第八話「プールに集合」
「ふぬぬ……!」
「よし、そのままだ。そのまま七十パーセントで留めるんだ」
コトミちゃんの教育は続く。
今日は、魔力制御の続きだ。コトミちゃんは年齢に見合わず膨大な魔力を保持している。だからこそ、それをちゃんと制御しなければ、次のステップへと進めない。
今は、体内にある魔力で体を覆うというものをやっている。
これを俺が指定した数値でしばらく留めるというものだ。
ちゃんと魔力測定機もつけているので正確な数値がわかる。
「な、七十!! できた!!」
「オッケーだ。今日は、これで終わりにしよう。お疲れ様、コトミちゃん。順調だな、魔力制御」
「えへへ。やってみれば意外と簡単だね!」
とはいえ、有り余る魔力を全回復のままでやるのはまだ難しい。なので、最初は適度に魔力を減らすことから始まった。
簡単に言えば、最初にやった火の玉合戦。
あれで適度に減らしてから魔力制御の特訓をしている。後に、全回復したままでもできるように焦らず少しずつ。
まずは、五十パーセントにまで留める事ができたら始めようと思っている。
「刃太郎様! 私もできました!!」
「お?」
「わー、可愛い!!」
「魔力で出来たウサギさんです!! いやぁ、魔力でこんな細かい作業なんてしたことがなかったもので。大変でしたよ」
コトミちゃんが魔力制御の特訓をしている横で、サシャーナさんは魔力でウサギを構築していた。今、サシャーナさんが俺達にやってくれていることは、タオルや飲み物の準備。
それからコトミちゃんが暴走した時、一緒に抑えてくれる役目だ。とはいえ、未だに暴走というものはしていないので専らマネージャーみたいなことしかしていない。
なので、何かやることはないかと問われたので、魔力で何か作ってみれば? と提案したところ楽しげに作業をしていたのだ。
「慣れれば結構簡単ですよ? ほら」
そう言って、俺は片手に魔力の球体を出現させ、それを操作。
小さなウサギを完成させ、サシャーナさんの作ったウサギの横に並べた。
「おお! そんな簡単に……すごいですね。私達の世界では、魔力を戦いにしか使っていませんでしたからなんだか新鮮です」
「そうなんですか?」
「はい。私達の世界は、魔力を持っている者とそうでない者で大きく分かれていましたから。魔力を持っている者は特別な存在で、そうでない者は普通。あるいは見下される存在でした」
サシャーナさん達の世界は、かなり力によって支配されているようなところだったんだな。俺の世界では、魔力は誰でも持っている世界だった。
でも、全員が魔力を持っているからこそ力を振るいたい。自慢したい、戦いたい。だからこそ、争いが絶えなかった……力は、持っている者がどう使うかで人生が決まる。
力というものを利用し、酷使し続けた結果。破滅した者だっていた。
「でも、そんな間違った世界を正そうとイズミ様を初めとした姫騎士様達が立ち上がったのです! 異世界から召喚された卓哉様も加わって、全員ではありませんでしたが、力は力なき者のために使ってこそだということに賛同してくれました」
「それでね! 力で世界を滅ぼそうとした魔王を倒しちゃったんだって!」
「ということは、卓哉さんは勇者だったってことか。すごいじゃないか」
「本当は、勇者として召喚されたわけではなかったんですけどね」
なんと、そうだったのか。俺は、勇者として召喚されて仲間達と共に世界を滅ぼそうとしていたどこぞの魔帝さんを倒した。
卓哉さんは、最初からそういう使命はなかった。自分でこうしたいと決めて、魔王を倒したのか……。
その結果。
獣耳美少女達を連れて帰還、か。何もかも違うな、俺と。言い方があれだけど。俺は勇者として使命を全うしなければと思っていた。
だからこそ、俺は戦った。人々を守りたくなかったわけじゃないんだ。だけど、勇者として召喚されたからには、元の世界に戻るためには、勇者として使命を果たさなければって。
「すごい人ですね、卓哉さんは」
「はい! あ、でも。刃太郎様だってとても素晴らしいお人だと思っていますよ? 知ってます? 私の部下達の間で、今刃太郎様の噂で大盛り上がりなんです!」
「え? マジっすか?」
「マジです! コトミ様のこともありますが。なんだか神秘的なオーラを感じるお人だって!」
神秘的なオーラ、ね。もしかしたら、アイオラスの力が原因かもしれないな。あいつうるさいけど一応神聖なる剣だからな。
あいつと一年も一緒に旅をしていて、ずっと使い続けた結果俺にそういう力が宿ってしまった。
