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ジャージ神の夏休み

そんなこんなで、電子書籍第三話の配信を記念した話を投下します!


今回は、夏もそろそろ終わりと言うことで、ぐーたらなジャージ神のとある日常を書きました。

「あー……もう一歩も動きたくないわー」


 もう夏も終わる。

 しかし、それでも夏はまだまだ! もっと熱くなれよぉ!! とばかりに気温が上昇し、猛暑日が続いている。


 誰もが、冷房や扇風機、涼しい風を求めている。海が近い者達、プールが近い者達は、挙って暑さを紛らわすために水の中へダイブしているはずだ。

 そんな中、冷房が効いた部屋から一歩も出ていない神がここに居た。


 神とはいえ、現在の体は人と同様だ。

 暑ければ暑いし、寒ければ寒い。

 現在の気温は、三十五度。

 一歩でも外に出れば、照りつける日差しと熱風にやられてしまう。だから、ジャージ神リフィルは、絶対外には出ない。

 ごろりと、ソファーに寝転がり携帯電話を弄っている。テーブルには、冷たい飲み物と燃料補給用の菓子がいくつか置いてある。


「このプレイヤー、早く準備完了しなさいよ。時間がないってのにぃ……あぁ、むかつく」


 アプリゲームで、マルチをやっているのだが、全然準備完了にならないプレイヤーが一人居る。ランクを見る限り、まだ初めて間もないプレイヤーだろう。

 いや、それともただ嫌がらせのために作ったアカウントだろうか? いつまでも、準備完了にならないので、リフィルは自ら集会場から出て、割り箸でポテトチップスを摘み齧る。そして、細長いチューブのようなものを口まで持ってきて、吸い込む。どうやら、リフィルが自作したペットボトルを持たずに飲む方法のようだ。二リットルのペットボトルにはしっかりとキャップがついているが、そこに穴を空けており、そこに細長いチューブを差し込んでいる。

 完全に寝転がりながら過ごすために徹底した方法。

 

「あー……誰も文句を言う奴がいないって、素晴らしいぃ」


 本来ならば、家主である舞香や、刃太郎、有奈などが普段居るのだが、今は祖父母の家に寄生しているためいないのだ。

 他にも、同じ神であるニィーテスタが居るが、去年付き合えなかったから、一緒に行くと刃太郎達についていっている。結果、リフィルだけが残ることになった。


「そうだ。今日の昼はどうしようかしら? 昨日は、しょうゆだったから、今日は味噌とかにしようかなぁ」


 現在の時刻は、十時半。昼間で後一時間半はあるが、ポテトチップスとコーラのせいで、そこまで食べられないかもしれない。

 

「でも、出前って方法もありかもなぁ」


 冷房が効いているとはいえ、熱いものを食べるのは気持ち的に悩むところがある。なので、ここは出前で熱くないものを頼むのもいいだろう。


「あっ! 天宮家に頼むってのもありか……うん、そっちのほうが美味いもの食べられそうだし。そっちにしよう!」


 二日前も、天宮家に朝から夕方まで料理を食べさせてもらった。いつでも、頼ってくれと言われているので、そうさせてもらおうとアプリを一度落とし、電話帳を開く。

 

「……あっ、もしもし? あたし、リフィルだけど」

『これはこれは。今日は、どのようなご用件でしょうか?』

「お昼食べたいんだけど、いい?」

『もちろんですとも。実は、イズミ様が新しい料理に挑戦しておりまして。誰かに食して欲しいと」


 それならば丁度いい。イズミが作る料理は、何度も食べたことがあるリフィルは、新しい料理だろうとおいしいに決まっていると笑みを浮かべる。


「もちろんいいわよ。でも、動くのめんどいから、こっちに持ってきてくれない?」

『畏まりました。では、お昼時にそちらまで、お運びいたします』

「あんがとー。それじゃ、楽しみにしてるわよねぇ」

 

