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第二十四話「抑えきれない衝動」

「むう……け、結構難しいじゃない」

「子供には、子供用の問題ってことだけど。それでも難しいね。ロッサちゃんは、解ける?」

「貸してみるがいい。我も、無駄に毎日を過ごしていたわけではないからな」


 コトミを初めとした子供だけのチームは、最初の宝を見つけるべく問題を解こうと奮闘していた。ちゃんと大人や子供で、問題の難易度はかわる。

 大人だけの場合は、高校生以上の難易度。

 子供と大人の混合の場合は、難易度が混合する。

 そして子供だけの場合は、小学生ぐらいの難易度となっている。


 が、それでも難しい問題のようだ。

 優夏やそらが苦戦していると、バルトロッサがタブレットを手に取り思考する。その後ろでは、コトミが問題を解こうともせずに木の上に登り目で、鼻で探していた。


「コトミちゃん! なにか見つかったー?」

「まったく!!」

「じゃあ、一旦下りてきなさい! ロッサが自信満々だったけど、どう見ても苦戦してるから!!」

「く、苦戦などしておらぬ! 二問は解けているだろ! それにこっちの世界の常識はまだ完全に把握していないだけで」

「こっちの世界? あー、外国ってことね」


 くるっと一回転して、着地したコトミはロッサの後ろからタブレットの画面をじっと見詰めた。すると、お! と声を上げて、タブレットを操作し始める。


「はい! これで三問!」

「……あんたよくこんな難しい問題解けたわね」

「コトミちゃん知ってたの?」

「ううん! 直感!!」


 また直感か、と二人は苦笑する。コトミは、昔からよく直感に頼ることが多い。しかし、その直感がとんでもないのだ。

 今のように、難解な問題も直感で答えてよく正解する。しかし、選択問題や計算などに限る。


「よし、これで宝のありかに行ける! 我についてくるがいい!!」

「だからなんであんたが先導しているのよ!」

「ま、待ってー!」


 バルトロッサが走り出し、優夏が怒鳴りながら追いかけ、そらが慌てて追いかける中、コトミだけがその場に立ち止まって、木々の隙間から見える月を見上げた。


「……うっ」


 しばらく見詰めた後、左目に痛みが走る。 

 だが、すぐに痛みは引く。

 なんだったんだろう? と首を傾げていると、先に行った筈のバルトロッサが戻ってくる。


「おい! なにをしておる! 貴様と離れたら、チームとして成立せんのだぞ!!」

「ご、ごめんごめん。今行くね!」


 と、謝るがバルトロッサはむっとした表情のままだった。そんなに怒っているのかな? とコトミが思っていると。


「貴様。先ほど、なにやら痛がっていたがどうした?」

「えっと、なんだか月を見上げていたら左目が痛くなっちゃって」

「……そうか」


 それを聞いたバルトロッサは、静かに頷きコトミの手を引く。


「遅れるな! 我々が優勝するのだからな!!」

「わかってるよー」


 コトミから感じられる違和感。

 バルトロッサは、その違和感が気になりつつも、宝探しに集中することにした。


(ふん、刃太郎め。またもやこの魔帝を扱き使うとは。だが、こいつのことは我も気になっていた。……仕方ない。今は、奴の言葉に従ってやるか)

