第十話「夢と希望」
最近、不良……悪い子? いやむしろ悪い子要素も少なく、タイトル詐欺じゃねぇか! と思われていないか、びくびくしているスタイリッシュ警備員なり。
とはいえ、有奈は完全なる不良じゃないんです! 兄が帰って来るようにと頑張って不良になりきろうとしていた子なんです! 健気なお兄ちゃんっ子なんです!!
どうか……どうかわかってくだしゃい!!
と、なぜか夢の中で叫んでいました。まあ実際、このままのタイトルでいいのかな? と思っていたり。
『さあ、始まりました。一大イベント! 集まれ、プールで騎馬戦!! ぽろりもあるよ!!』
「なに付け足してるんですか!?」
『はい!! 実際あるかもしれませんから! そのための水着女子! そのためのビキニ!!』
ついツッコミを入れてしまった俺に対し、普通に応対してくれるサシャーナさん。ツッコミつつも俺は相手の鉢巻を奪い取った。
現段階では、参加チームは二十。
そのうちの三チームから俺は鉢巻を奪い取った。有奈達のほうは現段階では四チームから鉢巻を奪っている。よし、今のところは順調だ。
『さて、鋭いツッコミを頂いたところで自己紹介! 私、毎年の司会進行を勤めさせて貰っています。天宮卓哉様の秘書、サシャーナです!!』
そういえば、サシャーナさん秘書だったな。
なんだかすっかり馴染みがある感じになってきたからすっかり忘れていた。
ってん? その隣にいるのって。
『そして、今回のスペシャル! ベリースペシャルなゲストは!! なんと!? 天宮卓哉社長です!!』
『やあ、皆さん。今日も元気にエンジョイしてるかな?』
「なにやってるんですか!?」
マジで何をやっているんだあの人は。あなたは、今日も仕事で忙しいと言っていたではないか。それなのに、なぜ海パン姿なんだ。
『いやぁ、娘が参加すると聞いて』
『さすがはコトミ様命!! コトミ様の晴れ姿を見るためなら仕事なんてぽーい!!』
いやいや、それはだめでしょ。社会人として。そもそもその人社長ですから。いくら愛娘のためとはいえ仕事を途中で放り出して来ちゃだめでしょ。
『というのは、冗談で。今、卓哉様はお昼休憩を利用してここへ訪れているのです。決して、仕事を放り出しているわけではありません!! ご安心ください、刃太郎様!!』
「個人の名前を呼ばないでください!!」
「貰ったぁ!!」
俺がツッコミに忙しいところを狙い背後から鉢巻を奪い取ろうとする青年。だが、俺にはそんな隙などない。振り向くことなく伸ばされた手を弾きそのまま鉢巻を奪い取った。
「なにぃ!?」
『おお。さすがだね、刃太郎くん。その人間離れした身体能力惚れ惚れするよ』
「これで、刃太郎チームは鉢巻の数は四! 現段階トップの有奈チームと並びました!! おおっと! ここで奴が動き出したぞぉ!!』
「奴?」
何か、サシャーナさんも観客も湧いている。まさか、このイベントの覇者的な奴がいるのか? それが気になり皆の視線を辿ってみた。
そこに居たのは、丸刈りの男だった。
男は、誇らしげに腕組をしたまま生き残ったチームに近づいて行っている。
「来た! 脱がせ王の貫児だ!!」
「今日も、その早業見せてくれ!!」
「来たな! 女の敵!!」
「今日こそ、やられてしまえ!!」
『盛り上がってきましたああ!! 今年もイベントに参加してました斉藤貫児選手! 彼は、このイベントで四回も優勝している覇者! その早業は誰にも見切れない! 鉢巻と同時に女子のビキニまでも脱がせてしまうという男の味方であり女の敵!! この大会だからこそ、こんな破廉恥な行為が許されてしまう!! さあ、今年はいったいいくつのビキニを脱がしてしまうのか!!』
「ふはははは!! 男ども!! 今年も、お前達に夢と希望が詰まったふくらみを見せてやる!!」
うわぁ……こんな奴がいたのか。男達も、すげぇ盛り上がってるし。女子達は、別の意味で盛り上がっているけど。
「まずは一人!! 水色ぉ!!」
「きゃあっ!?」
『おおお!!!』
まさに言葉通りの早業。
女性騎手は、成すすべなく鉢巻と同時にビキニまでも剥がされてしまった。瞬時に隠したために、見えそうで見えない。
観客はもちろんのこと、参加している男性騎手達も思わず視線をそっちに向けてしまう。
その度に、女子の視線が刃物のように鋭くなっている。
「おやおや。これは、大変ですね」
「ああ。普通の人間で、あんな早業を持っている奴がいるとはな」
普通の人間ではすごい業だ。
鉢巻の先を掴んだ瞬間、もう片方の手で素早くビキニの結び目を解いてしまう。その一瞬の動作に無駄はなく、とても正確なものだった。
「次は黒!!」
