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第一話「異世界からの」

「へぇ、あんた別世界に行っていたのか」


 オレンジジュースをストローで飲みながら、華燐の弟である響は呟く。隠そうにも、隠し切れない。どうせ隠してもしつこく聞いてきそうな予感がした。


「あんまり驚かないんだな」

「まあな。俺も別世界には行っているからな。あ、もちろんねえちゃんもだけど」

「え? そうなのか?」


 ちなみに、俺達の周りには人はいない。端っこの席を選びなるべく他の人達には聞かれないようにしているのだ。


「こら、響。そのことは喋らないの」

「でもよぉ。こいつだったら、別にいいんじゃねぇか? 普通の人間じゃねぇんだし。それに、ねえちゃんはあんまり鳳堂の機密とかには興味ねぇだろ?」

「そ、それは」


 じっと俺のことを見てから華燐は、はあっとため息を漏らし、周りの見渡してから札を取り出す。それに力を込めて額に当てた。


「何をしているんだ?」

「たぶんばあちゃんに連絡してるんじゃねぇか? ばあちゃん、電話には滅多に出ねぇからな。こうして、古典的な連絡手段をするんだ」


 しばらくすると、札が妙な動きをして形が変わっていく。人型になったそれはテーブルの中心へと立つ。


「ほうほう。おまえさんが華燐が言っていた男かい」


 喋ったのだ。聞こえてくるのは老婆の声。

 華燐と響のおばあさんなのだろう。


「初めまして。威田刃太郎です」

「威田? ……どこかで聞いた事があるような無いような。まあ思い出せないからたいしたことではないか。それで? 華燐から聞いたが。おまえさん、あたし達のことを知りたいのかい?」

