メイド兎と月見団子
本日は、電子書籍の第四話が配信です!
「月見だー!!」
「月見ですよー!!」
「ま、またいきなりですね」
後数ヶ月で一年経つ。暑い季節も過ぎ、もう九月だ。そんなある日、天宮家に呼ばれたので、一人でこうしてやってきたのだが……中に入って早々に月見宣言。
サシャーナさんの兎耳を見ると、本当に月見の季節になったんだなぁっとそう思うのである。
「テンション上がりんぐ!!! なんだか本能的なあれで、不思議と高揚しちゃうんですよ! そんなわけで、刃太郎様! さっそく出かけましょう!!」
「出かけるって、どこへ?」
「食材探し!! です!!!」
「はい?」
「食っ材! 食っ材!!」
俺は、まったく意味のわからないままコトミちゃんとサシャーナちゃんのけものーずと共に山へと行くことになった。
せめて、説明してからにしてほしいものだ。
・・・・・★
「イエアー!! ここからは、月見団子用に食材探しを開始したいと思いますよー!!」
「いえーい!!」
「月見団子用ですか。こんな山奥にそんな食材があるんですか?」
「ありますともー。毎年、私達はこの山で採れるある食材を使って月見団子を作っておりますゆえ」
山に到着して、やっと説明をされた。なるほど……月見団子用の食材か。月見団子と言えば、月見の時に用意される団子。
とはいえ、ただ団子を用意すればいいというわけではない。用意した団子も、確か重ね方とか数も重要だったような気がする。俺も、そこまで月見については知らないので、ここは月見を毎年やっているというサシャーナさんの指示に従おう。
「それで、ここで探す食材っていうのは?」
山にあるということと、団子に使うってことは、山菜や木の実などが妥当だろう。
あ、いや待て。
相手はサシャーナさんだ。普通の食材だとは限らない。それに、この山……なんだか普通じゃない雰囲気を感じる。
「山菜です」
「あ、思っていたより普通だった」
「ただし!」
「た、ただし?」
普通だと思っていたが、サシャーナさんの言葉は続く。
「今や、地球中で異常なまでに異変が起こっています。情報によれば、この山でも同様の異変が起こっている聞きました。なので」
がさがさっと、茂みが激しく動く。
すると、元々はキノコだったであろうものが怪物のように大きくなっていた。大きく口を開き、牙まで見える。つまり、肉食のキノコと化してしまったようだ。
「こんな風に、私達が探している山菜も化け物になっている可能性があります」
「そう、ですね。これは、大変そうだ」
「まずは、キノコ狩りだー!! コヨミ! 突撃ー!!」
「了解だよ」
襲い掛かってくる怪物キノコの攻撃よりも早く、コトミちゃんとコヨミの息のあったコンビネーションによりあっという間に撃退。
消滅したと思いきや、キノコが出現。大きさも俺達の知っている小さなもので、口もないし、牙も生えていない。つまり、あの化け物を倒せば元の姿に戻るということか?
「地球も大分ファンタジーしてきましたね」
「いやぁ、こういうのは故郷を思い出しますので、ちょっと安心してる自分が居ます」
地球が変化してからは、全てのものがファンタジーに染まってきていた。人々は歓喜する者達も多いが、そうでもない者達も居る。
この山のキノコのように、海の生き物も化け物のように変化しているそうだ。そのため、漁師の人達は魚を採るのも一苦労だと頭を抱えている。その辺りは、俺達が天宮家と協力をして、対処しているし、人々に起こっている能力のことも、学校でも作ろうかと考えている。
「そういえば、聞いたことがなかったですけど。サシャーナさんの世界ってどんなところなんですか?」
「そうですねぇ。いたって普通のファンタジー世界ですよ。こんな風に、モンスターを倒せば、その素材が落ちることもあるんですよ。それを売ってお金に換えたり、武器や防具を作ったり」
確かに俺が想像しているファンタジー世界な感じだな。だがしかし、毎回思うのだが、ファンタジー小説とかゲームってよくモンスターを倒すと、素材や金なんかが落ちるけど、何でなんだろう?
