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第十四話「田舎へゴー」

「実家に? あぁ、そういえば毎年これぐらいの時期に数日帰っていたっけ」

「ええ。それに、お父さんとお母さんもあなたに会いたいって」


 コトミちゃんの力の根源から九日というタイムリミットを通達された次の日。

 俺はこれからもコトミちゃんの特訓に力を入れようと試行錯誤していたところに、舞香さんが言い出した。

 そこで、俺は思い出したのだ。

 俺の母さんと舞香さんの親。

 その二人が住んでいる実家に、毎年夏休みのこの頃になると数日ほど滞在することを。


「えっと、何日ぐらい滞在するの?」

「そうねぇ……大体四日から五日ぐらいかしら?」


 そんなに滞在するのか。

 すでに一日経っている。そして明日行くと言うことで、そこから最大で五日と考えると後二日しかないことになる。その間、コトミちゃんの特訓はできない。


「その間は、コトミちゃんとも離れ離れね。ちゃんと連絡しておくのよ?」

「え、あっ。ま、舞香さん」

「なに?」


 どうしたらいい。

 さすがに数日特訓をしないと、いやここはサシャーナさんに任せるか? だが、あそこまでいったら俺がやるべきなんじゃないか。

 しかし、彼女は俺がコトミちゃんを成長させる姿を見ていると言った。

 俺が、数日もコトミちゃんから離れていればもしかして、予定よりも早く出てくるんじゃないか?

 悩みに悩んだ結果、俺は。


「こ、コトミちゃんも連れていっていいか?」

「コトミちゃんも?」


 俺は、とんでもないことを言ってしまったと後悔した。

 なぜって。

 近くにいた有奈が、ちょっと引き気味なんだ。


「お、お兄ちゃん。そこまでコトミちゃんと離れたくないの?」

「ち、違うんだ! 有奈! これには、ふかーい! 事情がだな!」


 と、誤解を解こうとするが舞香さんはポンッと俺の肩に手を置きくすっと笑う。


「いいのよ、刃太郎。コトミちゃん可愛いものね。昔の有奈みたいで、あなたにべったりだもの」

「ああ、確かに可愛い。それは認める。だけど、舞香さん。俺がコトミちゃんを連れて行きたいのにはな」

「話は聞かせてもらいました!!」

「聞かせてもらった!!」

「サシャーナさん!? コトミちゃんも!?」


 舞香さんにも誤解されたままなので、なんとか言い訳をしようと思った刹那。玄関を開けて出てくるコトミちゃんとサシャーナさん。


「そういうことでしたら、私もついて行ってもよろしいでしょうか? コトミ様の保護者として!!」

「さすがに、それは」

「良いらしいわよ」


 受話器を持ったままにっこりと笑う舞香さん。なんて行動の早い人なんだ。そして、じいちゃんばあちゃんもそれでいいのか?

 何もかもがスムーズに進み固まっていると、コトミちゃんが俺の腰辺りに抱きついてくる。


「刃太郎お兄ちゃん。私とそこまで離れたくなかったんだね!」

「違うんだよ、コトミちゃん。俺は、君の教育係として君をね」

「コトミちゃんが妹か……なんかいいかも」


 有奈よ、お前まで何を言い出すんだ? 朝っぱらから女子に振り回されっぱなしな俺は、その後コトミちゃんやサシャーナさんを加えて朝食を食べた。

 そこで、どうしてこんな朝っぱらから? と問いかけたところ。


「突撃! お知り合いの朝ごはん!!」

「刃太郎お兄ちゃんと一緒に朝食を食べたかったんだ!」


 だそうだ。





・・・★・・・





「うわー! 自然がたくさん!!」

「いやぁ、空気がおいしいところですね」


 そして、翌日。

 飛行機で数時間。空港から車で一時間ちょっと。

 やってきたのは俺の母さんや舞香さんの親が住んでいる土地。周囲は、自然に囲まれており、建物などは適度にある。

 瀬川亮治じいちゃんに瀬川礼子ばあちゃんは、地元で小さな定食屋をしているんだ。

 俺が十六歳の頃は、確か亮治じいちゃんが六十二歳で礼子ばあちゃんが五十九歳だった。となると、四年経った今は、亮治じいちゃんが六十六歳で礼子ばあちゃんが六十三歳になる。

