第十五話「自然の中で」
「いらっしゃいませー! 空いている席にどうぞー!!」
「しょうが焼き定食がおひとつですね。畏まりました」
「ウサギ耳のお嬢ちゃん! サバの塩焼き定食できたよ!」
「はいはーい! 今行きまーす!!」
瀬川定食屋。今日はいつも以上に大繁盛だ。
なぜかって? まあそれは、あれだ。
普段は六十代の老夫婦が働いている昔馴染みの店。この辺りでは、畑仕事をしている人達やここを車で通過するドライバーなどが主に来ている。
客がゼロということはない。
店の中には四人、詰めても六人座れるテーブルが四つに、カウンターのところに五人ほど座れる。
そんな店だが、現在は舞香さんとサシャーナさんが臨時のバイトとしてホールをしている。
普段ホール側の礼子ばあちゃんも今は、亮治じいちゃんと一緒に厨房のほうで大忙し。
「礼子ばあちゃん。本当に、俺達も手伝わなくていいのか?」
本当は、俺達も手伝おうと言ったのだが、子供は自然の中で遊んできなさいと。世間では、俺はもう子供じゃないんだけどな。
まあ、実年齢は十七歳なんだけど。
「いいのよ。それに、今は有奈ちゃんやコトミちゃんと遊んであげなさい」
「コトミちゃんは、この辺り初めてだろ! 案内してやんな! 刃太郎!!」
でも、この状況、本当に手伝わなくていいのか?
チラッと厨房から店の様子を窺う。
「あ、あの! コスプレイヤーの方ですか! 都会から来たんですか!?」
「そうですよー。ご注文はお決まりですか?」
「すっげ! マジもんのコスプレイヤーだ! テレビやネットで見た人よりもなんだか二次元から飛び出たって感じがするぜ!」
そりゃ、異世界から来た本物だからな。
「ありがとうございますー。それで、ご注文のほうはお決まりですか?」
「あの! 一緒に写真とか撮ってもらってもいいですか?!」
「オーダー入りまーす。ちょっと写真を撮ってきますねー」
「あいよ! だけど、すばやく撮ってくれよ!」
「「やった!!」」
どう考えても駄目でしょ、サシャーナさん亮治じいちゃん。
真面目に働いているの舞香さんだけじゃないか。どこから嗅ぎつけて来たのか。サシャーナさん目当て手で来る地元の客がぞろぞろと。
舞香さん目当ての客達もいるのだが。やはり、ウサギ耳で田舎のそれも定食屋では目立つ不思議な国から来たかのような洋服を着たサシャーナさんを目当てで来る客のほうが多い。
先ほどの地元の学生であろう男子二人は、サシャーナさんと一緒に写真を撮ってもらって満足げに帰っていく。
おい、なにか食べていけよ。
「お席が空きました。こちらへどうぞー!」
「ふふ。サシャーナちゃんは働き者で助かるわ」
「まったくだ。最初見た時は、大丈夫かって思ったけどよ。笑顔を絶やさす丁寧に素早く働く。手馴れたもんだな」
その代わり、料理は一切できないようですが。
だから、ホールのほうは完璧になったんだろう。
「ささ! ここは私達に任せて刃太郎様は、お二人と一緒に遊んできてください!」
「でも、遅くなっちゃ駄目よ? 日が沈むまでには帰って来なさいね」
「……うん、わかった。それじゃ、行こうか二人とも」
「いこいこー! 探検だー!!」
「行って来ます、舞香さん。おじいちゃんおばあちゃん。サシャーナさんも頑張ってくださいね」
食べに来ているお客さん達に頭を下げながら俺達は店から出て行く。
・・・★・・・
「おやまあ? もしかして刃太郎くんかい?」
「あっ、とも子ばあちゃん。元気そうだな」
「そりゃ毎日お天道様の恵みをたっくさん浴びてるからねぇ。刃太郎くんこそ、行方不明って聞いてたけど。いつ帰ってきたんだい?」
田んぼなどが続く道を三人で歩いていると、昔からよく仲良くしてくれていた斉藤とも子ばあちゃんと出会う。
