第八話「マジ魔帝ちゃん」
「むぅ……刃太郎め。最近、我から逃げるのがうまくなってきているな。今日も逃がしてしまった。うまい具合に魔力遮断をしているし……」
バルトロッサは、今回も刃太郎との勝負が出来ず少し機嫌が悪かった。
これまで何度も挑戦してきたが、一度も勝てていない。
「この世界に来て、色々と学んだ。奴が何を、どんな勝負をするのかと予想もしている。だが、こっちの世界出身に奴のほうが何枚も上手……どうしたものか」
「悩んでいるようだな、小娘よ!!」
どうしたら、刃太郎に勝てる? そう考えていると、見覚えのない黒衣の男が目の前に現れた。
「人気のない公園で、一人寂しくソフトクリームを食べている娘よ。その悩み、俺がどうにかしてやろうか?」
「なんのことだ?」
「隠すな。感じる、感じるぞ! 娘よ。貴様は、俺と同じ黒の力を持っている者だな?」
黒の力? いったいなんのことを言っているんだ、とバルトロッサは気にせずソフトクリームがコーンに垂れないように舐め続ける。
「実はな、俺も貴様と同じ男に二度もやられいるんだ……しかも、全て一撃で! あ、ちなみにどうして俺が同じ男だとわかったのかは秘密だ」
隠しているが、バルトロッサにはなんとなくだが予想がついている。最近、誰かの視線を感じていた。どうせ、自分に手出しをしようとする愚か者などいないと思って警戒はしていなかったが。
あの時以来、刃太郎に言われなんとなく警戒をしていた。
すると、うまい具合に気配を消して自分を見つめている者がいるとわかった。
おそらく、その視線の正体が目の前の黒衣の男なのだろう。
(力は確かに本物だ。だが……)
淡々と語り続けている黒衣の男を見詰めバルトロッサは思った。
(頭が残念そうだな、こいつ)
「ん? どうした、娘」
「気にするな」
丁度、ソフトクリームを食べ終わり、バルトロッサはベンチから立ち上がる。まだ食べ足りない。この近くにあるクレープでも買っていこう。
黒衣の男を完全に無視して、バルトロッサは店へと向かっていく。
「おいおい。無視をしないでほしいな、娘」
「娘ではない。ロッサだ」
「ではロッサ。どうだ? 悪い話ではないだろう? 俺と協力をすれば、あの男をやれる! 同じ標的を持つ同士手を取り合おうではないか?」
前に立ちはだかり、手を差し伸べてくる。
確かに、刃太郎を倒したい気持ちはある。
だが。
「断る」
「おうっふ?!」
断りの言葉と共に、黒衣の男の足を払った。
「我は、我の力のみで刃太郎を倒す。貴様の助けなどいらん。これは、魔帝たる我の拘りだ。貴様は、貴様でやるんだな」
「げほあっ!?」
トドメとばかりに魔力を込めた足で腹部を思いっきり踏みつけられ、一瞬にして粒子となり四散した。
(ん? この踏み具合……どこかで……まあよいか。それよりも、クレープだ)
去って行くバルトロッサの背中を、四散したはずの黒衣の男はデフォルメな大きさとなり、見詰め笑っていた。
「くっくっく……我は死なぬ! この世界に負の力がある限り!! しかし、まさかこうも簡単に断られるとは。……仕方あるまい。別の奴を探すとしよう。だか、誰にしよう……ん?」
「バルトロッサ様ぁ!! どこへ行ってしまったんですかー!?」
そんな時、バルトロッサを探して公園に現れた松田光太。
黒衣の男は、光太を見詰めにやっと不敵な笑みを浮かべた。
・・・★・・・
「たくっ……あいつも毎回飽きないもんだな」
ロッサから逃げ切った俺は、あいつの執念深さへ素直に感心した。
これからどうしようか……。
「残り十枚です! 残り十枚でーす!!」
「お? 宝くじ、か」
そういえば、そろそろ宝くじの発売が終了するんだったな。宝くじ……当たるかどうかわからないけど。もし、当たったら少しでも恩返しにはなる、かな?