 俺達も、一年で何度か帰る時は、よく店を手伝っていたものだ。

 小さな定食屋だが、昔からある店で馴染みのあるところ。地元の人達には思い出の店となっている。


「ふふ、すごい田舎でびっくりしたでしょ?」

「いえいえ! あっちの世界では、こういう自然に囲まれたところ出身だったので!」

「あら? そうなの。コトミちゃんはどう?」

「なんだか体がうずうずしちゃう! 家にある森でもこうだった!」


 おそらく、獣人の血が騒いでいるのだろう。


「コトミちゃん。耳と尻尾出てるよ」

「あっ。んー! ……ふう」


 俺の指摘にコトミちゃんはキツネ耳と尻尾を慌てて隠す。周りには、誰もいなかったため一安心だが。


「それじゃ、一気に行きましょう。後、十分ぐらいで到着するわ」


 今は、自動販売機の前で休憩していたのだ。

 車は天宮家の黒服の人達が運転してくれている。いつもなら、タクシーで向かっていた。

 ちなむに舞香さんは免許だけは持っている。だが、車は持っていないんだ。レンタカーという手もあったが、今回はサシャーナさんが根回しをしてくれたとのこと。

 じいちゃんもばあちゃんは、今の時間帯は忙しいはずだ。それに、この人数だ。じいちゃんが持っている普通乗用車じゃ乗り切れない。


「皆、乗ったわね?」

「はーい!」

「乗りました!」

「準備オッケーだ」

「私もだよ、舞香さん」


 助手席に舞香さん、後部座席に左からサシャーナさん、コトミちゃん、俺と、有奈の順番に座っている。確認をした舞香さんは、黒服の人に行ってくださいと伝えた。

 そして何事もなく、車を走らせること十分ちょっと。

 ようやく瀬川家に到着した。


「おお! 立派なお家ですね!」

「普通よ、普通」

「天宮家を見た後で、立派と言われてもな……」

「それでは、私はこれで。ご帰宅の際はご連絡してください」

「あ、はい。ありがとうございました。また、帰りにお願いしますね」


 瀬川家に到着し、黒服の人は一礼をして去って行く。俺達は、昔ながらの木造の家へと荷物を持って入っていく。


「懐かしいな。四年ぶりだもんな。二人は、俺が居なかった時は、こっちに来ていたのか?」


 荷物を居間に置きながら問いかける。俺がいない四年。いつものように実家に帰っていたのかを。


「帰って来ていたわ。有奈は、心ここにあらずって感じだったけど」

「それだけ、刃太郎様を心配していらしたんですね! いやぁ、愛されていますね!!」

「あはは。それほどでも」

「ねーねー。この人達って」


 俺達が会話している中、いつの間にか居間の奥へと移動していたコトミちゃん。そこには、二人の男女の写真が立てかけられていた。

 あぁ、その人達はなっと言いながらコトミちゃんに近づいていく。


「俺と有奈の父さんと母さんだ」

「お父さんとお母さん、死んじゃったの?」

「……うん。俺達がまだコトミちゃんぐらいの時にね」

「そう、なんだ」


 それを聞いたコトミちゃんは、その場に正座し顔の前で手を合わせ目を瞑る。


「では、私も」


 続くように、サシャーナさんも。

 舞香さん、有奈も揃って手を合わせた。そして、俺も。

 父さん、母さん。四年ぶりだね。俺、すごい体験してきちゃったよ。信じられないかもしれないけど。異世界に行ってきたんだ。そこで、勇者として、色んな敵と戦って、世界を救ったんだぜ?

 四年間も、この世界にいなかったけど……俺は無事に帰ってきた。

 これからは、二人の分まで俺が舞香さんや有奈を護ってみせるから。

 だから、安心して見守っていてくれ。

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