第四話「宇宙へ」
「やっぱり、お前が夏を奪った犯人だったんだな」
「そうだよ」
「なんで奪ったんだ?」
「それは……」
俺が捕らえたクロッサという謎の黒い奴は、予想通り夏を奪った犯人だった。最初は、黙秘権を行使していたが、ニィの活躍もあってかクロッサは口を割った。
しかし、まだ完全ではないようで、なぜ奪ったかという理由を言おうとしない。それを見たニィは、楽しそうに笑みを浮かべる。
「ならば、もう一度縛るのです」
「も、もう耐性がついたからな! ちょっとやそっとじゃ俺は屈しないぞ!!」
もう耐性がついたのか、順応が早いな。しかし、それはニィうぃ逆に喜ばせるだけだった。
「ならば、レベルを上げるのです!」
そう言って、どこからともなく奇妙な形の椅子が出現。それを見たクロッサは、体を震わせるが、それでもニィは止まらない。
「お、俺は屈しないぞ!」
「ふっふっふ、最近は相手を調教する技の教えという本を愛読しているのです。主に、あの馬鹿を調教するために」
お前、そんなものを愛読しているのか……職員室で楽しそうに読書をしていると思いきや、まさかそんなものを読んでいたとは。
ブックカバーがあったから、どんなものなのかわからなかったから、勝手にライトノベルとかだと思い込んでいた。
「へへへ、縛るなら縛ってみろ! むしろ縛れ!! あ、いや! そういう意味じゃないからな!?」
じゃあ、どういう意味なんだろうか? で、その後だが……。
「……いきなり季節が一つ消えれば、面白いかなぁっと」
「いい子なのです」
結局屈して、夏を奪った理由を話すクロッサであった。なるほどなるほど、なんだか子供っぽい理由だな。だが、子供っぽい理由とはいえ、季節ひとつを奪うということは、かなりの力を備えているという証拠だ。見た目が誰でも描けそうなデザインだが、侮れない。
「で? その夏は、どこに?」
「お前達なら、気づいていると思うが、宇宙にある空間の裂け目に隠してある」
「じゃあ、今すぐ夏を返すので」
「それは、無理な話だ。一度封印しちまったら、俺でも解くことはできない。できるとしたら、自ら空間の裂け目に入った夏を護っている守護者を倒すんだな。う、嘘はついてないぞ!?」
結局、あの空間の裂け目に突撃しなくちゃならなかったみたいだな。だが、結局のところこいつを捕らえておかなければ、また同じ事の繰り返しだ。
「わかった。ニィ、とりあえずこいつのことは任せた。俺は、今から夏を取り戻しに行く」
「了解なのです。ですが、さすがに一人、というわけにはいかないみたいなのですよ」
「……みたいだな」
向かうべき場所はわかった。さっそくそこへ向かおうとした刹那、転移魔方陣が展開し、姿を現したのは有奈達だった。
「や、やっと見つけたよ! お兄ちゃん!」
「私達を置いていくなんて、ひどいですよ! 刃太郎様!!」
思っていたより早いな。
これも、有奈達が成長した証というべきか。
「悪かった。だが、すぐに向かわなければ、こいつが逃げていたかもしれなかったからな」
「なんですか? この黒いの」
「探偵漫画でよくいる黒いやつですね!! ということは、こいつは犯人!!」
正解だ、と楽しそうに人差し指をクロッサに差すリリーの言葉を肯定し、今一度俺のことを追いかけてきた仲間達を見渡す。
「俺は、これから夏を取り戻しに行く。お前達は」
「もちろん」
「行きますよ!」
「仲間はずれは、寂しいですから」
「私も! と言いたいところですが、さすがにこの状況なので、卓哉様から一度戻ってくるようにとご命令が下りました。あっ、それとこのことをロッサ様達には」
「……伝えないでおこう。どうやら、あいつらにとっては、これは競争らしいからな」
俺の手助けなどもらったら、あいつのプライドに傷がつくだろう。それに、この異変を解決できないよいじゃ、今後もこのようなことが起こった時に信用なんてされない。
ここは、俺が責任を持ってやるべきだ。
「畏まりました。では、私はこれにて!!」
スカートをたくし上げ、一礼した後、脱兎の如くその場から離れようとするが。
「あっ、待つのです。私も、丁度戻るので、ついでに行きたいところに連れて行ってあげるのです」
「ありがとうございます! では、さっそく卓哉様の下へお願いできますか?」
「了解なのですー、では、刃くん。皆、頼むのですよ」
「ああ、任せておけ」
ニィとサシャーナさんが去った後、俺は空を見上げる。ここからでは、肉眼では見えないが、この上には夏が隠されている空間の裂け目がある。
「それで、どうややっていくの? 宇宙なんて、初めてだけど」
「そうだよね。でも、やっぱり刃太郎さんは神様だから、宇宙空間でも大丈夫なような」
「確かに、宇宙空間に行くのはこれが初めてだが……まあ、なんとかなるだろ」
俺は、手をかざし、神力を放出。
それを有奈、リリー、華燐に纏わせる。
「これで、お前達も宇宙空間でも呼吸ができるはずだ」
「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ、夏を取り戻しに行こう!」
「うん! せっかくの休日が台無しになっちゃう! 短い時間でぱぱっと解決しちゃおう!」
「頑張ろうね!」
夏を取り戻すべく、俺達は飛んだ。目的地は、もちろん宇宙。雲を抜け、オゾンを抜け、俺達は宇宙へと辿り着いた。
「……こうして見ると、やっぱり地球は青いんだな」
「うわぁ、まさか生身で宇宙に来るなんて思いませんでしたよ」
昔なら、考えられなかった。有奈も、リリーも、華燐もそうだ。だが、いつまでも感動してはいられない。俺達の目的は、宇宙にある空間の裂け目。
地球の美しさに見惚れるのは、また後にしよう。
「あれが、夏を隠しているところですか」
「ああ、この先はどうなっているかわからない。油断するなよ」
「わかっていますよ。ですが、刃太郎さんが一緒だとなんだか安心しちゃうっていうか」
「だよねぇ、油断するなってほうが無理じゃない?」
まったく信用されているのは、嬉しいけど、信用され過ぎるのも問題だな。まあ、悪い気は全然しないけどな。敵陣へと突撃しようとしているのに、このゆるい感じ。
これも昔ならありえないことだな。
しかも、宇宙で。
「……ふう。じゃあ、行くぞお前達!」
《おー!!》
再度、気合いを入れ直し、俺達は空間の裂け目へと突撃していく。




