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第二十六話「友達」

「どうやら、外の人達のおかげで若干の猶予はできたようだね。……初めまして、いいや久しぶりなのかな? コトミ」

「あっ! 夢で見た私と同じ顔の子!」

「覚えていてくれたんだね」


 俺は、ススキの陰から二人の様子を窺っている。

 こうして、直接二人が出会うのは二度目か? 最初は、ただの夢だったと思っていたようだけど。今回に限っては違う。

 完全に声を聞いて、動き、現実で出会っているような感じだ。


「ねえねえ。なんで私と同じなの? 私は一人っ子なんだけど?」

「あはは。まあ、双子、みたいなものかもしれないね。簡単に説明すると、僕は君の力の根源。その人格って感じかな」

「力の根源の人格?」


 コトミちゃんは、まだぴんっと来ていないようだ。コトミちゃんは、自分に強大な力があることは自覚している。だが、それ自身に人格があると言われてもすぐにぴんっとは来ないだろう。

 そりゃ、自分の中に人格を持った力がいるなんて言われてもな……。


「よくわからないけど。あなたは、私の双子の妹ってことなんだね!」

「僕が姉もしれないよ?」

「違うもん! 私が姉だもん!」

「そうかなぁ?」

「そうだよ!」


 まるで本当の姉妹のように、言い争っている様子は見ているこっちからしたらくすっと笑いが出てしまう。


「……まあでも、僕は君とは違う。君の中に居る存在だけど、今は君のことを壊そうとしている」

「壊す? なにを?」


 くすくすと笑っていた彼女だったが、満月を見上げて様子が変化する。俺も釣られて満月を見上げると、亀裂が入っているではないか。

 よく周りを見ると、ススキが徐々に灰となり消え去っていっている。


「君自身を、だよ。僕はね、君という存在を破壊して、君の体で世界を壊そうとしているんだ」

「えー! そんなのだめだよ! そんなことしたら、皆居なくなっちゃうよ!!」

「だけど、僕には止められないんだ。破壊の衝動は、一度表に出たら簡単には止められない。僕の力が、破壊の衝動よりも劣っているからなのかな。人格を持ったと言っても小さなものなんだよ」


 満月は、割れていく。

 崩れていく。

 この世界が、彼女の住んでいた世界が消えていく。それは、コトミちゃんも気づいていた。


「じゃあこのままじゃ、私もあなたも消えちゃうの?」

「そう、だね。残るのはただ破壊だけを求める力そのもの。僕達は、もう用済みってわけなんだ」

「いいや、用済みなんかじゃない」

「刃太郎お兄ちゃん!」


 自分を蔑む彼女を見て俺は姿を現す。

 これだけは言っておかないといけないからな。


「どうしてそんなに早く諦めるんだ? お前は、言っていたな。力を抑え付けられるまで成長させろ。この美しい世界を守りたいだろって」

「うん、言った」

「お前は満足しているのか? まだまだ世界を見ていたいと思わないのか?」

「……思ってるよ」

「それじゃ、簡単に諦めないことだな」

「でも! もう止まらないんだ! 破壊の衝動はもう独立している! 今の人格としての僕の力じゃどうにもできないんだ!!」


 初めてだ。

 初めて、彼女は叫んだ。止め処ない感情を露にしている。そこにいるのは、力の根源の人格なんて存在じゃない。

 一人の女の子。助けを求める小さく、寂しがりやな女の子だ。


「だったら」

「それじゃ私と友達になろうよ!!」

「え?」


 俺が二人で協力してやればいいと言おうとしたところ、コトミちゃんが先に言い出す。協力というよりも、ずっとコトミちゃんらしく、彼女にも効果的な言葉で。

 まるで、鳩が豆鉄砲を食らったかのように驚いた表情で固まっている。


「ね? 友達!」

「な、なんで友達に?」

「私、友達のことは絶対護る! 絶対助けるって決めてるんだ!! 友達は大事。友達のことを思えば、それだけで力が湧いて出てくる。悲しんでいる友達を……助けたいって」


 涙を流している彼女をコトミちゃんは抱きしめる。それは、とても温かな言葉だった。純粋な気持ちをぶつけたからこそ、抱きしめられた彼女はまだ大粒の涙を流す。


「今まで、ずっと一人で居たんだよね? ここに。でも、大丈夫だよ。今日からは私が友達になって、あなたと一緒にいるから! あっ、でも元々私の中にいるから一緒だったのかな?」