「こ、この変態!!」
『ひゃっほー!!』
「続いて、水色と白の縞!!」
「ひゃあっ!?」
『グレイトッ!!!』
『すごい! 凄まじい!! 次々に女性騎手だけが狙われていく!! だが、これにも深い意味がある! ただ脱がせたいだけではない! いや、脱がせたいだけなのだろうが! これは、女子の水着をひん剥くことで男性騎手の動きを封じるのです!!』
まあ確かに、男性騎手達は思わず立ち止まって視線をひん剥かれた女性達に向けているけどさ。
貫児という男の早業でついに女性騎手は有奈だけになってしまった。
当然のように、最後の獲物とばかりに現在他の選手と戦っている有奈。明らかに、その戦っている男性騎手は、貫児に協力している感がある。
事前に打ち合わせをしてはいないと思うが、絶対協力している。
「あ、有奈! ここは撤退するよ!」
危険を感じた華燐だったが。
「で、でもこの人が逃がして……この!」
「いい! 実にいいぞ! その巨乳! 俺達の前に晒せぇ!!!」
『巨! 乳! 巨! 乳!!』
巨乳コールを背に受け、水を切るかのように突き進んでくる筋肉モリモリの騎馬二人と腕組みをし高笑いする貫児。
なんという一体感だ。さすがは、人気者だと言いたいが。
「させるか! 二人とも!!」
「お任せを!」
「ちっ、しょうがねぇな!!」
そんなの絶対許さない。湧き上がる男達、殺意を露にする女性達の声を背に突き進む貫児の前に俺は立ちはだかった。
「邪魔をするのか! お前も男だろ? 見たくはないのか?! あの夢と希望が詰まった巨乳を?!」
そりゃ、俺だって男だ。見たくはないのか? と問われれば見たいと答えてしまう。だが、今はそうは答えない。
「確かに、俺も男だ! そういう願望はある! 見たいさ!! だがな。お前が今脱がそうとしているのは!!」
「ぬっ!?」
ぐんっと右腕を伸ばし、貫児の鉢巻を狙う。
それを防ごうと右腕を伸ばすが、甘い。
パン! と弾き、そのまま鉢巻を掴んだ。
「俺の妹だああっ!!!」
「なにぃ!? お、俺が見切れない早業だと……!?」
『ななななんとぉ!! ついに! ついに陥落しました斉藤貫児選手!! 今年も優勝すると思われていた貫児選手を! 覇者を降したのは、威田刃太郎選手ですっ!!』
男子の絶望の声。
女子の感動の声。
そして、上には上がいることを知った貫児の悔しそうな顔。俺は、貫児から取った鉢巻を握り締めガッツポーズを取った。
「はい取った」
が、その背後から忍び寄ってきた有奈にあっさりと俺は鉢巻を取られてしまった。
『そしてぇ!! その刃太郎選手の鉢巻をあっさり取ってしまったのは威田有奈選手です!! これにより、優勝者が決定しました!』
「あはは。取られちまったかぁ」
「おやおや」
「何が取られちまっただ。わざとらしい奴」
観客達は、盛り上がる瞬間がわからなくなった。それはそうだろう。先ほど、覇者を倒した選手があっさりと鉢巻を取られてしまったのだから。
大人の部が終わり、選手達は次々にプールから出て行く。
そんな中、有奈はこんなことを俺に言ってくる。
「ところで、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「なんで、早くあの人の鉢巻を取らなかったの?」
言葉に重みがある。なぜって、なぜと言われたら……こ、答えれない。
「お、いやそのだな。あれは」
「うん、大丈夫だよお兄ちゃんさっきの言葉でなんとなくわかったから」
「あ、あのやっぱりその、刃太郎さんもお、女の子の裸とかに興味があるんですか?」
と、恥ずかしそうに問いかけてくるリリーと苦笑している華燐。くそ! なんで俺はあんなことを叫んでしまったんだ。そしてなんで早くあいつの鉢巻を奪わなかった!
理由? そんなの……決まってるじゃないか。
「きょ、興味がないわけじゃないけど。いや、あのだな!」
『刃太郎様!! 子供の部が残っていますので早くプールから出て頂けないでしょうかー!!』
「二人とも、いこ。コトミちゃん達の応援しなくちゃ」
「そうね。ほら、いくわよリリー」
「う、うん」
なんとも言えない空気のまま三人は俺から離れていく。
「まあ、お前を励ますわけじゃないが。お前も、男なんだな」
「恥ずかしいことなんてありません、刃太郎様。あなたのご年齢ならば女性の裸に興味があるのは普通だと私は思います。さ、コトミ様とロッサ様を応援致しましょう」
固まったままの俺の肩を叩き一言告げ出て行く光太に、優しく笑顔でフォローをしてくれる駿さん。
俺はあ、はいっと魂が抜けたような返事をしプールから出て行った。
次回、最強ロリっ子達の激戦!




