第三話「謎の黒いやつ」
「うーむ、全然見つからぬな」
「だねー、刃太郎お兄ちゃん達のほうはどうだろうね?」
「私達と違って、もう見つけてるかもね」
刃太郎と分かれた後、バルトロッサたちは世界中を飛び回り、今地球で起こっている異変について調べていた。しかし、考えもなしに闇雲に探しているためなのか、全然手がかりが見つからない。
「ありえるな。あいつは、変態ではあるが、実力は本物だからな」
「あんたが、それを言うの?」
「お前にだけは言われたくないぞユフィカ」
真魔帝軍は、途中で購入したソフトクリームを食べながら、休憩を取っていた。現在、基本が大幅に下がっているのにも関わらずソフトクリームを食べているが、彼女達には関係ない。
「はあ……わしは寒いのが苦手なんじゃ。なぜ、おぬしらはこんな寒い中アイスなど食えるのだ?」
しかし、そんな集団の中で、一人だけソフトクリームを食べていない旋風丸。どうやら、彼女は寒いのが苦手なようだ。
「寒いのが苦手なのか? 貴様と出会った季節は冬だったはずだが?」
「そうじゃが、苦手なものは苦手なのだ。あの時は、封印から解放されたテンションと刀児と再戦するため、寒さなど気にしてられなかっただけじゃ、それにこの寒さは異常じゃ!! わしはやはりこのおしるこに限る!!」
と、自動販売機でおしるこの缶を購入する。
「ところで」
「無視するでない!!」
旋風丸のことを無視して、バルトロッサは周りを見渡す。
「地球も変わったな」
視線の先には、変わった形の受話器があった。それは、異変が起こった時に連絡をするための電話だ。電話する時の金も要らず、受話器を取っただけですぐ各政府へと連絡が届く。
本来ならば、起こる前に感知できればいいのだが、そこまでまだ技術が発達していない。しかし、今も尚開発は進んでいるため、出来上がるのも時間の問題だろう。
「そうだね、もう魔法とか魔物とかそういうファンタジーな生物は、空想じゃなくなっちゃったね」
世界が変わったことで、人々も変わっている。今までは、何の能力もない者が、突然炎を発現させたり、風を発現させたりと。
それより、犯罪も多くなる可能性が増えてきた。今までは、銃器や爆発物による犯行が多かった世の中だったが、今後は特殊能力犯行も視野に入れなければならない。
「あいつも、世界中を回って、色々と対策会議を講じているようだが、どうなっているんだろうな?」
「あたしに聞かれても知らないわよー」
「刃太郎が、率先してやってるから大丈夫だよ」
「あいつが率先しているから、心配なんだよ」
「相変わらず、あいつのことになると不機嫌になるわねぇ、あんたって」
「大ッ嫌いだからな!!!」
清々しいほどの宣言に、ユフィカとコヨミは苦笑い。
「貴様達!! 休憩は終わりだ!! 刃太郎などには、負けていられん!! 行くぞ!!」
「おー!! やってやるぞー!」
「ま、待たぬか! まだおしるこが!?」
★
「刃太郎様、やはりここは最初に見つけた空間に突撃すべきではないでしょうか?」
「確かにな。ここまで、確認して怪しいところは、最初に見つけた空間しかない……ん?」
そろそろ探すのも終わりにしようとしたところで、俺の目に映ったのは空間の揺らぎ。それも、最初に見つけた宇宙空間にあるものとは別のものだ。
「どうしたんですか? 刃太郎さん」
「ああ、ちょっと怪しいものを……んん?」
空間の揺らぎを見つけたと思いきや、そこから何かが出てくる。手、いや全身!? まるで、空間に突っかかって転んだかのように出てくる謎の黒い人。
膝を突きながらも、周りを慌てて確認し、誰もいないことがわかるとほっと胸を撫で下ろしている。
「こ、今度はどうしたの? お兄ちゃん」
「いや、犯人っぽい奴を発見した」
「マジですか!?」
「マジです。……ニィ、逃げないうちに飛ぶぞ」
「はいなのです!」
時間が無い。もしかしたら、逃げられるかもしれない。そう思った俺は、ニィと手を繋ぎ転移魔法を起動させる。
ニィが俺の記憶から読みとった場所へと飛ぶ。
「え?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだが? そこの黒いの」
立ち上がろうとしたところに、俺達が突然姿を現したことで、黒い人は動きを止める。
「せいや」
「え? ええ!?」
そこから、素早く逃げられないようにニィが光の縄で縛り上げた。
「捕まえたのです、刃くん」
「ああ、ご苦労様。さて……まずは、挨拶からだ」
「ちょっと手荒すぎない!?」
「そこは、すまないと思ってるよ。けど、今や地球は大きな異変が起こっている。解決するため、怪しい奴は見逃せない」
荒事だということは理解している。しかし、この規模の異変となるとそれなりのやり方があるんだ。いつもなら、もう少しゆるい感じの対処をとっているがな。
「俺は、威田刃太郎だ。そして、こっちはニィーテスタ。どっちとも神をやってる」
うーん、今も自分で神なんて名乗るのは、背中が痒くなるな。
「それで、あなたは何者なのです? めんどくさいので、黒い奴でいいですか?」
「よくない! 僕は、クロッサだ!!」
「じゃあ、やっぱり黒い奴でいいんのです」
「なんでだぁ!?」
「だって、名前がくろって入ってのですよ? あだ名は黒い奴でいいのです」
「そんなあだ名やだぁ!!」
あはははは……ニィの奴、楽しそうだな。俺は、頭を掻きながら、ニィと黒い奴、いやクロッサとの間に立って話を続けた。
「それで、クロッサ。単刀直入に言う」
「な、なんだよ?」
睨んでいる? 睨んでるんだよな、こいつ。目も無く、口もなく耳も無い。まるで、影がそのまま実体化したかのような奴だな。
「お前が、今起こっている異変の犯人か?」
「な、なんのことだよ」
「地球から夏を奪ったのは、あなたなのかと聞いているのですよ。素直に話したほうがいいのですよ? うふふふっ」
「痛い! 痛いって!?」
黙秘権を行使しているクロッサに対して、ニィはきつく縛っていく。
「ほらほらぁ、素直に喋らないとどんどんきつくなっていくのですよー」
「喋る! 喋りますからぁ!!」
「いい子なのです、じゃあ……きつくするのです!」
「なんでだぁ!?」
リフィル以上にいい笑顔だ、ニィ。




