第二十一話「再会のクラスメイト」
それは、皆と集合してさっそく屋台で何かを食べないか? という提案の元、定番の焼きそばの屋台へと向かった時だった。
六人ほどの列の後ろに並び、まだかまだかと待っている皆のことを気にしながら待っていた。そして、ようやく俺の番になり、三パックほど頼んだところで、声をかけられたんだ。
有奈達から? 違う。
なんと屋台で焼きそばを作っている青年からだ。
一瞬、え? と思ったがすぐにどうして声をかけたのかを理解する。
「よう、刃太郎。四年ぶりだな」
「おっす。有名人。元気にしてたか?」
なんと、笠名にいた頃のクラスメイト達だった。これは、偶然か。それとも必然だったのか。クラスメイト達とは、テレビに出た時に何度も連絡を取り合っている。
だが、いまやクラスメイト達は、社会人や大学生など、色々と忙しく。他にも県外へと出ている者達もいるので会う機会はほとんどなかった。
まあそれでも、時々は連絡を取り合っていた。こうして、顔を合わせるのはマジで四年ぶりなんだけど。
「まったくよ。四年間も行方不明になっていたと思ったら、元気そうな顔でいきなりテレビに出ているから驚いたぞ」
焼きそばを作りながらクラスメイトの芳崎は呟く。筋肉質で、高校の時はプロレスが好きだったと記憶している。
「そうそう。送った卒業アルバム見たか? お前、マジで変わっていないよな。本当に同い年か?」
と、メガネをかけたクラスメイト藤原が作った焼きそばをパックに詰めながら俺に問う。
まあ、こっちでは四年経っているだろうけど、俺はあっちで一年しか経っていないからな。こうして見ると、結構変わったな。
芳崎は、相変わらず筋肉だけど、あの時よりも肌が黒く髪の毛をバッサリ切っている。
そして藤原は……ん? メガネが変わったかな?
「お前も自分のこと言えないだろ。変わったところ、メガネぐらいじゃないか?」
「なにを! 俺だって、ちょっと大人になったんだぞ! 彼女だって出来たんだ!」
ふっと自慢げに胸を張る藤原。
それを聞いて、俺は耳を疑ったよ。なぜって、高校の時の藤原は二次元の女にしか興味がない! とか教室で高らかに宣言していたのに。
「それって、二次元のってことか?」
「ちげーよ! リアル! 現実でだよ。今、専門学校に通っているんだが。そこで知り合った子なんだ。大人しめな性格なんだけど、これがもう可愛くて! 二次元以外でときめくことがあったとは!? と驚いたね」
「……マジで言っているのか?」
「マジだよ、驚くことに、マジで可愛い彼女作ってんだこいつ」
注文した焼きそばを受け取り、金を払いながら芳崎は苦笑する。
「どうだ? 羨ましいだろ? 俺は、先にリア充になったぜ!! あ、でも二次元からは離れてないぞ。彼女もそっち系だったから」
すごいドヤ顔だ。あのリア充爆発しろ! とか。三次元など不要! とか言っていたメガネが四年間会わない内にリア充になっていたとは。
「ちょっと、いつまで待たせるの? 後ろにもお客さんいるのよ!」
「ん? 誰だこの子」
いつまでも戻ってこないものだから、優夏ちゃんが迎えに来てしまった。その後ろには、付き添いとしてサシャーナさんがいた。
「私達の子供です!」
「なに!?」
「違うぞ」
「違うわよ」
「そうなのか!?」
いつもの悪ふざけに対しての対応が迅速になってきているのを感じる。優夏ちゃんも、冷静に否定したが藤原は一瞬にして思考が停止したようだ。
「刃太郎お兄ちゃん! 焼きそばまだ!」
「え? お前に妹って、有奈ちゃんだけじゃ」
「あー、えっと。色々とあったんだ! それじゃ! 屋台頑張れよ! 芳崎! それと藤原も!」
コトミちゃんまで来たので、このままでは収集がつかないと思い、俺は逃げるようにその場から去って行く。去り際に見た藤原は、未だに思考停止中だった。
俺の耳で聞いたのが正しければ、なんだか先を越されていた……ウサギ耳の嫁さん? まさか、二次元に行っていたんじゃ……とか言っていたな。
ちゃんと否定はしたんだが、芳崎フォロー頼んだぞ。
「まったく。少しは周りのお客さんのことを考えなさいよ!」
「ご、ごめんごめん」
「まあまあ、優夏様。どうやらあのお二方は、刃太郎様のご親友だったようですし。四年ぶりの再会で嬉しかったのでしょう」
「……そういえば、あんた神隠しに遭ったんだったわね」
「まあな。でも、優夏ちゃんの言う通りだ。今は夏祭り。お客さんだって、一杯集まっている。少しは考えないとな」
サシャーナさんの言う通り、四年ぶりにクラスメイト達と再会して浮かれていたのかもしれない。なんだか、昔に戻ったみたいに、楽しく会話に華を咲かせてしまった。
「つ、次気をつければいいのよ。それに、あたしもあんただったらああなっていたかもだし」
「おー、これがツンデレ! 可愛い!!」
視線を逸らしながら、呟く姿にリリーは思わず抱きついてしまう。
「ちょ、ちょっと! 抱きつかないでよ!」
「こらこらリリー。気持ちはわかるけど、落ち着きなさいって」
それからというもの購入した焼きそばを初めとして、わたあめやチョコバナナなど定番の食べ物を購入して腹を膨らせたところで、次は娯楽の屋台を楽しむことにした。
まず最初に挑戦したのは、有奈やリリーがやりたいと言っていた射的。
どうやら、相当難しいようで、今のところ何十人も挑戦しているが賞品は全然減っていない。
「よし、やるよリリー!」
「了解! 屋台荒らしのあたしがバンバン取っちゃうよ!!」
