第十六話「またお前か……」
「VR体験ができる入り口はこちらになりまーす! 予約チケットのお持ちの方は、左側の受付のほうへ!!」
あれから時間を五人で潰し、ついに大人気のVR体験会場へとやってきた。噂通りの長蛇の列だ。右側がチケットではない入り口。
左側が予約チケットを勝ち取った者達の列だ。
こうして見ると、右と左とでは列の長さ違う。
予約チケットは一日百五十枚までだと先ほど調べたが公式にあった。ちなみに、今のところは当日にしか買う事ができないということなので、客も不満に思っているもよう。
なので、近々チケットの量も増やし、ネットでも予約できるようにするらしい。
「楽しみだね! VR体験!!」
「うん。でも制限時間はそう長くないから、感動ばかりしてられないよ?」
もうちょっとで俺達の番だ。
予約チケットを持っている客は、受付にそれを見せて時間順に並ぶ。ちなみに、観客としてなら並ぶ必要はない。
必要ないが、観客席が埋まってしまったらどうにもできない。ここは遊園地の施設のひとつに過ぎない。そのためそれほど広くはないのだ。
入れる観客は百人ちょっと。
VR体験は、二組まで可能。なので、予約組みとそうじゃない組とで分かれている。予約組みのほうが空けば、そうじゃない組がそっちを使えるのだ。
「それでは、次のお客様こちらへどうぞ!」
「ようやく俺達か。なんだか年甲斐もなくわくわくしてきたな」
予約チケットを持っていない客達の羨ましそうな視線を背中で感じながら中へと入っていく。
近づくにつれて、歓声とゲーム音が聞こえてくる。
剣と剣がぶつかり合う音。
光差す入り口を潜ると……。
「おお! これがバーチャルリアリティというものか!」
今客が体験しているのはファンタジー世界。
プレイヤーは、用意された機械類を取り付けドームの中でそれを体験する。観客達は、モニターからプレイヤーが体験しているものを見ているんだ。
「次のお客様ですね?」
と、バニーガールが近づいてくる。
「はい。五名です」
「では、こちらのドームの中へお入りください」
バニーガールに案内され、ドームの中に入るとそこには人数分の機械が設置されていた。
最大五人まで。
バニーガールが、ぴっとリモコンを操作するとそこには取り付け方を説明した映像が流れた。俺達は、その映像を見て、機械を取り付けていく。
そして、ゴーグルを取り付けたところでバニーガールが喋りだす。
「準備はよろしいですね? では、ゲームのジャンルをご選択ください」
そういえば、どんなジャンルにするか決めていなかったな。
目の前に出ている映像の中には、ファンタジー、シューティング、格闘ゲーム、戦国? 青春ものもある。いや、誰かに見られながらはちょっと……。
「では、シューティングでゆくぞ!!」
「はい、シューティングですね!」
「おまっ! なに勝手に!!」
しかし、バニーガールはそのままシューティングジャンルを選択。すると、機械の起動音がドーム内に鳴り響く。
「このVR体験は、自由! 出てくる敵をばった! ばった! と倒すだけ!! でも、敵の行動パターンは新しい敵になる毎に少しずつですが変わっていきます! 力を合わせてモンスターを倒しましょう!!」
「おおー!」
「こんな機械をつけて戦うなんて、新鮮だな」
「皆、頑張ろう!」
真っ白だったドーム内は、徐々に豊かな草原と青空に変わっていく。
バニーガールは、それでは! と一礼して出て行った。
制限時間は十分。
その時間が右腕に装着されている機械に現れる。
「おっと。この武器を使えってことか」
床から開いて出てきたのは機械の銃。
俺達はそれを手に取り、現れたモンスターと対峙。機械の銃は思っていたよりも重くはなく、これだったら女性でも簡単に扱えるだろう
「よーし! いくぞー!!」
「こら、あんまり前に出ないの」
さっそくリリーが前に出て銃を構える。
