第七話「一騒動終えて」
「ほう。そのようなの事があったのか」
「あぁ。これで華燐も大分体調がよくなるはずだろ。……つか、なんで俺はお前とファミレスに来てるんだ?」
鳳堂家の一件から数日。
アルバイトが休みの日に俺は街をうろうろしていた。そんな時、偶然にもロッサと遭遇したのだ。
「偶然出会った。丁度昼だった。ファミレスが見えた。の流れのはずだったが?」
「ずっと思っていたけど。お前、本当に魔帝だよな?」
「何を言っている。当たり前であろう」
何が当たり前なのか。
今のお前を見ても誰も魔帝なんて思わないだろうさ。最近は、毎日ではなくなったが勝負を仕掛けてくるのは忘れず。
毎回負けているのに、こいつは諦めない。
ニィ、リフィルはこっちで何も悪さをしていないのなら大丈夫だ。もしもの時は、俺に任せるなんて無責任なことを言って帰っていった。
俺も悪さをしないのであればこのまま放置していてもいいけど。
「最近はどうだ? 光太との仲は」
「変わりはない。奴は我の忠実な部下として、毎日尽くしてくれている」
「さようで。……あーあ。なんかもうさ」
「ん?」
ソファーに背を預け、俺は天井を見上げる。
「俺は、イベントからは逃れられないのかな」
「そうだろうな。貴様は、巻き込まれやすい体質なのだろう。我は学んだ。そういう体質を主人公体質というのだろう?」
「漫画やアニメの主人公ってこんな大変な体質で毎日を過ごしているのか……実際体験して身に染みたよ」
異世界に召喚された時点でもう身には十分染みているんだけど。まさか、平和に暮らせると思っていた地球でもこんなことになるとは思いもしなかった。
もはや、どんとこい! と思って過ごすべきか。
「店員。チョコバナナパフェをおかわりだ」
「チョコバナナパフェですね。畏まりました」
近くを通りかかったウェイトレスさんにパフェのおかわりを頼みタブレットを取り出すロッサ。
「買ってもらったのか?」
「うむ。連絡手段はあったほうがいいからな。念話をしようにも今の光太は普通の人間だ。こちらから一方的にしか伝えることしかできん。それに、暇つぶしには丁度いい」
「アプリでもやってるのか?」
俺はロッサの隣に移動して、タブレットの画面を覗き込む。何をやっているのかと思いきや、大人気アプリゲームのひとつだった。
俺もやろうと思っていたのだが、このゲーム確かに大人気だ。
でもな。
「お前。よくこのゲームをインストールしたな。これ完璧に課金ゲーだぞ」
ネットでは、ストーリーがしっかりしていてアニメ化希望! などという意見もあるが。ガチャシステムがやばい。
キャラクターの他にも装備品が混ざられているもので。排出率もそれほど高くない。投稿動画では、数え切れないほどの爆死動画を観たな。
「そうなのか? まあ、最近は人気のあるアプリゲームを片っ端からインストールして遊んでいる。続けていくか止めるかは、プレイしてから決める」
「お、てことはまだ課金はしていないのか?」
「当たり前だ。まだ続けていこうと思っていないものに金をかけるほど我は愚かではない」
その通りだ。
課金をするなら、ずっと続けていこうと思ったやつにだよな。でも、そう思ったゲームでもある日絶望して止めてしまうこともあるらしいからな。
課金は、慎重に。
課金は、自己責任だ。もし、何万と課金して目当てのものが当たらなくとも運営に文句を言ってはいけない。
ガチャは、確定と書いていない限り確立で当たるものだからな。俺も、スマホになってからアプリゲームをいくつか始めているが、当たらない時は当たらないんだ。
当たる時はぽっと出てくれる。
ガチャってものはそんなものだと俺は割り切っている。……割り切っていても、心苦しい時はあるんだけどな、へへ。
「お? なんだ、お前もこのゲームをやってるのか」
ホーム画面に戻ったロッサのタブレットを見ると俺が今はまっているゲームを発見。
「これのことか? このゲームは、我は今一番気に入っている。無課金でもやっていけそうだとな」
「だよなぁ」
「……ふむ。どうだ? 今日はこのゲームで勝負をしないか?」
「別にいいぜ。ちなみに、お前それを始めたのいつだ?」
「一週間ほど前だ」
その後、俺はロッサとアプリゲームで勝負をした。対戦は実際できないのだが、とあるクエストを同時にやってどちらが早くクリアできるかというタイムアタックをしたのだ。
単純なアクションゲームなのだが、爽快で面白く、キャラクターがまた良い。ガチャも結構な確立で出るし、低レアのキャラクターでも育て次第ではかなり使える。
「……なあ」
「なんだ? 今は対戦中だぞ」
「俺達ってさ。敵同士、だよな」
「そうだが? 何を今更」
どう考えても今の俺達って、ファミレスで時間を潰している友達、だよなぁ。
「はい、俺の勝利」
「なに!?」
