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第二話「不良になった理由」

「うぅ」

「いやぁ、舞香さん。気にすることないって。無事誤解も解けたんだしさ」


 未だに舞香さんは、恥ずかしいようで頬を赤く染めて唸っている。ちなみに、今日は土曜日のようだ。カレンダーまで見ていなかったから舞香さん途中で帰ってきたのかな? と思っていたけど休みだったのだ。

 舞香さんは一般的な会社に通っており、休みは大体土日になっている。

 いつもはスーツ姿でびしっと決めている人なのだが。


「刃太郎」

「なに? 舞香さん」

「刃太郎、なのよね?」

「そうだよ、舞香さん」

「本当の本当に刃太郎よね?」


 やっぱり、四年も行方不明だったんだもんな。

 そう簡単には気持ちの整理ができないか。

 俺は、まだ不安がっている舞香さんに近づき肩を抱く。


「大丈夫。俺は本物の刃太郎だ。だから、安心してくれ舞香さん」

「……うん。ありがとう、刃太郎。おかげで、ちょっと落ち着いたわ」


 それはよかった。

 舞香さんの言葉を聞いて俺はまず離れる。そして、今まで俺がいなかった間どんなことがあったのか。色々とコーヒーを飲みながら話し合うことにした。

 俺は包み隠さず、自分に起こったことを全部話した。

 最初は、舞香さんは信じられない、という表情をしていたが、話す毎に舞香さんは頭で理解し受け入れてくれる。


「それで、これが魔法なんだ」


 実際に、俺は舞香さんの目の前で魔法を見せた。何もない掌から炎の球体が出現した瞬間の舞香さんの表情は子供のようだった。

 舞香さんは昔からこういうファンタジーなものが大好きだったから、素直に感動したのだろう。


「す、すごいわ! 本当に魔法が使えるなんて!」

「あ。ちなみに、舞香さんも使えるようになるかもしれない」


 と、俺が軽く言うと口を開けたまま硬直した。

 しかし、すぐにハッと我に返り目を輝かせる。


「本当なの!?」

「とは言っても、もしかしたら、なんだけど。俺が舞香さんに魔力を注ぎ込むことで注ぎ込んだ魔力がある間は魔法が使えるかもってことなんだ」


 夢が叶う。

 その一心で、舞香さんは俺の説明を真面目に頷きながら聞いている。


「それで、徐々に魔力が体に浸透していけば……俺の魔力を注ぎ込まなくても使えるようになる。俺は、勇者召喚の影響もあって最初から魔力があったんだけど。そういう方法もあるってことはあっちの世界で知ったんだ」

「つ、つまり魔力が体に浸透すれば、私だけの魔力ができるかもってことなのね?」

「その通り。魔力っていうのは言わば精神エネルギーみたいなものなんだってさ。それが、大気中のマナと呼ばれる自然エネルギーと合体して、魔力になるんだ」


 探索していた時にちゃんと調べたが、地球にも普通にマナは存在していた。というよりも、マナとはさっきも言ったが自然エネルギー。

 どこにでもあるエネルギーなんだ。

 後は、それをどうやって使うか。


「魔法。私も魔法が……」

「嬉しい?」

「もちろん嬉しいわ! あぁ、刃太郎が帰ってきただけじゃなくて子供の頃から夢に見ていた魔法まで使えるかもなんて。今日は、何かの記念日にしないと!」


 それからは、俺が異世界でどう生きていたのか。どう活躍したのかを簡潔に話した。全てを話すとかなり長くなりそうだったから。 

 それに、俺が今一番聞きたいのは……俺がいなくなってこの四年で地球がどうなったのかと、妹のあの変わりようについてだから。


「それで、次はこっちの番だけど。本当に、俺が行方不明になって四年、経ったんだよな?」

「ええ、その通りよ。あなたが行方不明になってからというもの。警察にあなたが行方不明になったことを連絡してから、私と有奈は寝る間も惜しんであなたの行方を探していたわ。だけど、私はずっとはできなかった。だって、私が働かないと有奈は生活していけないもの。だけど、有奈は学校の日でもよく抜け出して探していたわ。それでよく学校や警察から電話がかかってきたわね……」


 有奈……俺のことをそこまで! 