そしてトリガーを引くと、銃口から銃弾が飛び出し見事に敵の眉間に命中。モンスターは、光の粒子となって消滅した。
「いきなりヘッドショットって……」
「さすが、リリーちゃん。私も、負けてられない!」
先陣を切ったリリーに触発され、動き出す。
俺も負けてられない。
どうやら、モンスターを倒す毎に左手にある機械にポイントとして表示されるらしい。
「我々もいくぞ!」
今回は、勝負とは言わないようだ。それはそれで、俺としては助かるんだが。俺も、これはゲームとして純粋に楽しみとしよう。
「二人とも! あんまり広くないんだから考えて動かないと!」
「わかってるよー!」
「ちゃんと回りは見てるよ!」
そう、あまりドーム内は広くないので、考えて動かないとぶつかってしまう。もっと広いところは、天宮家のビル中にあるらしい。
「有奈! 何体倒した?」
「十体!」
「なんの! あたしは十二体だよ!!」
背中を合わせてお互い楽しそうにゲームをしている。今まで、剣とか魔法で敵と戦ってきたけど、こういう銃での戦いもいいかもしれない。
「楽しそうですね、二人とも」
「ああ。ロッサもめっちゃ撃ってるし」
俺と華燐は、のんびりとモンスターを倒している。
「私達は、このままのんびりとやっていきますか?」
「そうだなぁ。一番ポイントが高い人になにかプレゼントを! ってあればもうちょっとやる気が―――ッ! この気配は!」
気配に気づいた刹那。
ドーム内に渦巻く黒き力。そこから現れたのは、あの般若だった。
「え? え? あの般若もモンスター?」
「ど、どうなんだろ? 人間……に見えるけど」
こんな時に現れやがって。
俺はすぐに二人の前に飛び出し盾になった。
「おい、お前。人がせっかく楽しく遊んでいるっていうのに。場所を考えろって言っただろ!」
『そんなもの関係ない。俺は、貴様に死を与えに来た。場所など関係ない!!』
二人を華燐と共に下がらせ、俺は構える。
……っと、そういえばここってモニターで外の人達が見ていたんだった。やばい、どうする。ここで魔法なんて使ったら一気に。
『くっくっく。どうした? 使わないのか? 魔法を』
なるほど、それが狙いか。
だが、引っかかるな。もし、俺が魔法を使えるということを世の中に知らしめるのならもっと方法があったはずだ。
ここではなく遊園地内で、もっと人がいる場所で。
なのに、こいつは鏡の迷宮やここなど、人が少ない場所を選んでいる。
『来ないのなら、こっちからいくぞ!!』
膨大な黒の力を剣と化し、その全てが襲い掛かってくる。別にな……魔法が使えなくても。
ゴーグルを取り外し、俺は飛び出した。
「おらっ!」
『ぐはっ!?』
力を随分とつけてきたようだが、まだまだだ。俺は、黒き剣の嵐を掻い潜り、般若の顔へと拳を叩きつけた。
その衝撃で、般若の仮面は砕け素顔を露にさせる。
ちなみに、ここでの出来事を外に漏らさないように黒い剣の一本を蹴り飛ばしカメラへとぶつけた。
「やっぱり、お前だったか」
「くっ!」
必死に手で隠そうとするが、もう遅い。
「貴様、光太か?」
「バルトロッサ様……」
顔には、何かの紋様が刻まれ、瞳も琥珀色になっているが般若の正体は松田光太。バルトロッサの部下だった男だ。
「お、お知り合いですか?」
「まあ、な。おい、ザイン! お前もいるんだろ。出て来い!!」
「はっはっはっは!! さすがにやるな! 俺も力をつけたというのに。こうもあっさりと」
高笑いをしながら出てきたのは、黒い衣に身を包んだ男ザイン。
「まったく。懲りない奴だな」
「懲りないとも! 俺は不死身! 何度でも蘇るのだ!! そして、こいつはいいぞ。貴様へとの怒りと嫉妬が凄まじい。だからこそ、ここまで力を高める事ができたのだ!!」
俺への怒りと嫉妬、か。
ちらっと後ろにいるロッサへと視線を向けた。なにもわかっていなようで、首を傾げていた。
次回、ザインをついに!!




