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第十七話「時には強引に」

「にしても、刃太郎。お前も随分とたくましくなったなぁ。まるで兵士の顔つきだ!」

「四年間も、どこかで修行をしていたの?」

「まあ、強ち間違ってはいないかも」


 亮治じいちゃんはもうすっかり酔いが回っている。仕事終わりの一杯は格別だ! とか言いながらもうどれぐらい飲んでいることか。

 軽く一時間半は飲んでるな。


「そんで、今はなんだっけ? コトミちゃんの教育係をやってるんだって?」

「うん。父親の卓哉さんに直接頼まれちゃって」

「すごいわねぇ、あの天宮の社長さんから直接なんて」

「しかもよ、お父さんお母さん! 刃太郎ったら前金で百万も貰ったの!」


 と、舞香さんもかなり酔っていて、いつも以上にテンションが高めだ。髪を解き、胸元が見えるほどのラフな格好で、頬を赤く染めて右手には缶ビールを持っている。


「ひゃ、百万だって!? そりゃ、大金じゃねぇか! びっくりして、酔いが少し冷めちまったぜ」

「それも前金だものね。さすが、お金持ちは気前がいいわねぇ」


 まあ、世界の危機になるかもだからな。

 このことは、俺と天宮家の人しか知っていない。表向きは、本当に教育係ということになっている。下手にパニックを起こさせたくないからな。


「ねー。まったくもう、帰ってきたと思ったら~。すっかり稼ぎ頭になっちゃってね~」

「ちょっ、飲みすぎなんじゃないか? 舞香さん」


 休暇を取って、更に実家に帰ってきたことで気が抜けてしまっているのか。いつものキリッとしていて、柔らかな雰囲気の舞香さんじゃなくなっている。

 完璧にただの酔っ払いだ。

 オレンジジュースを飲んでいる俺の背後からぬるりと腕を回し絡んでくる。


「いいのよぉ。実家に帰って来ている時ぐらい~。ほらー、刃太郎も飲みなしゃい!!」


 いや、俺未成年なんで。


「刃太郎! 二人に心配かけてきた分、お前がしっかりと二人を護っていくんだぞ! 男としてな!!」

「わかってるよ、じいちゃん」

「刃太郎様ー! お二人がお風呂から上がりましたよー!」


 何かあった時のために、風呂前で待機していたサシャーナさんが俺のことを呼ぶ。俺は、それじゃっと絡んできている舞香さんを礼子ばあちゃんに任せて、着替えを持ち風呂場へと向かっていった。

 その途中、パジャマ姿の有奈とコトミちゃんが仲良く手を繋いで歩いてきた。


「長かったな」

「えへへ。なんだか、会話に華を咲かせすぎちゃった」

「上せるところだったよねぇ」

「ねぇ?」


 なんだかすっかり仲良しになっちゃったな。風呂で何かあったのか? まあ、二人が仲良くなるのは俺としても嬉しいことだが。


「待たせちゃってごめんね、お兄ちゃん」

「いいや、良いって。ちゃんと水分補給をしておけよ?」

「はーい! あ、有奈お姉ちゃん。私、ゲーム持ってきてるんだ! 一緒にやろう!」

「うん、いいよ!」


 手を繋いだまま二階にある母さんの部屋へと向かっていく。ちなみに、舞香さんの部屋は舞香さんとサシャーナさん二人が寝ている。

 俺は、居間だ。

 一人寂しくね……。


「仲良しでよかったですね」

「そうですね。サシャーナさんも、警備お疲れ様でした。俺は別に良いので、休んでいてください」


 それだけ伝え、俺は真っ直ぐ風呂場へと向かっていく。

 木製のドアを開け、着替えとタオルを置き、服を脱ごうと手を回す。

 だが、俺は止めた。


「あの、休んでいてくださいって言いましたよね? なんでついてきてるんですか?」


 サシャーナさんがついてきていたからだ。

 じっと俺の背後で待っている。


「いやぁ、お背中を流そうかと思いまして。卓哉様もイズミ様もとても感謝しています。なので、何かお礼をしてきなさいと」

「あぁ、そういうことですか。いいですよ、そんなこと。ちゃんと前金とか貰ってますし。その後も、貰う予定なので。俺はそれで十分です。それに、俺自身コトミちゃんのためにって思ってますから」


 なので、早く出て行って欲しい。そう言ったのだが、サシャーナさんは一歩も引かなかった。


「いえいえ! そうもいきません! 一歩も引きません! それに、私一度も男の人の背中を流した事がないので。体験してみたいなーっと!」

「え? 卓哉さんの背中とか流したりしていないんですか?」

「私、メイドじゃないので」


 あぁ、そういえばそうだった。この人、メイドじゃなくて秘書だった。見た目だけなら、メイドなんだろうけど。


「あっちの世界でもですか?」

「はい。あっちの世界では、ちゃんとしたメイド達がやっていましたし。イズミ様もいらっしゃいましたので。私は専ら、警備でしたから」


 意外だった。

 意外過ぎて、どう会話すればいいか。ということは、サシャーナさんは男の体に興味がある。二人からの命令だからではなく、個人的に男の体に興味があるから一歩も引くことはない、と。

