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第二十五話「答えてくれ」

「お前達は下がってろ! つーか、魔帝さんは早く手当てしろ!」

「くっくっく。この程度など軽傷。手当てする必要などない!」

「そい」

「はうっ!?」


 傷跡よりちょっと上のところをつんっと突いただけでこの反応だ。冷や汗が滲み出ており、ぷるぷると震えている。

 こいつの体もここまで弱くなっているとは。

 生前は、大量の血を流していても平気な顔して、俺と戦っていたのにな。


「貴様! バルトロッサ様になにをする!?」

「悪い悪い。とりあえず、巻き込まれないようにはな」

「刃太郎様!!」

「ふん!」


 駿さんの声は、暴走したコトミちゃんが背後から襲いかかってきていたからだ。が、俺は振り向くことなく攻撃を止める。


「刃太郎様ー! 防音の結界と人払いの結界を張っておきました!!」


 サシャーナさんが木の上から部下達と共に豪快に降りてきた。どうやら、結界を張ってくれたようだそれは助かる。

 元気に振舞っているけど、やっぱりまだ怖いようだ。

 それでも、コトミちゃんのために……ありがとう、サシャーナさん。


「おっし。コトミちゃん。今から、俺が遊んでやる。思いっきりかかってこい!!」


 バン! とコトミちゃんを弾き、構える。


「アハハハハッ!」


 コトミちゃんの格好は実に動きやすいものだ。他の皆は普通の浴衣だったが、コトミちゃんだけは振袖に加えてスカート。

 動き難い格好が嫌だということで特別に作らせたそうだ。

 まるで、仕込み武器でもあるかのような袖をだらんっとして、にたぁっと笑う。あの太陽のような笑顔が今は狂気に染まっている。


「いくよ……!!」


 魔力が満ちる。

 体を覆う魔力は、完全に何かが混ざっている色だ。そして、周りに浮かぶ炎や雷、氷などの弾は見た感じは魔力数値がバラバラだ。

 狂気に満ちても教えたことはちゃんと覚えているのか。

 教育係としては嬉しい限りだ。


「お?」


 しゅんっと姿を消したと思いきや、俺の真横に一瞬にして移動していた。早い。いつものコトミちゃんの以上に早い。


「シャアッ!!」


 獣のように鳴き、三属性の弾と共に腕を伸ばす。俺はそれを魔力を纏い弾き、属性弾は最小限の動きで回避する。


「どうした? 力の根源っていうのはその程度か?」

「アハハハハッ!!」


 さすがに会話はちょっと無理か? さて、どうしたものか。このまま、戦いが長引けばいずれコトミちゃんの体もただではすまないだろう。

 願うのは、コトミちゃんがこの力を制御すること。

 コトミちゃんを気絶させる? 卓哉さんやイズミさんの助言では、暴走した時は一通り暴れたら疲れてそのまま眠ったそうだが。

 今回は違う。

 完全に力の根源が表に出てしまっている。根源たる人格も、今ではないようだし。


「おい! 聞こえてるか!! 聞こえてるんなら返事をしろ!!」

「アハハハッ!!」


 目を、耳を、心臓を、喉を、正確に狙ってくる攻撃を俺は防ぎながら呼びかける。根源の人格。あいつが本当に消えてしまったのを確かめるために。


「本当に、消えたのか!?」

「ぶっ壊れろおおっ!!!」


 刹那。

 天高く跳躍し、魔力を溜める。そしてそのまま魔力玉を俺へとぶつけてくる。確かに、これは破壊衝動そのものか。

 ちょっと俺も本気を出すかな。すうっと呼吸を整え、開眼。


「らあっ!!」


 剣を取り出し、魔力を纏わせ切り裂く。


「すごい! すごい!! すごいね!!」

「これでも、君の教育係だからな!! さあ、どっからでもかかってこい!!」


 俺の言葉に、コトミちゃんは周りをぐるぐると走り出し、かく乱してくる。だが、俺は焦ることなくその場に立ち、静かに待った。


(右、左、下、左、下)


