第四話「またお世話になります」
正直腰を抜かすところでした。
まさか、ここまで評価していただけるとは!
いつもはハイファンタジーを書いている自分ですが、ローファンタジーに挑戦! いつもと違って気軽な感じに読めるものにしよーっと思っていたのですが。
いやはや……まだ序盤も序盤なのに、もう前回の作品より評価をされていて……マジで感謝です!
「うーん。今日もいい天気ね、刃太郎」
「そうだね。……にしても、有奈は今日早く出て行ったけど。いつもそうなのか?」
俺が異世界から帰還してから次の日。
今日は日曜日だ。
貴重な休日を割いてまで、舞香さんは俺のために働き口になるであろう元働いていた本屋まで一緒に行動してくれている。
働いていたといっても、一ヶ月ちょっとぐらいだった。
夏休みに入ればもっと働いてやる! と思っていた矢先に異世界へと召喚されたんだもんなぁ……。結構シフト入れていたのに。絶対迷惑をかけたよな。
「そうね……いつもじゃないけど。結構な頻度で朝早くから出かけていくわね」
「兄としては、妹の動向が気になるところだが、今は自分のために行動しなくちゃ……!」
有奈は、俺が絶対更生させてみせる。
だから、それまでは堪えてくれ。
もう突然いなくなるということはない。俺は、異世界で力をつけ、変わった。あの時は、そこそこ筋肉がついていて、足が速い程度の俺だったが、もうオリンピック選手ばりの身体能力へと覚醒している。
いや、もしかするとそれ以上かもしれない。
本気を出せば、五十メートルなんて三秒きるんじゃないか?
「その意気よ。異世界で成長したあなたの力で有奈を更生させてあげなさい! っと、言っている間に到着!! まだ開店前だから、裏手から入るわよ」
「……全然変わってないな、ここは」
昨日は、立ち寄らなかったけど四年も経っているというのに全然変わっていない。いや、少し看板に錆びができているかな?
いくつかの小さな古き店が並び商店街の中にある本屋。
古い小説と漫画から、新しいものまで結構品揃いが良い店で、マニアの人達がよく立ち寄るところなんだ。
裏手に回った俺達は、そこにあったインターホンを鳴らす。ちなみに、ここで働いている家族はこことは別のところにちゃんとした家を思っている。
これぐらいの時間帯から、準備を行っているのは相変わらずのようだ。
「はーい。どなたですかー」
インターホンを鳴らし、すぐに男の人の声が聞こえる。
そして、鍵を開けドアが開いた。
「お? なんだ舞香じゃないか。こんな時間にどうし……え?」
現れたのは、めがねをかけたエプロン姿の男性。
若干天然パーマな黒髪に、無精髭を生やし、身長は百八十センチメートルは越えている。ここの店長であり、舞香さんの友達で名前を山下章悟という。
その章悟さんは、舞香さんの後ろにいる俺を発見し固まってしまった。
「ど、どうも。お久しぶり、です。章悟さん。俺のことを……覚えています?」
やはり、この瞬間はめちゃくちゃ緊張する。
舞香さんの時もそうだったが、四年間もずっと行方不明だったんだ。どう言葉をかければいいのか、未だにわかっていない。
「もちろん、覚えているわよね。章悟くん」
「……刃太郎、くんか?」
「はい……」
「……」
俺の名前を呟き、また固まってしまう。
だが、すぐにハッと我に返り、慌てて店へと引っ込んでしまった。
「絵里!! 絵里!!! 大変だぁ!?」
「もうどうしたの? 章悟さん。今、荷物整理をしているところなんだけど」
「刃太郎くんが……刃太郎くんが帰ってきたんだ!!!」
「え!? じ、刃太郎くんが!?」
すごい慌てようだ。
まあ、四年間も行方不明だった奴が現れればそりゃあ、慌てるよな。俺だって、章悟さん側だったらこういう反応になると思う。
章悟さんが引っ込んだ後。転がるように姿を現したのは、金髪の女性だった。
彼女の名前は、山下絵里。
章悟さんの奥さんだ。ちなみに、絵里さんも舞香さんの友達の一人でもある。章悟さんと同じ山下書店のエプロンを身に纏っており、舞香さんよりも十センチメートルほど高い身長だ。
「刃太郎くん……!」
「おっとと……」
俺を見つけるとすぐに飛びついてくる絵里さん。その勢いに負けず、俺は受け止められた。
なんだか、帰ってきてから抱きつかれっぱなしだな、俺。
「もう! 帰ってきたんなら、ちゃんと連絡しなさい!」
「す、すみません」
「だが、今までどこにいたんだ? 俺達は、結構範囲を広げて探したんだぞ」
「うーん、その説明をすると結構長くなるというか、なんというか」
「とりあえず、中に入りましょう。外で立ち話もなんだから」
涙を拭い、絵里さんは俺達を中へ案内する。
