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第十一話「無理せず」

 あの怪しい人物がまた現れるんじゃないかと警戒しつつも、俺はリリーに連れられて凪森宅へとやってきた。やはり、予想していた通り。

 かなり大きな住宅だ。

 やっぱり、天宮家を見た後だとなんともあれだが。それでも、周りの家と比べるとどこか高級感が出ているのが一目でわかる。

 白の壁が目立つ家で、横に広く、庭まである二階建て。いや、よく見ると三階? ベランダのようなものだろうか。そんなものが見える。


「ここがリリーの家か。すごいな」

「ここでは結構大きな家ですけど。なんだか天宮家を見た後だと家も小さいものなんだなって」


 リリーもやっぱりそう思うか。

 まあ、あれほどの敷地と家を見れば誰でもそう思うよな。華燐の家も大概大きかったし。有奈はとんでもない子達と友達になったものだよ。

 しかも、その二人が幼馴染っていうな。


「おかえりなさい、リリー。早かったわね」

「お、お母さん! だから、あんまり歩いちゃだめだって言ったでしょ!」


 二人で苦笑していると、玄関から出てくる金髪美人。

 翡翠色のエプロンを身につけており、簡単に容姿を言えばリリーがそのまま大人になった感じだ。さすが、親子だ。

 ここまで似ているとは。

 慌てて駆け寄るリリーを追うように視線を向けると、右足のほうに包帯を巻いているのがわかる。


「大丈夫よ。これぐらい。ただの捻挫なんだから」

「でも、お母さんいつも無茶ばかりしてるから」

「もう、相変わらず心配性ね。あっ。もしかして、あなたが噂の刃太郎くんかしら?」

「そうですけど。噂って?」


 一般的な噂だと、やっぱりテレビでやっていた神隠しだろうけど。リリーのお母さんは、俺のことを手招きしてくる。

 荷物を家に置かなくちゃならないので、俺は迷うことなく近づいていく。

 すると、そのまま両手で俺の顔を包み込んだ。

 ひやっとして、とても気持ちいい手だ。


「初めまして、私はリリーの母リアスよ。……うん。いい顔立ち。それに、なんだか経験値が凄そうね」

「そんなことがわかるんですか?」

「なんとなくよ。でも、ふふ。確かに、リリーが言うだけはあるわね」

「もう! お母さん! 今はいいから、家に入ろうよ。刃太郎さんを休ませてあげないと!」


 焦るリリーを見て微笑みつつ、家の中に入っていく。リリーは、母親のことを謝ってくるが俺は気にしていないと伝え、続いて入っていく。


「お邪魔します」

「どうぞ。我が家へ。荷物はこの先のリビングにあるテーブルに置いて頂けるかしら」

「わかりました」


 入ると、少し進んだところに二階への階段があり、かなり天井が高い。中も、白い壁が目立ち汚れたら掃除が大変そうだ。

 あぁ、でもテレビで見た事があるけど最近の壁は汚れがすぐ落ちるような使用のものがあるんだっけか。


「リビングはこっちですよ、刃太郎さん」


 わざわざスリッパを用意してくれたリリーはそのまま俺のことをリビングまで案内してくれる。いくつかドアがあるが、そのうちの一番手前の左。

 そこのドアがリビングへのものらしい。


「おぉ、すごいな」


 そういえば、外から見えていたけどやっぱり中から見ると爽快だな。軽くキャッチボールでもできるんじゃないかと思うほど広く、最新式のキッチンに薄く大きなテレビ。

 大きな窓からは庭が一望できる。

 もしかすると、ここだけで俺が住んでいる場所ほどあるんじゃないか? いや、それは言い過ぎかな。


「荷物はここに」

「冷蔵庫とかに入れなくてもいいのか?」

「それぐらいは大丈夫です。刃太郎さんには、ここまで付き合ってもらったんですから。今、お飲み物を用意しますので。少しゆっくりしていってください。あ、でも時間的にやっぱり帰らないと、ですかね?」


