あれだけ初心なリリーがこれだけ興味を示すとは。気になってしまう。何が起こっているというんだ?
「ま、待って有奈!」
「ハッ!? 足が勝手に……」
いつの間にか、足が動いており華燐が止めなければ、このまま有奈もバルトロッサ達と一緒に聞き耳を立てるところだった。
「なにしてんの、あんた達」
「り、リフィルさん!? あ、いやこれは……!」
気ダルそうに、足だけを温泉に入れてリフィルがいつの間にかそこにはいた。有奈と華燐は、慌てて誤解を解こうとするも、そんな余裕はなかった。
「これ以上はいかんな。我は、ゆくぞ!!」
「ロッサちゃん!?」
少し目を離した隙に、バルトロッサが壁から耳を離して跳躍。壁を乗り越えて男湯へと侵入していってしまった。
「私も行く!」
続いてコトミも人間離れした跳躍で壁を飛び越えていく。
「僕も」
時間をまったくおかずコヨミまでもが男湯へと侵入していった。
「光太よ!! 助けに来たぞ!!」
「ば、バルトロッサ様!? ごはっ!?」
「どうした、光太!?」
「わー、すごい鼻血だね」
「温泉の中じゃなくてよかったね。もし温泉だったら血の湯になってたよ」
「というかお前達! なんでこっちに来てんだ!?」
「部下の危機に駆けつけたのだ。さあ、オカマ神よ。我が部下から離れるがよい!」
「大丈夫なのですよー。ただからかっていただけなのです」
取り残された有奈達はただただ呆然と壁を見詰めているだけしかできなかった。
「ど、どうしよう」
「どうしようって……どうすることもできないかな? というかリリー。いつまで壁に耳を当ててるの?」
「じ、刃太郎さんが裸でこの奥に……!」
暴走している。普段奥手なリリーだが、時々こうして暴走してしまうことがある。
「と、とりあえず私達だけでも上がる?」
「そう、だね。クロもいい?」
「うん。でも、いいの? あっちは」
どうにかしたい。けど、自分達には無理そうだ。頼りのリフィルだが。
「あれぐらいなら、大丈夫よー」
この調子である。先ほどの言葉はいったいなんだったのか。
「あら? 三人も今上がるの?」
露天風呂から出たところで、丁度舞香も上がるところだったので一緒に着替え女子風呂を出る。
「いざ! 今が絶好のチャンスです!!」
「だめです」
「マイカメラあぁっ!?」
そこでタイミングよく、今まで姿を見せなかったサシャーナがカメラを持って温泉へ向かおうとしていたのを目撃した。これはだめだと、華燐は無言でカメラを取り上げ、事無きを得た。
ロリだからセーフ! ……あれ? むしろアウトか?




