第六話「友達紹介」
「いらっしゃいませー!」
「ただいま、漫画、ライトノベルなどの買い取りアップをしていまーす!」
「……なんだか、俺がアルバイトしている時より繁盛してる」
コトミちゃんの教育係を始めて早五日。
あれから、俺は毎日のようにコトミちゃんと会っている。力の制御などは、順調……と言えるのか。確かに、コトミちゃんの才能は凄まじい。
だが、やっぱり遊び盛り。
つい力が入って制御が安定しない時が多い。未だに、暴走はしていないが油断はできない。そう思い続け、今日もコトミちゃんから呼び出された。
今回は小学校の友達を紹介すると言っていた。そこで、集合場所に行く前に、今は俺がいない山下書店はどうなっているんだろう? と覗いてみたところ。
「うっは! コスプレ美少女キター!!」
「お、俺ちょっと本買ってくる!!」
「あの! ちょっと聞きたいことがあるんですけど!」
「はいはーい。ただいま参りまーす!」
ご覧の通り、すごく繁盛している。物静かな雰囲気がよかったあの山下書店が、俺の代わりに働いてくれるようになったサシャーナさんの部下さん達が大活躍の大人気。
まるで、大きなイベントがあるかのように人が集まっている。
ある者は、物見遊山で。
ある者は、獣耳美少女目当てで。
俺は、唖然としている。まさか、コトミちゃんの教育係に忙しかったこの数日。こんなにも山下書店が繁盛しているとは。
やっぱり、美少女の力ってすげー。
「お? 刃太郎くんじゃないか。数日振りだね」
店先で呆然としていると、章悟さんがにこやかな笑顔で近づいてきた。
「ども。すごく繁盛してますね」
「だろ? いやぁ、最初はどうなるかと思ったけど。彼女達、すごく働き者でね。笑顔も眩しく、仕事も早い。何よりも、美少女揃い!! まさか、うちの店にこれだけのお客様が来るなんて思いもしなかったよ……」
俺も思わなかった。まさか、数日来なかっただけでここまで変わっているなんて。
もはや、俺いらなくね? と思ってしまうほどだ。
「あっ! 刃太郎様です! 二人とも、一度集合!!」
「え?」
章悟さんと立ち話をしていると、一人の猫耳さんが俺を見つけ働いている二人に声をかけ集合させる。客もなんだ? と視線を向けている。
集まった獣耳美少女達は、両手を重ね丁寧に頭を一斉に下げた。
《お疲れ様です!! 刃太郎様!!》
「あ、うん。君達も、お疲れ、さま。仕事、頑張って」
《はい! ありがとうございます!!》
と、笑顔で仕事に戻っていく。
おそらく、コトミちゃんの教育係として皆には伝わっているのだろう。だからこそ、俺を見つけて挨拶をした、というところか。
「うーん。刃太郎くん、羨ましい!」
「ちょっ、絵里さん。仕事はどうしたんですか」
章悟さんもこっちにいるし、これでいいのか? 経営者として。
「彼女達が優秀過ぎてね……私の居場所がないのよ。だから、こうして可愛い美少女達を眺めていることが今の私の仕事なの」
「それは、どうなんですか? 大人として」
「仕方がないんだ。本当に彼女達が優秀過ぎて、俺達はただニコニコと笑っているだけで店が繁盛していってしまうんだよ……」
確かに、それは言えてる。今の山下書店は、まるでメイド喫茶とか同人即売会の会場みたいな感じだもんな。本来、ああいうコスプレな美少女達はもっと大きなところに存在する。
それが、ちょっとした商店街の小さな書店に三人もいるなんて。
これは、ネットでも絶対騒がれてるだろうな。
商店街の書店に獣耳美少女達が出現中! てな感じに。
「もしかして、このまま彼女達がずっと働いてくれればって思ってます? 二人とも」
「あっはっはっは! なにを言っているんだ、刃太郎くん!」
「そうよ! 刃太郎くん! そんなこと思ってないわよ!」
そうだかなー。さて、そろそろ俺は行かなくちゃな。コトミちゃん達を待たせるのもあれだし、それに視線がすごく痛い。
先ほど、俺に対して三人が特別な挨拶をしたので彼女達目当ての客達が羨ましそうに、嫉妬の念を込めた視線で俺を睨んでいる。
「それじゃ、俺そろそろ行きます。二人とも、ちゃんと仕事してくださいよ?」
「わかってるって!」
「いってらっしゃーい!!」
本当に大丈夫かな?