そう思った俺は、最後の宝くじ十枚を買った。
当選日は、今から一週間後。
残り物には福ありってな、と思いつつ俺は宝くじ売り場から離れていく。
「あ! 刃太郎さん!!」
「リリー。今日は一人なのか?」
宝くじを買って帰ろうとしたところで、リリーと出会う。今日は、休日なので私服だ。周りには有奈と華燐の姿はない。
ショートパンツと黒のニーソから生まれる絶対領域が眩しい。
「はい! いっつも勉強じゃ頭がパンクしてしまいますから!! それで、有奈や華燐も誘ったんですけど。二人とも用事があるって言って……」
そういえば、今日は華燐に有奈が付き合うって言っていたな。
「それで、どう返信してきたと思います?」
「なんて来たんだ?」
並んで歩きながらリリーは頬を膨らませて、機嫌悪そうに言う。
「あたしは、与えられた問題集を全部終わらせろーって!!」
「あははは。それは、ひどいな。で、仕方ないから一人で出かけてたってことか」
「はい。ストレス発散するためにゲームセンターに行こうと思っていたら、刃太郎さんを見つけたんです!」
なるほど。だが、これはタイミングがいいかもしれない。
「それじゃ、今から俺と一緒にゲームセンターにいくか?」
「え? ……え!? い、いいんですか!?」
ここまで驚かれると。
今の俺にできること。勉強でストレスが溜まっているだろうリリーに、俺は一緒にゲームセンターで遊んであげることでちょっとの応援をしたい。
それに、丁度暇していたからな。
もし、リリーに会わなければこのまま家に帰っていたかもしれない。
「もちろんだ。それとも、俺がいると邪魔、かな?」
「いいえ!! 邪魔だなんて!! むしろめっちゃうウェルカムです!! ……ハッ!? というかこれは所謂……で、デート……」
「おーい。どうしたんだ? リリー」
「あ、いえ!! そ、それでは一緒に行きましょう! 思いっきり遊びましょう!!」
まるで子供のように、俺の手を取って歩き出すリリー。
今日は、勝負ではなく一緒に遊ぶためにゲームセンターに行く。今までは、ロッサとの勝負のためにゲームセンターなどの娯楽施設へ行っていたが、今日は違う。
「あっ!? す、すみません! いきなり手を握ってしまって……」
「ははは。気にするなって。ほら?」
手を離したリリーに対して、俺は小さく笑い手を差し伸べる。
頬を赤く染めながら、リリーはおずおずと手を伸ばす。
「いくぞ!」
「あわわっ!?」
それを強引に取り、ゲームセンターへと走り出した。
さあ、思いっきり楽しむぞ!
「見つけたぁ!!」
「見つけるなぁ!!」
しかして、空気を読まない魔帝。
ここは気持ちよく二人っきりにさせてくれよ。なんで、そこで見つけちゃうんだお前は。くそ……魔力遮断していたのに。よく見つけ出したなこいつ。
次元ホールっていうのは、本当に厄介だ。
気配を感じ取るのが難しいからな。
「え? え? あのこの子って、確か……」
「あー、えーっと……!」
まずい。リリーにどうやって説明すればいいのか。
「貴様。ゲームセンターに向かうと行っていたな? ならば、我も行くぞ!!」
「あっ。一緒に遊びたいってことなのかな?」
「む? 貴様は誰だ? 刃太郎の愛人か?」
「あああ愛人!?」
こいつはなんつーことを言うんだ。
リリーもびっくりして、固まっているじゃないか。くっ! 周りからの視線が集まってきている。
金髪に銀髪。
うん、かなり目立つ。しかも、大声を出してしまったので余計に。ここで下手なことを言うのは、状況を更に悪くする。
……しょうがない。
「わかった。わかったから。お前も連れて行く」
「ふっ。それで良いのだ。まあ、断ってもついて行くがな!! くっはっはっはっは!!」
「愛人……愛人って……えへへ」
高らかに叫ぶ銀髪。
自分の世界に入り込んでいるかのように呟く金髪。
早くここから離れよう……。
マジ魔帝ちゃんKY。
 




