第十二話「買い物に行こう」
『それでは、次のニュースです。六月前期の摩訶不思議な事が起こっています。最初は、警察の目撃。突如として黒い渦が現れ、追跡していた青年が消えたのが始まりでした』
ロッサと同居してから、三日。
今日は土曜日だ。
明日には、約束の遊園地だ。今日も、三人仲良く……いや、今は四人で朝食を食べながらテレビのニュースを眺めている。
『そして、記憶喪失者達。その誰もが、何らかの犯罪を起こしたもののいつの間にか気絶しており、全員が記憶が欠落していると証言しているようです』
「……まだニュースをやっているのか」
まあ、仕方ないよな。
俺の神隠しから、こういうことには敏感になっているんだろう。これ以上、何かが起こらないように俺がなんとかしないと。
そう思って、ザインがばら撒いていたあの力を持った人達を撃退していた。結局、ザインの奴は山下書店に現れて以来、何も行動していない。
ロッサの話によると、ロッサが撃退したということだったが。でも、ファミレスで確かに小さいながらも奴の気配を感じた。
完全には復活していないのか? それとも、何かを企んでいてどこかに潜んでいる?
どちらにしろ、あいつを完全に倒す方法を見つけないと……一応あるんだが、あれを使うとなると。
「最初の黒い渦って……ロッサちゃん、なんだよね? それに、追跡していた青年ってリーゼントの」
「うむ。あの時は、刃太郎を見つけたついでに奪い取っただけよ」
味噌汁をすすり、ロッサは言う。
席順は、舞香さんと有奈が隣同士。俺とロッサが隣同士となっている。
「有奈。醤油くれるか?」
「うん」
距離的には、手を伸ばせば届くが、あえて有奈に頼んだ。最初の時は、絶対無視されていたが、今ではこうしたちょっとのことでもちゃんと聞いてくれるようになっている。
あまり、有奈にはしてやれなかったと思うけど……知らない間に更生させていたのか? 俺の記憶によると、ただ遊んで、助けただけだったが。
だからこそ、今度の日曜日で挽回しようと思っていたんだけど。
「ふふ」
「な、なに? 舞香さん」
「ううん、なんでもない。あ、ロッサちゃん。おかわり、いる?」
「貰おう」
これで四杯目だぞ。
こいつって本当に大食いだよなぁ……。こいつが来てからというもの、舞香さんもなんだか張り切って料理している。
「あ、そうだ。明日に備えて、お買い物にいかない? 有奈、ロッサちゃん」
「買い物?」
「そう。お洋服を買いに行くの。有奈も、久しぶりに刃太郎と遊ぶんだから着飾っていかないと」
「……わ、わかった」
「ロッサちゃんもね」
「我も? ……ふむ。確かに、着飾るのは我も嫌いではない。よかろう、我も買い物に付き合ってやる」
ちなみに、俺はこれからバイトなのでいけそうにない。
なんだか、俺が行くまでのバイトさんが急用でいけなくなったらしい。そのバイトさんには、一度も会った事がない。
「ごめんな。俺もバイトがなければ、荷物持ちとかで付き合えたのに」
「大丈夫よ。あなたは、バイトを頑張って」
「気にするな。我が代わりに荷物持ちをしてやろう」
あぁ、こいつ見た目のわりにかなりの力持ちだからな。俺ほどではないが、この世界でもこいつに敵う奴はいないだろう。
俺以外は。
とはいえ、俺が知らないだけで華燐のような特殊な力を持った者達がいるかもしれない。
「それじゃ、朝食を食べたらさっそく行きましょうか」
・・・☆・・・
「んー! なんだか天気もいいし、可愛い子二人と一緒にお買い物だし。気分がいい土曜日ね!」
「もう、舞香さん。はしゃぎ過ぎだよ」
「そういう有奈も嬉しそうな顔じゃない」
「ち、違うよ。私もいい天気だなぁって」
朝食後、有奈達は街に繰り出していた。
