第十四話「温泉旅行へ」
「え? 温泉旅行?」
今日は、朝っぱらからロリ魔帝ロッサが遊びに、いや勝負を仕掛けてきた。朝っぱらからとてもめんどくさいと思った俺は、早々に決着がつくであろう指相撲をやっている。
こいつの手は、見た通り小さく細い。
そしたら、これまた朝っぱらからサシャーナさんが電話をかけてきた。いったいどんな用事なんだろうと問いかけると、今週の金曜日から来週の月曜日まで温泉旅行に行かないかと。
そういえば、来週は敬老の日があったな。
丁度三連休だ。学生さん達は休みだろうけど、俺は丁度土曜日と月曜日はシフトが入っている。そのことをロッサの指を避けつつ伝えたところ。
《では、そこら辺はこちらから部下達を何人か派遣致します。コトミ様の教育係をやっていた時のように》
「あー、なるほど。それは、章悟さん達も喜びそうですね」
そして、またその部下さん達を目当てに特定のお客さん達が来るだろう。そうなれば、山下書店も商売繁盛。売り上げが伸びそうだ。
「くっ! 電話をしながらこの強さ。やるではないか……!」
さて、そろそろ電話に集中したいから決着をつけるとしよう。
俺は軽快なフェイントでロッサを誘いそのまま素早い動きで親指を捉えた。
「なに!?」
「一二三四五六七八九十。はい、終了」
「貴様! カウントが早くないか?!」
「早くない。というわけで、俺の勝ちな。お前は、ココアでも飲んで静かにしてろ」
「くうぅ……!」
いつものように、敗者は勝者に何も言えないということで、ロッサは大人しくココアを自分で入れに行く。その間に、俺はサシャーナさんとの会話を進める。
「お待たせしました。それで、旅行の件ですが」
《はい。そちらのほうでも、何人か友達を誘って頂いても構いません。旅費は全てこちらで受け持ちますので》
「さ、さすが天宮家。何人でも良いんですか?」
《もちろんです! やはり、舞香様、有奈様やリリー様、華燐様は鉄板ですかね?》
「まあ、そうですね。あ、優夏ちゃんやそらちゃんは当然誘ったんですか?」
コトミちゃんのことだ。絶対あの二人は誘うだろう。
《あー、それがですね。どうやら二人ともご家族とすでに出かける約束をしていたようでして》
おっとタイミングが悪い。
まあ、連休がある時は、家族でどこかへ出かける人達はよくいるし。いつも一緒に出かけられるわけじゃないってことか。
「それは仕方ないですね。じゃあ、代わりと言ってはなんですが。こっちで出来るだけ誘ってみます。……本当に、何人でも良いんですよね?」
《大丈夫ですよ! 卓哉様からはすでに了承を得ておりますから! 旅行先の宿もこちらで手配しておきます。そうですねぇ、期限は三日後までということで》
俺はカレンダーを一度確認する。今日が月曜日だから木曜日まで?
「前日ですけど、大丈夫なんですか?」
《実はもう宿は抑えてあるんです。なにせ、我が天宮が経営している旅館ですので!!》
「あー、そういうことっすか。了解しました。では、誘った相手の承諾を得次第連絡しますね」
《よろしくお願い致します! それでは! ではでは!!》
相変わらず元気な人だなぁ。さて、温泉旅行か。何人でも良いって言っていたけど、誰を誘うかな。まず、舞香さんと有奈、リリーに華燐。
後は……チラッとロッサを見る。
すでに、自分でココアを入れてソファーでちびちびと飲みながらテレビを観ている。
「む? 電話は終わったのか」
「……」
こいつも誘うべきか? いやいや、誘わないほうがいいよな。それに、誘わなくても絶対一人でついてきそうだし。いや、それはそれであっちにも迷惑がかかりそうだし……。
前回の瀬川家のようにはいかない。
今回は、ちゃんとした宿なんだ。
「なあ、温泉旅行、いくか?」
「ほう、我を誘うとはどういう風の吹き回しだ?」
「どうせ、誘わなくても、次元ホールを使ってついてくるつもりだろ。どうせなら、光太も誘ってくれ」
「ほうほう。光汰もか。貴様にしては珍しいではないか」
どうせ、誘わなくてもバルトロッサ様が行くのなら俺もいくぞ! とか言ってきそうだし。別に俺は光太のことを嫌っているわけじゃない。