「それに、とても優しくて! 強くて!! 部下一人一人にちゃんと挨拶をしてくれる!!!」
「いや、まあ挨拶は基本だから」
「それなのに、恋人がいないなんてありえない!!」
「うぐっ!?」
「もしかしたら、刃太郎様ってほ」
「違います!!! 俺は、女の子のほうが好きです!! 恋人に関してはまあ……こ、これからですよ!!」
「そうですかー」
そう、別に俺は女の子に興味がないわけじゃない。興味ありありなんだ。ただあれだ。異世界での出来事にせいでなんだか前進できないっていうか。
またああなってしまうんじゃないか? とか思ったりして恋愛に関してはまだいいやって思ってしまっている。
それにしても、まさか男に興味があるんじゃないかと思われているとは。後で、そうじゃないって言っておかなくちゃ。そんな誤解絶対放置できないからな。
・・・★・・・
夏といえば、暑い日。
暑い日といえば、冷たいもの。
冷たいものといえば。
「プールだー!!」
「こら! ちゃんと準備運動しなさい!!」
プールだけではないが、今はプールと言っておこう。
コトミちゃんとの特訓も、真面目なものだけでは彼女自身が飽きてしまうかもしれない。なので、他の方法を考えていたところに、リリーから誘いがきた。
「うーん。なかなか広い場所だな」
「ええ。ここも天宮家が所有する施設のひとつですから!」
遊園地に続き、プール。
天宮家は色んな施設を所有している。ウォータースライダーやら流れるプールやら、温水プールやら。多種なプールがある。
コトミちゃんや優夏ちゃん、そらちゃんも誘って今日は大いに楽しもうと思っている。
「それにしても、サシャーナさん」
「なんです? あ! もしかしてー、私の水着姿に惚れちゃいました? 惚れちゃいましたか?」
「まあ、惚れるほど可愛いですけど」
「ふお!? 奥手かと思いきや、そういうことをさらっと言ってしまう刃太郎様……すごいです!! やーんもう! 改めて言われると照れくさいじゃないですかー!!」
いやんいやんっと、とても恥ずかしそうにそれでいて嬉しそうに頬を緩めているサシャーナさん。ふわっと、フリルが可愛い水着姿がとても似合っている。
そして。
「ウサギ耳隠しているんですね」
「あっ、そのことですか。まあ、私としては隠さなくてもいいと思っているのですが。さすがに、水に入るとなると濡れちゃいますからね。濡れちゃうと自然と動いてしまうので」
なるほど、そういうことなのか。
「何度か疑いの目を向けられた時は、私がフォローしていました。いやぁ、今思い出してもとても大変でしたね」
ははは、とその時のことを思い出し笑う駿さん。
股関節に食い込むブーメランがよく似合っている。引き締まった筋肉と、その笑顔が周りの女子の視線を釘付けにしていた。
「その節は、ありがとうございましたよ駿君!」
「いえいえ。それよりも、有奈様達は随分と遅いですね。もう着替え終えて、こちらに来ていてもいい頃ですが」
駿さんの言葉に、俺は嫌な予感がした。
プールといえば、楽しい。
プールといえば、水着。
水着といえば。
「お、お待たせしまたぁ!!」
「噂をすれば、ですね」
「どうしたんだ? 遅かったじゃないか」
「すみません。ナンパされてしまいまして」
やっぱりそうだったか。
だが、こうして無事に三人揃ってやってきたということはナンパを回避したということか。
「でも、華燐ちゃんが追い払ってくれたんです」
「へえ、すごいじゃないか」
「いえ。前に、刃太郎さんがやっていたようなことをやってみたら、びびって逃げていきました」
俺が役に立ったようだ。
それにしても、三人とも水着が似合っている。有奈は、シンプルに白いビキニ。シンプルだがそれがいい。華燐は、ちょっと大人っぽく黒いビキニにパーカー、そしてリリーが赤いビキニだ。
こう言ったらセクハラになるだろうが、三人ともとてもセクシー。
美少女揃い。これをナンパしない男はいないだろう。今でも、三人に男達からの視線が集まっている。
「三人とも可愛いですからね! ね? 刃太郎様!!」
「え? あ、ああ。すっごく可愛い! ナンパしたやつの気持ちもわかるよ!! な、なんて」
「そ、そうですか? えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです!」
「ありがとうございます。よかったね? 有奈」
「う、うん」
もうちょっと言い方ってものがあった気がするけど、どう言えばよかったんだろう?