 舞香さんには遅くなると伝えている。

 時刻は、バイトが終わった後だから、もう十九時を回っていた。もう夏も終わり、秋に入っているので日暮れ時も少しずつ早くなってきている。

 十九時になるとやはり太陽も沈み、外は薄暗い。


「そうだな。ごめん。俺は、もう帰るよ」


 どうやら今日の夕飯は俺の大好きなハンバーグらしい。しかも、チーズが上に乗った。最近ファミレスでは上に乗っけるよりは、中に入れるのが主流となっているからな。

 中に入れるのは悪くはないのだが、やっぱり上に乗っけてそこからとろりとなるのも良いんだよなぁ。


「あら。どうせなら、ここでお夕飯でも食べて行ってくれてもよかったのに。今日の献立はビーフシチューなんですよ」


 さっきからいい匂いがしていると思ったら。キッチンには湯気だっている鍋があり、そこにビーフシチューが入っているのだろう。

 それもありだが……ここはぐっと我慢だ。


「いえ。今日は、リリーの手助けとご挨拶に来ただけですので。お誘いは嬉しいのですが。自宅でもう夕飯が出来ている頃なので」

「お母さん。刃太郎さんは何よりも家族を大事にしているんだから。大切な時間を奪っちゃ駄目だよ」

「それもそうね。それじゃ、また今度。機会があればということで」

「はい。その時は、お世話になります」


 と、その場から去ろうとしたところで、ふととある写真に目がいってしまい足が止まる。

 そこには、いかにも人当たりが良さそうな不精髭を生やした男性とぶっきらぼうな表情を浮かべている帽子を被ったポニーテールの女性が写っていた。


「それ、実は若い頃の私なのよ」

「え!? じゃあ、この隣にいる人って」

「あたしのお父さんです」


 この人がそうなのか。この写真は大分若いな。一般に公開されている顔写真はよりも十五歳ぐらいは若いか? いやもっとかな。

 それにしても、その隣にいる金髪の少女。

 赤い帽子を被り、とても不満そうな表情を浮かべている。服装も半ズボンにパーカー。シャツだって髑髏が描かれている。

 これが昔のリアスさん……一体どんなことがあったら今のリアスさんになるんだ?


「懐かしいわねぇ。あの頃の私は、とてもやんちゃだったわ。親とも反発しあって、よく家出をして、喧嘩をして。こういうのは自慢になっちゃうけど。私ってね結構喧嘩が強くて、蹴り技が得意だったのよ? それでついたあだ名が」