「そ、そうなんですか?」
「違うわよ。ただテンションで言っているだけよ」
残りの俺達は後ろから見学。
銃に弾を込めて、狙いを定める二人。初撃は、様子見とばかりに軽く熊の人形などの額を狙う。ちょっと傾いたように見えるが、倒れない。
「ふむ、やっぱり難しいね」
「こうして見ると、重い物結構多いね」
こういうものは簡単に撃ち落せないようになっているものだ。悪質なところだと、後ろに倒れないような仕掛けなどをしているところもあるとかないとか。
だが、今回の主催は天宮家。
周りを見ると、気づかれないように天宮の者達が配置されている。もしも、何か問題が起こったりしたらいつでも対処できるように。
「リリー。私、あの熊さんを取るからね。コトミちゃんへのプレゼント!」
「じゃあ、協力するよ!」
お互いに、撃ち落すものを決めてもう一度コルクを詰める。そして、狙いを定め……トリガーを引いた。有奈の撃ったコルクが熊のぬいぐるみへと命中。
ぐらっと少し動いただけで落ちることはないだろう。しかし、そこへ連携するようにリリーが揺れた熊のぬいぐるみへとコルクを命中させる。
相変わらず、すごい命中率だな。
「よし!」
「やった!」
二人の連携により、熊のぬいぐるみを見事ゲットした。これには、射的の屋台をしているおじさんも、周りの客達もびっくり。
あれほど正確な射撃と連携をしたらそりゃそうだ。
射的をやり次に向かったのは、ちょっと静かなもの。
それは型抜きだ。
型抜きとは、簡単に説明すると板状のお菓子に刻まれた絵の周りを抜いていくものだ。皆、爪楊枝を使って齧りつくように型抜きをしている。
「甘い!」
「こ、コトミちゃん。ちゃんと型抜きしよ? ね? 確かに食べ物だけど」
有奈とコトミちゃんのペアは、有奈がしっかりと型抜きをしてコトミちゃんは食べている。確かに、あれっておいしいけどさ。
「できました!」
「すごいじゃない、そら。いい感じに型抜きできてるね」
「わ、私こういう地味な作業しか得意じゃなくて」
「ひとつでも、得意なことがあるならいいことだよ。ほら、次やろう」
「は、はい!」
その隣では、まるで姉妹のように仲良さげに型抜きをしている華燐とそらちゃん。で、さらにその隣なんだけど。
「もうちょっと、もうちょっと……」
「あわー!? また崩れちゃったー!?」
「ひゃうっ!? ちょ、ちょっと! びっくりしてこっちも崩れちゃったじゃない!!」
「ご、ごめんなさい!!」
リリーと優夏ちゃんは結構苦戦しているようだ。俺は、俺で地味に一人で型抜きをしている。ちなみにサシャーナさんはというと。
「はい! もう迷子になっちゃだめですよ。あ、はい! 運営はここから真っ直ぐ言って右手のほうにあります! え? 私にプレゼントですか? ありがとうございます!!」
最初は、普通に皆と遊んでいたのだがやはり主催が天宮家ということで、サシャーナさんも運営の一人。迷子を見つけては、親御さんを見つけたり、屋台や運営の場所がわからないと言う人達を案内したり、と大忙しだ。
ようやく落ち着いたところで、俺の隣にふうっと一息ついて座る。
「忙しそうですね」
「はい。でも、これが私のお仕事なので。それよりも、あっち大変そうですよ」
指差したのは、リリーと優夏ちゃんのところ。未だに、ひとつも型抜きに成功していない。俺のほうは全部終わったので、仕方ないと二人の傍に近づいていく。
「力が入りすぎだ。もうちょっと力を抜くんだ。それじゃ、手が震えて変なところが崩れるぞ」
「で、ですが……」
「は、話しかけないで! 今集中してるから! 手伝うなら、そっちを手伝いなさい!」
どうやら、優夏ちゃんは一人で集中したいようだ。じゃあ、俺はリリーのほうを手伝うとしよう。俺は、今抜いているリリーの手にそっと触れる。
「はう!? じじじ刃太郎さん!?」
「とりあえず落ち着け。一旦深呼吸だ」
型からリリーの手を離させ、深呼吸をするように言う。あわわしていたリリーだったが、すぐに数回深呼吸をして再び型に向かう。
「いいか? まず、基本的に大きいところで外側から抜いていくのがいい」
まあこれは俺のやり方で、他の人達はどうかは知らないけど。
「外側から……大きいところ……」
俺の言った通りに、リリーは大きいところから慎重に抜いていく。
「次に小さいところだが、ここは本当に集中しないとすぐ周りが崩れてしまうぞ。裏側にして抜くのも結構いいんだ」
「あっ、ウェットティッシュありますよ?」
「なんでウェットティッシュ?」
「板を濡らしたほうが崩しやすいんです。ここは、店員さんの許可があれば使用できますが?」
周りを見ても、ウェットティッシュを使っている客はちらほらと。
なるほど、そういう方法もあるのか。
だが、リリーはいえ必要ありませんと集中する。
「……こ、これで」
ごくりと喉を鳴らし、リリーは最後の型を抜いた。ちょっといびつだが他のものと比べると成功していると言えるだろう。
「や、やりました! やりましたよ! 刃太郎さん!!」
「よかったな。リリー。でも、さっきの射的で見せた集中力があれば容易だったんじゃないか?」
「あ、あれはスポーツだったからと言いますか。あたし、こう見えて結構雑って言いますか……」
「ほれ」
「はむ!? ……あ、甘いです」
自分を貶めていくので、俺はリリーが抜いた板の欠片を口に入れる。甘いお菓子を食べて、ちょっと笑顔を取り戻した。