あいつが俺のことを敵視しているだけで。
「お、そうだ。もう一人、誘いたい奴がいるのだが」
「誰だ?」
ココアが入ったカップをテーブルに置き、にやっと笑うロッサ。
こいつにも、光太以外に仲のいい奴がこっちで出来たのか。
それは喜ばしいことだ。
「貴様が知らぬ奴だ」
そりゃ、そうだろうな。
・・・★・・・
そんなこんなで金曜日の夕方。
有奈達は、学校を終えてからの集合となる。舞香さんや光太も仕事を終えてからだ。あれ? そう考えれば俺だけじゃね? 何もないのって。
い、いや違うんだ。
今日はたまたまシフトが入っていなかっただけで、俺はちゃんと働いているから。
とはいえ、先に駅へと到着したのは、俺とロッサ、ニィ、リフィル、サシャーナさんの五人。
有奈達は、駿さんや他のメイドさん達がつれてくるらしい。
「目立つな」
「目立ちますねぇ」
「目立つと何か不都合でもあるのか?」
あるに決まってるだろ。ただでさえ、帰宅ラッシュの時刻で人が多い駅だ。その中で、これだけ目立つ集団がいるだろうか。ウサギ耳を今は隠しているとはいえ、フリルたくさんなメイド服に白衣の見た目ロリと銀髪ロリにジャージ赤髪美女。
その真ん中に、普通の十代少年。
「刃くんとの旅行楽しみなのです」
「ふあぁ……あたしは、温泉に入れればそれでいいわ」
当然のように、ついてきている神様達。相変わらずリフィルはジャージ。よほどジャージが気に入ったようで何よりだが……うん、目立つ。
なんなんだこの組み合わせは。
ただ立っているだけなのに、視線が突き刺さる状態にある。予想はしていたが、サシャーナさんとリフィルだけで十分目立つからな。
「離れたほうがいいですか?」
「とか言いつつ、なぜくっ付くんですか。ニィも」
「いえ。迷子にならないようにと」
「そんな冷たいことを言わないでほしいのです」
そんなやり取りをしていると、有奈達がこちらへと近づいてくるのが見えた。元気よく駆けつけてくるのはコトミちゃんだった。
「お待たせ!」
「おう。有奈達も学校終わりにお疲れ様」
「まさか、学校を終えてからすぐ旅行に行くなんて思いもしなかったよ」
「でも、こんな大人数で温泉旅行かぁ。すっごく楽しみ!」
「うん。それに、まさかお父さんが遠征に行っている近くなんてすごく偶然」
そうこれから行くところは、華燐の父さんが遠征に行っている場所だった。一度戻ってきた華燐の父さんは、数日も立たないうちに次なる場所へと遠征へ行ったらしい。
ここ最近、邪気が増大しているため鳳堂家当主としてそれを祓わなければならないと。
ちなみに、それを手伝うべく御夜さんと響がそこへ行っているのだという。
「温泉旅行かぁ。すごく久しぶりだから年甲斐もなくわくわくしちゃうわね」
「バルトロッサ様。お待たせしまた!」
「うむ。それで、クロよ。貴様もよく来た」
「うん。でも、なんだか人が多くてちょっと怖いな……」
「大丈夫だよ。私達がついているから」
彼女がロッサが言っていたクロか。これまた一人着物という目立つ格好をしている少女。後頭部の赤いリボンも相まって視線を集める。
年齢的に、コトミちゃんより上で有奈達より下だろうか? だが、ロッサの話では自分と似たような力を感じたと言っていた。
ロッサと同じく見た目は当てにならない。それに、記憶喪失らしいからな。実際、どんな子なのか今はまったくわからない状態らしい。
今は、鳳堂家でお世話になっているとか。
「それでは、集まったところで行きましょう! いざ、温泉へ!!!」
今から行くなら、到着する頃はすっかり夜になっているだろう。今日は、宿でゆっくりと休み。本番は明日ということだ。
それにしても、こんな大人数で旅行をすることになるとは。昔だったら、考えられないことだ。
「どうしたの? お兄ちゃん」
「いや、なんでもない。ほら、早くしないと乗り遅れるぞ」
異世界召喚があったからこそ。
人との繋がりを大事に思ったからこそできたこと。今回の旅行……楽しまなくちゃな。
いよいよ明日で、連載二ヶ月! 果たしてスピンオフは投稿できるのか!?
明日をお楽しみに!!




