第十八話「これからだ」
第二章完!!
「本当にすまなかった!!!」
光太が俺達を襲ったその日の夕方。
俺は、光太をマンションへと連れて行き介抱した。そして、目を覚ました瞬間、俺達の目の前で頭を床に叩きつける勢いで土下座をしたのだ。
「あ、あの頭を上げてください。私達は気にしていませんから」
「う、うん。怪我もないし、ね?」
有奈達は、別に気にしてはいなかった。だが、そんな言葉を簡単に受け入れられないようで、土下座をしたまま言葉を続けた。
「いや! いくら、刃太郎を恨んでいたとはいえ、俺は……俺はあんな奴に利用されて!! バルトロッサ様にも迷惑を……!」
「頭を上げよ、光太。有奈達も、気にしていないと言っているであろう」
「ですが」
「大丈夫ですから」
「だが!」
「頭を上げてください」
「しかし!!」
「ええい! 頭を上げよ、言っているであろう!!」
「あぶっ!?」
「け、蹴った!?」
いつまでも頭を上げない光太に少し苛立ち、強引に頭を上げさせた。しかし。その方法が……素足で蹴ることであった。
ロッサは、そのままずかずかと光太に近づいていき、胸倉を掴んで叫ぶ。
「貴様は、誰の部下だ?!」
「バルトロッサ様の部下、です」
「ならば、心を強くもて。我の言葉に耳を傾けよ。……もうあのような男に、従うな。いいな?」
「……はい」
光太がザインの力に頼ってしまったのは、俺への怒りと嫉妬。それに、ロッサ自身はわかっていなかったが、ロッサが光太を若干蔑ろにしていたため。
それが、今ロッサの一喝で全てが解消された。
「ですが、バルトロッサ様。俺は、まだそこの男を認めたわけではありません」
解消、されてなかった。
「ふむ。そうか。なに、気にすることはない。何も刃太郎を恨むなとは言っていないからな」
そこは、上司としてなんとかしてくださいよロッサさんや。
だけど、もう光太は他の奴の力に頼ることはないだろう。もし、そうなったらロッサとの約束を破ることになるからな。
それに、こいつは強い。
だって、俺へとの怒りや嫉妬でザインから力を貰っていたとは言え、正気を保っていたからな。そうじゃなくちゃ、俺以外の人達を普通に巻き込んでいたはずだ。
最初のリーゼントのように。
いや、それだけ俺だけへ敵意を向けていたってことなのか。
「では、我々は戻る。光太も正気に戻ったようだしな」
「お邪魔した。瀬川さん」
「あ、いえいえ。ロッサちゃんも、またいつでも遊びに来てね」
「うむ、いつでも来てやる」
あっちのほうは一件落着。
仲良く二人で帰っていった。
「それで、二人はどうするの?」
舞香さんは、エプロンを身に着けながらリリーと華燐に問いかけた。
「あたし達も帰ろうと思います。明日から夏休みまで、頑張って学校に行かないと!」
「夏休みになったら、また一杯遊ぼうね、有奈。刃太郎さんも」
「うん、二人とも気をつけてね」
「俺が途中まで送っていこうか?」
「いえ。大丈夫です。私、強いですから」
おっと、そういえばそうだったな。リリーも華燐がいれば安心か。地球はもっと普通だって思っていたんだけど、なんだか異世界から帰還してから色々と現実離れしてきたな。
元々、この地球にはそんな現実離れした者達が潜んでいたってことなのかもだけど。
俺が知らないだけで、世界のどこかにまだそんな連中が。
「またきてねー」
「またきまーす!!」
「お邪魔しました」
玄関から二人がエレベーターに乗るところまで見送り俺達は戻る。
そして、舞香さんは今日の夕飯を作っている途中だっため、キッチンへと向かっていく。俺と有奈は、リビングのソファーでテレビを観る。
「今日は、楽しかったな」
「うん。ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「あの力ってさ。何か、副作用みたいなのってないの?」
あぁ、そのことか。
有奈の心配事はごもっともだ。あんなとんでもない力を見た後に、何も感じないはずがない。こうして、心配してくれるのは兄としてはとても嬉しい。
「リリーちゃんも華燐ちゃんも、心配してたよ?」
「……はは。大丈夫だって。そんなに心配するような副作用はないからさ」
「……」
「そんなに心配してくれるのか、有奈! お兄ちゃんは嬉しいぞ!!」
と、抱きつこうとしたが見事に避けられる。
そして、額にデコピンをされた。
「調子にのらないの。馬鹿兄貴」
くっ! お兄ちゃんと言って油断させ、俺が調子に乗ったところで距離を取るなんて作戦だ。俺と弄ぶとは……悪い子だ!
でも、あの観覧車でのやり取りから悪い子の方向性は少し変わった、のかな? たぶん、また自分なりの考えているんだろうな。
そもそも、悪い子という定義はなんなのだろうか? 色々とあるだろうから、これからの有奈を想像するだけで、笑みが零れる。
「……なんだか、やっと帰って来たって感じがするな」
こうした家族との何気ないやり取り。
帰還してきてから、ちょっとぎこちないって思っていたけど。今では、有奈との仲も戻ってきたし。
「あっ、そうだ。刃太郎!」
「なに? 舞香さん」
ベランダから空を見上げていると、舞香さんが俺のことを呼び宝くじを見せ付ける。
ん? この反応。
まさか!
「当選したの!?」
「ええ」
「ま、マジ? 何円? まさか、一千万とか!」
ちょっとだけ期待していた俺だったが。
「三千円よ!」
「……ご返金ありがとうございます」
「でも、当選は当選よ。よかったわね、刃太郎」
でも、ただ返金されただけのようでなんだか複雑な気分。やっぱり、人生そんなにうまくはいかないってことなのか。
「あ、刃太郎。暇なら、料理を作るの手伝ってくれない?」
「ああ、いいよ。野菜を切ればいいのか?」
「ええ。お願いね」
恩返し、にはならなかったな。
もうちょっと高く……そう、一万円ぐらいならよかった少なくとも。でも、宝くじって大体こんなものだよな。
当選しない時のほうが多いって聞くし、当選しただけマシだと思おう。
それに、俺の人生はまだまだだ。
これからが本番って言ってもいいかもな。この地球で、家族で、友達で、色んな思い出を作っていく。それが、俺が望む暮らしだから。
次回からは、第三章です。
お楽しみに!!




