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第七話「少女達の虫取り」

「それじゃ、今日は家の森で夏らしく虫取りをしよう!!」

「虫取りか。よかろう! 我も昔は、魔界昆虫を全種類集めたものだ! 虫取りなら任せておけ!!」

「いや、なんでお前がいるんだよ」


 あれから、何度もコトミちゃんの奇天烈な発想に俺と優夏ちゃんがツッコミを入れてようやく決まったのが夏らしく虫取りとなった。

 しかも、天宮家の敷地内のだ。

 虫籠と虫取り網を手に俺達は森の中にいた。

 しかし、ツッコミたいことがひとつ。

 天宮遊園地の時に買った白いワンピースと麦藁帽子、虫取りセット手に小学生三人にナチュラルに混ざっているんだ。

 まったく違和感がないのが不思議だ。


「なにやら勝負の匂いを嗅ぎつけてな」

「いや、今日は勝負しないから。ただ遊ぶだけだから」

「あの……刃太郎さん。この子は?」

「あたし達の学校の子じゃないってことは確かね」

「刃太郎お兄ちゃんの知り合い?」


 知り合いといえば知り合いだけど、どう説明したものか。こいつの説明が一番難しいんだよな。もう、俺を無駄に追いかける少女って説明しようかな。


「我が名は、バル……いや、ロッサだ! 刃太郎とは宿敵同士だ!!」

「宿敵? あんた、なにをしたのよ」


 優夏ちゃんがすごく疑いの目で見ている。

 別に何も疚しいことはしていない。

 ただ、こいつの命を奪っただけ……って言うのは絶対おかしいよな。事実なんだけど、この事実は絶対更なる誤解を生むだろう。


「何もしてないって。ただ、こいつが勝負を仕掛けてきたから相手をしてやっているだけなんだ。勝負って言ってもな? エアホッケーとそういうゲーム系だから。それで、何度も負けてるからそれで根に持っているんだよ」

「こいつは、実に容赦のない奴だ。なにせ、我をバッサリと」

「はい! 虫取り開始!!」

「うおお!?」


 余計なことを言いそうになったので、俺はロッサを浚い森の中を駆けていく。


「行っちゃったね……」

「ほんと、あいつらどういう関係なのよ?」

「よーし! 私達も頑張ろう!!」





・・・★・・・





「はあ……お前って奴は。いいか? あっちの世界でのことは他言無用だ。勇者と魔帝との関係はもうあっちで決着がついたんだ」

「我的にはまだついてはおらぬ。貴様に勝利し、再び魔帝として君臨するのだ!!」


 コトミちゃん達と分かれた後、今後余計なことを言わないようにロッサに念を押し入るがこいつは聞こうとしない。

 今に始まったことじゃないが、こいつは自由に己の信じる道を生きている。

 こっちの世界では、もはや魔帝としての道を外れ過ぎているけど。


「いいか? 今回に限っては、お前は魔帝というあれな力は使うな」

「あの小娘のことか?」

「わかってるなら、余計なことはしないように。俺は、コトミちゃんの教育係としてコトミちゃんの有り余る力を制御できるようにしなくちゃならない。彼女のためにも、世界のためにも」

「勇者らしい言葉だな。だが我は魔帝! 貴様の言うことを素直に聞くと思うなよ?」


 まあそうだよな。

 だったら、俺はそんな魔帝ちゃんを止めるだけだ。あっちの世界で止めたように。とはいえ、世界を滅ぼしかねないのは今はコトミちゃんなんだけどな。


「はいはい」

「おっ。そういえば貴様。愛する妹とはどうなった? 聞けば喧嘩をしたと聞いたが?」

「お前、どうしてそれを……あぁ、リリーか。大丈夫だ。全力で土下座したら許してくれた。あれは、全面的に俺が悪かったからな」


 あの後、俺は有奈が帰ってきた後、全力で土下座をした。それはもう全力も全力。有奈がいいと言うまで俺は頭を下げ続けるつもりだったんだが、有奈はすぐに俺を許してくれた。