 通話を切り、これで昼食は大丈夫だろうと再びアプリを開く。


「あっ、そういえば今のイベント明日までだった。刃太郎も誘って周回しようっと」


 アプリを切り、さっそく刃太郎へと周回の誘いを送信した。すると、ものの数秒で既読になり、返信がくる。


〈一時間だけだぞ〉

〈ありがとー。じゃあ、部屋番号教えるから、入ってきてー〉

〈わかった〉


 そんなこんなで、一時間だけだが、祖父母の家に居る刃太郎と、適当に野良プレイヤーを加えイベント周回に勤しむ。そして、約束の一時間が経ったところで、刃太郎から連絡が来る。


〈どうする?〉

〈そっちは、時間ある?〉

〈そうだな……後、十五分ぐらいなら〉

〈じゃあ、よろー〉


 まだ刃太郎のほうには、時間があるとのことで、まだまだ周回に勤しむ。必要なアイテム数には達したが、多いに越したことは無い。


「あっ、そろそろ来る頃か。よいしょっと」


 刃太郎とのイベント周回を終えたところで、昼前となっていた。天宮家が、そろそろ来るだろうとソファーからやっと起き上がったリフィルは、一度背伸びをして、立ち上がる。

 だるい。

 歩くのもつらい。

 そんなことを思っていると、インターホンが鳴り響く。前回と同じならば、これは天宮家の者だろう。


「はいはーい、開いてますよー」


 自分で出るのもだるいリフィルは、そっちから入って来いと言わんばかりにリビングから動かない。


「失礼致します。ご注文の昼食をお届けに参りました」


 入ってきたのは、天宮家の一人娘コトミの執事である駿がリフィルが注文した昼食を届けにきた。大きな包みで、リフィルも歓喜する。


「まってましたー」

「お待たせしました。こちら、イズミ様の挑戦料理二百七番、なんでも丼でございます」

「え? 丼もの?」


 包みの中から出てきたは、丼。天宮家だから、かなりの高級料理かと思いきや、まさかの丼。若干、がっかりな気分になるも、そのご飯の上に乗っている具材を見て、復活する。さすがは、天宮家と言ったところか。

 ご飯の上にあるのは、高級な肉が二種に、野菜が三種、さらにはチーズや、キャビアまでもがある。なんでも丼ということなので、イズミが選んだ食材を入れたのだろう。


「どうぞ、ご賞味くださいませ。そして、ご感想をお聞かせください。リフィル様の素直な感想が聞きたいとイズミ様がおっしゃられておりましたので」

「いいわよ。でも、言っておくけど、遠慮なんてしないからね」

「はい。あっ、では、私はお部屋の掃除をしておきますね」

「よろー」


 先日も、昼食を届けに来てくれたついでに、部屋の掃除をやってもらっていた。リフィルは、散らかすばかりで掃除を一切やらないので、助かっている。刃太郎や、ニィーテスタが居れば自分でやれとうるさくいうだろうが、それもない。

 リフィルは、自由というものを満喫しているのだ。


「ふむ……肉に野菜、チーズというコンボは丼ものとしてはありありだわ。だけど、キャビアはこの組み合わせだと弱いかもねぇ。確かに、キャビアは高級品でうまいのはわかるけど」


 二口、三口と食べていく、バシバシと感想を飛ばしていく。そして、ついにあることを思いつき椅子から立ち上がる。

 駿はどうしたのだろう? と掃除機の電源を切り、リフィルの行動を見詰める。


「やっぱり、これよね!」

「卵、ですか?」

「ええ! 卵よ!!」


 冷蔵庫を開き、取り出したのはスーパーで、安売りだった卵だ。それを手に席へと戻り、かっこよく片手で割って見せた。

 もう半分なくなっている丼の中に生卵が投入された刹那。


「そいや!!」


 リフィルは一気にかき混ぜる。


「ぶっちゃけ、丼ものには卵ね。生じゃなくてもいいわ、温泉卵でも可よ。ただ、先にキャビアを食べちゃったのは失敗だったわねぇ。生卵との組み合わせを試すべきだったわ……うん! おいしい!!」

