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第十一話「日曜日まで」

「はあ……はあ……な、なんだったんだ。あのがき……!」

「テレビで有名になったあの神隠し野郎だろ? ありゃ、マジで普通じゃねぇよ。なんか、あいつの背後に化け物みてぇのが見えたしな。……俺、マジでちびっちまった」

「うお!? お前、汚な!?」


 男達は、呼吸を乱しながらとある裏路地へと来ていた。

 冷や汗が体全体から流れ、金髪の男に関してはズボンの股間部分が濡れている。二十歳後半なのに、なにやってんだよっとキャップの男が引き気味に言っていると。


「ご苦労だったな。お前たち」


 現れたのは、サングラスにマスクで素顔を隠しているジャージ姿の男。

 その男が現れると、二人はにやにやと笑いながら近づいていく。


「それで? ちゃんと情報は得たんだろうな」

「もちろんだ。あの銀髪のお嬢ちゃんだが。どうやら、今度の日曜日に遊園地に行くらしいぜ」

「遊園地……」


 サングラスの男は、そうかと頷き二人に二万円ずつ渡した。


「うっひょー。マジで二万円だ」

「ただ情報を聞くだけの簡単なお仕事だったのに。あんた、なかなか気前がいいじゃねぇか? にしてもよ、あの刃太郎とかいうがき。只者じゃねぇっつーか。やばくねぇか?」


 と、金髪の男は自分の股間を見詰め、先ほどの出来事を思い出す。

 キャップの男も、二万円を財布にしまいながら肯定するように首を縦に振った。


「あのがきに手を出すってんなら、命がけになるぜ」

「心配無用だ。俺も……普通じゃないからな」

「……あっそ。まあ、俺達にはもう関係ないことだから」

「んじゃな!」


 もう関わりたくない。二人は、その場から逃げるように立ち去っていく。


「……遊園地だと」


 男は、拳を握り締め壁に思いっきり叩きつける。


 ドゴン!!


 まるで、ハンマーで叩きつけたかのように壁は砕ける。その後、サングラスとマスクを外し素顔を露にした。


「刃太郎め……バルトロッサ様と遊園地でデートをするつもりだな……!」


 サングラスの男の正体は松田光太だった。

 男達からの情報を聞き、遊園地という単語から様々な光景を頭の中で想像した。想像する度に、怒りが込み上げてくる。

 そんな光太を見て、デフォルメサイズのザインはふっと苦笑する。


(まったく。危ないところであった。あのまま、接近していれば絶対あの男は気づいていただろう)


 実は、男達に依頼をした後、光太自ら刃太郎達がいる場所へと向かっていったのだ。しかし、それをザインがなんとか阻止。

 あのまま気づかれていれば、作戦が台無しになってしまう。


(だが、それだけ刃太郎という男への怒りや嫉妬が大きいということ。本当は、二人っきりのデートではなく五人で遊びに行くだけなのだが……このまま黙っておこう)


 そのほうが、より大きな怒りと嫉妬を生み強くなるから。


「さあ、光太よ。決行は日曜だ! それまで力を蓄えておけ。それと、今日からあの銀髪の少女には近づくな」

「なっ!? どうしてだ! 俺がいなくちゃバルトロッサ様は!!」

「今のお前は、普通ではない。あの少女……バルトロッサは、力が弱まったとはいえ魔帝という存在なのだろう? であるなら、貴様の身にある力にも気づくはずだ。それでは、作戦に支障が出る」


 ザインは思い出す。

 バルトロッサに、やられたあの時のことを。あの力は普通ではなかった。


「……だが」

「堪えるのだ、光太よ。今は、誰にも気づかれず力を蓄える。そうするしか、奴に。刃太郎に勝てることができない。奴から、引き剥がしたいだろ?」

「…………わかった」

「それでいい」


 今は我慢だ。

 そう自分に言い聞かせ、家へと一度帰宅し、メモを残した。

 これから数日、家に帰ることが出来ません。お金は棚の中に入れておきます。日曜日には帰れると思いますので、と。





・・・★・・・





「で、俺達のところに来たと」

「うむ。これから数日、世話になる」

「いや、まだ認めてないから」


 お疲れ様会を終えて、有奈と久しぶりに一緒に帰り上機嫌だった俺のところに、次元ホールを使って突如として現れたロッサ。

 これから風呂に入ろうと思い、部屋で下着や着替えの服などを選んでいたところだったんだ。


 どうやら、光太が仕事の都合で数日家に帰れないとメモがあったらしい。

 そのまま一人で暮らしていればいいのに。


「……そうか。ならばリリーの家にでも行くか」

「おっと待て」

「なんだ?」


 俺は、考えた。

 もしこのままリリーの家に行って、余計なことを話でもしたらどうしようかと。こいつのことだ。リリーが異世界ではどんな感じだった? と質問したら包み隠さず真実を伝えるだろう。

