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第十話「こちらを見る者」

「うーむ」


 その日、俺はアルバイト先の山下書店で考え事をしていた。

 天宮家の獣耳っ娘達の効果で、山下書店へ訪れる客は増えたと言っていい。とはいえ、有名な大型書店に比べたらここは商店街の一角にある小さな書店なので、溢れんばかりの客が来るわけじゃない。


 あの時は、俺がコトミちゃんの教育係をやっている間の臨時のアルバイトだったので、現在は時々しか彼女達は来てくれないのだ。

 なので、こうして俺が一人で店番をしている時の方が多い。

 章悟さんや絵里さんも、家のことなどがあるのでこれまた時々店を離れる時がある。例えば、食材などの買い物。そして、今年六歳になる娘のお世話とか。

 俺がここで最初働いていた時は、二歳だったか? 普段は知り合いに頼むか、店に連れてくるかとかしていたけど。

 もう六歳。いや、まだ六歳? でも、二人の話では六歳にしてはかなりしっかりした娘だと涙ながらに語っていたっけな。

 二人の子供である山下千尋ちゃんは、写真では見た事があるが実際には会っていない。俺が教育係をしている時も店に来ていたらしく、獣耳っ娘達と一緒でかなりの人気を博していたようだ。


「どうしたんだ? 刃太郎くん。悩み事があるなら、俺が聞こうか?」

「あー、そうですねぇ……大丈夫ですはい」

「そうか。だが、もしもの時は俺を頼れ! この山下書店は君のおかげで繁盛していると言ってもいいからな!」


 いや、俺のおかげっていうか。天宮家のおかげだと思うんだけど。

 あ、ちなみに俺が考えているのは山下書店のことじゃない。そもそも、今の山下書店は俺がどうにかしなくちゃ! とか思わなくても安泰だろうと。

 俺が考えているのは、悪鬼のことについてだ。

 あの襲撃以来、あっちから仕掛けてくるということはなくなった。念入りに作戦を練っているのか。それとも、こっちを観察しているのか

 あの悪鬼の激怒ぶりから考えると、また間を空けずに襲ってくるかと思っていたんだが。


「ははは、そんなことないですよ」

「謙遜するなって! 俺達としても、獣耳っ娘達を見れて眼福だからな!! はっはっはっは!! なぁ、絵里!!」

「そうね。まさか、あんな可愛い子達がここでアルバイトをしてくれるなんて思いもしなかったもの。あ、しっかりアルバイト代は支払っているわよ? タダ働きじゃないから」


 それは重々承知ですよ。

 俺が教育係をしている間は、アルバイト代はいらないと言っていたらしく。今は、週一か週二ぐらいのシフトで手伝いに来てくれている。

 まあでも、あっちにもあっちの都合があるからあっちで何かがあった場合はあっちのほうが最優先となっている。


「っと、電話か」


 現在の時刻は十七時を回ったところだ。この時間帯になると、やっぱり学校から下校している学生などが多くなってくる。

 そんな中で、俺は一本の電話に出る。

 って、あれ? これって。


「はい。山下書店です」

《あ、刃太郎? ねえ、もうちょっとでアルバイト終わるわよね? 悪いんだけど、今から言うものを買ってきて欲しいんだけど。まずはね》


 ふっ、このジャージ神は。

 俺をパシリに使うつもりだな。電話の向こうで、買って来て欲しいものを次々に言ってくるリフィルに俺は心の中でため息を漏らす。

 漫画や小説の注文ならともかく、食べ物や飲み物類を頼んでくるとは。


《ねえ? 聞いてる?》

「申し訳ありません。そのような商品はこちらでは取り扱っておりません。取り扱っている店舗をもう一度ご確認のうえそちらにお電話をしてください」

《え? ちょっと! 刃た》


 これは、俺のスマホにもあいつから電話がかかってきているに違いない。


「どうしたんだ? 間違い電話か?」

「そうみたいです。なんだか、食べ物やら飲み物やらを注文してきたので」


 問いかける章悟さんににっこりと笑顔で答えた。


「そんな間違い電話一回も来た事がないのに。どんな人だったのかしら……」

「おそらく、ジャージを着て一日中家に篭っているような人なんじゃないでしょうか?」