「あ、いやそこまでじゃ」


 なんだか嫌な予感がするので、興味が無いようなことを言おうとしたのだが。


「よかろう! 華燐、響。そやつを家に連れてこい!!」


 それだけを言うと人型はそのまま元の札へと戻ってしまう。

 華燐は、札を拾って俺をまた見詰めた。

 無念。老婆は俺の話など聞かずに通信を切ってしまった。


「あ、あの。どうしますか?」

「どうするもこうするも……どうしよう?」

「来ればいいじゃねぇか。知りてぇんだろ? 別世界のことを」


 気になりはするが、そこまで知りたいというわけではないのだが。

 オレンジジュースを飲み干し、響はレシートを手に取って立ち上がる。


「俺は、先に帰るぜねえちゃん。もし、来る気があるならねえちゃんと一緒に来るんだな」


 そう言って響はレジで俺達の分まで支払い店から出て行く。残された俺と華燐はしばらくの沈黙の後、俺から切り出した。


「華燐」

「は、はい」

「帰ろう」

「それがいいですね。あの様子のおばあちゃんはなにをするかわかりませんから。おばあちゃんには私のほうから言っておきますから」

「頼む」


 そんなこんなで喫茶店から出て、別れた俺達。

 あのまま華燐の家に行っていたら、何か変なことに巻き込まれていたかもしれない。まだコトミちゃんの一件からまだ日が浅い。

 俺はこの平凡を過ごしたいんだ。





・・・☆・・・





「なにぃ! あの小僧は来ぬのか!?」

「そうだよ、おばあちゃん。だって、来たらおばあちゃん変なことするでしょ?」


 刃太郎と別れた後、華燐は真っ直ぐ自宅へと帰った。そこで待ち受けていたのは、華燐の祖母である鳳堂きよ。

 今年で七十八歳になるが、いまだぴょんぴょん飛び跳ねるほどの元気な老婆だ。

 玄関付近で門下生達と共に、今か今かと待ち伏せをしていたので華燐がお説教。

 予想通り何かをするつもりだったらしい。


「だが、響が言うにはとてつもなく強い力を持った小僧なのだろう?」

「そうだけど……それでも鳳堂家のことに刃太郎さんは巻き込めないよ」

「けどよ、ねえちゃん。今の状況、一人でも強力な奴が助っ人に入ったほうがいいんじゃねぇか?」


 先に帰っていた響がガクランのまま出てくる。

 そう、現在鳳堂家は厄介な依頼を受けてる。いや、鳳堂だけじゃない。日本中に存在している霊能力者から陰陽師まで。

 同じ依頼がきているのだ。


「正直、今のところはちょっとやばいってだけだけど。このまま放置していれば」

「……わかってる。だから、私も今は真面目に鳳堂の者として戦ってる」


 重たい空気の中、きよは静かに歩き出し空を見上げる。


「まったく、これは鳳堂家始まって以来の一大事。どうしたものか」

「今は原因がわからねぇんじゃ。今は、凌ぐしかねぇだろ」

「そうだねぇ……」


 現在、日本にはとんでもないことが起こっている。これには、あの華燐ですら頭を悩ませるほどのものだ。


「きよ様!!」

「ぬう!? きよったか!! 孫達よ、行くぞ!」

「おうよ!」

「うん!」

「お急ぎください! このままでは!!」


 門下生の一人に急かされるように、華燐達は走り出した。





・・・★・・・





「最近、華燐すごく忙しそうなんだ」

「そうなのか?」


 自宅へと帰ってから、着替えて俺は夕飯を食べている。その中で、有奈はぼそっと華燐のことについて喋りだした。

 今晩のおかずである、エビフライを皿に置いて静かに語る。


「うん。なんだか、私達と遊ぶのも最近は結構断っているし。遊んだとしても、ずっと何か悩んでいるっていうか」

「やっぱりお家のほうで何かあったんじゃないかしら? 華燐ちゃんの家は、霊能力者の家系だから。すごく強力な悪霊が大量に暴れているとか」


 そういえば、今回喫茶店で響が別世界がどうとかって言っていたな。もしかして、その別世界に行って戦っているのか?

 だとしたら、やっぱり華燐の家に行った方がよかっただろうか。


「ねえ、お兄ちゃん。もしそうだとしたら」

「……ああ。助けるさ。お前の、いや俺達の大事な友達だからな」

「うん、ありがとう」


 だが、また別世界か。でももし華燐達が別世界に行っているのだとしたら、どうして帰って来れている? まさか、俺が思っている別世界とは何かが違うのか?


「やっと見つけたですよ」


 魔力反応? それにこの声って……まさか! 魔力反応と聞き覚えのある声に俺は振り返る。そこには、黒き渦が出来上がっていた。

 そこからゆっくりと近づいてくる人物。

 有奈と舞香さんは、得体の知れないものが出てくると思い俺の後ろに隠れている。


「なんでお前がこっちの世界に来てるんだ?」

「なぜって。わたしという存在を知らない君ではないはずですよね?」


 出てきたのは、クリーム色の長い髪の毛に頭の天辺にはアホ毛。小柄な身長で、白いシャツに赤いネクタイ、ミニスカートに縞々のニーソ、白衣を着用している。

 そして、もっとも注目すべきものは、アホ毛の上にある光輪に爪に描かれているよくわからない紋章のようなもの。


「そりゃあそうだけど……待て。俺の記憶だとお前はもうちょっと幼かったはずだが?」

「まあまあ。その辺に関しては、後で説明するのですよ。それよりもー自己紹介なのです」


 ちらっと俺の背後に居る有奈と舞香さんへと視線を送りにっこり笑う。


「初めまして。ニィと言うのです。刃くんとの関係はすっごく親密な関係なのですよー」

「誤解を招くような事を言うな」

「あいたっ!? もー、相変わらず容赦ないのですねー刃くんは」


 若干ゆるふわな感じのこいつ。

 有奈達もなんとなく察していると思うが、俺が召喚された世界で知り合った仲間の一人なのだ。

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