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第十五話「これからも」

 昼になった。

 今日は、一日中遊ぶつもりで来ている。とはいえ、さっきの襲撃……これは、警戒心を高めていかないといけなくなった。

 絶対、また襲われる心配があるからな。


「いやぁ、楽しかった! 午前で半分は施設を回ったんじゃないかな!」

「そんなに? 私達なんて、まだ四つしか回っていないのに」


 天宮遊園地は、他の遊園地よりも遊べる場所が多い。なので、全て回るのも大変なのだ。しかし、リリーは本当に一日で全て制覇する勢い。

 この元気の良さは、どこからくるのか。


「二人はどんなところに行ったの?」


 オレンジジュースをストローで飲みながらリリーは問いかける。

 今は、昼食休憩というやつだ。

 ここでしか売られていない天宮バーガーというものを食べている。なんと、ハンバーグやトマトなどがチーズでコーティングされているのだ。

 なので、真ん中は黄色一色。

 特性のソースが、よく合いかなりうまい。


「えっと、まずはお化け屋敷かな。次にシューティングパレード。主に、シューティングパレードで結構な時間を潰したかなぁ」


 手を銃の形にしてリリーを撃つ様な動作をしながら、有奈は呟く。シューティングパレードか……俺達はまだ行っていなかった。

 ほとんど乗り物系だったし。


「有奈ってば、最高記録叩き出しそうになったんだよ」

「もうちょっとだったんだけなぁ……」


 残念、と落ち込む。

 よかった……有奈も十分楽しんでいるみたいだな。


「さてさて! それじゃ、午後からは違う組み合わせで楽しもうー!」

「そうだね。じゃあ」

「うんうん。じゃあ」


 午後からは別の組み合わせで、というのは俺も賛成だった。もちろん、有奈と一緒に! と思っていた。

 リリーと華燐は、にやっと笑って有奈を俺の近くに寄せてくる。そして、二人は、ロッサを挟むようにして再度座った。


「この組み合わせで!」

「え? あ、あの二人とも……」


 突然のチーム分けに、困惑している有奈。俺は、すごく嬉しい気持ちになっている。


「有奈。今日は、お兄さんと仲直り、したほうがいいよ」

「刃太郎さん。有奈と思いっきり楽しんでください!」

「では、我は」

「ロッサは、あたし達と!」

「一緒に遊ぼう!」


 ロッサが何かを言う前に、二人はまるで宇宙人でも捕まえたかのようにロッサを連れて行ってしまった。そして、残される俺と有奈。

 しばらく、沈黙が続くが俺は立ち上がる。


「俺達も行こう、有奈」

「……そう、だね」


 せっかく、二人が気を利かせてくれたんだ。それに応えるために、有奈との距離を詰めていかなくちゃな。


「さて、どこにいく?」

「……あれがいいかな」


 周りの施設を見ながら、歩き有奈が決めたのは……観覧車だった。


「また回るやつか」

「え?」

「あ、いや。なんでもない。そうと決まれば乗り込もうぜ! 今は、ちょっと空いているようだし」


 まだ昼食時。

 皆、食事に夢中になっている。それか、ジェットコースターやVR体験を楽しむために、並んでいるのだろう。

 俺は、有奈の願いを素直に受け止め観覧車へと向かう。


「観覧車に乗るのも何年ぶりだろうな」

「小学生以来、かな?」

「そんなにだったか? まあ、遊園地自体もくることがなくなったからなぁ……」


 観覧車に乗り、俺達は最初昔の話から切り出した。両親が死んでから、舞香さんに連れられて行ったのが確か……小学校五年生頃だったかな?