明日の遊園地へ向けて、新しい洋服を買うつもりなのだ。
「そんなに嬉しいものなのか?」
「嬉しいわよ。だって、ずーっと一人だったんだから。刃太郎がいなくなってからというもの、有奈も付き合いが悪くなっちゃったしねー?」
「うっ」
舞香は、意地悪そうににやっと有奈を見る。
有奈も、それを察してばつ悪そうな顔で固まった。
「でも。今は、刃太郎も帰って来て。有奈も少しずつ昔に戻ってきて、毎日が楽しいわ」
「毎日が楽しいか。それはいいこと。我も、毎日が楽しい」
「あら? それはどうして? ロッサちゃん」
そろそろ店に到着しそうな時。ロッサが意味深な言葉を言ったので、舞香はもちろんのこと有奈も気になり、耳を傾ける。
「我は、あっちの世界では魔帝として世界を侵略していた。部下達と共に戦い、それは楽しかった。だが、それを越える楽しさを刃太郎がくれた」
「ほうほう?」
「……」
バルトロッサの語りを、二人はマジマジと聞く。
しかし、どうやら勘違いをしているようだ。
「我は一度命を奪われた。だが、あいつとの戦う高揚感が忘れられず、こうして転生し今も尚戦い続けている。あいつとの戦いの毎日は楽しいものだ」
「宿敵同士にしかわからない楽しさ、ということなのね。なるほど」
そうこう話しているうちに、大型のショッピングモールに到着した。ここには、食べ物から洋服まで色んな物が揃っている。
商店街もいいが、やはり流行の物や品揃いならばここが一番だろう。
「ここか! なかなか大きいではないか。まあ、我が城に比べれば小さいがな」
「ロッサちゃんのお城かぁ。私も一度でいいから見てみたいわね」
「ふっ。我も見せてやりたいが、生憎とあっちの世界に行くのは今は難しいのだ」
「それは、残念。さ、洋服は二階の奥よ!」
エスカレーターに乗り、二階へと行く。
今日は、土曜日というだけあってショッピングモールは多くの人々で賑わっている。見渡せば、家族で恋人同士で、友達同士で。
休みの日になると、やはり人が多くなる。
「ところで、ロッサちゃんはどんなお洋服がいい?」
「そうだな。動きやすいものがいい」
「動きやすいものかぁ。うん、私に任せて! 有奈は、どんなものがいい?」
エスカレーターから下り、洋服屋へと移動。
可愛い服から、かっこいい服まで色々と揃っている。その中の、ひとつを手に取り舞香は有奈に問いかけた。
「うーん……まだちょっと。探しながら、考えるから。そっちはそっちで」
「わかったわ。それじゃ、ロッサちゃん! これとこれ! こっちも!!」
「お、おお。そんなにか」
白いワンピースから、今着ている服に似たようなもの。さらに、ちょっと大人っぽい黒い服までも選びバルトロッサと共に試着室へと行く。
「……どんなものを、買おうかな」
舞香達と分かれた有奈は、一人でいくつもの服を見て探していく。
明日の日曜日。
久しぶりに、刃太郎と遊ぶ。小さい頃は、刃太郎が褒めてくるから新しい洋服を買っていた。しかし、刃太郎がいなくなってからは、誰に見せるでもないので進んで買うことがなかった。
だけど、今は違う。
久しぶりに、刃太郎と遊ぶのだ。
「可愛い! やっぱり夏はワンピースよね!」
「お、おお。そうなのか?」
「はい! 次は、こっち!」
「う、うむ」
試着室を覗くと、白いワンピースに着替え、髪の毛を解き、麦わら帽子を被っている。こうして見ると、本当に可愛い女の子だ。
彼女が異世界を滅ぼそうとしていた親玉だとは思えないほどの。
舞香も、何やらスイッチが入ったかのように次々に洋服を選びバルトロッサに勧めている。
「私も、早く選ばないと!」
それを見て、有奈はよし! と気合いを入れて目ぼしい服を何着か選び空いている試着室へと向かった。




