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第十三話「着物の少女」

八月です! まだまだ夏はこれから! 水分補給や適度な休憩をお忘れなく!

「こしあんもいいが、クリームもなかなかうまいな」

「あぁ、そうだな」

「……」


 久しぶりに公園に訪れた。

 丁度ベンチがひとつ空いていたので、途中で買ってきたタイヤキを口にしながらでも、ゆっくり話そうとそう思っていた。

 俺が真ん中で、左がロッサ、右は鳳堂家の人となっている。

 ベンチに座ってから、すでに二分が経っている。しかし、彼女は一向に自分から切り出してくる気配がない。タイヤキをちびちび齧りながら、ずっと俯いたまま。

 やっぱりこっちから切り出さないとだめのようだ。


「あの」

「ひゃ、ひゃい!?」


 そこまで、驚かなくても。


「さっそくですが。いくつか質問してもいいでしょうか?」

「はい……」

「それじゃ、まずひとつ。あなたのお名前は?」


 まずは、名前を知らないとな。当然、相手は俺のことは知っていると思うが、俺は知らない。あ、ロッサのことも紹介したほうがいいだろうか。


「ほ、鳳堂御夜、です」

「御夜さんか。知っていると思うけど。一応。俺は威田刃太郎です。ほら、お前も」

「ロッサだ」


 素直でよろしい。さて、本番はここからだ。お互いに名前を知り合ったということでどんどん質問をしていくとしよう。


「それで、御夜さん。どうして俺のことを?」

「……その、知りたかったの」


 知りたかった? 


