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第五話「夏は始まったばかり」

「というわけで、俺は彼女の教育係をすることになったんだ」

「舞香様。ご心配はありません。天宮家に仕える一同が全力で刃太郎様のサポートをいたします。そして、すでに山下書店のほうにはこちらから根回しをしております」

「そ、そうなんですか……。なんだか、大変なことになっているわね刃太郎」

「ははは。大変なことには慣れてるから、大丈夫だよ」


 帰ってきた舞香さんに、コトミちゃんの教育係になった経緯などを話した。舞香さんもこういうことには慣れているつもりだったようだが、さすがに世界が滅ぶかもしれないと言われれば驚くしかないようだ。


「でも、大丈夫だよ! 刃太郎お兄ちゃんはすごい教育係だから!!」

「あら、そうなの?」

「そうらしい」


 俺には自覚はないんだけど。

 これから夏休みの間、俺は彼女の教育係を勤める。先ほど、山下書店のほうへ向かった天宮の人から電話があった。

 結果だけを伝えれば、俺はこのままコトミちゃんの教育係に集中するらしい。

 その間の山下書店は、天宮の使いが勤める。

 章悟さんや絵里さんも承諾したようだ。

 ちなみに、俺の代わりに働く人はサシャーナさんの部下達とか。


「ところで、有奈は?」

「あぁ……今は、リリーのところにいるみたいなんだ」

「そう。ちゃんと、仲直りできる?」

「だ、大丈夫だって! 大丈夫、なはず」

「もう、自信無くさないの! ほら、今からあなたの大好物なコロッケを作ってあげるから」

「あ、でしたら。私もお手伝いさせて頂きます」


 舞香さんと駿さんが料理を作っている間、俺はコトミちゃんと遊んでいた。遊びと言っても、火の玉ジャグリングなどの激しいものではない。

 単純に、ゲーム機で遊んでいる。

 遊んでいるのは、格闘ゲームだ。コトミちゃんは結構格ゲーが好きらしく、サシャーナさんや駿さんともよく遊んでいるようだ。 


「わー!? 負けちゃった」

「ちょっと本気を出しすぎたか?」

「大丈夫! もっと本気できてもいいよ!」

「お? やる気だな。そういうことなら、手加減しないぞ」

「かかってこーい!!」

「ふふ。なんだか、昔のあなた達を思い出すわね。コトミちゃん、髪の毛も黒だから余計に」


 昔か。有奈とも、昔はこうしてゲームをしていたんだよな。

 コトミちゃんは、昔の有奈に似ている。

 髪の毛もそうだが、この純粋なまでに楽しそうな笑顔。もし、俺が異世界に召喚されないでずっと有奈の傍に居続けていたら……。


「そこだぁ!!」

「やべっ!?」


 有奈。今頃なにをしているんだ? 




・・・☆・・・




「うーん、夏休みも始まったばかり。どうやって刃太郎さんと……ん?」


 凪森リリーは、これからの思い出作りをどうしようと考えていた。

 ウサギの絵が可愛いシャツにハーフパンツとラフな格好でくるくるとシャーペンを回しながら机に向かっている。

 そんな時だった。

 スマートフォンに有奈から連絡が。

 数十分前に別れたばかりだったが、どうしたんだろう? と首を傾げながら手に取り通話ボタンを押す。


「どうしたん? 有奈」


 と、いつものように軽く言うも。


『り、リリーぃ……!』

「ほ、本当にどうしたの!?」


 それからリリーは、有奈のことを迎えにいき家に招き入れる。そして、念のため刃太郎に連絡したところどうやら刃太郎が何かを見てしまったらしく、それで有奈が飛び出して行ったと。

