第十話「お疲れ様」
「お疲れさまー!!!」
「お疲れ様、リリー。自己採点では赤点はなかったんだよね?」
「もちろん! あたしは、やれば出来る子! これで、高校二年の夏は青春真っ盛りだよー!!」
リリー達のテスト期間が終わり、今日は小さいながらもお疲れ様会を開いている。
本来は、有奈、リリー、華燐の三人でいいところを、俺まで呼ばれた。
いや……俺以外にも呼ばれた奴がいた。
「なんでお前もきているんだ?」
「リリーに呼ばれたのだ」
あれ以来、リリーはロッサと仲良くなってしまった。というよりも、リリーが一方的にロッサをただの可愛い銀髪少女だと思って、可愛がっている。
まるで妹のように。
一人っ子だったリリーは、本当の妹のようにロッサに接している。金髪と銀髪……とても画になるけど。
「ロッサ。今日は、たくさん食べよう! もうあたしを縛るものはないのだー!」
「うむ。食べろと言われれば食べる。あ、店員。ナポリタンを頼む」
「あたしは、パフェを!」
リリーも結構な大食いらしい。ロッサには負けるがな。
今は、ファミリーレストランに来ている。
テストが終わったと同時に、リリーと華燐が誘ってきたのだ。俺は、アルバイトがあったため途中からの参加となった。
でも、リリーと華燐が気を利かせてくれたのか始まったのは俺のバイトが終わる十分前だったらしい。
「たく、驚いたぞ。お前がいた時は」
「ふん。今回は、リリーの誘いで来たのだ。まあ、貴様が来るということも聞いていたがな」
リリーとロッサが仲良くなったのは、予想外だった。
予想外だったが、これでよかったのかもしれない。
これが、平和に繋がるんだ。
「それにしても、リリーってばいつの間にこの子と仲良くなったの?」
「最近。ほら? 有奈と華燐が二人で遊びに行っていた時があったっしょ? その時にね、刃太郎さんとゲームセンターに遊びに行こうと思ったんだけど」
「そこに、こいつが現れたんだ」
「あの時は実に有意義な戦いであった。リリーよ、貴様はこの世界で二番目に我が認めた人間だ」
「この世界ってことは……ロッサちゃんは異世界出身てこと?」
あー、まあこいつは隠し立てできない性質だからな。
それに、この三人は異世界のことを知っている。
だけど……このまま魔帝ですーって伝えるべきか。
「うむ。我は、刃太郎と命を奪い合った仲だ」
「い、命を!?」
「物騒な仲、なんだね」
あぁ……有奈がなにかを勘違いしている。俺が、少女の命を奪う鬼畜な奴だと思っているかもしれない。
周りには聞かれたくないので、声を潜めて説明する。
「実はな、こいつは……あっちの世界でのラスボスなんだ。すっげー恐ろしい奴で、人間じゃないんだ」
「……え? それって、刃太郎さんが倒したって言う」
「え? え? それじゃ、そのラスボスがどうして」
三人は困惑している。確かに、ラスボスがこんな身近にいるなんて思いもしないだろう。しかも、倒したはずなのにこうして生きているなんて。
「ふむ。それは、我がこいつとの決着をつけるためだ」
「……えーっと、ロッサちゃん。この世界を滅ぼすとかは」
ちょっと怯えながらも有奈が問いかける。
「今のところ考えてはおらぬ。こいつとの決着が先だからな」
「大丈夫だ。こいつには、負けない。それに、もし滅ぼそうとしても俺が止めてやる。力が弱まったこいつなら余裕だから」
「くっ……屈辱だが、今の我ではこいつには真っ向から勝負しても勝てぬ! だからこそ、こっちのルールで勝利しようと決断したのだ!!」
ロッサの本気の反応に、三人は嘘ではないことに気づく。そして、俺の笑顔にとりあえずほっとした表情になる。
お疲れ様ムードだったのにこんな話をしてしまって……と俺は申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんな。せっかくのお疲れ様会なのに」
「い、いえ。でも、ロッサがまさかラスボスだったとはねぇ。まあ、それでもこんなにも可愛いから気にしないけど~」
それでいいのか、リリーよ。
一応元男だってことは伏せいておく。リリーがこんなにも、嬉しそうにしているからな。ロッサ本人も、言わなければ喋ることはないだろうし。
