第二十三話「あれから」
「……よし」
威田有奈は、鏡に映る自分を見て力強く頷く。
寝癖もない、髪形も決まっている、髪の色も……黒に戻った。
現在有奈は、大学一年生。
無事に大学受験を合格し、リリーと華燐の二人と共に通っている。先輩である御夜は、三人が入学してものすごく喜んでおり、毎日……に近いほど三人のところへとやってきている。
どちらが先輩なのかわからなくなることがしばしば。
もう不良の真似など辞め、今では昔、ほどではないが真面目な学生として過ごしていた。
「舞香さん! それじゃ行ってきます!」
「いってらっしゃい。車には気をつけてね。ってまあ、あなたは大丈夫かしら」
「えへへ。車よりも強いですから! なーんて」
そろそろ春も終わる頃。。
有奈は、リリー、華燐の二人と待ち合わせをしていた。今の有奈は、高校生の時よりも神力をうまく扱えるようになっており、半分神様のような存在になっている。
リリーも同様で、華燐もあれから格段に強くなっている。
見た目だけならば、三人とも美少女だ。
しかし、ナンパをしようというものなら、容易に撃退されてしまうだろう。
「リリーちゃん! 華燐ちゃん!!」
「やっほー! いやぁ、いつ見ても有奈の黒髪は最高に綺麗だね」
「そ、そうかな?」
「うん、そうだよ。同じ黒髪として羨ましいなって思うぐらい」
今日は、大学へと行くのではない。
あの日……次元が歪み、世界が混乱に陥った日から世界では、超常現象が起こるようになってきた。突然能力に目覚める者達。
不思議な生き物の出現。
地球は、昔以上におかしくなってきている。
「まさか、こんなことになっちゃうなんてね」
「でも、刃太郎さん達がどうにかしてくれなかったら、これよりももっとひどいことになっていたんだよね」
今でこそ、能力者の出現。不思議な生き物の出現などが起こっているが。この程度で済んだ、のだ。何度も起こった戦いの余波。
それが次第に広がり、今の地球へと変化した。
「今、刃太郎さん達がどうにかしようって奮闘しているんだよね?」
「うん。能力に目覚めた人達とか生き物、それに異世界からまだ誘われている人達をお兄ちゃんの世界で一時的に保護しているんだよね」
確実に、能力者は戦いの道具として利用される可能性がある。そうならないためにも、迅速に見つけ出し保護し、色々と知識を授けている。
ちなみに、家族にもばれている場合はしっかりと事情を説明したうえで保護をしているので、拉致問題には今のところなってはいない。
これに対しては、天宮家や鳳堂家などが全面的に協力しているため、かなり影響力があるのだろう。
「というわけで、今日も行こうか」
「うん。今の時間帯だと、授業中かな?」
人気の無いのを確認し、有奈達はとある札を取り出す。
これは転移札。
刃太郎が生成したもので、これを使えばいつでも刃太郎の世界へと転移することができるのだ。眩い光に包まれ、数秒で景色が変わる。
どこまでも続く広々とした草原。
そこには、一軒だけ建物が建っている。見た目は、明らかに学校。だが、そこまで大きくはなく、窓からは、年齢層がバラバラで、人間以外の色んな種族が一冊の本を見詰めていた。
そして、黒板の前には。
「あ、丁度終わったみたいだね」
「それじゃ、行こう!」
能力のことについて自ら教師になり教えている刃太郎の姿があった。授業が終わったことで、生徒達はすごく疲れた感じに机に突っ伏す。
「お兄ちゃん。お疲れ様」
「お疲れ様です! 刃太郎さん!」
「今、大丈夫ですか?」
外から、話しかけると刃太郎は小さく笑い。
「ああ。もちろん」
・・・★・・・
「それにしても、本当に大丈夫?」
「教師をしていることがか? まあ確かに、教師の免許とかないし。正式な教師じゃないから、色々と大変だけど。まあ、誰かがやらないといけないことだからな」