「刃太郎くんって、どんな人なのか、って」


 御夜さんは、タイヤキをじっと見詰めながら語った。俺が、どんな人なのかか。確かに、観察していた様子はあったけど。


「いったいどうして?」

「……」


 言えない、てことか。なんだか、頬を赤く染めているし恥ずかしいことなんだろうか。そういうことなら、この話題はなしにしようかな。

 性格が性格なだけに、あんまり攻めたりしたら黙りこくるか、逃げてしまいそうだ。

 ちょっと、話題を変えて日常的な質問でいくか。


「御夜よ。貴様、そんな性格をしているが。よく学校に入れたな」

「おい!」


 俺もそこは気になっていたが、いきなりはないだろ。確かに、この性格だし面接など大変だったと容易に予想できてしまう。

 だけど、そこへ辿り着くのはもうちょっと警戒心を解いてからにしようと思っていた。

 そこへ、ロッサのストレートな質問が投げつけられた。


「そ、それはその……」

「あぁっと、嫌なら答えなくていいんですよ?」


 明らかに、さっきより動揺している。俺は、慌ててフォローに入る。


「だ、大丈夫。その子の言う通りだから……。面接の時は、暗示をかけたの」

「ほう。緊張しないようにというか?」

「うん。そうでもしないと、私こんなだから。絶対、まともに答えられないって。大学に行ったのも、やぱり社会に出て働くのがまだ怖かったから」


 しかし、大学に行ってもそれ以上は無理だろう。大学が終わったら、彼女はどうするつもりなんだろうか? そういえば、彼女は鳳堂の人だから。


「大学を卒業したら、どうするつもりだ? 社会が怖いとも言っていられぬぞ」

「霊能力者として、生きていくとかは?」

「そ、それも考えているんだけど……私、才能ないから。いつもいつも、妹や弟に助けられてばかりで」


 妹や弟が居たのか。

 となると彼女が一番上ということ。ん? 姉、妹、弟の構成……これってまさか。


「御夜ねえちゃん! こんなところにいたのかよ!!」

「き、響ちゃん!?」

「響ちゃん?」


 そんな時、現れたのは華燐の弟の響だった。慌てた様子で近づいてくる響を見つけ、御夜さんはすぐさま立ち上がる。


「だから、ちゃんはやめろって! あ、刃太郎さん! お疲れ様っす!!」

「え?」


 刃太郎さん? お疲れ様っす? まるで、舎弟か後輩のように挨拶をしてくる響に俺は驚きを隠せないでいた。それもそのはずだ、

 前までは、敵視され、めちゃくちゃ睨まれていたからな。

 それが、再会したらこの変わりよう。

 驚かないほうがおかしい。


「もしかして、御夜ねえちゃんがご迷惑を?」

「いやまあ」


 ちらっと御夜さんを一瞬見る。まるで、悪い事をばらされるのが怖い子供のように慌てていたので、俺は。


「別に迷惑なんてかけてないぞ。ただ、俺に話があるみたいだったから」

「本当っすか?」

「ああ。でもまあ、恥ずかしがってなかなか話してくれないけどな」


 やっぱりかぁ……と頭を掻き、響は頭を下げてくる。


「すんません! 御世ねえちゃんは、その昔からこういう性格なもので。仲のいい女子や家族とは喋れるんですが。初めての、それも男子と喋るのが特に苦手なんです。だから」

「いいって。俺も今すぐ知りたいってわけじゃないから」


 ずっとストーカーされたいたから今すぐ知りたいわけじゃないっていうのは嘘になるんだけど。無理やり聞き出そうとしても、性格的にうまく聞き出せないだろうし。

 ここは、穏便に済ませるとしよう。


「ありがとうございます! その、このことは時が来たら必ず話します。それでは、失礼します!!」

「た、タイヤキご馳走様でした……!」


 響に手を引かれ去って行く中、律儀にタイヤキのお礼を言っていく御夜さん。それにしても、やっぱり華燐や響のお姉さんだったのか。

 なんだか見事に性格がバラバラだな。

 御夜さんが、恥ずかしがりやで人見知り。華燐が冷静で人当たりがいい。響が、ちょっと喧嘩腰で真っ直ぐ。

 自宅ではどんな感じに生活しているんだろうな、三人は。


「うむ、美味であった」

「お前、全部食べたのか!?」

「あのまま放置していても冷めてしまう。我が、冷めぬうちに食してやったのだ」


 俺もクリーム食べたかったのに……。まあでも、夕食前だしあまり食べるのはだめだよな。こいつの場合は大丈夫なんだろうけど。


「ではな。貴様は早々に家族の下へ帰るのだな」

「お前は帰らないのか?」

「我はもう少し街を歩く。食後の運動というやつだ。ではな」


 それにしても、あいつよく補導されないよな。まあ、いつもそこには注意して行動しているんだろうけど。俺も、帰るか。






・・・☆・・・






 バルトロッサは、食後の運動とばかりにゲームセンターにでも行こうかと考えていた。

 そして、丁度商店街辺りに差し掛かったところで、バルトロッサはすごく目立つ子を目撃してしまった。

 黒い着物を着た子だ。

 黒のセミロングヘアーに、後頭部には赤い大きなリボン。額には何かの紋様が刻まれている。ぼーっと虚ろな目で空を見上げており、誰も声をかけようとはしない。

 まるで、そこに彼女がいないかのように。素通りしていく。


「あれ?」

「貴様は、確か華燐だったか?」


 そんな時だった。本屋から出てきた華燐と遭遇。


「おい貴様。奴をどう思う?」

「なんだか普通じゃないね。何かの気配がすると思っていたけど」

「我もそう思っている。どうやら他の者達には認識されていないようだな」

「ねえ、あなた」


 気になってしまった。華燐は、ゆっくりと少女の肩に手を置く。

 刹那。

 まるで、突然現れたかのように、通行人は少女の出現に驚く。少女も少女で、自分がどうしてここにいるのかわかっていないかのように周りを見渡している。


「あ、あなたは誰?」

「それはこっちの台詞だ。貴様……いや、少し移動するぞ」

「え? ちょっ!?」


 バルトロッサは視線が集まっていることに気づき、名も知らない着物少女と華燐の手を引いてその場から走り出した。

 そして、人気のないのを確認して急ぎ次元ホールを発現させる。


「飛び込むぞ」

「えええ!?」


 有無を言わせず、バルトロッサは次元ホールへと華燐、着物少女と共に飛び込んでいく。そして、着地した先は光太と共に済んでいるマンションの一室だった。


「ば、バルトロッサ様!? それに」

「うむ。帰っていたか光太よ」

「お、お邪魔します」


 光太は、どうやら玄関からではなく次元ホールで部屋に突然現れたことに少し驚いているようだ。更に言えば、華燐と着物少女も一緒ということにも。


「ところで、光太よ」

「なんでしょう?」

「とりあえず、チャックを上げたほうがよいぞ」

「も、申し訳ありません!!」


 どうやら、着替えている途中だったらしくチャックがまだ上がっていなかった。バルトロッサに指摘されて、慌てて上げる光太だったが、その後はものすごい勢いで落ち込みしばらく立ち直れなかったという。

