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第十一話「少女達の攻防」

『いやぁ、大盛り上がりでしたね卓哉様!』

『ああ。だが、次の子供の部も盛り上がるに違いない。なにせ、僕の可愛い娘が参加するんだからね』

『確かに!! っというわけで、選手の皆さん! 準備はよろしいでしょうか?!』


 サシャーナさんの問いかけに、子供達は素直にはいと答える。そんな中、コトミちゃんは卓哉さんのほうへと振り向きにこっと笑った。


「お父さーん!! 私、頑張るからねー!!」」


 とても、とても眩しく可愛い笑顔で卓哉さんに手を振るコトミちゃん。そんなコトミちゃんを見て、卓哉さんは満面な笑顔のまま。


『卓哉様が倒れたあああ!?』


 机にドゴン! という大きな音を響かせ倒れてしまった。すぐさま、駿さんが卓哉さんのもとへ駆けつけ調べる。

 皆の視線が集まる中、駿さんはマイクを持ちこう答えた。


『ご心配要りません。少し意識が飛んだだけのようです。とても幸せそうな顔をなされています』

『とのことです!! ご心配要りません! ただ愛娘の笑顔にやられただけのようです!! おそらく、少しすれば意識を取り戻すでしょう!!』


 二人の言葉に、大丈夫なのか? と逆に心配になってしまう観客達。しかし、その心配はすぐになくなった。駿さんの言葉通り意識を取り戻したらしく、卓哉さんはバッと勢いよく起き上がった。


「お父さん! 大丈夫?!」

『ああ、大丈夫さコトミ。お父さんは、強いからね』


 強いとか弱いとか、関係ないと思いますが。


『卓哉様。鼻血が出ております!』

『おっと、すまない』


 鼻血が出ていることに気づき、ティッシュを渡すサシャーナさん。あの人、マジで大丈夫なんだろうか。


『さて、卓哉様も落ち着いたようなので。始まります! 始めます!! 子供の部、スタートです!!』


 完全に、卓哉さんに全てを持っていかれた感がある中。子供の部が開始した。子供達は、楽しそうに走り出し鉢巻を取り合っている。

 しかし、そんな子供達の中でとあるチームが暴れる。


「次だ! 突き進め!!」

「「畏まりました! ロッサ様!!」」


 ロッサとサシャーナさんの分身体達だった。まるで、水がないかのように軽快な動きで移動し、次々に鉢巻を奪い取っていくロッサ。

 鉢巻を取られた子供達は、早すぎて何をされたのかわからない状態だ。


『早い! 早すぎる! 開始早々鉢巻を五つも取ってしまった!! なんだあのチームは! なんだあの銀髪の少女は! なんだあの騎馬達は!?』


 あなたの分身体ですよ、騎馬達は。


「す、すごいねロッサちゃん」

「いや、騎馬の二人も負けてないと思うよ。どういう足腰してるんだろ?」


 ロッサが普通じゃないのはわかっているが、騎馬をしている二人が誰なのかわかっていないので素直に驚いている。


「あの二人。サシャーナさんが作った分身体ですよね?」

「お、よくわかったな華燐」


 飲み物を買ってきた華燐は、俺の隣に座り水の中を爆走している分身体を見詰めながら頷く。


「お姉ちゃんが似たような術を使うので。私も出来るんですが。はい、冷たい飲み物です。コーラでよかったんですよね?」

「ありがとう。そっか、華燐には姉がいるのか」


 冷えた缶ジュースを受け取り、俺は呟く。華燐が、霊能力者の家系だということは教えられていたが。家族のことに関しては、全然聞いていなかった。


「私は、次女なんです。四つ年上の姉と二つ下の弟がいるんです」


 有奈やリリー、光太にも買ってきた飲み物を配りながら語る。その中でも、華燐は鳳堂家始まって以来の天才と呼ばれているということか。

 となると。


「仲良いのか?」


 仲の良さが気になる。

 俺が召喚された異世界でもあったが、才能があったりなかったりで仲間外れにされる。それか、陰湿な悪戯をされたり。

 そういうことがないか心配になっている。


「そうですね。姉とは仲はいいですよ。というよりも、姉はなんだか放っておけない人でいつも心配しているんです。弟は……まあ、思春期なのかちょっと仲がいいとは言えないですかね」

「あー、あの人かー。確かに、あたしも心配になっちゃう気持ちわかるかも」

「うん。あの人のことを見たらね」


 いったいどんな人なんだろう? 華燐の姉というのは。

 そう思っていた矢先、歓声が最高潮に。

 なんだ? とプールの方を見ると。


「へっへん! 取ったりー!!」

「その鉢巻! 我に捧げるが良いい!!」


 俺が予想していた通り、ロッサとコトミちゃんの二人が注目を浴びていた。


『すごい! これはすごいぞ! コトミ選手! ロッサ選手! 次々に鉢巻を奪取! コトミ選手正確かつ大胆に! ロッサ選手は大胆かつ素早く!! これはもうこの二チームの激戦間違いなし! ゲストの卓哉様はどう思われますか?』