俺は、学校に設置してある自動販売機から缶コーヒーを購入し、職員室で有奈達と話し合っている。職員室と言っても、ここに勤めているのは俺とニィ、リフィル、それにサシャーナさん。時々、大学のほうが大丈夫な時は有奈達も教師として手伝ってくれている。
まあ、イズミさんを初めとした獣っ娘達も結構手伝いに来てくれるからかなり助かっている。
「能力の制御ができないというのは、かなり恐ろしいことですからね。私も、その恐ろしさを知っている身として、全面的に協力しちゃっています!!」
「だとしても毎日のように来なくてもいいんですよ?」
正式な学校とは違い、授業数はかなり少ない。
しかも、特殊なものばかり。
能力に目覚めた地球人の皆には、能力のことについての知識と制御の仕方などがメインで。異世界から誘われている人達に関しては、こっちでの常識などがメインだ。
「いえいえ! ちゃんと卓哉様の許可も頂いておりますし。私自身! 刃太郎様のお傍にいたいと思ってのことですから!!」
「そ、そうですか」
きょ、距離が近い。
なんだか、今まで以上に押しが強くなってきているような気がするな。
「むむむ……」
「リリー。ぼやぼやしているとサシャーナさんに取られちゃうかもよ?」
「何をだ?」
と、俺はリリーのほうを見る。
すると。
「サシャーナさん!!」
「なんでしょうか!」
突然、リリーが叫びだし、サシャーナさんも何かを察しているのか対抗心のようなものを燃やしながら返事をする。
「勝負です!! どっちが……刃太郎さんに相応しいか!!」
「ふっふっふ。よろしい!! では、いざ……決闘です!!」
「あ、ちょっと!!」
窓から勢いよく飛び出していく。
そして、しばしの睨み合いの後、壮絶なバトルが始まってしまった。この学校には、強力な結界が張られているとはいえ。
「お? なんだなんだ!」
「あー! サシャーナ先生とリリー先生が戦ってる!!」
「これって、何かの特別授業?」
騒ぎを嗅ぎつけてきた生徒達は、二人の戦いに興味津々の様子。
「もう、華燐ちゃん。あんまり焚き付けちゃだめだよ」
「だって、もっと積極的にならないとリリーはいつまでも進歩しないから。まあ、あの様子だと前よりはかなりマシになっているかな」
「まあそうだけど……ん?」
職員室から二人の戦いを見ていると、有奈の服をくいくいと引っ張る小さな子供達。
「ねえねえ!! 聞いたよ! 有奈先生って昔はふりょーさんの真似をしていたんだよね!」
「え!? どどどど、どうしてそのことを!?」
有奈が驚くのは当たり前のことだ。そのことは、この学校の生徒達には一度も話したことが無い過去。有奈自身も、黒歴史のようなものだったようで封印していたのだが。
「教頭先生が話してくれたの!!」
「え!?」
職員室の一角にある教頭の机。
そこには、教頭先生ことニィがにっこり満面の笑みを浮かべていた。何をやっているんだあいつは……。
「ち、違うの! 私はね、別の不良の真似事は……ち、違うのー!!!」
どう言ったらいいかわからず猛ダッシュで逃げていく有奈。
「あ、有奈!」
「逃げた!」
「追いかけっこだよ! よーし! 捕まえるぞー!!」
「さーて、私は刃くんの奪い合いに参加してくるのですー」
「わー!? 教頭先生も混ざってきた!?」
有奈を心配し追いかける華燐。追いかけっこだと思って追いかける子供達。外では、未だに激しい、いやニィが参加したことで更に激しさを増した戦いが繰り広げられている。
……前以上に騒がしくないか?
「まあ、これが今の日常ってことだな」
とコーヒーを口にした時だった。
「おい、刃太郎」
ロッサが姿を現した。
さあ、次回でラストとなります! 新作のほうも着々と書きあがっています。
なので、最終話を投稿してから……たぶん、すぐ投稿できるかと!