ここから入るのは久しぶりだな、本当に。中に入るとすぐ、色んな分野の本が箱詰めにされている状態で置かれている場所。
絵里さんは、店頭のほうで本を整理していたようだ。俺も、よくここで足りない本の補充のために来たり、届いた本の確認をしたりしていたなぁ。
ちなみに、ここから右側の扉には小さな休憩室がある。
「変わんないですね、ここは」
「そりゃあね。そういうお前も、四年経ったって言うのに全然変わってないじゃないか。もう二十代だろ?」
休憩室は、四人ほど座れるほどのテーブルがひとつに、椅子が四つ。
お湯が入っている電子ポットとお茶っ葉。
毎日、絵里さんがお菓子を持ってきてくれる。だから、休憩の時は、いつも楽しみだった。今日は、どうやら饅頭のようだな。
椅子に腰を下ろし、俺達は話し合う。まず、話題に出たのは俺の見た目についてだ。
「……信じられないかもしれないけど。俺、まだ十七歳なんだ」
「…………え?」
「ど、どういうことなの? ま、舞香。刃太郎くんは、本当のことを言っているの?」
うん、この反応は正しい。
いまや、俺は妹と同じ年齢だからな……なんだかすごく違和感。俺だけ時においていかれた状態だからな。ファンタジー小説で、異世界から帰ってきた者の結末。
大体は、時間軸が地球のほうがそれほど経っていないことが多いような気がする。それは平行しているかだ。俺もそこまで読んでいないからなぁ……それに、未完のものが多かったし。
「本当なの。……ここからは、真面目な話よ。真面目で、本当の話よ二人とも」
「……ええ」
「わかった」
二人の確認も取れ、俺は一呼吸入れて話した。
俺が四年間いったいどこに行っていたのかを。予想通り、最初は舞香さんと同じような反応だったがすぐに真面目に俺の話に耳を傾けてくれた。
大体の要点を伝え、一度話し終え、章悟さん達は。
「……うん。章悟さん、あれね」
「ああ、あれだな」
「ふふ。二人とも、なんだか嬉しそうね」
確かに、嬉しそうだ。
腕組みをして、にやにやと笑みを浮かべている。
「それはそうよ! だって、異世界が本当にあったって知れば!」
「ああ! ずっと、憧れていた異世界! まさか、それを体験した者が目の前にいるなんて……刃太郎くん! もっとその辺りの話を詳しく!!」
こんなにも簡単に受け入れてくれるなんて。俺の周りの人達は、本当にそういう方面には敏感というか、興味津々だよなぁ。
「その話もいいけど。今日は、刃太郎の今後について話をしにきたの」
「今後? ……あぁ、四年もってことは色々とこっちでは刃太郎にとってはあれよね」
「ええ。だからね、よかったらなんだけど」
「……うん、言わなくても良い。わかっている。ここで再び働かせてはくれないか? てことだよな」
さすがは章悟さん。話が早くて助かる。
「勝手にいなくなって、迷惑をかけた俺ですけど……ま、また雇ってくれる、でしょうか?」
これはマジの面接だ
バイトの面接なのに、保護者同伴だけど……。
「別にいいわよ」
「え!?」
「ああ、いいとも。丁度バイトが最近止めたばかりだしな」
「ええ!? そ、そんな簡単に決めて良いんですか!?」
なんだかすごく呆気ない。
舞香さんは、隣でよかったわね! と喜んでくれているが、こうもあっさり雇ってもらえれるとは。
「俺達の仲だ。それに、高校中退じゃ色々とあれだろ?」
「今の世の中、大変だからね。それに!」
バン! とテーブルを叩き勢い良く立ち上がった絵里さんは、俺にすごく顔を近づけてきた。
うわ、良い匂いが……。
「異世界の話を、一杯してもらうために。近くにいたほうがいいでしょ? いやぁ、最近面白いことがなくてね。これで、毎日が楽しくなるわ! ね? 章悟さん」
「そうだな! それじゃ、さっそく今日から……と言いたいところだが、帰ってきたばかりだろ。一週間後ってことでどうだ?」
俺的にはすぐに働きたいところだが、うん。四年のブランクを少しでも取り戻すために情報収集をしなくては。
しかし、働き口を手に入れたことで少しはほっとしている。
「俺は大丈夫です。その……よろしくお願いします! 精一杯働きますので!!」
「ええ。ところで話は変わるけど……有奈ちゃんはどうなったの?」
この反応から、絵里さん達も今の有奈に関しては色々と心配をしてくれているようだ。
「……そのことに関しては、俺がなんとかしてみせます。俺の責任ですから。実は、今から情報収集をしながら有奈の更生について考えようと思っていたところなんです」
「そうか。なら、行って来い。可愛い妹をちゃんと更生させるんだぞ。兄として」
「……はい!!」
さて、これから更に忙しくなるぞ。まず、情報を集めるなら図書館? いや、ネットのほうが早いかな?