 有奈のことはしばらく、任せてくれと宣言し通話を切った。

 ちなみに、このことは有奈には伝えていない。

 なんとなく、察していたからかもしれない。刃太郎と何かあったんだろうと。


「うぅ」

「有奈。ほらほら、元気出して! ポッキー食べる?」


 自室に戻ると、有奈はベッドの傍で膝を抱えていた。リリーは、有奈を元気付けるために明るい笑顔で後ろから抱きつきつつポッキーを口元に近づける。


「はむ」

「うむ、それでよし。それで? どうしたの。いきなり泣きながら電話してくるなんてびっくりだよ」


 本当は知っているが、あえて有奈に直接事の次第を問いかける。

 知っていると言っても詳しい事情まではわからない。


「だって、お兄ちゃんが……」

「刃太郎さんがどうかしたの?」

「私の……ううん、やっぱりなんでもない!」


 言いかけたところで、有奈は近くにあったぬいぐるみに抱きつきベッドに寝転がる。


「とう!」


 それに続くようにリリーもベッドに寝転がる。


「もう、拗ねちゃって。可愛いなぁ、有奈」

「拗ねてないもん。あれは、お兄ちゃんが悪いんだし」

「それが拗ねてるっていうんだよー。うりうり!」

「拗ねてないもん」


 自分が拗ねていることを認めようとしない有奈をどう元気付けようかと考えるリリー。


「やっほー。きたよ」


 そんな時だった、華燐が部屋に入ってくる。

 彼女のことは有奈から連絡をもらった時に、呼んでおいたのだ。その手には、近くにあるケーキ屋の箱があった。


「早かったね、華燐。ほら、ご覧の通り有奈たんが拗ねてるんだよ」

「刃太郎さんとなにかあったの?」


 さすがは華燐だ。なにがあったのかを詳しく言っていないのに。ケーキが入った箱をテーブルの上に置きベッドに腰掛ける。


「それがね、全然話してくれないんだー」

「ということは……恥ずかしいことだね」

「うっ」


 どうやら当たりのようだ。わかりやすいなぁっと小さく笑う。


「そんなに恥ずかしいものだったら、大事に仕舞っておけばいいのに」

「ちゃんと仕舞ったよ。お兄ちゃんも知らないようなところに。でも、なぜか見つかってたの。あっ、そういえば知らない女の子と男の人がいたような」

「知らない女の子と」

「男の人? ちゃんと見てこなかったの?」


 どうやら、見られたことが相当なダメージだったらしくそんな余裕がなかったようだ。飛び出してくる際に鞄も刃太郎に投げ捨てたようでほとんど手ぶら状態。


「今思えば、その女の子が私の記録を」

「刃太郎さんと一緒にいるってことは、もしかしたらその女の子と男の人は特殊な能力を持っていたのかもしれないね」


 そう考えれば、有奈が隠していたあるものを簡単に見つけてしまったのも頷ける。


「さすがに、刃太郎さんと一緒にいるからってそういう人達って決め付けるのは」


 と、リリーがフォローしようとするも。


「あ、そういえば。女の子にキツネ耳が生えていたかな?」

「そ、そうなんだ」


 いやでも、コスプレ少女かもしれないと考えるリリー。だが、今まで特殊な力や事件を見てきたリリーにとってはその女の子がそうなのかもしれないと思ってきている。


「私達の知らないところで、また刃太郎さんすごいことに巻き込まれてそうだね」

「まあ刃太郎さんなら大丈夫だよ! ね? 有奈」

「うん。お兄ちゃんなら」

「ところで。さっきから刃太郎さんのことをお兄ちゃんお兄ちゃんって言ってるけど。素直になったの?」


 ハッとリリーに言われ口を手で覆う。

 そんな有奈を見て、二人ににやっと悪戯を企んでいる子供のように笑った。


「もう兄貴はなしね!」

「刃太郎お兄ちゃん、かー」

「ふ、二人とも!!」


 先ほどまでの暗い空気はなく、部屋には明るい少女達の声が響き渡っている。

 リリーと華燐は任務完了、と言いたげに有奈に抱きついた。

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