 そんな光太を背に、バルトロッサは着物少女をその場に座らせて話を始めた。


「さあ、貴様が何者なのか話してもらおう」


 本来ならば、放って置いてもよかった。だが、彼女に触れた時の力。何か、自分に近いものを感じ取ったのだ。それが気になってしょうがない。

 もしかすると、光太と同じく転生してきた部下かもしれないと。


「……」

「どうした? 遠慮することはない。何でも話してみよ」

「……わからない」

「わからない? もしかして記憶喪失?」

「どこかずっと暗いところにいたような気がするの。それだけしか、思い出せない」


 暗いところ。それと先ほどの現状を繋げ合わせる華燐とバルトロッサ。もしかすると、自分が話しかける前は存在を消していたのかもしれない。

 そして、誰か自分が見える相手に触れられるか、話しかけられると意識が覚醒し周りにも認識される。

 そのような力を持った部下を何人か知っているが。


「そうか。ならば、無理に答える必要はない。我は、バルトロッサ。ロッサと呼ぶがいい。そして、そこで落ち込んでいるのは我の部下で、光太だ。ここの家主でもある」

「私は、華燐っていうの。よろしくね」

「よろしく」

「しかし、困ったものだ。記憶がないということは、貴様が住んでいる家も知らないということであろう?」

「うん……」


 本来ならば、ここのルールに従うとしたら警察に届けを出すところ。だが、彼女はもしかしたら自分の部下かもしれない。

 そして、バルトロッサは刃太郎に言われたことを思い出す。自分達のような普通じゃない力は絶対怪しまれ、捕まった場合何をされるかわからない。


「それじゃあさ、私の家に来ない? 家、結構広いし部屋も余ってるから。それに、あなたみたいに特殊な力を持った人達もたくさんいるんだよ」

「い、いいの? 迷惑じゃ」

「我が家では、少し狭い。住むのなら広い場所がいいだろう」


 他の人間達に捕まり、何か実験をされるよりはマシだ。それに、華燐は人間にしてはかなり強い部類だ。その華燐の近くならば安心だろうとバルトロッサは思っている。


「あなたを見つけたのは私達だからね。大丈夫、心配しないで。何があっても私達が護るから」

「あっ」


 彼女を安心させるように、華燐はそっと頭を撫でる。

 すると、突如として彼女の目から大粒の涙が溢れ出てきたではないか。


「え? あ、あの」

「頭を撫でられて泣くとは。不思議な奴だ」

「お、おそらく昔の記憶に関係しているのでしょう」

「おお、立ち直ったか光太」


 いきなり泣き出した彼女に動揺している華燐に、立ち直った光太はこうじゃないかと語る。


「ご心配をおかけしました。それで、彼女のことですが。頭を撫でられたことで、失われているはずの記憶が一時的に蘇り、感情が爆発したのかもしれません」

「なるほど。ということは、記憶を失うほどの悲しきことがあった、ということか」

「あ、えっとどうしよう……だ、大丈夫。大丈夫だよ。ほら、よしよし」


 もうどうすればいいかわからず、華燐はずっと彼女に優しい言葉をかけながら抱き寄せ頭を撫でていく。しかし、それは逆効果だった。

 その優しさが、更に彼女の感情を爆発させ涙を流させる。

 それから、彼女はしばらく泣き続けた。

 まるで、我慢してきたものを全て吐き出すかのように。

現在、スピンオフをこーじゃない、そーでもないと書きながら消しながらと頑張っております。

どうにか、明後日までには書き上げたい……!

そんな現状です。

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