『そうだね。あのロッサという子。中々のやり手だね。あのパワフルな行動。そして人を動かす言葉の力……まるで一軍を率いていたかのような凄みがある』


 まあ、一軍以上を率いていた元魔帝さんなんですがね。だが、事情を知らないのに、すごい観察眼だ。


『だが、僕としてはコトミに勝って欲しい。そして、優勝したコトミに僕からの最高のプレゼントを……ん? なんだって? もうそんな時間なのか?』


 どうやら卓哉さんはここまでのようだ。

 突然黒服の人が現れ、卓哉さんの耳元で何かを囁いている。とても、とても悔しそうに拳を握り締め、卓哉さんは叫んだ。


『コトミ! お父さんはここまでだ! だが、必ず優勝するんだぞぉ!!』

『はいありがとうございました! ゲストの卓哉様はここで退場!! どうやらお昼休みが終わってしまったようです。残念! まことに残念!! 愛娘の晴れ姿を最後まで見れないなんて……!』


 まるで、卓哉さんの気持ちを代弁しているかのように叫ぶサシャーナさん。やっぱり、仕事の途中だったわけだからな。

 仕方ないといえば仕方ないことだ。


「くっくっく。コトミよ、随分と父親に愛されているようだな」

「時々、変なことするけどね。基本いいお父さんだよ」


 そんなこんなで、ついにロッサとコトミちゃんのチームだけになってしまった。一時その場で睨み合い、出方を窺っている。


「我と一騎討ちか。勝て目などないぞ?」

「やってみないとわからないよ! それに、今の私はちょーっと成長しているから!!」

「ほう? ならば、そのちょっと成長した力を」


 ぐんっと両手を構える両者。

 静まる観客達。

 なんだ、なんなんだ。大人の部と違った盛り上がりになっている。まるで、闘技場で戦っているかのような。これから凄まじい攻防が始まる一瞬の静けさ……。


「見せてみるがいい!!」

「見せてやるー!!」


 炸裂。

 両者負けじと鉢巻を奪い取ろうと両腕を伸ばす。

 弾き、伸ばし、弾き、伸ばし。

 その激しい攻防は、もはやアクション映画を越えている。というよりも、あんな小さな女の子達がするような攻防じゃないだろ。

 普通なら無理だ。普通ならな。


『激しい! 激しいぞ! この攻防!! 両者鉢巻を取らんと! 鉢巻を取られんと!! 激しい戦いを繰り広げているー!!!』

「す、すげぇ」

「なんだあの戦い。本当に子供の戦いか?」

「ただじゃれあっているってわけじゃないよね? あれ? なんだか風圧が……」


 鉢巻の取り合いは更に激しさを増し、とんでもないことが起こりつつある。

 二人の攻防のせいで、風圧がプールに観客達に襲い掛かっていた。

 プールは波打ち、観客達の髪の毛は大きく靡いている。

 これは、まずい。


「ふはははっ!! やるではないか!、コトミよ!!!」

「負けないぞー!!!」

「ストーップ!!! ストップだ、二人とも!!!」

「なんだ? 刃太郎! 真剣勝負に水を差すつもりか!!」


 違う、そうじゃない。

 ただこのまま続けたら。

 俺は、視線を二人の足元。いや、コトミちゃんの騎馬役である優夏ちゃんとそらちゃんへ向けた。


「ちょ、ちょっとこれきつい、かも……!」

「あわわっ!? ば、バランスが……!?」


 サシャーナさんの分身体達はともかく、優夏ちゃんとそらちゃんは普通の人間。この激しい風圧で波打っている中を耐えられるはずがない。


「ふ、二人とも大丈夫?!」


 ハッと気づいたコトミちゃんは一瞬だが、手を止めてしまった。


「貰ったぁ!!」

「あっ」


 その隙を、ロッサは逃すはずがない。ぐんっと伸ばした右手が、コトミちゃんの鉢巻を捥ぎ取った。


『決着!! ついに決着です!! 激しい攻防戦を制したのは、銀髪の弾丸ロッサ選手です!!』

「ご、ごめんねコトミちゃん。私達のせいで」


 勝利宣言をされ、子供の部は終わった。

 多くの歓声の中、優夏ちゃんとそらちゃんは申し訳なさそうにコトミちゃんに謝っている。


「ううん、いいの。私こそ、二人のこと考えずに……ごめんね」


 だが、コトミちゃんは自分が悪いと頭を下げる。

 それを見た優夏ちゃんはぽんっと頭に手を乗っけた。


「あんたが謝る事じゃないわよ。あんたは、いつも変わらず楽しくやっていたんでしょ?」

「う、うん」

「ならいいじゃない。ほら、しっかりしなさい!」

「次頑張ろう! 私もそれまで足腰鍛えておくから! で、できるだけ……」

「そ、そうだね! よし、次ぎこそ優勝だ!!」

「「おお!!」」


 どうやら、心配なさそうだな。

 互いに励ましあっている三人を見て、ロッサはふむっと近づいていく。


「コトミ」

「あ、ロッサちゃん! えへへ、さっきのはやられちゃったよ。でも、楽しかった!! またやろうね」

「う、うむそうだな。先ほどの戦い。我は完全に勝ったとは思っていない。次は、万全な貴様と戦い必ず勝利してみせる! よいな?」

「うん!! 次は絶対負けないよ!!」

「残念だったな。次も我が勝つ」

「私が勝つの!!」

「いいや我だ」


 やっぱりあいつ、こっちに来てから変わってきているな。いや、元々勝負には拘りのある奴だったのかもしれないけど。

 今の状態で、あっちの世界に行ったら皆どう思うんだろうな。


『それでは、授与式をしますので選手の皆さんはお集まりくださーい!!!』


 さ、賞金を貰って今日は皆で何か食べに行こうかな。

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