間違っていなければ今年で、八十歳になるはずだ。
だが、今日も腰を真っ直ぐにし散歩をしていたようだ。
「一ヶ月ぐらい前かな。今は、久しぶりにこっちに滞在するつもりなんだ。あ、そうだ。紹介しておくよ。この子は、天宮コトミちゃんだ」
「コトミだよ! よろしくね!」
「あら、元気のいい子だねぇ。そうだ。丁度飴玉を持っていたんだった。はい、これ」
「ありがとう! はむ」
とも子ばあちゃんから貰った黒飴をコトミちゃんは、さっそく口の中に放り込む。口の中でころころと舌で転がしている姿はとても可愛い。
「有奈ちゃんもよかったねぇ。お兄ちゃんが帰って来てくれて。これからは、いつでも甘えられるね」
「そ、そうですね……」
「おや? やっぱり高校生になると甘えるのは恥ずかしい?」
「ちょっと……」
うんうん、恥ずかしがりながらこっちをチラチラ見る有奈は今日も可愛い。俺的には恥ずかしがらず、どん! と抱きついてくれてもいいんだけど。
「有奈も年頃だからな。色々と気をつけているってことだよ」
「そうだね。でも、やっと帰ってきたお兄ちゃんなんだから。甘えたい時は素直に甘えてもいいのよ? それが兄弟。家族というものなんだからね」
「は、はい」
そう言って、とも子ばあちゃんは去っていく。
その後俺達は、駄菓子屋などで駄菓子を買い、昔よく遊んでいた川辺へと移動する。小鳥達の囀りや、森が揺れる音を耳にし、辿り着いたのは今も変わらない透明感のある川。
流れは緩やかで、今の時期だととても冷たく気持ちがいい。
木々に囲まれているが、少しだけ開けた場所なので俺達はここにしばらく滞在することに。
「つっめたーい!」
「あんまり乗り出しちゃだめだよ?」
「はーい」
丁度いい岩場に、三人仲良く並んで腰掛ける。
靴と靴下を脱ぎ素足を川に入れる。
昔もこうして涼んでいたっけ。
「そういえば、奥のほうへ行けば滝もあったよな」
「うん。昔、お兄ちゃん。その滝を見て修行する! って滝に突っ込んでいきそうだったよね」
「そ、そうだっけ?」
俺の反応に有奈はくすっと笑い語りを続ける。
「そうだよ。それで、舞香さんによく危ないって怒られてた」
「滝修行! やってみたい!!」
「こら。だから危ないって言ったばかりでしょ?」
「でも、一度でもいいから滝修行やってみたいよ!」
「だめです。年上として、断固として止めます」
「けちー!」
なんだか、二人のやり取りを見てると自然と笑みが零れるな。
まるで。
「姉妹みたいだな」
「私とコトミちゃんが?」
「有奈も黒髪にすればもっと姉妹っぽく見えるんじゃないか?」
「え? 有奈お姉ちゃん黒髪だったの? なんで、染めちゃったの?」
「そ、それは……な、内緒!」
と、慌てて駄菓子屋で買ってきたどデカチョコに齧りつく。しかし、コトミちゃんの純粋なる視線はまだまだ諦めていない。
その後も、駄菓子を食べている有奈の顔をじっと見詰めていた。
「ねえ」
「そ、そうだ! コトミちゃん! 上流に行ってみない? ほら、滝! 滝を見に行こうよ!」
「滝! 修行していいの!?」
無理やり視線を逸らすために話題を出す有奈。
「え、えーっと。お、お兄ちゃん……!」
おっと、助け舟を出さなくちゃならないようだ。
可愛い妹のためだ。ここは俺がなんとかしてやらないと。
「コトミちゃん。今日は滝で力の制御の修行をしようか」
「やる! 滝修行!!」
「お、お兄ちゃん?」
心配そうにこっちへと視線をやる有奈。だが、俺は大丈夫だと頭を撫でる。一日でも無駄にはしたくないからな。
満月の夜。その日まで。
「そうと決まれば滝に行くぞ! 俺に続けぇ!!」
「わーい!!」
「二人とも! 駄菓子忘れてるよ!!」