 懐かしいなぁ、あの頃は純粋に遊園地の乗り物を楽しんでいたっけ。

 別に、成長して楽しんでいないわけじゃないけど。


「……」

「……」


 それっきり沈黙が続いた。

 しかし、俺達が乗っている観覧車が天辺に近づいたところで有奈が喋りだす。


「ねえ、兄貴」

「ん?」

「もう気づいていると思うけど、私。悪ぶっているだけなんだ」


 なんだそんなことか。

 だけど、自分からやっと切り出したのは少しでも俺との関係を戻したいって思ったからだろう。ま、俺は元々いつも通りの関係だって思っているけど。


「そんなの最初から気づいてるって。最初は、不良になっていてびっくりしたけど。舞香さんから話を聞いて、すぐに有奈は有奈だって」

「むぅ……私なりに悪い子を研究したんだけどなぁ」


 悔しそうに頬を膨らませる。

 有奈は、根っから悪い子にはなれないって思っている。頑張って悪ぶっている姿は、逆に可愛く見えてしまうんだ。


「研究か……そうだ。ずっと聞きたかったんだけど」

「なに?」

「部屋に木刀があっただろ? あれって何なんだ?」


 最初に見つけてからずっと触れていなかったけど、気にはなってはいたんだ。話を聞こうにはも、俺のことを避けていたからな。


「あれは……ほら。不良っていうか、悪い人ってなんだか武器を持っているイメージがあったから。それで、自分で買った、の……」

「な、なるほど……確かに、そういうイメージがあるよな」

「でも、結局買ったはいいけど。あそこにずっと置きっぱなしなの」


 よくあるよくある。買ったはいいけど、ほとんど使わずに置きっぱなしになってしまうことって。それにしても、木刀を持った有奈か……ふむ、ちょっと想像できない。


「その顔、私が木刀を持った姿なんて想像できないって思ったでしょ」

「よ、よくわかったな」

「お兄ちゃんって意外と顔に出るから。さっき、笑ってたよ」


 そうなのか。全然気づかなかった。俺としてはポーカーフェイスできるほうだと思っていたんだけど。

 っと、それよりも。


「はい、お兄ちゃんいただきました」

「……ふふ。今日は、ちょっと素直になってみるよ」

「ずっと素直でいてほしいんだけど」

「それはちょっと無理かな。だって、四年も待ったんだよ。それに、私だってもう子供じゃないから」


 はははは、確かにそうだな。もう、有奈も子供じゃない。俺と同い年だもんな。待たせるつもりはなかったんだけど。

 結果的には待たせてしまった。俺は、その責任を取らなくちゃならない。

 だから。


「だな。わかった。これからも、どんどんツンなお前を見せてくれ。どんなお前でも受け入れてやるから」

「ありがとう、お兄ちゃん。でも、あんまり私に甘くしていると知らないうちにもっと悪い子になっちゃうかもよ?」

「おっと、それは嫌だな。そうならないように、兄として妹を正しい道に導いてやらないとな」


 四年間の想いを、俺は受け止める。

 どんなことでも。有奈がやっていることを受け入れたうえで、あの頃の有奈に……。


「頑張ってね、お兄ちゃん」

「おう。ん? なあ、有奈。あそこ、見てみ」

「あそこ?」


 もうちょっとで一周しようとしたところで、俺はとある場所を指出さす。そこには、リリー、華燐、ロッサが身を隠してこちらを観察している姿が見えた。

 まったく隠れていないんだけどな。


「あいつら、俺達のことを仲直りさせようって思っていたみたいだな」

「もう……」


 そういう有奈の顔は、とても嬉しそうなものだな。よかったな、優しい友達と出会えて。そして、観覧車が下に到着し、俺達はリリー達のところへと行く。

 三人も、俺達が近づいてくるのに気づき笑顔で出てくる。


「よっ。遊びに行ったんじゃなかったのか」

「どうやら、こいつらは貴様と有奈を仲直りさせようとしていたようだ」

「えへへ。ごめんなさい、刃太郎さん」

「いや、気にするな」


 おかげで、有奈とはもっと距離が近づいたからな。


「そうだ。これ!!」


 どうだ! と言わんばかりに突き出したのは、なんとVR体験ができる施設の予約チケットではないか。しかも、ここにいる人数分。


「どうしたんだ? それ」

「あ、それ。私と華燐ちゃんが午前の間に予約しておいたやつ」

「こら、自分で予約したみたいに出さないの」

「えへへ。でも、すごいね二人とも。あたしなんて遊ぶことしか考えていなかったもん」


 VR体験の施設は、長蛇の列ができほどの人気。だから、こうやって時間や体験したい人数を指定して予約することもできる。

 だが、予約チケットもかなりの人気ですぐに売切れてしまうとか。それを、五人分予約するとは。


「予約時間は今から一時間半後。それまで、もうちょっと他を回ろう」

「了解。ありがとうな、有奈、華燐」

「う、うん」

「どういたしまして」


 VR体験か……どんな感じなんだろうな。小説とかアニメとかみたいな感じなんだろうか。異世界とどっちがすごいのか……今から楽しみだ。

次回、般若の正体が!

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