「どうしたの? ロッサちゃん」


 並ぶように走っている中、顔を覗き込んでくるコトミにバルトロッサはなんでもないと短く答える。





・・・★・・・






『さあ! 皆さん! 残り時間五分です!! まだ時間はあるので、じゃんじゃん宝をゲットしてくださいねー!!』


 サシャーナさんの元気な声が耳に届く。

 チラッと木の陰を見ると、サシャーナさんの分身体がカメラを構えていた。他にも、部下達が同じくカメラを構えて、映像を撮っているようだ。


「さて、これまで取った宝は四つか」

「そして、合計ポイントは二十ポイントですか」


 五ポイントが二つで、十ポイントがひとつ。

 事前に調べた宝のポイントは、一番高いポイントで二十ポイントだ。残り時間が、五分だから、まだ見つけれる可能性はある。


「たくっ! 宝を見つける毎に、問題も難しくなってきてる。こんなの大学で習ったことないぞ……!」

「私も、そろそろきつくなってきましたね」

「二人が難しいなら、俺じゃまったく無理だな……だけど、二十ポイントじゃちょっと足りないかもしれないし」


 悩みに悩み、俺達は決断した。

 顔を見合わせて、同時に頷く。


「しょうがない。地道に、足で探すしかないか」

「それが一番か。いつまでも解けない問題を解いていても時間の無駄だからな」

「では、ありそうな場所を徹底的に探すと致しましょう」


 決まったところで、いざ探しに! と動いたところで、複数に人の気配を感じた。


「お? ここの木の根元にあるらしいよ!」

「って、あれ? お兄ちゃん?」


 有奈達だった。

 どうやら、偶然有奈達が向かっていた宝のありかに俺達がいたようなのだ。ちなみに、他のチームと遭遇した場合は、乱暴に奪ったりしない。

 問題を解いて、ルートに従い取りに来たチームが優先、となっている。

 このイベントは、楽しく仲良く、が決まりとして契約書に書かれていた。なので、ここにある宝は有奈達にものとなる。


「まさか、ここに宝があったとは」

「来る前にこの辺を掘っておけばよかったな」

「まあまあ。ルールだと、有奈達に取る権利があるから俺達はここから退こう」


 こうして話している間にも、時間は刻々と過ぎていくんだ。


『残り時間三分です!! カップラーメンを作ってまってまーす!!』


 おっと、悩んでいた間に二分も経っていたのか。これは、本当に急がないとだめだな。


「それじゃ、有奈! お互い頑張ろうな!」

「負けないよ、お兄ちゃん。今回も私達が勝っちゃうから!」

「ここのお宝で一気にポイントゲット! 優勝狙っちゃいますから!!」

「刃太郎さん達も頑張ってくださいね」


 スコップを手に、負けないと宣言する有奈にリリー。華燐は、俺達のことを応援してくれた。さて、こうなるとコトミちゃん達のチームとも鉢合わせそうだな。

 あっちは、問題を真面目に解くよりも、今の俺達みたいに足で探していたりして。


「怪しいと思ったところは、とことん探していこう!!」

「はい、かしこまりました」

「言われるまでもない」


 張り切って残り時間で、宝をなんとか見つけ出そうと思ったのだが。残念なことに、ひとつも見つからなかった。

 ようやく見つけたと思ったら、ハズレと書いた紙が一枚。

 おそらく、俺達のように問題を解かずに探すだろうと読んでこういうのいくつか設置していたのだろう。


 さすがはサシャーナさん。

 抜かりない。

 結局二十ポイントのままで、終了。自身ありげな表情をしたチームや、明らかに落ち込んでいる様子のチームと共に森から出て行く。

 すると、優夏ちゃんとそらちゃんが俺に飛びついてきた。なにやら、焦っている様子。


「ど、どうしたんだ? 二人とも」

「コトミが、ううん。コトミとロッサがいないの!」


 そう言われ、周りを見渡すといない。


「私達が、宝を掘っている最中にいつの間にかいなくなっていたんです! もう時間だから、きっと森を抜けているんだろうなと思ったんですけど……」

「いなかった、と。わかった。俺が探してくるから。大丈夫、心配するな」


 涙目になっている二人の頭を撫でて俺は、駿さんと共に森の中へと再び入っていく。


「わっ!? お、お兄ちゃん?」


 その途中、丁度森から出てきた有奈達とすれ違ったが今は緊急事態だ。嫌な予感がする。いや、予感じゃない。これは……確実に。

 森の奥に行くにつれて、大きな力の波動が感じ取れる。


「刃太郎様。これは……」


 木々が倒れている。

 地面も、尋常じゃない力で抉られている。明らかに、普通の人間じゃ機械の仕業じゃない。何か、特殊な力によって破壊されたかのような痕。


「いた!」


 ロッサの後ろ姿を発見した。だが、明らかに様子が変だ。膝を地面について右腕を押さえている。そしてその足元には……血痕。


「おい! 大丈夫か、ロッサ!!」


 ロッサだって元魔帝だ。力が弱まっているとはいえ、こうも傷つけられているとは。


「大丈夫のように見えるか? ふっ、コトミめ。この我を圧倒するとはな。ただものではないと思っていたがまさかここまで……とは……!」

「バルトロッサ様!?」


 ロッサが倒れると、尋常じゃない速さで光太が受け止める。普通の人間のはずなのに、なんて速さだと驚いてはいられない。

 なにせ、目の前にいる存在がそうさせてくれないからだ。


「おい、一日猶予があったはずなんだが? 俺のことを騙したのか」


 すっと前に出て、俺は月明かりに照らされているコトミちゃんへと声をかける。いや、今はもうコトミちゃんじゃないのかもしれない。 

 その小さな背を見詰めたまま、彼女の言葉を待った。


「さあ……ね。あれじゃない、かな? 破壊の衝動が……早く出たいってことなんじゃ、ない?」


 振り返ったコトミちゃんの左目はあの時のように青く染まっていた。そして、この口調。やっぱり表に出ていたか。

 だけど、なんだか様子がおかしい。

 苦しそうだ。

 なにかを抑え込んでいるかのように見える。……そうか、そういうことか。


「お前、やっぱり制御できないのか」

「は、ははは。あの時、言った、よね? もう表に出た破壊の衝動は……抑え、きれない、って……!」


 苦しそうに身を抱く。

 犬歯が唇を傷つけ、血が流れる。呼吸は荒く、力が爆発しそうだ。


「さあ、ここから、だよ。この子がこの力を……抑え切れるか。楽しみに、してる、ね。君も、頑張れ、だよ」


 その言葉を最後に、糸が切れた人形のようにだらんっとうな垂れる。そして、次に顔を上げた時には。


「アッハッハッハッハッハッハッ!!!」


 狂喜なる声を上げた。

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