 あははっと笑うコトミちゃんを見て、彼女は涙を流しながら笑う。この崩れ去っていく世界の中で、瓜二つの女の子達が。


「やっぱり、君はすごいな。まさか、友達になりたいだなんて。予想外の言葉だったよ」

「すごくないよ。当然のことを言っただけだから。それじゃ、自己紹介と友達の証としての握手! 私、天宮コトミ! あなたは?」

「僕は、えっと……」


 名前を答えようとしたが、彼女には名前がない。だから答えられない。言葉に詰まっている彼女を見て俺は助け舟を出す。


「コヨミ」

「コヨミ?」

「そうだ。彼女はコヨミだ。な?」


 小さく笑う俺を見て、彼女改めコヨミは嬉しそうな表情で笑いコトミちゃんと再び向き合う。


「うん。僕はコヨミ。コヨミだよ! コトミ!!」

「名前まで似てるなんてすごいね! これから、ううん。これからもよろしくね、コヨミちゃん!!」

「うん、よろしくね。コトミ。そして、刃太郎」


 右手でコトミちゃんの手を握り、空いている左手を俺に差し出してくるコヨミ。


「ああ。これから、仲良くやっていこう。友達として」


 俺は、拒否をすることもなく素直に手を握り締めた。

 刹那。

 眩い光が、俺達から溢れ出た。それは優しく、温かく、まるで聖母にでも包まれているかのような感覚だった。

 そして、いつの間にか俺は現実に戻ってきていた。

 手の中には、俺のことを見詰めているコトミちゃんの姿があった。


「刃太郎お兄ちゃん。やったね」

「そうだな。俺達の力で」

「お兄ちゃん! コトミちゃん!」

「うおっと。おいおい、押しつぶされるところだったぞ」


 目が覚めてすぐに有奈の抱擁。

 危ないと言いつつも、実に余裕で受け止めた。周りを見ると、いつの間にか駿さんもロッサも光太も戻ってきている。

 卓哉さんとイズミさんも来ていた。


「どうやらやり遂げたみたいだね、刃太郎くん」

「はい。もう暴走する心配はないと思います」

「お母さん! 私ね! すっごい! 友達が出来たんだ!!」

「それはよかった。コトミ、その友達を大事にするんだぞ?」

「うん!!」


 どんな友達なのかを聞かず、イズミさんは優しく微笑む。感覚的にその友達がどんな存在なのか察したのか。この場では、深く追求しないと判断したのか。

 イズミさんと視線が合うと、うんっと頷く。

 本当にすごい人だ。


「さあって。そろそろ行こう。皆が花火を待っているだろうからな」

「大丈夫ですよ。まだ、三分ほど猶予がありますから」

「よーし! カップ麺を作って待ってましょう!!」

「またそれですか? サシャーナさん」


 サシャーナさんの一言に俺達は笑う。

 それからというもの、俺達は急ぎ花火が良く見える場所へと移動して今か今かと待っている。短いようで長い夏祭りもいよいよクライマックスだ。

 夜空に咲く、満開の花を見て思い出の一ページとしよう。


「そろそろですよ、バルトロッサ様」

「ふむ、花火とやら。この目にしかと焼き付けてやろう。光太よ、ビデオ撮影も怠るなよ?」

「わかっております! ビデオ、写真、頭にちゃんと記録しておきます!」


 さっきまで怪我をしていたというのに、元気なものだなあいつ。

 まあ、あいつにとっては花火は初めてだからな。


「どかーん! と一発やっちゃってー!」

「一発だけじゃないけどね」

「あんまりはしゃぐと周りの人達にぶつかっちゃうよ、リリー」

「まったく子供なんだから」

「優夏ちゃん。私たちのほうが子供なんだけど」

「わかってるわよ。言葉のあやってやつよ」


 あっちはあっちで楽しそうだ。はしゃぐリリーに、微笑ましそうに見る有奈と華燐。大人ぶっているけど実は、リリーと同じくはしゃぎたそうにしている優夏ちゃん。

 それをわかっているかのように寄り添うそらちゃん。

 そして。


「キター!」

「やはり、花火はいつ見ても美しいものですね」


 夜空に満開の花々が咲く。

 豪快爆発し、色鮮やかな花びらで人々を釘付けにしている。これが夏の風物詩。一年ぶりに見たけど、やっぱりすごいな花火は。


「刃太郎お兄ちゃん! すっごい! すっごいよ! 去年よりも大きくて、綺麗だよ!!」

「あはは、それはよかったな」

「それに」

「ん?」


 俺は現在コトミちゃんと手を繋いでいる状態で花火を見ている。右手で握っているため、左は空いているはず。だが、誰かが握っている感覚があった。

 有奈か? それともリリー? と視線を向けるとそこに居たのは。


「こうして現実で見れるなんて思いもしなかったよ。ありがとうね、コトミ」


 コヨミだった。

 コヨミが俺の左手を握って夜空に咲く花火を見上げていたのだ。そうか、コトミちゃんが分身体を作ってコヨミを表に出したってことか。


「全然! だって友達だもん! ね? 刃太郎お兄ちゃん!」


 まったく、分身ができるようになったとは。とんでもないことを覚えてしまったようだな。でも、そのおかげでコヨミを表に出す事ができた。

 彼女に、普通の人間と同じ想いをさせられた。


「ああ、友達なら当たり前だ」


 ぎゅっと二人に手を握り締め、俺は天を見上げた。

次回! 第三章完結!!

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