「随分と的を射たような例だな」

「いやいや。ただの予想ですよ。あ、いらっしゃいませ」


 さて、仕事仕事っと。

 仕事の邪魔をする電話の後に、俺は真面目に接客をしていた。そんな時だ。脳内に、響き渡る二つの声。


《うぎゃああ!? や、やめ!!》

《ふふふ。あれほど、刃くんのお仕事の邪魔をしちゃだめだと言ったのに。あなたという子は何をしているのですか?》

《そ、そんなの大きい! 大き過ぎるから!?》

《だめなのです。悪い子にはお仕置きなのです》

《ひいぃッ!?》


 ……ニィが念話を繋げたんだろう。

 本当、リフィルも懲りないよな。あれほどニィに痛めつけられているのに。あそこまでいくと尊敬してしまうよ、あいつのこと。






・・・★・・・






「すみません。手伝ってもらって」

「いや、別にいいって。一人じゃ重いだろ? それで、次は何を買うんだ?」

「えっと、次はトイレットペーパーと」


 とある夕方の日。

 いつもようにアルバイト終わりに商店街を歩いていると、リリーが一人で買い物袋を持ちメモを見詰めながら歩いているの発見。

 どうやら、現在リリーの母親が足を怪我してしまい、まともに動けない状態にあるらしい。なので、リリーが代わりに買い物をすることにしたらしい。


 一人で十分。

 などと余裕に思っていたようだが、ちょっと多すぎるかな? と不安になっていたところに俺がやってきた、というわけだ。

 当然ながら、俺はリリーのことを助けることに。

 メモを見る限り、かなりの量に見えるが。


「なあ、これ全部リリーのお母さんは一人で?」

「そうなんですよ。お母さん、すごく細身に見えるんですが力持ちなので。本当は、怪我をしていてもいける! って言っていて」

「リリーが無理やりにでも、休ませたってことか。優しいな」

「い、いえ。そんなことないですよ。あ! トイレットペーパーありました」


 少し照れた様子で、トイレットペーパーを見つけ手に取る。メモに書かれているものを全部購入すると、両手は当然のように塞がってしまう。

 この重量。

 やっぱり、リリーのような細身の女の子にはきついものがあるだろう。これを、その母親は一人で……リリーは普通のお母さんだっていつか話してくれたけど。

 どんな人なんだろう? あの有名漫画家の奥さんだからなぁ。


「お付き合い頂いてありがとうございました」

「まだだぞ。これをリリーの家に運ばないとな」

「あ、そうでしたね。……えへへ。なんだかんだで、初めてですね。あたしの家に刃太郎さんが来るのって」

「そういえばそうだったな。この際だから、ちゃんとご両親に挨拶しないとだな」

「あ、挨拶……!」

「どうしたリリー」

「い、いえ! なんでも、ありません! では、こちらです!」

「お、おう?」


 なんだか嬉しそうな顔をしているな。まあ、当たり前のことだ。妹が世話になっているからな。今後とも仲良くしてもらうためにも、兄としてはちゃんと挨拶しておかなくては。


「ん?」


 リリーに連れられ移動を開始した時だった。

 ずっと先にある電柱の陰からこちらの様子を窺っている怪しい人間を発見。毛糸のニット帽に、マフラー、更に厚着のコート。

 そこへサングラスとマスクと完全防備でこちらを見ている。


「な、何なんでしょう? あの人」


 これにはリリーも怖くなって、俺の後ろに隠れ服の裾を掴む。


「あっ」


 どうしようかと思っていたところ、さすがに気づかれたサングラスは慌てて周りを三度ほど見渡し、逃げていく。なんだったのだろうかあの人は。

 おそらく女性だろう。

 仕草を見ての予想だけど。完全防備で、下も体の線がわからないほどのぶかぶかとしたズボンだったので絶対女性とは言い切れない。


「行っちゃい、ましたね」

「あ、ああ」


 俺のことを見ていたようだが、まさか悪鬼の刺客? いや、どう見ても人間だったし。それに、俺のことを監視するなら、普通背後からのほうがいいような。

 ……また、嫌な予感がしてきた。

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