元気に手を振ってくれる二人を見て、心配という言葉しか出てこない。可愛いは正義。しかし、可愛いは人を堕落させる、と俺は思っている。
可愛いのためにやる気を起こすか。
可愛いのためにやる気が起きなくなるか。
どっちの転ぶかは、その人次第。
あの二人は……どっちだろうな。
・・・★・・・
集合場所は、噴水広場。
この広場は色々と思い出というか、色んなことが起こった場所だよなぁ。今は、夏休み中だからいつもよりも人がたくさんいる。
コトミちゃん達はまだ来ていないようだな。
近くにある時計で時間を確認。
集合時間は、十時半だから、まだ五分はある。コトミちゃんの友達か……どんな子達なんだろうな。
さすがに、普通の子達だよな?
ん? この気配は。
「やっほーい!!」
「おっと。こらこら、コトミちゃん。背後から飛びつかない」
「はーい。あっ! 友達ちゃんと連れてきたよ!」
背後から元気に飛びついてきた。
しかし、すぐに離れてくれた。
「紹介するね! まずは、大澤そらちゃん!! 大人しい子だけどとっても絵が上手で、将来の夢は絵描きさん!!」
「お、大澤そらです。よ、よろしくお願いします」
まずは、大人しめな子だ。黒髪で二本のお下げがよく似合う少女。目を合わせようとするが、恥ずかしそうに視線を下に落としている。
「そして次は、羽柴優夏ちゃん! 友達思いの良い子なんだ!! ちょっとツンデレだけど」
「誰がツンデレよ! まったく……優夏よ。あんたがコトミの教育係? なんだかパッとしないわね」
「あ、あはは。パッとしないか、手厳しいなぁ。まあ、よろしくな優夏ちゃん」
「よろしくっ」
うーん、これは付き合っていくのが大変そうな子だ。ツーサイドアップの茶髪で、ちょっと強気な性格をしている子だ。
だが、友達思いということは悪い子ではないだろう。
現にこうしてコトミちゃんの誘いを断らず付き合っているし。
「私達、いつも三人で遊んでるんだ! 今回は、私の教育係の刃太郎お兄ちゃんを紹介しつつ一緒に遊ぼうって!」
「そっか。俺は、威田刃太郎。コトミちゃんの教育係だ。これからよろしくな、二人とも」
「は、はい!」
「それで、今日は何をするの? コトミ」
おっと、優夏ちゃんには無視されてしまった。
ま、気長に付き合っていこう。
「そうだなー。バンジージャンプをしよう!!」
「するか!! あんたってば、毎度毎度物騒な遊びをよくもまあ明るく言えるわね!!」
「ゆ、優夏ちゃん落ち着いてー!」
うん、このやり取りで大体三人の仲がわかった。コトミちゃんが、とんでもないことを言いそれを優夏ちゃんがツッコミ、そらちゃんが止める。
そんなやり取りを、ずっとやってきたんだろうな。
「えー? じゃあ、ミノムシごっこする?」
「なんであんたはそう極端なのよ!? というか、ミノムシごっこってなによ?!」」
「き、木にぶら下がるの?」
「そう! しかも、自分の体に木の枝とか葉っぱとかをくっ付けてするの!」
「意外と本格的だった!?」
俺までツッコミをしてしまった。
「この子は、やると言ったらとことんやる子なのよ……あんたも、教育係なら知っておきなさい」
そんな俺に、優夏ちゃんはハアッとため息を吐きながら助言をしてくれた。




