第十三話「力の根源」
警備員思ったんです。
タイトルを変えるとしたら、異世界から帰還したら四年後でした。がいいんじゃないかって。
『さあ、始まりました! コトミ様の特訓第二ステップ! いったいどんな特訓となるのでしょうか! 解説の駿くん、どう思いますか?』
『そうですね。やはり、魔力制御ときたら次は肉体的な特訓じゃないでしょうか』
「なんでこの二人、見学なのに実況してるの?」
「さ、さあ?」
しかも、机と椅子、マイクまで用意して本格的にやっているというね。駿さんも結構ノリがよろしいようで。
いつも通りの空間へとやってきた俺達。
見学をすることになった有奈とリリーはサシャーナさんとその部下が結界を張って守られているのを確認してから魔力を纏う。
「さて、今日は次のステップってことで魔力を制御したまま俺と組み手をするぞ」
「おっす! 師匠!!」
『おっと! どうやら予想通りのようです!』
まさか、ずっと実況をするつもりなのか? サシャーナさんは。
「まずは、五十パーセントからだ。できるか?」
「できる。五十。五十……ふん!」
特訓の成果あり。コトミちゃんは魔力測定器を五十に設定して、魔力を纏った。
「よし。それじゃ、打ち込んで来い! 弟子!!」
「おっしゃー!」
ダン! と一蹴りで俺との距離を詰めた。
真っ直ぐな瞳で、真っ直ぐな右ストレートを打ち込んでくる。
「よっ」
「おりゃ!」
それを受け止めたら、流れるように左から回し蹴りを食らわしてくる。
「まだまだだ! もっと激しく!」
「そりゃあ!!」
「頑張れ! コトミちゃん!」
「刃太郎さんも負けないでくださーい!!」
『激しい! 激しいラッシュだコトミ様! しかし、刃太郎様も負けじと防いでいきます!』
『これは、見ているだけで熱くなれる特訓ですね』
それから俺はコトミちゃんの殴りと蹴りを受け止めつつ、ちょっとずつだが俺からも反撃をした。
コトミちゃんは、それを身軽にひょいっと避ける。
さすが身軽だ。
そして、才能も。魔力を纏いながら最初からこれだけ動けるならこのステップも早いうちに終われるだろう。
「よし! 次は七十だ!」
一度、俺から距離を取り、コトミちゃんは魔力を解き、測定器を七十に設定し目を瞑る。
「七十……七十!!」
すごい。さっきまで五十で戦っていたのにもう七十に調整できるとは。俺も、コトミちゃんと同じく七十ほどの魔力を纏う。
「思いっきりいくよ! 師匠!!」
特訓の時だけ、俺のことを師匠と呼ぶ。
聞くところによると、気分らしい。
まあ気分も大事だと俺も、コトミちゃんのことを本当の弟子だと思ってやっている。
まるで、格闘家のような構えをした後、再び飛び込んできた。
「えいりゃ!!」
「今度はぶつける!」
さっきまでは受け止めていたが、今度は俺も攻撃で加えることにした。魔力と魔力が豪快にぶつかり、火花が散る。
「あははは! 楽しいね! これ! よーし、もっとやっちゃおう!!」
「え? コトミちゃん待った!」
魔力を纏った組み手が徐々に楽しくなり、テンションが上がりに上がったコトミちゃんは。魔力をもっと強めにすると宣言。
それはだめだと注意したのだが、もう遅かった。
ボン! と魔力は膨れ上がる。
これは八十? いや、九十か! まったくもう、コトミちゃんは! と俺は仕方ないなとそのまま受けてたとうと拳を突き出す。
「な、なんだ……!?」
『うおっ!? 眩しっ!?』
刹那。
膨大な光が俺達を包み込んだ。
・・・★・・・
次に目を開けると、夜空に輝く満月が美しくススキが大量にある場所だった。まだ夏だっていうのに、まるで秋のような雰囲気だ。
どういうことなんだ? と周りを見渡していると、一人の少女を発見。
白い髪の毛にキツネ耳に尻尾。
じっと天にある満月を見詰めている少女。俺はそっとその少女へと近づいていく。
「見て、綺麗な満月だよね」
「ああ。それで、君は? 俺はどうしてここに」
俺が近づいていくと少女は振り向き、くすっと笑う。
驚いた。
少女の顔は、コトミちゃんそっくりだった。しかし、天真爛漫なコトミちゃんとは違いどこか大人びた雰囲気があった。
「コトミちゃん?」
「違うよ。僕は、コトミじゃない。まあ、間違ってはいないけどね」
どういうことだ? と首を傾げる。
ボーイッシュな喋り方だ。
しかも僕っ娘か。
「僕は、言うなればコトミの中にある破壊衝動。力の根源って言ったところかな」
「それって、卓哉さんが言っていた世界を滅ぼしかねないって言う」
「それそれ。大当たり」
ということは、ここはコトミちゃんの中?