 そういうことですか、なるほど。


「そうですか。まあ、うん。それはわかりました。でも、大丈夫です。お引取りください」

「そんなそんな。ご遠慮せずに」

「いやいや、別にいいです。一人で出来ますから」

「いやいやいや。そう言わず」

「いいですって。マジで、いいですって」

「いいから、脱ぐのです!!」

「強引にきた!?」


 断固として、断る俺にサシャーナさんは強引に俺の服を脱がそうと襲いかかってくる。俺は、必死に服を脱ぐまいと抑えるが、力が意外と強い。

 そんな攻防をしていると、がちゃりとドアが開く。


「刃太郎。さっき、コトミちゃんがシャンプー切れてるって……まあ」


 礼子ばあちゃんがきた。

 どうやら、シャンプーが切れているようで。それをコトミちゃんから聞いた礼子ばあちゃんが伝えに来たようだ。

 そこで、押し倒された俺と押し倒し服を脱がそうとしているサシャーナさんを目撃。

 これは実にやばい。


「あ、はい! わかりました! シャンプーは、そこの棚ですよね! 詰め替えておきます!!」

「違います! ここは誤解を解かないと!!」

「はい、よろしくお願いしますね」


 しかし、礼子ばあちゃんそのまま笑顔で立ち去っていく。

 再び俺とサシャーナさんだけになり、ギラリと目を光らせる。その眼光は、まるで獲物を狙う獣のようだった。


「隙ありです!! とおおりゃああ!!」

「しまったあああ!?」


 一瞬の隙を狙われ、服を脱がされてしまった。 






・・・☆・・・






「はっ!?」

「どうしたの? リリー」


 コンビニでフランクフルトを買い、齧ったところでリリーは声を漏らす。いきなり、声を出したことに驚いた華燐は、首を傾げた。


「今、刃太郎さんが危険な目にあっているような気がして」

「あははは。刃太郎さんに限ってそんなこと……あるかもしれないかな」


 いくら強いと言っても、刃太郎とて人間で男子。

 もしかしたら、ということもあり華燐は否定しきれなかった。同じくコンビニで買ったコロッケを齧り、夜空を見上げる。


「今、刃太郎さん達なにしてるんだろうね」

「楽しくやってるはずだよ! あーあ、あたしもついて行きたかったなぁ。刃太郎さんの実家」

「いや、舞香さんの実家だから」


 数日前、有奈からしばらく会えないと伝えられ笑顔で見送った二人。ここからだと、飛行機に乗っていくほど遠い場所だと聞いている。


「それにしても、どうして刃太郎さんはコトミちゃんを連れて行こうって言ったんだろうね?」

「教育係だからじゃない? 普通に考えて」


 初め、なんでコトミちゃんを? と驚いていた。

 そこでリリーは、ハッと思いつく。

 どうしてコトミを連れて行ったのかと。


「ま、まさか刃太郎さん。コトミちゃんのことが……!」

「いやさすがにそれはないでしょ。コトミちゃんはまだ小学生だよ?」

「で、でもこの前読んだ漫画では、小学生と恋愛をしていた主人公が」

「それは漫画の話でしょ? というか、なんて漫画を読んでるのよ。エッチなやつじゃないよね?」


 リリーの父親は有名漫画家ということもあって。リリーは昔から、漫画などに囲まれて育ってきた。なので、メガネをかけるほど目が悪くなってしまっている。

 だが、それでも漫画を読むことは止められない。

 付き合いが長い華燐だが、知らないうちによくわからない漫画を読んでいることが多いのだ。


「え、エッチなのじゃないよ! ちゃんと健全な漫画だよ! まあ、ちょっと肌色は多いけど……そ、それよりも! 夏休みも後半! もうちょっと刃太郎さんとお近づきになりたいんだけど。なにか、いい方法ないかな? 華燐」


 強引に話題を変えてくるリリーに、怪しいなという視線を向けながら首を傾げる。


「なんで私に聞くの?」

「だって、恋愛ゲーム一杯やってるじゃん。恋愛に興味津々なんでしょ?」

「だから違うって言ってるじゃん」


 公園のブランコに腰掛け、まったくっと呟く。リリーも続き隣のブランコに座り、華燐の話の続きに耳を傾けた。


「恋愛ゲームをやってるのは……まあ、お姉ちゃんの影響かな。昔から、恋愛に興味があったお姉ちゃんが友達から恋愛ゲームで勉強したらって言われて今も続けてるの」

「へえ、そうだったんだ。まあ、言われて見れば華燐のお姉さんってなんだか恋愛苦手そうだもんね。それにしてもあの家で恋愛ゲームって……想像しただけで違和感バリバリなんだけど」

「場所は関係ないでしょ。それよりも、刃太郎さんともっとお近づきになりたいんだよね?」

「うん!! なんかアドバイスない?!」


 とても興奮している。それほど必死なのだろう。華燐は考える素振りを見せ、こういうのはどう? と提案する。


「押し倒しちゃう」

「そ、そんなのだめだよ! 押し倒すなんて! そ、そういうのはもっと仲良くなってからで……」


 やっぱりだ。

 華燐は、今のリリーを見て思った。恋愛に興味津々。だけど、変に初心なところがあり、まったく前進できない。

 そんなところが、姉と似ているなと。


「じゃあ、気長にやるしかないね。見たところ、刃太郎さんに好きな人は居なさそうだし。チャンスはあるよ」

「そ、そうかな?」

「私も応援するから。さっ、もう遅いから早く家に帰ろ」


 今日は、リリーの家でお泊り会だ。

 残りの夏休みを思う存分楽しもう。


「よーし! 今日はナイトフィーバーだ!!」

「ところで、リリー。宿題は終わった?」

「あっ」


 今日は、勉強会に変わった。

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