「一週間で、よく進めたと思うが。俺のほうが上手のようだな。ところで、フレンド登録しておくか?」
「何度も言わせるな。我と貴様は敵同士。ゲームであろうとフレンドなどありえぬことだ」
さようですか。ま、俺も別にそれでいいんだけど。
・・・☆・・・
悪鬼が消滅し、鳳堂家はどこか活気に満ちていた。
それもそのはずだ。
三百年。封印をずっと保ち続けていたものの封印の間の前を通る度に、不安が過ぎっていた。それが今はもうない。
「これも、あの小僧のおかげ。華燐よ。よくぞあの小僧を見つけ出してくれた」
「私は、なにもしてないよ。それに、私が刃太郎さんと出会わなくても、悪鬼が表世界に出たら倒してくれていたと思う」
「うむ。あの小僧は、神々に愛されておる。そして、計り知れない力。まだ、ほんの一部しか力を出しておらぬだろう。……ところで華燐よ」
「なに?」
重大な会議の時に使われる大広間。
ここは以前、リフィルにより占領されていた。しかし、今ではいつものように鳳堂の者達が集まりこれからのことについて話し合っている。
「お前は、あの小僧のことを好いてはおらぬのか?」
「もしかして、刃太郎さんを婿養子として鳳堂に迎え入れるつもり?」
「そうだ! あの小僧との間ならば、お前以上の才能を持った子が生まれるに違いない! そうであろう、お前達!」
ぐっと拳を握り締め、集まっている鳳堂の者達に問いかける。そこには、華燐達の母はもちろんのこと、響も参席していた。
鳳堂静音。三人の子供を持ち、家事全般をこなしつつ、ここにはいない遠征中の夫に代わり門下生達を鍛えている。
巫女服を身に纏っており、豊満な胸は服越しからでもはっきりとわかるほど大きい。
墨色のロングヘアーに、右目には五芒星が刻まれている。
「そうですね、お母様。私も、この目で確認致しましたが。彼は、隆造さんよりもずっとお強いと思います」
鳳堂隆造。
現鳳堂家の当主であり、華燐達の父親。現在は、遠征へと行っており、後一週間は帰ってこない。
「俺もそう思ってる。親父に悪いが、あいつの強さは半端じゃねぇよ」
「そうですな。彼は、本当に人間なのか? と疑問に思ってしまうほどの力でしたからな」
「あの力はもはや神! 我々の考えられぬ領域に到達している!」
「あの歳で、あれほどの力があるとは。華燐様の時以上の衝撃でした……」
ここに集まった者達は、口を揃えて刃太郎の計り知れない壮絶な力に敬意を評しつつも、若干の恐怖を感じていた。
もし、あの男が敵対したらと。
華燐は、そんなことはないと思ってはいるのだがやはり恐怖はある。今まで、自分の大き過ぎる力に恐怖していたのが馬鹿らしくなるほどの力だった。
何度も、その目で見てきたがあの悪鬼を一撃で倒すところを見たら、改めて凄過ぎると。
「でも、お婆ちゃん。私ははっきり言って刃太郎さんのことは、優しいお兄さんとしか今は見ていないよ。それに、友達のことを応援しているから。恋愛とかは」
「なにも、お前とは言っておらぬ。確かに歳で考えるならばお前が一番近いのだろうが」
「ばあちゃん。もしかして、御夜ねえちゃんをって言うんじゃないよな?」
と、響が言うと鳳堂の者達はざわめく。
「御夜様か……」
「確かに、あのお方は恋愛に飢えておられるが」
「だが、これまで何度も挑戦したが性格の問題で自分からお逃げになられている。我々も、御夜様を応援はしたいのですが」
頭を悩ませる問題だ。
華燐や響の姉である鳳堂御夜。もう二十歳に突入しており、大学に通いながら、霊能力者として依頼をこなす毎日を送っている。
恋愛にすごく興味があるのだが、その性格から前進できずいつも逃げてしまう。
鳳堂の者達は、健気に何度も恋愛に挑戦しようとしている彼女を応援してはいるのだが、どうもうまくいった試しがなく不安なのだ。
「静音。御夜は今なにをしておる?」
「今は、長年の習慣である恋愛ゲームをしています。どうやら昨日発売したばかりの新作ですね」
「何度も、失敗しておられるのに。恋愛ゲームだけは続けておられる姿勢には感服致しますが」
「やはり、リアルで恋愛をして欲しいものですね……」
どうしたものか、と真剣に悩む。
そんな中、きよは用意されている緑茶を啜り、静かに口を開ける。
「焦る必要はない。聞くところによると、あの小僧にはまだ好いておる女子がいないようだ。このことをまず御夜に伝え、念入りに作戦を練るのだ」
「御夜ねえちゃん。聞いてくれると思うか?」
「ど、どうだろう? 今のお姉ちゃんは、新作のゲームで忙しいと思うから……うーん」
「大丈夫よ、二人とも。あの子は、とても強い子だから。あなた達も知っているでしょ? さっ! 私はあの子のためにお夜食でも作ろうかしらね」
会議は、程なくして終わる。
華燐と響は、本当に大丈夫なのだろうか? と心配になっていた。
課金は計画的に!




