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第十六話「滝で修行」

 上流へと向かうと百メートル超の滝が現れる。

 ドドドド、と大きな音を響かせていた。

 懐かしいな。

 さっきまでは、ど忘れしていたけどこの滝を見ていると思い出してくる。あの頃の俺は、海パンであの滝に突撃していったんだったな。


 しかし、それを舞香さんが止める。

 父さんや母さんがいた頃は、ただこの滝の凄さに声を漏らすだけだったけど。成長すると、俺は悪がき差が出てきたようで。

 普通に考えたらこれだけの滝に、小学生が飛び込んだら完璧に水圧でどうにかなってしまうだろう。


「おお! 滝だ! 滝!! 師匠! ここでどんな修行をするの!?」

「あんまり危ないことはしないでよ?」

「わかってるって。さ、上に行くぞコトミちゃん」

「はーい!」


 今日の特訓のために、俺達は滝の上へと登っていく。普通ならば、登るのも難しい急な岩場だ。しかし、俺達は軽々と跳ねて登っていく。

 念のため滝から離れたところからだ。足を滑らせないように。


「はー。滝の上ってこうなってたのか」


 少し流れの速い川に、草木がどこまでも続いていた。この先は、行った事がないからまた今度探索しに来てみようかな。


「知らなかったの?」

「まあな。普通滝の上なんて来る事ないからな。お? 有奈が手を振ってるぞ」

「本当だ! おーい!!」


 すると、俺のスマホに電話がかかってくる。

 有奈からだ。俺は、通話ボタンを押して耳に当てた。


『それで、どんな特訓をするの? 滝の上にいって』

「ここから飛び込む」

『え!? だ、大丈夫なの!?』


 これが普通の反応だな。

 しかし、今の俺にとってはどうってことはない。


「大丈夫だ。まあ見ててくれ兄の勇姿を」


 通話を切り、俺はコトミちゃんへと説明を始める。


「いいか? 今からやるのはこの前の特訓に似ている。よく見てろよ」


 俺は足元に魔力を纏わせる。そして、水辺へと足を踏み込ませた。本来ならば沈むはずなのだが、今の俺は浮いている。

 そのまま俺は歩いていく。


「おお! 水の上を歩いてる!」

「魔力は魔法を使うためだけじゃないってことは、これまでの特訓で学んだよな?」

「うん。魔力を纏うことで打撃が強くなったり、体が硬くなったりするんだよね」

「そうだ。これも魔力を使った方法だ。他にも壁にくっ付くこともできたりするかな。んで、今からやるのは」


 おもむろに走り出す。


「えええ!? お、お兄ちゃん!?」

「ここからだ!!」


 そのまま驚く有奈の元へと俺は駆け抜ける。走り走り、水飛沫を上げ水面へと着地。岩場で待っていた有奈へと近づきにっと笑う。


「すごかっただろ?」

「す、すごいけど。あ、危ないよ! しかもそれをコトミちゃんにやらせるの!?」

「確かにやらせる。でも、すぐにってわけじゃない。まずは、ゆっくりと水に浮かべるように」

「お、お兄ちゃん!!」


 有奈の驚いた声に、まさか! と振り向けばすでにコトミちゃんは俺と同じように滝を走っていた。

 嘘だろ。才能がある子だとは思っていたけど、いきなりできるとは。


「うっひゃー! 楽しい!! 水も冷たーい!!」


 元気に走り抜けたコトミちゃんは、満面の笑みで俺達の元へやってきた。


「刃太郎お兄ちゃん! これ楽しい! もう一回やってもいい?!」

「そ、そうだな。それじゃ、次は、逆に上がって行くか?」

「上がる! よーし、競争だ!!」


 目を輝かせ、コトミちゃんは水辺に立つ。まったくこの子は、俺が教えたことをスポンジのように吸収していくな。

 教えるこっちとしては楽でいいんだけど。

 でも、これだったら満月の夜まで間に合うはずだ。


「師匠に勝てると思うなよ!」

「弟子は、いつか師匠を越えるんだー! いっくぞー!!」

「まったくもう。それじゃ、私が。位置に付いて! よーい……どん!!」


 こうして、俺達は滝を登ったり下りたりを五分ぐらいやった後、他の特訓へと移行。今度の特訓は、この前の魔力を纏ったままの組み手を水の上でやろうというものだ。

 今回は、両手と両足だけに魔力を纏わせやる。

 水の上に立ちながらの組み手はかなり難しいのだ。俺もあっちの世界で何度もやってようやく出来たことなんだが。


「せい! おりゃ!!」

「まったく! コトミちゃんの才能には感服だよ!」


 水飛沫を上げながら、水の上で組み手をしている俺達。先ほどの滝を駆け抜けるのもそうだったが、これもまたすぐに出来てしまっている。 

 その才能に最初は羨ましいと思っていたが、もう驚きすぎてすごいという言葉しか出てこない。