 必死に探してくれている有奈の姿を想像して、俺は涙が流れそうになった。


「そんな日が半年ほど続いたの。……ねえ、刃太郎。あなた有奈の今の姿は見た?」

「ああ」

「そう。素直な感想を聞いてもいい?」

「俺の可愛い有奈が不良になっていた……!」

「ふふ。やっぱり変わらないわね。有奈はこう言ったの。自分が不良になったらお兄ちゃんは絶対帰ってくるって」


 え? なんで不良になったら俺が……いや、まさか。


「心当たりがあるみたいね」

「あ、あるけど」


 まさか、あの時の言葉を有奈は信じていたのか? いや有奈なら……そうあれは俺がまだ中学二年生の頃の話だ。

 当時からファンタジー小説や二次元方向に目覚めていた俺は、とある異世界ものの本を読んでいた。

 有奈も一緒に読んでいた。

 それで、俺がこう言ったんだ。


「俺も異世界に行ってみたいなぁ」


 とな。そうしたら有奈が。


「そ、そんなのだめだよ! もしお兄ちゃんがいなくなっちゃったら有奈悪い子になっちゃうんだから!」


 それほど俺と離れたくなかったのか、と俺は感動した。だから、俺はこう言ったんだ。


「ははは。だったら、俺はそんな悪い有奈を正しい道に戻すため、死に物狂いで戻ってきてやるぞ!」


 てな。

 あの時は、まさか本当に自分が異世界に召喚されるなんて思ってもいなかった。


「……そんなことがあったのね。私、事情までは聞き出せなかったから」

「ごめん。でも! そうだとしたら、俺はこうして帰ってきた! てことは、有奈も不良から更生するはずだ!!」


 よかった。本当によかった……なんだよ、やっぱり有奈は有奈だったじゃないか。俺が戻ってくるようにって不良のふりをしていただけなんだ。

 たく! やっぱり有奈は可愛い妹だぜ! 数年前の約束を実行するなんて。

 あぁ、早く有奈に会いたい。

 早く帰ってこないかな? あ、でも有奈はカラオケに行っているから。


「ふう。その様子だと、今の有奈をどうにかできそうなのね?」

「ああ! 有奈が帰ってきたら、めっちゃ抱きついてやるさ! そうして、ただいまって一言言えば絶対元の有奈に戻る!」

「それを聞いて安心したわ。それじゃ、有奈が帰ってくるまでもっと異世界の話をして。後、私に魔法のことも!!」

「あーはいはい。わかったから、落ち着いて舞香さん」


 そして、時間は流れ夜の九時頃。

 ドアが開く音が聞こえた。


「ただいまー」


 有奈だ。

 あぁ、早く。早く抱きしめたい。さあ、お兄ちゃんが今、不良なお前を正しい道に! 期待して待っているとゆっくりと有奈がリビングへと近づいてくる。


「あれ? 舞香さん。誰かきてるの?」

「ええ。すごい人がね」


 舞香さんは意味深な言葉で笑っている。


「すごい人? ……あっ」


 ついに再会。

 さあ、今こそ、俺が四年分の想いと共にお前を。


「あり」

「なんだ、兄貴か。帰ってきたんだね」

「―――え?」


 予想外の言葉に俺は動きが止まった。まるで、興味がないような言い方。冷たい視線。は、ははは。これは演技だ。

 演技に決まっている。本気の不良になっている有奈を、俺がかっこよく正せばいいってことだよな?

 そうに決まっているさ。


「お、おう! 帰ってきたぞ、有奈! って、なんだよお前。その髪の毛は。まさか不良になっちまったのか? だめだぜ、不良なんて。お兄ちゃん、そんな悪い子は嫌いだぞ!」

「あっそ。じゃあ、そのまま嫌いになれば」

「……」


 だ、だめだ挫けるな。

 俺が押されていたら有奈は正しい道に戻ってこない。というか、すごいな有奈。こんなにも演技力があったとは。


「あ、そうだ。兄貴」

「な、なんだ?」

「私これから着替えるから。絶対部屋に入ってこないでよ」

「え?」

「それと、特別に一緒の部屋にしてあげるけど。寝るなら床で寝てね? 仕切りとかもちゃんと作っておくから。私のところには踏み込まないように。それじゃ」


 完全に俺のことを避けるかのような言葉を投げつけ、有奈は部屋へ姿を消していく。

 その瞬間。


「ぐはっ!?」


 俺は失神するかのように倒れた。


「じ、刃太郎!? しっかりしなさい!? 刃太郎!?」

「くっ!」

「耐えた!?」

「危ないところだった。まさか、あんな言葉を投げつけられるとは」


 予想外の精神攻撃だったが、俺はなんとか持ち直した。演技、そう演技だろさっきのは。演技であってほしい! 

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