「お前が、俺のことを呼んだのか?」
「そんなところ。あ、ずっと立っているのも疲れるでしょ。ほらこっちに座ってよ」
パンっと手を叩くとどこからともなく竹のベンチが現れた。
コトミちゃんの力の根源は、先に座り俺のことを手招きしている。
俺は、素直に隣に座り一緒に満月を見上げた。
「それで、どうして俺を?」
「そうだねぇ。伝えたい事があるから、かな。コトミの教育係である君に」
また何もないところから月見団子を取り出し、その一本を俺に渡して語り続ける。
「僕は、コトミの持っている力そのもの。君も知っているかもしれないけど。世界を滅ぼしかねないほど膨大なんだ。そして、その本質は破壊。普段はあんまり表には出ないけどその片鱗はすでに出ているんだよ。自分で言うのもあれだけど。片鱗だけで、軽いクレーターができるぐらいすごいんだ」
「それでね。僕は、コトミの体を使って全てを壊すつもりなんだ」
と、小さな力の根源が出現し続きを語る。
全てを壊す、か。
「その破壊はすぐにはできなかった。小さいままのコトミの体を使ったらコトミのほうが先に壊れちゃうからね」
更にもう一体追加。
つまり、彼女はコトミちゃんの体なくしては存在することも力を使うこともできない。言わば、コトミちゃんの持っている強大な力に意思が宿ったと解釈するべきか。
「僕は待っている。コトミが成長するのを。僕の力を最大限にまで扱えるその日まで。そうなった時は、僕がコトミになる」
「……ひとつ、聞いていいか」
「なんだい?」
ふっと、現れた小さな力の根源が消える。話が一区切りしたのだろうと思い、俺は問いかけた。彼女の話にひとつ疑問を覚えたのだ。
「なんでそんなことを俺に話すんだ?」
そう、彼女の話通りならコトミちゃんが成長するのをずっと待っていればよかったはずだ。それなのに、どうして俺を呼んでわざわざ話すのかと。
「ふふっ。どうしてだろうね。そうだなぁ……止めて欲しいから、かもね。僕も最初は、破壊衝動のままに全てを破壊しようと思っていた。だけど、彼女の中で色んなものを見て、色んなことをコトミになりきって体験したことで変わっちゃったらしい」
でもね、と腰を上げ彼女が歩くと心地よい風が吹き、ススキは揺れ、俺達の頬を撫でた。
「この破壊の衝動は止められない。止まらないんだ」
「だから、俺に止めてほしくて」
「そういうこと」
振り返った彼女はこちらへと歩み寄り目の前で止まり、ぐいっと顔を近づけ、怪しく笑った。
「今から、九日後の満月の夜。僕は表に出る。その日まで、僕を抑え付けられるほどまで成長させてみせてよ。あの美しい世界を、守りたいでしょ?」
「もちろんだ。だけど、九日後か。結構早いな」
「今の調子だと間に合わなさそうかな? さあ、伝えるべきことは伝えた。後は……君とコトミ次第だ。あ、それとこのことは他言無用で」
「なんでだ?」
「そのほうが面白いじゃん。君の慌てる様を、じっくり見ていてあげるよ」
パン! と柏手をするとまた膨大な光が溢れ出し俺を包み込んだ。
そして、再び目を開ければ、そこはコトミちゃんと特訓をしていたあの真っ白な場所だった。
「おーい、刃太郎お兄ちゃーん?」
「あ、コトミちゃん」
「どうしたの? ぼーっとしてたけど」
「俺、どのくらいぼーっとしていた?」
「うーんとね、十五秒ぐらい!」
十五秒だけだったのか。
もっと長く彼女と話していたような気がしたんだけど。それにしても、九日後か。俺は、彼女との会話をフラッシュバックさせながら、コトミちゃんをじっと見詰めた。
「どうしたの?」
可愛らしく首を傾げている。この子に、この世界は破壊させない。
そのためにも、俺が全力で彼女を成長させないと。
「なんでもない。ほら、特訓の続きをしよう」
「はーい」
彼女の笑顔を、守る為に。