 正確に攻撃してくる方向を読みきり、全て防いでいく。今の俺は、いつも以上に感覚が敏感になっている。研ぎ澄まされた反射神経は、今のコトミちゃんの動きも容易に防げる。

 この感覚は、あっちの世界でバルトロッサとの戦い以来だ。これを使うと、数日間感覚が研ぎ澄まされすぎて私生活に色々と支障が出てしまう。

 かすかな物音にも、かすかな相手の仕草にも過剰に反応してしまうんだ。だから、早めに済ませておかないとな。


「ここだ!」


 ちょっとだけ眠っていて貰うぞ、コトミちゃん。一瞬の隙を見て俺は魔力を込め、気絶させようと手を振る。


「あぐっ!?」


 少々荒っぽい方法だったが、コトミちゃんは地面へと倒れる。

 静かになった森で、俺は一息つく。


「ごめんな、コトミちゃん。でも、今はこうするしか」

「ざーんねん」

「なっ!?」


 背後から気配がすると思いきや、襲撃を受ける。まだ感覚が研ぎ澄まされていたので、容易に防ぐ事ができたんだが、これには驚くしかなかった。

 コトミちゃんが攻撃してきたのだ。

 しかも、先ほど気絶させたコトミちゃんは、煙となり四散。

 まさかと周りを見渡すと……予想通り。


「まだまだだよぉ」

「遊ぶんだよね? ねぇ?!」

「アッハッハッハッハ!!」


 さっきのを合わせて五人。

 コトミちゃんが分身していた。そうか、さっき切り裂いた魔力で……味な真似をしてくれるじゃないか。


「コトミちゃんが一杯で、俺は大変だよ」


 苦笑していると、一斉に襲い掛かってくる。

 見分けようにも、見事に本物となんら変わらない分身だ。こうなったら、アイオラスを抜くしか。そう思った時だった。

 こちらに近づいてくる気配。


「お、お兄ちゃん! コトミちゃん!!」

「有奈!? どうして来たんだ!?」


 人払いの結界を張っていたはずなのに。と、有奈の後ろから華燐とリリーが現れる。それで、俺は察した。そうか、華燐の力か。

 そういえば、こういう結界系に詳しいことを言っていたっけな。


「す、すみません。刃太郎様ぁ!」


 簡単に突破され、ここに潜入させてしまったことに涙目で謝るサシャーナさん。気にしないでくださいと言いたいところだが、そんな場合じゃない。


「わわっ!? コトミが四人!?」

「分身だね。しかも、今のコトミは普通じゃない。力に振り回されてるみたい」

「死ねぇ!!」


 コトミちゃんの攻撃を弾く。が、そのままの勢いで飛んでいく。

 有奈達のほうへと。


「しまっ!?」

「任せてください!!」


 それを華燐が結界で防いでくれた。けど、このままじゃ有奈達も危ない。


「……コトミちゃん。私だよ、有奈だよ」


 意を決したように、有奈は前に出る。先ほど俺が弾いたコトミちゃんへと。敵意など微塵も感じさせず優しい声で、顔で。


「あ、有奈! 危ないよ!」

「待って! ここは、有奈に任せてみよう」

「華燐!? でも!!」


 いったい何をするつもりなんだ? リリー達が心配する中、有奈は一歩また一歩と近づいていく。リリーは止めようとするが、華燐は何かあると制す。


「ほら、もうちょっとで花火が始まるんだよ。コトミちゃんずっと楽しみにしていたよね?」

「シャアッ!!」

「いっ!?」


 攻撃。だが、致命傷にはならなかった。脇腹と浴衣が軽く切れ、血が飛ぶ。それでも、有奈は引くことなくそのままコトミちゃんを抱きしめた。


「もうやめようよ。これ以上はコトミちゃんが壊れちゃう。ね? こんな物騒なことやめて、一緒に花火を見ようよ」

「……そうか」


 今の有奈を見て、俺は反省した。戦っているコトミちゃん達を弾き、ため息を吐く。なぜって、自分の無能さにだ。

 これで、世界を救った勇者なんだからな。

 俺は呼びかけた。

 だけど、それは攻撃をされまいと警戒心を高めながら。だから、駄目だったんだ。呼びかけるなら、もっと優しく、コトミちゃんを怖がらせないようにしないと。

 現に、有奈が抱きしめてから、コトミちゃんは大人しくなりつつある。

 コトミちゃんは、怖がっていたんだ。

 今の強大な力で壊れそうになる自分に、戦おうとしていた俺に。


「今なら、いけるかな」


 パン! と手を合わせ散らばった魔力の分身を一箇所に集めた。アイオラスを抜くとこっちの世界にも影響が出るからな。

 魔力による防御をされていたので、できなかったが今なら防御が解けている。

 こうして、集める事ができた。

 さて、ここからだ。


「リリー、華燐、サシャーナさん。有奈を頼む」

「は、はい!」

「お、お兄ちゃん」

「任せておけ。お前から教わったように、やってみるよ」

「うん」


 まだ動かないコトミちゃんに俺は抱きつく。

 そして、魔力を纏った。

 もう一度……もう一度だけでいいから答えてくれ。


「俺は、コトミちゃんを。いいや、君達を助けたいんだ」


 すると、答えてくれたのか。眩い光に包まれ、俺は、どこかへと転移する感覚を覚えた。


「あれは」


 気がつけばそこは、以前来た満月が美しく照らす場所。そこには、あの力の根源とコトミちゃんが向き合う形で立っていた。

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