 その時、こいつが元男だった、なんて知ったら……妹のように可愛がっていたあの笑顔が……消えるかもしれない。

 とはいえ、いつかはばれること。一生、隠し通せることじゃないし……。


「わかった。今から、舞香さんに許可を貰うから。ちょっとついて来い」

「うむ」


 徐々に……徐々に伝えていこう。一気に伝えても、頭を混乱させるだけだ。もしもの時は、俺が責任を取る覚悟でいよう。


「舞香さーん。ちょっといい?」

「どうしたの? って、その子は?」


 リビングで、テレビを観ていた舞香さんは俺の後ろにいるロッサに気づき首を傾げる。俺は、頬を掻きながらこいつのことについて説明した。


「なるほどねぇ。……うん、いいわ。ロッサちゃんの数日間の居住を許可しましょう」

「簡単に許可しちゃっていいの? これ、ラスボスっすよ? 俺とは敵同士なんっすよ? それに、寝るところないんだけど……」


 あるとしたら、リビングにあるソファーぐらいだ。

 もう誰かが居住できる部屋は一室もない。

 俺と有奈の共同部屋だって、もう一人入るスペースなんて……。


「ラスボスでも、今は違うんでしょ? それに、刃太郎がお世話、してくれるんでしょ?」

「まあ、こいつが何かしないようには見張るけど」

「それに、ロッサちゃんは刃太郎との決着がつくまで、暴れたりはしないんでしょ?」

「もちろんだ。我が望むは、刃太郎との決着! こいつを倒すまではこの地球に危害を加えるつもりはない」


 加えようとしても、俺が全力で阻止するがな。


「なら、大丈夫よ。それに、寝るところなら私の部屋があるじゃない」


 確かに、こいつの今の体ならそれほど広くないスペースでも寝られると思うが。でも、舞香さんの部屋で一緒に寝かせるなんて……。


「そういうことで、ロッサちゃんの数日間の居住を許可します。ということで、今からお布団を敷くから」

「待つがよい、舞香よ。敷くのなら、これを敷くのだ」


 立ち上がる舞香さんの足元に、次元ホールから引っ張り出してきた布団が落ちる。


「我が、普段使っている布団だ」

「あら? 自分のを持ってくるなんて、律儀な魔帝さんね」

「ふっ。我は、一度決めたものでないと眠れない性質でな。こっちの世界では、この布団というわけだ」


 どこから見ても、普通の布団だが。

 変な拘りがあるもんだ。


「それじゃ、今から敷いてくるから。ロッサちゃんは、有奈が上がったらお風呂に入ってね」


 それにしても、すごいな舞香さん。

 もはや、ラスボスとしてのこいつではなく。ロッサという少女を相手にしているかのような対応だ。


「はあ……これから数日。お前と一緒に暮らさなくちゃならないなんて。考えただけで、気が滅入る」

「逆に我は、気分上々だがな。……そういえば、今日は何も勝負をしていなかった」


 ちっ、思い出したか。


「言っておくが、俺はもう何もする気がないぞ」

「そうだな……お?」


 こいつ、人の話を聞いていない。


「では、今日の勝負はどちらが長く風呂に入っていられるかでどうだ? 丁度、貴様も風呂に入るところであったであろう?」

「……いやだ」

「なに? ……なるほど。性別という障害があるからか。なに、恥ずかしがることはない。貴様が、ノーマルであるのなら我の体など、どうってことはないであろう?」


 どうってことあるんだよ、アホ。

 確かに、お前は見た目は小学生ぽいけどさ。一緒に入るなんて、言ったら俺が有奈から変な目で見られてしまう可能性があるんだよ。

 そんなの絶対に嫌だ。それに、風呂ぐらいはゆっくり浸かりたいんだ。


「兎に角、一人で入れ」

「勝負から逃げるのか?」

「逃げるんじゃない。そもそも、そんな勝負を受けたつもりはない」

「つまらん奴だ」

「つまらなくて結構」


 あーあ、早く日曜日になって……いや、日曜日になってもこいつとは一緒か。

 これは、何かの呪いなのか?

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