ゲームは、そういうシステムだからしょうがないと思うが。
……って、そんなことを言ったら小説だって創作物のひとつだから、しょうがないってことになるよな。だが、これはリアルだ。これに関しては、どう説明すればいいのか……このキノコの場合は、元の姿に戻ったってことなんだろうけど。
「何を隠そう! 私ってば、山育ちの田舎者なんです!! なので、山菜採りなどはお任せです!!」
「じゃあ、お願いしますね。俺は、そこまで詳しくないので」
「私も頑張るぞー!」
「はい、刃太郎。ちゃんと籠持ってね」
「はいはい。荷物持ちならお任せ」
それから、山の奥へと進んでいき、目的の山菜を探す。その道中で、また凶暴化したキノコや、更に凶暴化した熊やイノシシなどに襲われるも、なんのその。
「ふーむ。やっぱり、目的の山菜は中々見つかりませんね」
「他のものはたくさん採れるんだけどねぇ」
目的の山菜は見つからず、他のキノコや木の実などはたくさん採れている。山に入ってもう数十分は経っているが……。
「ここは手分けして探すことにしましょう。サシャーナさん。その山菜の特徴を教えてください」
「わかりました。では、これをお渡ししますね。山菜の絵が描かれています」
「じゃあ、私は刃太郎お兄ちゃんと行くねー。コヨミ、サシャーナのこと頼んだよ!」
「うん、任せておいてよ」
「見つかり次第、連絡を。見つからなくて、一時間経ったら、またここに集合しましょう」
「はい! 了解しました!!」
山菜をなんとしても見つけるために、俺達は手分けして探すことにした。俺、コトミちゃんペアとサシャーナさん、コヨミペアだ。彼女達と離れた俺は、さっそくサシャーナさんから渡された二つ折りの紙を開く。
山菜の絵が描かれているということだが……えぇ、これは。
「独特な絵なのか、それともこれが本当なのか。コトミちゃん? これで、本当にあってる?」
紙に描かれている絵が、本当にあっているの心配になった俺はコトミちゃんに確認をとる。
「おー……これは」
まさか、違うのか?」
「サシャーナってば、絵がうまいね!!」
「じゃあ、これが探している絵で間違いないんだ……」
コトミちゃんが嘘をつくとは思えない。なので、俺はこの紙に描いている絵を信じて探すことにしよう。それにしても、見れば見るほど凄い絵だ。
まるで、食虫植物と言ってもいいだろう。
本当に牙でも生えているかのように棘が生えており、腕が生えているかのような蔓。これ、山菜であってるんだよな。
「それにしても、月見……月か」
「どうしたの?」
「いや、月って言ったらコヨミちゃんとコヨミの出会いを思い出すなぁって」
コヨミのあの空間……それに、コトミちゃんが始めてコヨミと会った時も月があった。あれからもう二年経ったんだな。
コトミちゃんも、昔と違って成長してる。どこか女性らしさを身につけている。
「そういえば、コトミちゃんも来年から中学だけど。準備は大丈夫?」
「大丈夫! 私ってば、やる時はやる子だから!」
「あはは、そういえばそうだったね。俺が受け持っている生徒達も、そろそろ卒業してもいい頃か……」
異世界から来た子達は、大分こっちの知識を得た。能力に覚醒した地球の子達も、能力の使い方が大分わかってきた。もう、俺が教えなくても大丈夫なぐらいには学んだと思っている。だから、卒業するとすれば、来年かな。
「お? これ、だよな」
「そうそう!! これだよ! でも……」
大分大きいというか、案の定怪物になっていた。見た目のまま大きくなって、その鋭い棘が更に鋭くなっている。
「仕方ない。こいつも倒せば、キノコみたいに元通りになると信じて倒すか」
「だね。いっくぞぉ!!」
・・・・・★
「綺麗ですねぇ……」
無事に山菜は採れて、月見団子もたくさん作ることができた。しかし、緑色の月見団子か……いや、ちゃんとした白いのもあるけど。
有奈達も呼んで、天宮家の用意した見晴らしのいい場所に建設された建物の屋上にて、満月を見上げていた。
「はい! お団子も! まだまだ! ありますよ!!」
「ほい、ほいっと」
俺は、サシャーナさんの手伝いで、臼と杵を使って餅を突いている。ちなみに、俺が餅をひっくり返し、サシャーナさんが突く役目をしている。
こうして、兎耳のサシャーナさんが杵を持って餅を突いていると絵になるなぁ。
「そして! この丹精込めて! 突いた! 餅を!! ほいさぁ!!」
十分に突いた餅を突然、空中に投げる。
それを、自らが掴み取り、一瞬にして小さな団子へと変えてしまう。
「追加でーす!!」
「わーい!!」
「んー! やっぱりお団子っておいしいねぇ!!」
「華燐。食べるのもいいけど、食べ過ぎないようにね。最近、お腹が出てきたって」
「わわわ!? そ、それは言わないで!?」
華燐達も楽しんでいるようだな。大学に、俺達の手伝い。本当なら、普通に暮らして欲しいところだけど、今の世界だとそうも言ってられないからな。世界が変わったあの日から一年半は経っているが、未だにわからないことだらけだ。
こうして、普通に月見をしている頃も、世界のどこかでは異変が起こっているに違いない。千里眼を使えば、それはわかるし、わかれば一瞬で転移できるから大丈夫なんだが。
「刃太郎様。お疲れ様でした」
「あ、いえ。これぐらいじゃ、疲れませんから」
一通り月見団子を追加したところで、サシャーナさんが飲み物を持って俺の隣にやってくる。一緒に月を見上げながら、しばしの静寂が続き。
「刃太郎様」
「なんですか?」
「これから、地球平和のため頑張ります! 私を、めちゃくちゃ酷使してくださいね!!」
「助かりますけど、それじゃあサシャーナさんの体が壊れちゃいますからね。ちゃんと、休みはとってくださいよ?」
「わかってまーす!! あっ! 刃太郎様! あの雲! なんだか兎さんみたいな形をしてませんか!?」
言われて見れば、そう見えなくも無い。まるで、満月に近づいていく兎って感じだな。俺の隣には、超絶元気な兎さんが居るけど。
さあ、明日からまた頑張るとするか。




