第一話「原因は?」
続きです!
「はあ、せっかくの南の島なのに……」
「そうだよね、リリーなんてこの日のために新しい水着を用意したのにね」
「べべべ、別に今日のためにじゃないから! ま、前々からちょっときつくなってきたかなぁって」
「……」
「な、なに? 華燐?」
サシャーナさんの提案で、俺達は南の島でバカンスに来ていたのだが、急に冬が訪れたかのように気温が下がったのだ。
しかも、ここだけじゃない。全世界で急に異常なまでの現象が起こっていた。あれ以来、地球はおかしくなっている。しかし、こんな急なまでの現象は初めてかもしれない。
「お兄ちゃん。これって、誰かが起こしているのかな?」
せっかく、水着に着替え海へと向かったのに、今では私服だ。皆テンションが低い中、有奈率先して俺に問いかけてくる。
「そうだな……どうやら、この現象は地球だけみたいだ。さっきニィに調べてもらったが、どうやら空間切断をされてるらしい」
「空間切断?」
「それって、つまり……どういうことですか?」
と、今度はリリーが問いかけてくるので、俺は皆の前で詳しい説明を始める。
「つまりだ。今、地球では暑さがなくなっている。おそらくだが、夏が切り離されているんだろうな」
「夏が? ……てことは、一生夏は訪れないと!! 大変でございますよ! それは!?」
「えー!」
「夏が一生、だと?」
俺の言葉に、皆どこか絶望した表情を浮かべている。それもそのはずだ。夏というのは、確かに暑くてたまらないと思う人達も多いだろうが、夏には夏の楽しさがある。
海、スイカ、夏祭り、浴衣、花火……彼女達は、それを楽しめないのが、かなり悲しいようだ。
「おい! 刃太郎! どうすれば、夏が復活するんだ!?」
「落ち着け、魔帝。それは今俺達神々が模索している。それに、そろそろニィ達が」
「帰ったのですー!!」
「帰ったわよー」
噂をすれば、帰ってきたようだ。元気に登場のニィに対して、リフィルはものすごく気だるそうだ。まあ、この二人も相変わらずだな。
「どうだった?」
「そうですねぇ、刃くんの予想通り、地球近辺に変な空間ができていたのです」
「しかも、かなりの大きさのね」
「やっぱりか」
おそらく、その空間に切断された夏と切断した犯人がいる可能性がある。いったいどんな理由があって、夏を奪ったのか。
しかも、この変なタイミングで。夏を奪うならもっと早く奪ってもよかったはずだ。現在は、七月の後半だ。
「もしかして、単なる嫌がらせなんじゃない?」
「嫌がらせ、ですか?」
帰ってきて早々に、ソファーに寝転がり、ゲーム機を起動させながらリフィルが呟く。
「だってさぁ、あたし達がバカンスって時にこの現象が起こったわけでしょ? てことはさぁ、あたし達に恨みがある奴の犯行ってことになるんじゃないの? あっ、刃太郎。新しいクエスト配信されてたから、一緒にやるわよー」
「今は、それどころじゃないって。まあ、確かにリフィルの言い分はわかるな。普通に考えて、夏を奪うんだったら、もっと早い段階でもいいはずだ」
「それが、私達が南の島でバカンスを始めた瞬間に……確かに、ありえるかも」
「ふん、どこのどいつかは知らぬが、我らの夏を奪うとは命知らずな奴らよ」
「まったくですね! せっかく、刃太郎さんと親密な関係へとなるために、計画を……っとと、なんでもありません」
今、ものすごいことが聞こえたような。そっちも気になるが、今はこの現象を起こした犯人をどうにかするかだ。
「刃太郎よ! 犯人の居場所はわかっているんだ! さっさと乗り込み、夏を取り戻しに行くぞ!!」
どれだけ、夏を楽しみたいのか。急がせるロッサに対して、俺は待てと手で制す。
「なぜ止める! 我は、この日のために、こんなにも遊び道具を用意したんだぞ!!」
子供のようなに起こりつつ、空間から多くの遊び道具を取り出すロッサ。この魔帝は……もはや、思考すら幼児化してきたか? いや、元からか?
ともかくだ。
「その空間が罠かもしれない。まずは、他におかしいところがないかと調べてからだ」
「そんな暇があるのか?」
「ある。今のところ、世界中が寒くなっただけだ。それ以降特に大きな動きは無い」
ただ、本来は夏というだけあって、多くの人達が夏モードだ。なので、冬並みに寒くなった現在は、突然の気温の変わりように対応しきれていない。
「だけど、時間もそこまではかけられない。そろそろ夏祭りが色んなところであるからな」
「そ、そうですね! 夏祭りなくちゃ、夏は楽しめませんもんね!!」
「そうだ! 今年も、屋台全て制覇を目指しているのだ! 早々に、この現象を解決してやろう! 行くぞ! 真魔帝軍よ!!」
「おー!! やってやるぞー!!」
「お任せを、バルトロッサ様。俺が、必ずや夏を取り戻してみせます!」
まったく、人の話をちゃんと聞いてほしいものだ……。どれだけ夏を楽しみたいのか。ロッサ率いる真魔帝軍の面々は、早々にこの場から去って行く。
残されたメンバーは、有奈、リリー、華燐、サシャーナさん、ニィ、リフィル。俺を合わせた七人だ。ちなみに、他にもメンバーを誘ったのだが、用事があっていけないということで、この場にはいない。
「相変わらず、猪突猛進だなぁロッサは」
「刃太郎さんよりも、早く解決したいんじゃないかな?」
「あっ、それはありえるかも」
「どう致しますか? 刃太郎様。おそらく、ロッサ様は」
「いや、いくらあいつでも、すぐには……行かないはず、たぶん」
だけど、すごく心配だ。あのメンバーならば、簡単にはやられないだろうけど、さっきも言ったように、罠という可能性は十分ありえる。
世界から夏を奪う、なんて大それたことをしたのにも関わらず、居場所がすぐに見つかるのは、おかしい。
「ともかく! 刃くんの言うように、もう少し調べてみるのです。ほら、リフィル。行くのですよ」
「えー? 今、クエストをやってる最中なんだけどぉ」
「行くのです」
「……はい」
どれだけ経っても上下関係は変わらないようだ。
「よし、じゃあ俺達も、俺達で調べるか」
「うん、そうだねお兄ちゃん」
「お任せー!」
「じゃあ、お姉ちゃんとかにもちょっと連絡してみますね」
やりますか、俺達の夏を取り戻すために。




