第六話「日常を壊す因子」
もう、一番長くて、評価の高かった作品を越えるほどの評価を頂きまして、まことに感激の極みでございます。
ですが、まだ未熟な身であるため、至らぬ点や、誤字脱字などが目立つと思います。その時は、遠慮なくご指摘をば。
鋼の精神で、受け入れ、より良い作品にできるよう投稿していきますので。これからも何卒ご愛読よろしくお願い致します。
「おい。さっきの少年なんだかすげぇ跳んでなかったか?」
「あ、ああ。軽く十メートルは跳んでたぞ。目の錯覚だったか?」
「き、気のせいだろ? 人間が十メートル以上も跳ぶなんてさ。漫画やアニメじゃあるまいし」
商店街での一瞬の騒ぎ。
その現場を目撃した人物達は、騒ぎを起したリーゼントの男よりも人一人抱えているのにも関わらず、軽く十メートルを越える高さまで跳んでいたことについて話題となっている。
「り、リリー。大丈夫?」
「……」
「リリーちゃん?」
呆然と立ち尽くしているリリーに、有奈と華燐はどうしたのだろう? と顔を見合わせる。
「見つけた……」
「え? なにを?」
いったい何を見つけたのだろう?
「見つけちゃった! あたしの王子様!!」
「王子様? ……もしかして、さっき助けてくれた人のこと?」
と、華燐が問いかけるとリリーは目を輝かせ、勢い良く振り返った。
「そう! まるで超人のような身体能力で、颯爽と現れ颯爽と名を告げず去って行く……! こんな体験、現実できるなんて。それに、ちょー! イケメンだった!! もしかすると、二次元から飛び出してきた人なのかも! だってそうじゃなきゃ」
「……」
リリーの熱弁が始まっている中、一人……有奈だけが、先ほどリリーを助けた人物に見覚えがあった。
(さっきのお兄ちゃん? でも、あんなに身体能力高くは……あ、そうか。そういえば、昨日異世界に行っていたって)
そうだとしたら、あの身体能力も頷ける。
でも、どうしてこんなところにいたんだろう。もしかして、ついてきていたのか? 自分を更生させるために。
「はいはい、一目惚れしたのはわかったから。早くしないと映画、始まっちゃうよ?」
「そ、そうだった!! あぁでも、さっきの人を追いたい!」
「り、リリーちゃん。今日の映画ずっと楽しみにしてたじゃん。ね? 早く行こうよ」
「うぅ……ごめんなさい、運命の人! でも、必ず……! また会えますよね?」
「はいはい。会えますから、いくよー」
引きずられるように、連れて行かれるリリーを見詰めた後、、有奈は振り返る。
そういえば、刃太郎はさっきのリーゼントの男を追うように去って行った。
「……」
「有奈ー。置いてっちゃうよー」
「あ、うん! 今行く!!」
・・・★・・・
『そこのバイク! 止まりなさい!!』
「ひゃっはー!! 誰も俺のことは止められないぜぇ!!!」
ビルからビルへと飛び移りながら俺はあのリーゼントを追っていた。
さすがに、通報されたらしく今は警察もリーゼントを追っている。何度も止まるように言っているが、全然聞く耳を持たず。
例え、信号が赤になろうとも止まらず、車が真横からこようとも見事に回避してみせ走り続けている。
まだ大きな事故は起こってはいないが、このままというわけにもいかないだろう。
それに、どんどんあのオーラが大きくなっている。
できるだけ人目に付かないように、リーゼントを捕まえないと。
「ん?」
どうしようかと思っていた刹那。
「うおおおお!?」
リーゼントの目の前に突然黒き渦のようなものが現れ飲み込む。
「なっ!? 消えただと!?」
「それになんだったんださっきのは……! 俺、疲れてるのか?」
リーゼントの後を追っていた警察も思わずスリップする勢いでパトカーを停車させ、外に出てしまっていた。
周りで見ていた人達も、辺りを見渡しているな。
「どういうことなんだ? それにさっきのって……」
先ほどの黒い渦。
俺は見覚えがあった。しかし、そんなはずがないのだ。あれは、次元ホール。所謂次元を移動するためのものである。
あれを操れるのは限られた力のある者だけ。そして、その限られた者の一人を俺は知っている。
だって、そいつは。
「くっくっく! こんな族を捕まえるのに手間取っているとはな。弱くなったか? 勇者よ」
「だれだ!!」
ぞくりとする気配に振り向けば、またあの次元ホールが現れていた。そこからは先ほど消えたリーゼントが気絶した状態で現れ、その後ろには……見知らぬ少女が不敵な笑みを浮かべていた。
白銀の長い髪の毛はツインテールに束ねられ、血のように赤い瞳は強い意志のようなものを感じる。
袖のない白いシャツに、赤いスカート。黒いニーソックスを穿いた小学生……いや、ぎりぎり中学生ぐらいか? とはいえ、こんな少女が次元ホールをなぜ。
