第二話「消えた理由」
「あたしの名前は、パリット。そして、突然いなくなった弟の名前はジャンよ。……それで、あんたが神様っていうのは本当なの?」
「まあ、まだなって間もないけどな」
「間もなくは無いだろ。もう二年は経ってるぞ」
他の神様に比べたらまだまだひよっこだ。二年なんて、普通の生物から言えば間もなくはないが、神々から言わせれば数分程度、までは言い過ぎだろうが。
ともかくだ。
「今は、俺のことはどうでもいいんだ。今は、ジャンっていうハロウィンの精霊を探すのが先決だ。パリット。詳しく教えてくれ」
「うん、わかった。あれは、今から数日前の話よ。いつものようにハロウィンに向けて、力を蓄えていたの。あたし達、ハロウィンの精霊はハロウィン以外は普通に生活して力を蓄え、ハロウィンになった時に蓄えた力を世界中にばら撒くの。そうすることで、ハロウィンは最高の盛り上がりになるの」
「普通の生活とは、人間達のようにか?」
「そうよ。あたし達は、普段人間に成りすまして生活しているの」
「そのかぼちゃを被ったままでか?」
「だから、これは被り物じゃないって言ってるでしょ?」
しかし、その被り物があったままじゃ普通に働くこともできないんじゃないか? というか、あくまでそれを被り物じゃないと言い切るつもりか。
もう、被り物だってことはバレバレなのに。
「あたし達にもうってつけの仕事があるのよ。テーマパークの仕事とか」
「あー、なるほど」
そういうところだったこの被り物をしていても違和感は無いな。
「まさか、弟はそんな生活に耐え切れず飛び出したとかか?」
「さあ? それがわからないから困ってるのよ。別に、不満なんて……不満、なんて……」
色々と思い出したようで、口を開いたまま固まってしまった。そんな彼女の反応に、俺もそうだがさすがのロッサも気づいたようだ。
「ふん、軟弱な。己の仕事も真っ当せず、逃げ出すとは」
「いやまあ、人もそうだけど、精霊もそういうことがあるんだな。とりあえず、逃げ出した理由がなんとなくわかったところで、探すとするか」
「だ、だから! どこに居るのかわからないのよ? それをどうやって」
「弟の写真とかないか? 無ければ特徴……いや、やっぱいいや」
「なんでよ」
この子の弟ってことは、同じくかぼちゃの被り物をしているに違いない。なので、こいつと同じ被り物をした男子を千里眼で探せばいいだけだ。
とは言っても、同じような被り物をした奴らが居るかもしれないし……。
「……」
千里眼を発動し、さっそく探したところで、かぼちゃの被り物をした男を発見した。なんだろう、コンビニをじっと見詰めて挙動不審な感じに動いている。
「おい、なにか見えたのか?」
「見えた。なんかかぼちゃの被り物をした男がコンビニを見詰めて挙動不審だ」
もっと行動を見詰めるために、千里眼を発動し続ける。物陰に隠れて、誰にも見つからないようにキョロキョロと周りを見渡し、顎に手を当てて思考している。
「これは……多分だが、強盗とかそういうのをしようとしてるな」
「ほう。今の世の中でやるとは」
「今だからこそだろ。世界が完全に変わってしまって、能力者も増えてきてる。だから、その能力を使って犯罪を犯そうとしている奴らはどんどん増えてきてるからな」
警察達も、そんな能力者の犯罪者に手を焼いている。だから、俺達が率先してそいつらを捕まえているんだが、このかぼちゃ男は能力者って感じはしないな。
とはいえ、見た目をしったことだしパリットに聞いてみるか。
「パリット。お前の弟は、かぼちゃの被り物をして、茶髪で、右頬にほくろがある男か?」
「そいつ! そいつよ!! 今、どこに居るの!?」
「近くのコンビニ。ここから、数分ってところだな」
「思っていたより近くに居たな」
「え、ええ。たくっ! あの馬鹿! 犯罪なんて犯したら、精霊界の恥よ!!」
やっぱり精霊の世界もあるんだな、こっちに。というか、精霊がコンビニ強盗とか……まさかとは思うが、労働による疲労が犯罪に繋がることはあるけど、精霊もそうなのか?