「じ、刃太郎さん。この昔話とても長いので今の内に退散したほうがいいです。じゃないと、終わる頃には軽く二時間はいきますよ」


 そんなに長いのか!? 写真立てを見詰めながらうっとりとした表情で饒舌に語っているリアスさんの様子を窺いながら俺はこっそりと背後から逃げていく。

 後のことはリリーに任せた! と俺は一礼して凪森家を去って行った。






・・・☆・・・






「ねえちゃん! 御夜ねえちゃん!! いるんだろ!!」


 鳳堂家のとある一室。

 そこのドアを鳳堂響は乱暴にどんどん叩いている。しばらくすると、開錠されドアは少し開く。その隙間から覗く黒髪の女性。

 青いジャージを着込んでおり、前髪は長く目が半分ほど隠れてしまうほどだ。


「響ちゃん。な、なに?」

「ちゃんは止めろって。……なあ、御夜ねえちゃん。今日さ、ちゃんと刃太郎さんに会って来たのか?」


 御夜は、その話題が出るとびくっと身を震わせ、ドアを閉めようとする。が、響は、それを足をかけることで阻止する。


「まさか、会って来なかったのか」


 御夜の反応から、響は会っていないのだと予想したが御夜は首を横に振る。


「あ、会っては来たよ。で、でも……その」

「あー、うん。大体わかった。会いに行ったはいいが恥ずかしくなって一言も喋らず逃げ帰ってきた、てところだろ?」

「うぐっ」


 図星を突かれて、御夜は黙りこくってしまった。響は響で予想していたとはいえ、まさか本当にそうだったとはと頭を抱える。


「だ、だって! し、知らない男の人と喋るのなんて……む、無理!」

「いや、大学とか依頼の時は喋っているじゃねぇか」

「だ、大学は仲のいい女の子達としか喋ってないし。レポートとか課題を出す時だって、ただ出すだけだから。それに、依頼は華燐ちゃんが代わりに喋ってくれるから」

「華燐ねえちゃんの甘さも、大概だなたくっ。なあ、御夜ねえちゃん。聞いてくれ。俺もこんなこと言いたくねぇんだが。母さんやばあちゃんは、鳳堂家の未来を案じてんだ。だからさ」

「わ、わかってる。でも、別に私じゃなくても華燐ちゃんでも良いじゃないの? き、聞いたよ。その刃太郎くんって子とかなり仲がいいって」


 それは響も聞いている。

 あの時は、好いていないと言っていたので。改めて、どう思っているのか真剣に聞いてみた。そうすると、華燐は真剣な表情でこう語ったのだ。


「本当に今のところは恋愛感情はないよ。まあ、頼りになって優しい人だなっては思っているけど。それだけ。私は、私が本当に好きになった人とお付き合いして、結婚がしたいなって。そう思っているんだ」

「……」


 嘘を言っている様子はなかった。

 伊達に長年弟をしてきたわけじゃない。一時期は、姉の強大な力に憧れていた時だってあったんだ。今でも、憧れがないわけではない。

 ただ、華燐は自由に生きたいと思っている。愛していない相手と強制的に結婚させる。そんな制度はないので、恋愛だって自由にしたい。


(だから、ばあちゃんのやり方にも反対していた。ばあちゃんも、あの男の登場で舞い上がっているだけなんだろうけど)

「響ちゃん?」

「だから、ちゃんづけは止めろって。……まあ、いいよ。御夜ねえちゃんはそういう性格だってわかってるからな。俺のほうからも、ばあちゃんになんとか言ってみるよ」

「う、うん」


 昔から、臆病で修行もよくサボっていた。そのことから出来のいい華燐と比べていたこともあった。でも、御夜だって同じ姉だ。

 御夜は、姉として自分のことを大事に思っていることは重々わかっている。


「なあ、御夜ねえちゃん」

「なに?」


 ふと、響は去る前にこれだけは伝えておこうと背中を向けたまま告げた。


「結婚とかそういうのは無しにしてさ。一度でもいいから、刃太郎さんに会ってみろよ。俺も、最初はライバル視してたけど。あんな力を目の前で見たら、あこれは敵わねぇって思っちまった」

「……」

「力だけじゃねぇ。あの男には、なんかこう。俺達とは違ったものがあるような気がするんだ」


 神様をまるで友達か、仲のいい兄妹のように接していたり、会ったばかりの鳳堂の者達からの信頼も一瞬にして得てしまった。


「そんなに、すごい人なの?」

「俺はそう思ったね。まあ、どんな人かは御夜ねえちゃんが実際に会って、そんで話してみればわかるんじゃねぇか? ……そんじゃあな。部屋に篭ってゲームもほどほどにしておけよ」


 告げることを告げてさっさと去って行く響。

 響が去った後、御夜は部屋から姿を現し貰った写真をポケットから出す。

 それは、ここに封印されていた悪鬼を倒した記念に撮った時の写真だった。嬉しそうに、涙を流して鳳堂家の者達が写っており、その真ん中にいるのが刃太郎だった。


「威田刃太郎くん、か」


 御夜は、写真をまたポケットに仕舞って、部屋に戻っていく。

絶賛、スピンオフ執筆中!

本編と並行しながら、少しずつ執筆しております。

ちなみに、新作も書こうとは思っているのですが。ジャンルは何にしようか迷い中。

ファンタジーが多いからSFにしようか。

それとも戦闘が多いから完全日常ものにしようか、なんて。

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