「だって、お父さんとお母さんの子供だもん!」

「そりゃそうか。偉大な親の血を受け継いでいるんだもんな!」

「その通り!!」


 バシン!! と突き出した拳同士がぶつかり衝撃波が小さな波を作り上げる。そして、その波は近くに居た有奈を襲った。


「ひゃっ!?」

「あっ。だ、大丈夫か! 有奈!!」

「うぅ、びしょびしょ……」


 おぉ、なんということだ。豪快に水を浴びたせいで有奈がびしょびしょに。服が肌にぴったりとくっ付き体つきが鮮明に……じゃない! 早く乾かさないと。


「コトミちゃん! 木の枝を集めるんだ! 濡れてないやつね!」

「ほい!!」

「ごめんな、有奈。もう少し考えてやるべきだった」

「狙ってやったことじゃないよね?」


 体を隠すように抱きながら、俺に疑いの目を向ける。


「ち、違うって! 俺は、そんな畜生じゃない! 妹の成長した体を見たいからってわざと水を浴びせるなんてことは絶対しない!」

「……そう。それならいい。よいしょっと」

「ちょっ! まだ脱ぐなって!?」


 いきなり俺の目の前で服を脱ぎだしたので、慌てて目を覆い隠す俺だったが。くすくすと、笑い声が聞こえる。

 そーっと手を退けると。


「ドキドキしちゃった? 大丈夫。こんなこともあろうかと、下は水着だから」


 プールの時にも見たあの水着を着用した有奈が悪戯成功とばかりに笑っていた。

 なんだ、そうだったのか。

 ホッと安堵の息を漏らす俺。しかし、ちょっと残念とも思ってしまっているがそれは表には出さないようにしよう。

 俺は変態の兄だとは思われたくないからな。


「木の枝持ってきた!」

「おお、そうか……って、太い!?」

「え? もっと細いのがよかったの?」


 コトミちゃんが持ってきたのは、俺の腕ぐらいの木の枝だった。





・・・☆・・・





「痒いところない? コトミちゃん」

「うん、大丈夫!」


 瀬川家に滞在してから二日目の夜。

 有奈とコトミは仲良く風呂に入っていた。タイルの壁に囲まれ、風呂は詰めれば二人が入れるぐらいの大きさだ。

 コトミは、風呂椅子に腰掛け有奈に髪の毛を洗ってもらっていた。

 長く綺麗な黒髪を白い泡が包んでいる。


「はい、それじゃ流すね」

「はーい」


 シャワーを出し、丁寧に髪の毛についている泡を流し落としていく。全て落とし終わると、まるで犬のようにふるふると激しく震え水飛沫を飛ばす。


「きゃっ。もうコトミちゃん、ちゃんとタオルで拭かないとだめだよ?」

「ごめんなさーい。つい癖でやっちゃった」


 えへっと笑うコトミは、いつの間にかキツネ耳と尻尾を出していた。

 そんな笑顔に魅了されながら、有奈は一緒に風呂に浸かる。

 コトミは、小さいが逆側には排水溝があるため座りづらいだろう。なので、上に乗っけるようにして風呂に浸かった。


「狭いお風呂だけど大丈夫?」


 コトミのことだ。

 もっと広々とした風呂にいつも浸かっているだろうと有奈は心配になり問いかけた。


「大丈夫! 優夏とかそらの家にお泊りした時に、これぐらいのお風呂に入った事があったから! あ、でも二人の家のお風呂はここよりは広かったかな? 広いと一杯人が入れて楽しいよ!」

「あはは、そっか。でも、私は狭いほうが落ち着くかな。広いとなんだか落ち着かなくて」


 目の前にあるコトミのキツネ耳をつんつんっと突きながら有奈は笑う。周りの人達は風呂は広い派が多いが、逆に有奈は狭く一人でゆっくり浸かっていたほうが落ち着くのだ。


「ねえねえ、有奈お姉ちゃん」

「なに?」


 後、二分ほど湯船に浸かっていようと思っていた刹那。

 コトミはこんなことを有奈に問いかけてきた。


「有奈お姉ちゃんは、刃太郎お兄ちゃんのこと、好き?」

「……うん。好き、だよ」


 もちろん兄として、家族として。ずっと、ずっと前から。かっこよく、頼りになる兄。いつも自分のことを心配してくれて、助けてくれた。

 自分が素直にしていない今でも、変わらず妹として接してくれる。

 一年も、異世界で勇者として戦っていたのに全然変わっていない。いつも誰かのために、頑張っている。そんな兄が……好きだ。


「えへへ、私も好きだよ刃太郎お兄ちゃん!」

「そっか。同じだね私達」

「同じだね!」


 顔を見合わせ、二人はくすくすと笑いあう。互いの距離が縮まった。似たもの同士だと、認識し合い、絆のようなものが生まれたのだ。

 そして、つい会話に華を咲かせてしまった。上せてしまうほどに。

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