それに。
「誰とはご挨拶だな、勇者よ」
「なんで、俺が勇者だって知ってる?」
俺は、少なくともここに来てから自分が勇者だと教えたのは四人。有奈と舞香さん。それに章悟さんと絵里さんだけだ。
……そもそも、この子がこっち側の人間だとは限らない。現に次元ホールを使っているのが証拠だ。
「わからないのか? 一度は殺しあった仲ではないか。あぁ……思い出しただけでも、興奮するぞ。あの興奮を……我はもう一度味わいたい! だからこそ、我はこうして貴様を追ってきたのだ!!」
殺しあった? 俺は少女と殺しあうという特殊な性癖はない。
だが……なぜだろう、この子の気配というか力。俺は感じたことがある。
「残念だが、俺は美少女と殺し合いなんてしたことがない。人違いじゃないか?」
「美少女? ……あぁ、そういえば今はこんな姿だったな。転生した時、考える暇もなかったからな。我もやってしまったと嘆いたものだ。ならば、これで思い出せるのではないか?」
少女は、ふっと小さく笑い手をかざし魔方陣を展開。そこに手を突っ込み……引き抜いた。
小さなナイフを。
「……」
「……どうだ?」
……小さいけど。ナイフだけど理解した。こいつが何者なのかを。感じていた力は、やっぱりそういうことだったのか。
信じたくはなかったけどな。
「……大分力が弱まったんじゃないか? 魔帝バルトロッサ」
それに美少女になってる。
魔帝バルトロッサとは、俺が異世界で倒したラスボス。俺がどうしてすぐにわからなかったのかは、バルトロッサの力が弱まっているのと、なぜか美少女になっているし。
更に言えば、魔帝が追ってくるとは思ってもいなかった。だって、すでに俺がこの手で倒したんだから。
普通に考えて、倒したラスボスが美少女に転生して追ってくると思うか?
「仕方なかろう。貴様に葬られるギリギリのところで転生の術を使ったは良いものの。先ほども言ったが、転生先を考えていなかったんだ。そして、転生してみればこんな貧弱な体になっていた。しかし! 力が使えるのなら、女でも構わない! さあ、殺し合おうではないか、勇者よ!!」
ちなみに、奴が手に持っているナイフは元々長剣ぐらいはあった。
その名を、魔剣ディアブロ。
俺が使う神聖剣アイオラスと同等の力を持った特殊な剣の一本なのだが……今では、力が弱まりすぎてナイフになってしまっているようだ。
どうするかな。神聖剣はあっちに置いてきちゃったし、ここで戦ったら絶対騒ぎになる。
「……」
「む? どうした勇者」
ここはできるだけ穏便に事を済ませたいものだ。
「わかった。やろう」
「それでいい! さあ、貴様も武器を」
「待て」
「な、なんだ!? ……まさか、怖気づいたか!?」
「そうじゃない。戦うとは言ったが、何も剣と剣を交えるだけが戦いじゃない」
「我がやるのは殺し合いだ。剣と剣の! 力と力のぶつかり合い以外必要ない! さあ、貴様も滾らせよ! 我はもう興奮して抑えきれない……!!」
少女の姿で興奮すると言われてもなぁ。ここで俺も興奮するだとか、やりあおう! とか言えば絶対違う方向の意味に取られる。
正直に言えば、今のバルトロッサは以前よりも力が弱まっているため簡単に倒せる。
このまま奴が俺に何度挑もうとも負ける気がしない。
「魔帝バルトロッサ! お前は一度俺に負けている! お前、言ったよな? 勝者が絶対だ。敗者が何を言おうと勝者の言葉を覆すことは出来ないってな」
「うっ……た、確かに言ったが」
「いいか。今から俺は戦う。だが、戦いの方法とルールはこっちで決める。異論は……ないよな?」
更に、膨大な魔力にて弱まっているバルトロッサを威嚇。本来の奴にはあまり効果がないだろうが、今の奴なら確実に効く。
その証拠に、冷や汗を掻いている。
「……くっ! 力さえ弱まっていなければ、萎縮などせぬのに……! い、良いだろう! 今は貴様に従ってやる! だが! その戦いで我が勝利し、今度は我が、貴様を従わせてやる!!」
「はいはい。それじゃ、大人しく俺についてきてくれ。お嬢ちゃん」
「馬鹿にしているのか貴様ぁ!?」
ふう……なんとか穏便に済ませそうだな。
たく。変な奴に気に入られてしまった……あ、まさかとは思うけど。
「おい、さっきこの男から発せられていたオーラ。お前の仕業じゃないだろうな?」
「知らん。言っておくが、嘘はついていないぞ」
違うのか。
じゃあ、いったいあのオーラは何なんだったんだろうな。いつの間にか、何も感じられなくなっているし。
とりあえず、このリーゼントはビルの下まで運んでおくか。後のことは警察がなんとかするだろう。
というか、こいつの登場で今後が心配になってきたぞ……。
人によって、TSというのは意見がわかれると思いますが。自分はありだと思っています。