「なるほど、卵ですか。確かに、丼ものでは定番ではありますね」

「ええ。カツ丼しかり、親子丼しかり。牛丼にも卵はあうわ。というか、ご飯に会うから丼ものにあうのも当然よね」


 どうだ! と言わんばかりにドヤ顔を決めるリフィルは、満足げになんでも丼を平らげた。そして、空になった丼を返し、駿にこう言い残す。


「なんでも丼としてはありだったけど。それだったら、もうちょっと混ぜるべきだったわね。例えば海鮮系をもっとね。そうすれば、もっとなんでも丼というものの完成形に近づくと思うわ」


 まあ、これを料理と言っていいのかと疑問に思ったが、おいしければ何でもいいとすぐ自己完結するリフィルだった。


「……すぴー」


 満腹となったリフィルは、駿が帰った後、すぐ昼寝。ちなみに、昼寝はリビングでではなく、新たに構築した聖域ですることにしている。新たな聖域は、地球よりも時間の流れが遅いため、例え一時間寝たとしても、地球では十分程度しか経っていないことになる。

 本来ならば、ゲームをするのも、アニメを観るのも新たな聖域のほうがいいのだが、あまり居座ると時間の感覚がおかしくなったり、そのまま聖域から離れられなくなってしまう恐れがあるため、ニィーテスタからは極力使用しないように言われていたが、今はニィーテスタがいないので自由だ。


(むふふ……本当、自由って素晴らしいー!!)


 誰にも邪魔されず、自分が思うがままに生きれる。

 それこそが、至高。

 それこそが、自分が求めていた生活。

 

「こんな生活が、ずっと続けばいいのになぁ……」


 と、寝返りをうったところで、何かにぶつかる。なんだ? と重い瞼を開く。


「それは、無理なのです」

「……えええええっ!? どどどど、どうして!? 帰りは、明日じゃないの!?」


 そこには、なぜか明日帰ってくるはずのニィーテスタが満面な笑顔で立っていた。時計を見ても、まだ十分。一時間しか経っていない。まだ日にちが変わっていないのに、どうしてここに? 

 幸せな天国から、一気にどん底へと叩き落されたかのようだ。


「どうせ、ぐーたらな生活で、部屋中がゴミだらけになっているとおもったのです。だから、掃除をしようと先に、帰ってきったのです。刃くん達は、予定通り明日の帰宅なのですが……思ったより綺麗でびっくりなのですよ」

「あ、あははは。あ、あたしだって、散らかすだけじゃないってことよ」


 先ほど駿が掃除をしてくれなければ、怒られることになっていただろう。ギリギリセーフだと、冷や汗を拭うリフィルだった。


「ですが、聖域での昼寝は、見過ごすわけにはいかないのです。ここは本来、そういうことをするために作り直したところじゃないのです」

「い、いやでも、時々はいいでしょ? ほら、あたしだって作るの手伝ったんだし。ね?」

「……まあ確かに」


 よし! 言いくるめた! と心の中でガッツポーズをとる。


「まあ、これなら私もまだまだあっちで楽しめるので、安心なのです」

「うんうん。ちゃんと掃除もするから、あんたは何も考えず楽しんできたほうがいいって!」

「そうするのです。じゃあ、明日私達が帰ってくるまで、ちゃんと綺麗にしておくのですよ?」

「はーい」


 と、次元ホールに入り姿を消したところで、思いっきりガッツポーズを取る。今度は、心の中ではなくリアルで。


「はあ……本当びっくりした。マジで、突然帰ってくるやめて欲しいわ」


 しかし、リフィルも成長していないわけではなかった。なんとかあのニィーテスタを言いくるめ、帰還させた。これで、また自由な生活を続けられる。


「さあって! 明日まで、思いっきりぐーたらするぞー! まずは、もう一時間昼寝をしよう。あたしのぐーたら生活は、これからだ!」

「聖域は、もう使っちゃだめなのですよ」

「ひっ!?」


 リフィルは、思った。

 次元ホールって、チートだわ……と。

次回は、第四話が配信した時に。

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