「私もあまり気にしないかな。昔は昔、今は今ってことで」
「私も。それに、兄貴がなんとか……してくれるんでしょ?」
「もちろんだ! どーん! 頼ってくれ!! さ! お疲れ様会を楽しもう!!」
「うむ。店員! チョコレートパフェを頼む!!」
「お前は食いすぎだ!!」
ロッサの分だけで軽く二千円は越えていた。ファミレスだと結構高めのものが多いから、こういうことはよくあるのだが。
一人でどんだけ食べる気なんだ。
「大丈夫ですよ! 刃太郎さん! ここはあたしが払いますから!!」
「今日のために、ちょっと多めにお金持ってきたんだもんね、リリー」
待て待て。そんなことを言ったら、こいつ遠慮なんてしないぞマジで。
あ、そうだ。言い忘れていたことがあった。
「ところで、二人とも。次の日曜日。何か用事とかあるか?」
「特になにもないですけど?」
「あたしも。強いて言うなら、テストも終わったし思いっきり遊びたいかなーって」
それなら、丁度いい。
もう遊びに行くところもリサーチ済みだからな。
「じゃあ、遊びに行かないか? 遊園地に。この四人で」
「遊園地ですかぁ、いいですね!」
「そういえば、三人でも遊園地には行ったことがなかったね。リリーとは行ったことがあったけど」
「だったら、いい機会だし。思いっきり楽しもうよ、リリーちゃん、華燐ちゃん」
「……ん? おい待て。四人と言ったな? 我が抜けているぞ」
気づいたか。
そのまま、食事に夢中になって聞き流してくれればよかったのに。こうなると、絶対こいつは退かないからなぁ、それに。
「もちろん、ロッサも一緒に!」
案の定、リリーがロッサのことを誘った。
「そういうことだ。刃太郎よ、我も行くぞ」
「はいはい……まあ、というわけで。今度の日曜は、遊園地で楽しもう!」
「はい!」
「ふふ。楽しみになってきたね、有奈」
「うん。そうだね」
よかった、二人とも喜んでくれて。
……っと。
「すまん。ちょっと用を足してくる」
ここに来る前に行っておけばよかった。早く戻って俺も何かを食べなければ。舞香さんには遅くなると伝えておいた。
……ちょっと申し訳ないけど。だって、俺達が外で食べることになれば舞香さんは一人だ。
早めに帰るとは伝えておいたけど。
「ふう。何を食べようかなぁ……ん?」
用を足して、何を食べようかと考えながら戻ると。
「へいへい、彼女達。暇してる?」
「うっひょー。美少女揃いじゃん。ねね! 連絡先交換しない?」
男達に絡まれていた。
なんだか、久しぶりだな普通の悪っていうか男は。俺が助けなくても、どうにかできそうなメンバーではあるが。
ここは俺が出て行って穏便に済ませるべきだ。
「お待たせ、皆! さ、お疲れ様会を続けようぜ」
「あぁん? なんだてめぇは」
「もしかして、この子達のつれ?」
うーん、睨まれても何にも思わない。異世界に行っていなければ、ちょっとはびびっていたかもしれないけど。
キャップに茶髪……とりあえず。
「はい、そうなんですよ。それでですね……邪魔なので彼女達から離れてくれ、ここから出て行ってくれませんか?」
「んだと、ガ―――ひっ!?」
「おい、どう―――うっ!?」
魔力による威圧。
こいつらには魔力は見えないだろうが、他のものには見えているだろう。表では笑顔で、裏では睨みを。さあ、帰ってくれチャラ男さん達。
「お、おい。いこうぜ」
「お、おう」
うんうん、それが懸命な判断だ。
「ん?」
男達が去った後、何か気配を感じた。しかし、それは一瞬にして消える。……さっきの気配。ザインだった気がしたが。
でも、他の気配もあった。あれは……。
「さすが刃太郎さん! 笑顔で男達を退散させるなんて! そうできることじゃないです!!」
周りの人達も、自然と拍手をしていた。
俺は笑顔で頭を下げながら席に座るが。
「普通の人なら、逃げちゃうよ……ま、まあ私もちょっとぶるっと来ちゃったけど」
「ぷ、プリンを落としてしまった……」
……しまった。ちょっと魔力の調整を間違った。
華燐やロッサのような力のあるものはちゃんと魔力も感じたらしく、震えていた。