 コトミちゃんも、一緒に頭を下げたが笑顔で許してくれた。

 どうやら華燐も加わってリリーと一緒になんとかしてくれたようなのだ。


「今じゃ、いつも通りの関係だ」

「いつも通りならば、仲が悪いままではないのか?」

「……いや、仲は良い。仲は良いんだ」


 ただ、今は四年間分の意地悪を有奈がしているだけだ。心は、繋がっている。俺達は、仲のいい兄妹なんだよ。


「そうなのか? ということは、妹はわざと仲が悪そうにしているということか」

「まあそんな感じだ」

「そうする意味があるのか?」

「意味ならある。俺が待たせすぎたんだ、有奈を。そのつけみたいなものだ」

「よくわからんな、人間というのは。我など、父上のことを何百年も待った事があったぞ。だが、我は父上とは今まで通り仲だった」


 何百年って……その父上はいったいなにをしていたんだ。俺は、ロッサの言葉に頭を掻きながら腰を下ろしていた岩から立ち上がる。


「わからなくて結構だ。ほら、さっさと虫取りをするぞ」

「おお! そうであったな! む? さっそく虫を発見! あれはバッタだな!! 待つが良い!!」


 バッタを追いかけるロッサを見て俺は思った。

 こっちの世界に来て、人間らしくなってきているって思っていたんだけど。やっぱりまだ、魔族的な考えなんだな。


「待て待てー!!」

「待つのあんたよ! 相変わらず野生児ね!!」

「ま、待ってー!」


 ロッサがバッタを追いかけていった後、コトミちゃんが飛んでいるセミを追いかけて木から木へと飛び移っているのを目撃。

 優夏ちゃんとそらちゃんは、若干息切れ気味にコトミちゃんを追いかけていた。


「はあ……はあ……」

「お疲れ様。いつもあんな感じ?」

「は、はいぃ。すごく身体能力が良くて、皆をいつも驚かせているんです」


 小学校では、身体能力がすごい小学生ってことで通っているみたいだな。ま、あんなぴょんぴょん木から木へと飛び移るのは異常なんだけど。

 子供達は純粋だからなぁ。


「あ、あんた。あの銀髪の子はどこに行ったのよ?」

「あいつなら、バッタを追いかけてどっかに行ってしまった」

「コトミと似たもの同士ってことね。はあ、疲れた」


 体力を使い切り、優夏ちゃんとそらちゃんはその場に座り込む。俺は、バックの中からこんな時のために用意していた水筒を渡した。


「はいこれ」

「準備が良いわね」

「夏だからな。熱中症にならないようにって」

「あ、ありがとうございます」

「二人は、コトミちゃんとどうやって仲良くなったんだ?」


 水分補給をしている二人に俺は問いかけた。

 どうやってコトミちゃんと仲良くなったのかを。コトミちゃんの性格を考えれば、自分から二人に急接近したのかもしれないけど。


「そうね……そらは幼稚園の頃から仲が良かったみたいだけど。あたしは違うわ」

「優夏ちゃんは、転校生だったんです。小学校二年生からの」

「へえ。そうだったんだ」

「あたしってすっごい田舎から来たの。だから、都会に行くのが正直不安だったわ。だけど、あの馬鹿がそんなものふっ飛ばすかのようにあたしを無理やり友達にしたのよ」


 はは、なんだか簡単に想像がついてしまうな。

 転校してきたばかりの優夏ちゃんに笑顔で急接近しているコトミちゃんの姿を。


「しかも、あの馬鹿いきなりあたしの匂いを嗅いできたのよ?」

「優夏ちゃんもなんだ。俺も出会ってすぐ匂いを嗅がれたんだ」

「コトミちゃんが言うには、良い匂いがする人は仲良くなれるって。私には、よくわかりませんでしたけど」


 そりゃ、わからないだろうな。コトミちゃんは実は人間と獣人のハーフで、特殊な嗅覚を持っているなんて。しかも、今では世界を滅ぼしかねない力を持っているとか。

 この子達には、普通の友達として接して欲しい。

 そのためにも、俺がちゃんと教育しないとな。


「わはー!!」

「って、うお!?」

「え? どうし……ちょっ!? なにつれてきてるのよ!?」

「ひゃあっ!? は、蜂の大群ですぅ!?」


 コトミちゃんか? と振り向けば無邪気な笑顔で、蜂の大群を連れてきていた。俺は、囮となり蜂を追い払った。

 ちなみに、ロッサは一人真剣に虫を取っていた模様。

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