第一話「かぼちゃの少女」
「さて、さっそくニィの指示通りに来たわけだが……」
周囲を見渡し、俺は頭を掻く。今回の異変解決は、少数で動いている。有奈達にも協力を要請したかったが、丁度商店街の福引で特賞の秋の温泉旅行で、有奈、リリー、華燐、御夜さんと一緒に先日から出かけている。なので、その邪魔をしないようにと四人にはこのことは伝えていない。
これぐらいは、俺達だけで解決してみせる。
「で? なんで、お前までついて来てるんだ?」
視線を下に向けると、出来立ての焼き芋を齧り付いているバルトロッサ。寒いようで、首まですっぽりと隠れるほどの防寒服を着用している、ついでに手袋も。
髪の毛を結ぶのがめんどくさかったのか、いつものツインテールではなく、ストレートヘアーだ。
「ハロウィンの盛り上がりが半減してしまうと聞いてな。我も、そのハロウィンの精霊とやらを捕らえに来たんだ。それに」
と、俺のことを睨みつける。
「前回の異変では、我ら真魔帝軍は全然活躍できなかった!!」
「別に活躍しなくていいだろ……お前、一応敵側だろ?」
「そうだ。だが、イベントは皆で楽しむのが常識だ。それに、ハロウィンになれば菓子も料理もたくさん出ることだしな」
まあ、そんなことだろうと思っていたさ。こいつが、祭関係や、食べ物関係がなくなるとかそういうのには敏感だからな。
ニィもそれをわかっていたから、協力を要請したんだろう。それに、こいつ自身も言っていたが、前回の夏が無くなった異変では、ほとんど世界中を飛びまわっていただけで、何もしていないに等しい。こいつは、この一ヶ月間それをずっと根に持っていたようだ。
「じゃあ、俺と対抗するとかそういうのはなしで、ちゃんと働けよ」
「当然だ」
「ところで、今回はお前だけなのか?」
「そうだ。光太の奴にはハロウィンに向けて色々と準備をしてもらっている。そして、コトミとコヨミも同様に実家で。このことは、我しか知らない」
部下想いでらっしゃる。
「よし、いくぞ。どうやら、ハロウィンの精霊はこの先の異次元空間の中に居るらしい」
「ほう。その情報はあの男女神からか?」
俺達が訪れているのは、何の変哲の無い森。しかし、それは普通の人から見たとしたらだ。俺達の目では、空間が歪んでいるように見える。
「その通り。いくぞ、魔帝。かぼちゃを捕まえに」
「かぼちゃと言えば、コロッケか?」
「精霊だから、食べられないぞ」
「だが、かぼちゃだろ? こう頭のかぼちゃを毟り取って」
「グロイこと言うな」
大体、かぼちゃの精霊が本当にかぼちゃの頭をしているかなんてわからない。もしかしたら、かぼちゃの精霊ってだけで、普通の人型かもしれない。その辺りは、ニィも教えてくれなかった。……そういえば、言いだしっぺのニィはどこに行ったんだろ。
ちょっと千里眼を。
「おい、居たぞ」
ニィ達の行方を調べようと右目に神力を集中させようとしたところで、ロッサが指差す。その方向には、かぼちゃの被り物をしている少女が呆然と俺達を見詰めていた。
草木と同じような緑のウェーブがかった長い髪の毛、ロッサよりも小さな体。そして、その小さな手にはナイフを持っている。
「な、なによ! あんた達! あたしは」
「確保ぉ!!!」
「ぎゃああっ!?」
何かを言いたかったのだろうが、我慢ができない魔帝に飛びつかれて簡単に捕まってしまった。そして、どこからともなく取り出した縄で、容赦なく縛っていくロッサ。
「ちょ、ちょっと! 人の話は最後まで聞きなさいって母ちゃんや父ちゃんから教えられなかったのぉ!?」
「残念ながら、我が教えてもらったのは命の奪い方だけだ」
わー、思ったとおり物騒な親だなぁ。まあ、魔族だから当たり前なんだろうけど。
「あんたの親は、子供に何を教えてるのよ!? なに? あんたの親は殺し屋かなにかなの!?」
彼女の反応は一般的だが、そいつに何を言っても無駄だ。平然とした顔で、少女を完全に縛り、その上で残りの焼き芋を頬張る。
「元魔帝だ。それよりも、動くな。そして、その頭のかぼちゃを我に寄越せ。シチューの具材にしてやる」
「あだだだっ!? やめ、やめなさい!? これは被り物じゃないんだからねぇ!!」
被り物じゃなかったのか。
「じゃあ、剥ぎ取るか」
あくまでもかぼちゃが欲しいようで、少女が持っていたナイフを奪い取り、かぼちゃに押し当てる。
「やめぇ!! やめぇてぇ!!」
「やっぱりコロッケの具材にしたほうがいいか? なあ、刃太郎」
「とりあえず、そのナイフを下げろ」
「あだっ!?」
この子が、ニィが言っていたハロウィンの精霊だったのならば、普通にロッサを止める。いや、そうでなくとも止めるけど。
「ほら、これでいいか」
「あ、ありがとう。……ふう、危うく食べられるところだった」
「何をする!? 危うく足にナイフが刺さるところだったぞ!?」
「何をするは、こっちの台詞よ!? いきなり現れて、いきなり襲ってくるなんて!! 常識ってものはないの!?」
そいつに常識とか言っても無駄だと思うんだが。
「常識ぐらいはある。人をなんだと思ってるんだ」
「いきなり飛びかかって、ナイフを突き立てたお前に言われても説得力ないぞ」
「その通りよ。あんたは、常識人みたいね」
「まあ、そこの馬鹿よりはな。……俺達は、ハロウィンの精霊を探しに来たんだ。お前がそうなのか?」
見た目的にこの子以外ありえないと思うけど、一応聞いておく。俺の問いかけに、何やらずれたかぼちゃを直し咳払いする。
なんだ、やっぱり被り物だったのか。
「そのとおりよ。ま、正確にはあたしともう一人居るんだけど。あたしはね、そいつを探しにここまでやってきたのよ。何を思ったのか、いきなり祭の祝福に疲れたぁ! とか言い出して、飛び出して行ったのわけよ」
「ほう? ということは、そいつを見つけ出せばハロウィンは楽しいものになるんだな?」
「ええ。だけど、あの様子だとあいつに何かがあった気がするのよ……あたしの弟に」
そう、深刻な表情で呟く少女だったが、なんだか被り物のせいで台無しなような気がした。