とりあえず、ハロウィンの精霊が犯罪を犯してしまったら、ハロウィンは終わりだ。さっさと止めに行かなければならない。
「じゃあ、一気に飛ぶぞ、二人とも俺の近くに」
「何するつもり?」
「いいから、貴様もこっちにこい」
「ちょっと!?」
ロッサはすでに俺が何をしようとしているのかが、わかっているため迷ってるパリットを引き連れて、俺の傍に寄ってくる。それを確認した俺は、ジャンであろう男のところへと転移した。
「ここは……って! こらぁ!! ジャン!!」
「げっ!? ね、姉さん!?」
転移し、周りを見渡すパリットは、未だに挙動不審なかぼちゃの男へと飛び掛る。どうやら、弟で正解だったようだ。
「あいつも、いきなり飛びかかっているではないか。あれだけ我に言っておきながら」
「この! この!! 馬鹿弟!! さっさと準備に! 戻るわよ!!!」
「いだっ!? いだいっ!? やめ、姉さん……!?」
ジャンに飛びかかったパリットは、何度も何度も殴っている。このままでは、ジャンは嬲り殺されてしまうだろう。
「はいストップ。このままじゃ弟が死ぬぞ」
「あっ」
「はぐ……」
まるで、漫画にありそうなほどに顔が膨れ上がってしまったジャン。これは、完全に気を失ってしまったな。だが、心臓は動いている。どうやら、ぎりぎりセーフだったようだ。
「おい、貴様。寝ている場合ではないぞ。さっさと精霊としての役目を果たすため姉と共に戻らんか」
しかし、追い討ちをかけるように馬鹿な魔帝が胸座を掴む。
「だから、やめんか」
「いだっ!?」
普通ならば、静かに眠らせてやりたいけど、そんなことを言っている場合ではない。
「見つけたようね」
「はいなのです」
「お前ら……今まで、どこに言ってたんだよ」
でも、手間が省けた。
「この人達を探していたのです」
そう言ってニィ達の前に出たのは、パリット達と同じくかぼちゃの被り物をした男女だった。明らかに、パリット達よりも大人である。
サングラスをかけ、顎の周りに髭が生えている強面な男性に、ニコニコとずっと笑顔な女性。うん、明らかにパリットの親だな。特にパリットと女性は似すぎている。
「おおおお母さん!? それに、お父さんも!?」
やっぱりそうだったか。うーん、精霊も人間のように子供を生むのか? 俺が知っている精霊とはやっぱり違うということか。だが、どうしてだろう? パリットはひどく怯えているようだが。
「パリット。ジャンは?」
と、母親が尋ねる。
「そいつだったら、そこで寝てるぞ。パリットが殴った」
「ちょっ! 余計なこと言わないでよ! あんたってば、空気読めない奴でしょ!!」
「ああ、その通りだ」
「馬鹿者め。空気など、簡単に読めるはずがなかろう」
だから、そういうことじゃないっての。こいつは、二年経っても成長しないな。パリットも、俺に大丈夫なのか? という視線を向けるが、俺は首を横に振る。このままこいつに付き合っていたら、時間を無駄にしてしまう。
「それで、どうして親を連れてきたんだ?」
「それはもちろん、非行に走ろうとしている子供を止めるためなのです。でも、先に止めてくれたようですね」
「ボコボコにされてるけどねぇ」
てことは、最初からジャンが非行に走ろうとしていることをわかっていたってことか。まったく、俺の苦労はいったいなんだったんだ。いや、そこまで苦労はしてないけど。
「すみません。私達の子のせいで」
最初に頭を下げてきたのは、見た目はかなりの強面な男性からだった。
「いや、気にすることのことじゃないですよ。それに、まだ何もしてませんし」
「ですが、このままではご迷惑をかけますので。……ジャン」
「……」
いや、その子は気絶しているんですが。
「ジャン!」
「はぶっ!?」
ええ……気絶している我が子に平手打ち? しかも、手加減なしの全力平手。だが、ジャンはそれで目を覚ましたようだ。そして、ゆっくりと目を開け、母親の顔を見た瞬間。
「かかか、母さん!?」
一気に張れて赤くなっていた顔が、青ざめたではないか。うん、なんとなく理解した。パリットとジャンの母親は、優しそうに見えて意外と怖い母親だったんだな。
二人の怯えようを見ていれば誰でもわかる。
「まったくもう、あなたは。いったいなにをしようとしていたんですか?」
「お、俺は」
「はっきり言いなさい」
「は、はい! 正直、仕事とか嫌になりました!! 溜まった疲労を何かにぶつけようと思っていましたぁ!!」
やっぱりそういうことだったのか。もうちょっと違う理由だと思っていたけど、人間っぽい理由だったなぁ。
「はあ……何度も言っていますが、疲れたら私達に相談しなさいと言ったでしょ?」
「い、いやだって俺達だってもう立派な精霊だし。母さん達に迷惑をかけるのは」
「もうとっくに迷惑かけてるでしょうが!」
「はい、すみませんでした……」
なんだか、こうして見ると精霊というよりも普通の人間の家族って感じだな。何はともあれ、これでニィが問題にしていたことは解決ってことなのか? なんだ呆気ないけど。まるで、迷子の猫を探していた気分だ。




